ようこそ実力至上主義の教室へ ~ギフテッドとN.I.N.J.Aと……~ 作:山上真
夏休みを直前にして、一年生で初の退学者が出た。
退学したのは山内春樹と戸塚弥彦。片やDクラスの、片やBクラスの生徒だ。
その事実を受け、星之宮クラスは首脳会議を行っていた。
「まずは、別クラスとはいえこの学校を去っていくことになった二人に、同期生として哀悼の意を表しましょう」
首脳会議は、帆波のその言葉から始まった。
代表の言葉に従い、暫しの間、各々が瞑目する。
どこまで効果があるかは分からない、だけど必要な儀式だった。
「どちらのクラスも、私たちに救済を求めてくることはなかった。まあ、戸塚の方は二度目だから分からなくはないけど、山内の方は正直に言って以外ね。Dクラスのことだから、悪びれることなく頼ってくると思ってた。
もしくは、以前に綾小路が譲渡したポイントで救うと……。
でも、現実としてそうはなってない。Dクラスの面々もこの学校に適応してきたってことでしょうね。こっちからすれば見所が増した分、それだけ厄介になった」
「退学者が出たことによるペナルティは、-300CP。いや、実際にそうなのかは未確定だが、救済に二千万PPと300CPが必要になる以上はそう考えて間違いないだろう。
この推測が正しいとするなら、未だクラスランク自体に変動はないが、極端なまでのうちの一強態勢になってしまうことになる。正直、今時点でのこれは上手くない。
付け加えると、このペナルティも参考程度にしかならないのが痛い」
桔梗と神崎が、表情を歪めながら言う。
「どういうこと? 退学のペナルティは-300CPで決まりじゃないの?」
「一言に『退学』って言っても、実際にはいろんな形があるってことだよ。今回のように、
この学校が実力評価を念頭に置いている以上、普通に考えて、それぞれの
千尋の言葉に、アズはいくつかの例を挙げて返した。
「監視カメラの件、俺たちは脅しに屈してポイントを選んだだろう? 当時は気付かなかったが、後々思ったんだ。文字通りの『
何せ、実際には契約書を交わしてはいないんだ。これでは単なる『口約束』に過ぎず、たとえ履行しなくともどうとでも逃げることは可能だ。――にも拘らず、学校側は、政府は、シッカリとポイントを支給してきた。口約束を実行したんだ。
退学を恐れて俺たちが口を噤んでいたからでもあるが、こうなっては俺たちも余計に向こうの信に応えるしかない。これでカメラのことを言い触らした日には、ただの退学では終わらないかもしれない」
「それってアレ? ドラマとかで見るような、『方々に手を回して就職先や受験先を潰す』って言う……」
「そういうことだ。この学校の立ち位置を鑑みれば、決して不可能ではないだろう。何せ日本政府がバックに付いているからな。それだけの実力はある。
その上で、先に信を裏切ったのはこちらということになるからな。当然ながら、その報復は苛烈なものになるだろう。
或いは、マッチポンプによる懐柔で『飼い殺し』にしてくる可能性もある。
あくまでも推測に過ぎないが、現実味が高い推測でもある」
言い切った神崎は、深々と溜息を吐いた。
「話を戻すと、赤点退学は実力不足は実力不足でも、『学生の本分』たる
では契約違反による退学はどうか? これは単純な能力ではなく、
自主退学。これは生徒としての『当然の権利』である一方で、学校側にとっては『個人の我儘』であることに違いはないからな。これまたペナルティが重くても不思議はない。
それらを踏まえた上で、ただ『退学』の一点を以て、これらを全て『同位置』に位置付けることが出来るか?」
「出来ないね。その一方で、重視する部分が異なっているので、ランク付けも難しい。……ああ。それを私たちは知る由がないってことなのね」
「そういうことだ。どこまでをCPに反映して、どこまでを個人に反映するか。俺たちにそれを知る術はない。――いや、理屈上、知る術はあるが、とてもじゃないが現実的ではない」
神崎は首を横に振る。
そう、理屈の上では、ポイントを払うことで知ることは出来るだろう。だが、『どれだけのポイントを払えば可能か?』という話になるのは否めない。
「そして、学校側や政府の本音としては、『謳い文句上退学者が出るのは許容しているが、可能な限り出したくはない』と言ったところだろう。これは、先に言った監視カメラの件でも明らかだ。
退学者が多いという一点で、教育機関としては致命的なのも事実だからな。これが広く知れ渡ってしまえば、どらだけ上手い誘い文句を述べたところで、肝心要の受験生がいなくなる。
いやまあ、それだけ志のある生徒が受験してくることにはなるだろうが、志の高さが実力の高さに直結するわけでもないからな」
その言い分にも筋は通っていた。
「だからこその『連帯責任制』なのかもしれないね。クラスメイトの退学が、CPへのダメージという形で自分にも被害が及ぶ。こうなると利己的な生徒も知らん顔は出来ない。自分への被害を軽減したいのであれば、積極的に改善や更生を働きかけるしかない。――まあ、それが逆に能力
「その点に関しては、『忍耐力や人間性を測っている』と考えれば説明は付く。
自分の能力でどうとでも出来るからと見向きもしないのか、働きかけたがサッサと見切りを付けたのか、根気よく改善を促しているのか……。働きかける側の対応としても、簡単なところでこれだけある。――その逆もまた然りだ。
そもそも、『優秀』だの『実力者』だのと言っているが、定義付けるのは非常に難しいからな。
身近なところでアズを例に挙げると、身体能力は抜群で頭脳は明晰だ。これだけなら非の打ちどころはないが、他人に対する積極性には些か欠けるし、金に目がない。……万人が『優秀』と捉えるか? 『実力者』と評価するか?」
神崎の言葉に、首脳陣が悩みこむ。
普通に考えると『優秀』ではある。『実力者』とも言えるだろう。――しかし、重視する部分によっては必ずしも言い切れない。
「だろう? アズに限ったことじゃない。一之瀬だって櫛田だって、何なら俺や綾小路にも同じことは言えるんだ。
つまり、目標を掲げている学校側も、明確なビジョンは思い描けてはいないだろう。精々が理想形と言ったところだ。
では何を以て『優秀』と、『実力者』と見做すのか。個々人の実績とデータの蓄積によって見出すしかないだろうな。それによって特化型の『スペシャリスト』と、万能型の『ゼネラリスト』や『オールラウンダー』に振り分ける。それを以て『実力者』の根拠とするしかない。
そもそも、謳い文句の割に、この学校の卒業者で目立った実績を挙げているのなんか限られているからな。設立からの年数経過を鑑みれば、どう考えても数が足りない。
まあ、『限定的な方面故に知名度が上がりにくい』といった可能性も否定はできないが、それを踏まえても数が少ない。『高度育成高等学校卒業生』でネット検索をかけてみろ。出てくる名前なんか数えるほどだ。
反面、売れている奴の名はトコトンまで売れている。それが、『卒業生の実数比との差異』を隠すのに一役買っているんだろう。
極論、謳い文句を掲げている学校にとっても、未だ『データの蓄積期間』ということだ。輩出した人材のうち、一人か二人でも目立った実績を挙げれば御の字。それが学校側の実情だと思う」
事前に志望校の調査はすると思うが、
神崎の言葉を受け、そっと視線を逸らす者が何人か。
「そう言われたら返す言葉もないね。私自身、母子家庭で余裕がなかったのもあるけど、謳い文句に惹かれて碌に調べてないのは事実だから……」
頬を掻きながら、帆波が恥ずかしそうに呟いた。
「私も同じようなもんかな。聞こえの良い売り文句に惹かれて、そこまで深くは考えなかったし、調べもしなかった」
「私も」
麻子と千尋がそれに続いた。
「ま、それが普通でしょうよ。そこまで深く考えて行動しない、出来ないから『一般人』って言われたらそこまでだしね」
肩をすくめながら、三人を慰めるようにそんなことを言ったのは桔梗だった。
「桔梗ちゃんは……事前に調べてそうだね?」
「モチ。私みたいな養殖の人気取り屋は、事前の調査が欠かせないっての。――つっても、碌に成果は出なかったけどね。流石、政府がバックに付いているだけはあるわ。
だけど、だからこそ、『成果が出ない』という事実が、この学校の怪しさを高めることになったのは否めないけどね」
「そこまで予想できてて、何でこの学校に? 人気取りなら、この学校じゃなくてもいいよね?」
「ん? そんなん『アズを追っかけて』に決まってるじゃん。アズがこの学校を目指してるのは前以て知ってたからね。私にしてみれば、個人的重要度でアズと並び立つ存在自体が少ないっての。である以上、わざわざ秤に掛けるまでもないわ」
キッパリ、バッサリと桔梗は断言した。
「その言い方だと、『アズが入学していなかったら自主退学していた』とも受け取れるんだが?」
「そう言ってるんだけど?」
顔を引きつらせながら神崎が問えば、桔梗は不思議そうに答えた。
「ぶっ飛んでいる、と言いたいところだが……」
神崎は最後まで言い切ることが出来ず、ただ諦めたように顔を横に振った。
「ねえ、アズ。大丈夫? 櫛田さんの感情、重くない?」
「まあ。――だけど、そんくらいじゃないと、私はとっくにフラッとどっかに行っちゃってたかもしれないし……」
千尋が心配そうな表情を浮かべながらコソッと訊ねれば、アズは苦笑を浮かべてそう答えた。
紛うことなき本音である。強い想いを向けられるから、無視しきれないのだ。それがやがて、アズの中でも桔梗に対する想いを育んだ。その事実は否定できないし、誰にも否定させるつもりはない。
「脱線してしまったな。――話を戻そう。
戸塚の退学。これは事前に葛城自身が認めていたように、アイツの影響力の低下を意味していると見ていい。
その一方で、派閥の支持自体は未だ保っている可能性も否定はできんが……」
神崎は言葉尻を濁す。可能性が多岐に亘るため判断が付かないのだ。
前回の中間で、葛城は自派閥の戸塚を救うべく尽力し、実際に退学を覆してみせた。
その点だけを捉えるなら、自派閥はもちろん、中立派、何なら坂柳派閥に対してすら影響を高めただろう。『コイツだったら、自分を見捨てないでくれる』。周囲にそう思わせるには十分な行動だった。
その反対に、アッサリと戸塚を切り捨てようとした有栖には反感が高まっただろう。
しかし、その後の戸塚の行動が問題だ。必要以上に周囲に当たり散らし、訴えられ、CPにダメージを与え、本人は停学となった。
戸塚のダメっぷりが、どこまで影響を与えたかが読み切れないのだ。そのダメっぷり故に、葛城の株が上がった可能性もあれば、下がった可能性もある。
有栖の株もまた然り。当初は非難していた生徒も、『先見の明があった』、『英断だった』と手のひらを返す可能性は否めない。
「何にせよ、戸塚の早期退学が、『初期Aクラスの優秀性』に大きな罅を入れたのは間違いない。元々、Bクラスによってクラス逆転を果たされた時点で罅は入っていただろうが、その時点では小さかった筈だ。高いCPは維持していたのだし、『Aクラスが優秀ではない』ことにはならないからだ。
この場合、『クラス逆転』という玉瑕は、『学校側がAクラスとBクラスの実力を見誤った』とする方が、むしろ筋は通る。逃げ腰な考え方ではあるが、精神安定にも繋がった筈だ。実際にそう考えた生徒もいたことだろう。
そもそもが、たかだか一ヶ月での評価でもある。CP差を鑑みれば、十分に逆転の目はある。焦る必要はない。――自分の実力に自信のある生徒ほど、つまり葛城や坂柳はそう考えた可能性が高い。
だが戸塚は、そう考えることが出来なかった。本人に自覚があったかどうかは分からないが、『虎の威を借る狐』だからこそ、冷静さを欠いた。焦りを生んだ。
それが、『中間テストでの赤点』という大きな瑕を付けることに繋がった。自身にも、クラスにも。
退学からは逃れることが出来たが、瑕が付いた事実は覆せない。むしろ、『瑕を大きくしてしまった』という見方も出来る。
本人の実力不足が露呈し、だからこそ、無駄に吠えることで自分の誇りを守ろうとした。『弱い犬ほどよく吠える』と言うが、そのままの行動だ。
それが周囲に付け込む隙を与え、実際に付け込まれた」
「……でも、Dクラスから訴えられたのは偶然だったんじゃないの?」
神崎の言葉に、麻子が自信なさげに問いかける。
「表面上はな。穿った見方をすれば、CクラスとDクラスが組んでいた可能性も捨てきれなくなる。
考えてみろ。普段から挑発していたCクラスが戸塚を訴えたところで、そこまで大きな効果があるか? 実際に怪我を負わされたとしても、戸塚へのダメージは大きくなるだろうが、それでも『喧嘩両成敗』に落ち着く可能性は否めない。
あの結果は、普段から戸塚に見下されていながら、それでもこれといった行動を起こしていなかったDクラスだからこそ最大限の効果を発揮した。そんな風に見ることも出来る。
Dクラスはクラス評価がゼロだからな。ギリギリまで我慢することにも筋は通る。それが我慢の限界を迎えて爆発し、あの結果となった。
周りがそう考えるように持っていった可能性は否めない」
「……いくらなんでも穿ち過ぎじゃない?」
人の善性に重きを置く麻子としては中々受け入れられないらしい。
「かもしれんが、Dクラスが変わりつつあるのは確かだ」
「……なるほど。そこに繋がるわけね」
そう言われれば、麻子も理解を示さざるを得ない。
麻子の知るDクラスであれば、ポイントの融資を願ってきただろう。中間時の戸塚の前例もあるし、何より平田がすんなりとクラスメイトの退学を諦めるとは思えない。思わない。
自分たちのクラスには、柴田という平田の友人にして部活メイトもいる。
だからこそ、せめて確認に来るぐらいはした筈だ。――だが、現実にそれはなかった。
普通に考えれば、平田を止めた人物がいるということだ。
余裕がないからこそ悪辣な手を取る。麻子の考えは、本人の善性もあるが、
「夏休みには無人島バカンスがあるとのことだが、今までを鑑みるとそこまで上手い話はあるまい」
「この学校のことだから、まず間違いなく何かを仕掛けてくるよね」
「はぁ……。私たちは夏休みにまで実力を測られるってわけね……」
「無人島ってことは、短絡的に考えるとサバイバル……ですかね?」
「学校管理下の島って話だし、そこまで本格的なものではないと思うけどね。やりよう次第で最低限の
「文明の利器から離れた環境に身を置き、その上で一定期間を過ごす――だけだと、試験としては物足りないか……? 無人島の中をいくつかにエリア分けし、その上で別種の特色を持たせ、生徒自身にエリアを選ばせる。とかどう? あり得るんじゃない?」
「果物が豊富なエリア、野菜が豊富なエリア、魚が豊富なエリア、住環境が整ったエリア……そんな感じか?
その上で、空白エリアを奪い合い、場合によっては各々のエリアの物資を交換し合う。言うなれば、『群雄割拠』の『陣取り合戦』。確かに、可能性としては捨てきれないな……」
それぞれが難しい顔で唸る。
実際のところどうなるかは分からないが、一同が学校の言い分を素直に信じていないことは明らかだった。
実は戸塚も赤点で退学してました。
自分でそんな展開にしておいてアレですが、本人は停学で、オマケに坂柳派は勿論のこと、同じ葛城派閥からも反感を買ってたでしょうからねえ~。赤点を取る要素としては十分かと思います。
個人的に『戸塚であればあり得る』という前提による展開だったわけですが、賛否両論ありそうです。
山内同様、説得力不足を危惧せずにはいられません。
山内と戸塚、両名の退学を受けての星之宮クラス首脳会議。
全体的な動きとしては短いですが、こういう『会議』場面は意外に重要だと思ってます。
読者に対し、『短い時間で沢山の情報を放出する』には打ってつけですから。それには『原作との差異』や『諸々の補足情報』も含まれます。
流れとして自然な形にしてはいますが、言ってしまえば『筆者の都合』による部分も大きいです。
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