ようこそ実力至上主義の教室へ ~ギフテッドとN.I.N.J.Aと……~   作:山上真

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八月:夏休み【無人島試験編】
第47話


 夏休みを迎えた今現在、高度育成高等学校一年生の姿は豪華客船上にあった。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()に向かっている最中なのだ。

 午前五時にバスに乗り込んで出発というスケジュール上、大半はいつも以上の早起きを余儀なくされただろうが、幸いにして遅刻した生徒は一人もいなかったらしい。――既に旅行に参加できなくなっていた人物はいるが。

 東京湾でこの船に乗り込み、朝食をラウンジで取ったあとは、生徒たちに対して船舶内での自由行動が与えられた。

 普段の生活からは縁遠い豪華客船ということもあり、自然と大半の生徒ははしゃぎ回っていたが――

 

「ZZZ……」

「ZZZ……」

 

 そんな中で、星之宮クラスはその大半が就寝の身にあった。

 旅程によると、今日の昼には無人島に着く予定とのことだ。

 ただでさえ普段以上の早起きを強制され、慣れない環境に身を置くことになるのだ。この旅行を()()()()()()()と捉えていない星之宮クラスにしてみれば、休息に努めるのは当然の判断だった。

 中には動き回りたい生徒もいただろうが、何せ首脳陣が軒並み休息に充てているのだ。そうなると『団結力が強い』と言うか『右に倣え』な生徒が多い星之宮クラスだ。自然と他の生徒だってそれに倣う。

 

『生徒の皆さんにお知らせします。お時間がありましたら、是非ともデッキにお集まりください。

 間もなく島が見えて参ります。暫くの間、非常に意義ある景色をご覧いただけるでしょう。

 繰り返します。――』

 

 眠りに就く一行を起こしたのは、各所に設置されたスピーカーから流れる、そんなアナウンスだった。――もっとも、中には既に起床している生徒もいたが。

 その一部の生徒は、アナウンスが流れるや否や一目散にデッキへと向かった。

 

「や、しっかり休息は取れた?」

「櫛田にアズは既に来ていたか。その点は問題ない。そういうそちらこそ大丈夫なのか?」

「問題なし。――ところで、『意義ある景色』とやらを見終わったら、ちょっと手伝ってもらっていい?」

「内容次第になるが?」

「荷物持ちを頼みたいのよ。まあ、私たちの影響もあるんだろうけど、うちのクラス、大半は朝食後に寝ちゃったでしょ?

 自然、お昼ご飯は取ってないし取れてない生徒の方が大半だと思うのよね。そんなわけで、サンドイッチとかおにぎりとか、手軽に食べられる物を人数分頼んであるのよ。いや~、無料ってのは助かるわ。

 オマケに、豪華客船だけあって店内施設も一流どころが揃っているし、無理目の注文にもシッカリと対応してくれる。文句の付け所がないね!」

 

 カンラと笑いながら、桔梗は神崎へと答えた。

 

「流石に凄いな。そこまで気を回していたのか……。う~む、俺ももっと精進しなくてはならないな。――っと、そういうことなら喜んで手伝おう」

「オレも構わない。……訊きたいんだが、その確保した食事に余裕はあるか?」

「う~ん、どうだろ……? 私自身、細かに注文したわけじゃなくて、『男女含めて44人分』って形で大雑把に注文したから。実際に受け取ってみないと何とも言えないかな」

「そうか……」

 

 桔梗の返事を受けた綾小路は思案気になった。

 

「どうかしたの?」

「いや、オレが休息に努めたことで、池や千秋たちも休息に充てることにしたようでな。アイツ等は昼食を確保できているだろうかと……」

「その点はご心配なく」

 

 横から口を挿んできたのは千秋だった。心なし、その表情はグッタリとしている。

 

「いやもう、慣れないスタンスを取らなきゃならないから大変だよ」

「ああ、クラスのリーダーポジに祀り上げられてるんだっけ?」

 

 納得したように訊ねたのは桔梗だ。

 

「そういうこと。何でか平田くんと堀北さんの中間に位置することになっちゃってね。

 優しいけど、厳しい意見が言えない、厳しい手段が取れない平田くん。

 内容自体は尤もではあるんだけど、他人への配慮に欠いた言動しか取れない堀北さん。――と言っても、堀北さんの名前が挙がるのは、他に名前を上げるに相応しい人がいないからなんだけどね。別段、支持者がいるわけでもないわ。

 そこに、山内くんの一件が決定打となって私が割り込む形になっちゃったわけ。結果として私への支持率も増大中ってこと。下地として、期末の成績によるポイントプレゼントを茶柱先生に認めさせた部分も大きいんだろうけどね。

 まあ、私が『生徒会役員:綾小路清隆主導に実力向上試験計画――グレーなペナルティもあるよ――』の被験者なのは周知の事実だし、それもあって敵視してくる人たちも多いけどね……」

 

 そう言って、千秋は疲れたように笑った。

 

「私自身、クラス全体の面倒は見れないことは周知してるんだけどね。当然と言うべきか、大した効果がなくって……」

「まあ、無理もないだろうな」

 

 頷いたのは神崎だった。

 こう言っては何だが、Dクラスにはリーダーに相応しい人物がいない。適性を持つ人物自体はいなくもないのだが、クラスの傾向に噛み合っていないのだ。

 最近は御無沙汰気味だが、入学直後は割と頻繁にDクラスを訪れていたし、今も須藤と外村との繋がりは途切れていない。そのため、Dクラスを訪れることはままあるのだ。

 だからこそ、Dクラス最大の弱点にして欠点である()()()()()()()を、神崎は承知していた。

 そこに、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()な人物がいるとなったら、そりゃあDクラス内での支持率は爆上がりするだろう。それこそ、本人が望むと望むまいとだ。

 神崎がそんな風に納得していると、新たに人影が現れた。何の偶然か、話題に挙がった堀北鈴音だった。

 彼女は満面の笑みを浮かべて一同に――正確には桔梗に話しかける。

 

「あら? さっきのアナウンスを聞いて、もしかしたら遇えるかもとは思っていたけど……フフ、本当に会えたわ。我ながら運がいいわね。――先日はどうも、桔梗さん。兄共々お世話になったわ」

「堀北さんじゃない。先日のことは気にしないで。……私自身、兄妹水入らずの場に邪魔するつもりはなかったんだけどね。あなたの敬愛するお兄さんにして、我が校の誇る生徒会長、堀北学から直々に頼まれては、後輩として、生徒会役員として、断る術はないわ。そのことは理解してちょうだい」

 

 桔梗もまた、満面の笑みを浮かべて応えた。

 

「ええ、分かってるわよ。それと、名字呼びなんて水臭いわ。兄さんと区別する上でも、兄さんを安心させるためにも、私のことは是非とも名前で呼んでちょうだい」

「分かったよ、鈴音ちゃん。……これでいいかな?」

「ええ、ありがとう。今後とも、そのようにお願いするわね? 桔梗さん」

 

 フフフ……、フフフ……、両者ともに満面の笑みを浮かべているのだが、空気はどこか冷たかった。

 

「それで、私を探していたみたいだけど、用件はそれだけ?」

「いえ。せっかくの機会だから、私とツーショット写真を撮ってもらおうと思って。兄さんに送るためにね。――よければ、他の皆さんにも協力してもらいたいのだけど……いいかしら?」

 

 自分の端末を取り出しながら桔梗に答えた鈴音は、この場の面子を見回しながら訊ねた。

 

「私は構わないよ」

 

 桔梗を筆頭に、それぞれの返事は是。その程度の頼みを断るほど、空気の読めない、空気を読まない人物はいなかった。

 

「じゃあ、さっそく」

 

 言いながら桔梗の隣へと並び立った鈴音は、それでは足りないとばかりに腕を組み、頬と頬をくっ付けた。その上で、パシャリ、自撮りをした。

 

「へえ~、意外。堀北さんって櫛田さんと仲が良かったんだ……」

 

 その光景を見て、心底不思議そうに零したのは千秋だった。

 同じクラスで、他の面々よりは鈴音のことを知っていると思えばこその疑問だった。

 

「え? やぁ~ね、松下さん。むしろ、その逆。私は桔梗さんのことは心底から嫌いで、こうしている今現在も反吐が出そうだわ」

 

 そんな千秋の疑問に答えたのは、未だに満面の笑みを維持している当の鈴音だった。

 

「あら奇遇。気が合うね、鈴音ちゃん。私もあなたのことは嫌いなんだ」

 

 そして、これまた満面の笑みを維持している桔梗が続いた。

 事情を知らぬ周囲は疑問の表情を浮かべるも、当の本人たちはお構いなしだ。鈴音は組んでいた腕を離して桔梗から離れたら、他の面々ともツーショット写真を撮っていく。

 そうこうしている間にも、遠目に見えていた島との距離は縮まっていた。周囲が一段と騒がしさを増す。

 肉眼でクッキリと確認できるほどにまで近付いたら、『意義ある景色』とやらを見せるためだろう。島の周囲を回り始めた。

 自然、一同は疑念を余所に置き、島の確認に努めた。少なくとも、この小さなグループにはそれが出来るだけの人物が集まっていた。

 回り終えたタイミングで再度のアナウンスが入った。

 どうやら、三十分後には再度デッキに集まらねばならないらしい。服装や荷物の指定もあり、時間的余裕は然程ない。

 一同は慌ただしくその場を後にするのだった。

 

 ♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢

 

「あっちー」

 

 事前に桔梗が頼んでいた軽食の甲斐あって、星之宮クラスの生徒たちは最低限の昼食にはあり付けた。

 それはそれとして、今現在は燦燦と直射日光が降り注ぐ砂浜に立たされている。そのせいか、徐々に不満の声が上がっていく。

 Aクラスから一クラスずつ順番に船を降りているわけだが、下船の際に端末を始めとした()()()()()は強制的に回収される運びとなった。当然だが、一人ずつ入念にチェックされた。

 学校側としても回収して終わりではないのだ。誰から回収したか、何を回収したか。それらを書き記した上で、他の生徒の物と混在しないようにする必要がある。時間がかかるのが当然で、これではすんなりと下船できる筈もない。

 その上、先に降りた生徒も、未だ船に残っている生徒も、直射日光を防ぐ術はない。これで『不満を持つな』と言うのが無理だ。

 

チッ。回収の必要性は分かるが、それならそれでもっと効率化に努めろってんだ。日射病や熱中症になったらどうしてくれる……!

 

 今現在、周りにいるのは星之宮クラスの生徒だけということもあり、桔梗が毒を吐いた。小声ではあったが。

 この状況では出て当然の非難ではあるが、声を大きくし過ぎて不特定多数に自分の本性に気付かれるのは桔梗としても旨くない。それ故の小声だった。

 

「尤もな意見だな。些か職権乱用にはなってしまうが、ここは一つ、立場を活かして退避の提案をしてこよう」

 

 言い放ち、綾小路が砂浜で動いている教師の元へと向かった。

 そして、暫くして戻ってくるや否や、クラスメイトに向けて言い放った。

 

「話は通った。生徒全員が船を降りる頃合いには再度この砂浜に整列することになるが、それさえ守るなら、ここから見える範囲の木陰に退避するぐらいは構わないらしい」

 

 流石に、学校側としても日射病や熱中症で倒れられるのは困るのだろう。ただでさえ、この状況は『学校側の不手際』と取られてもおかしくはないのだから。

 綾小路の言葉を受け、銘々が喜び勇んで木陰へと向かっていく。

 

「しかしまあ、やはり単純なバカンスではなさそうだな」

「端末だけでなく、いろんな荷物が没収されたもんね。帽子もダメ。サングラスもダメ。ドライシャンプーもダメ。薬なんかも、病院から許可を受けた物でないとダメ。……こうもダメダメ尽くしだと、訝しむなって方が無理があるよ」

 

 神崎が呟くと、指折り数えながら帆波が続いた。

『無人島でのバカンス』ということで、上記の荷物を持ってくる人物は当然のようにいた。薬なんかも、虫よけや風邪薬など、市販の物を持ち込んでもおかしくはない。

 しかしながら、そのいずれもが無情にも回収されたのだ。四十人以上の情報をすり合わせれば、その程度は容易に分かる。

 流石に、これでお題目を信じられる筈もない。もはや、『バカンス』とは名ばかりなのが明白だ。

 そうこうしている内、全クラス、全生徒が船を降りる時が近付いていた。タイミングを見計らって砂浜に戻り、整列する。

 木陰に退避している間に用意されたのだろう。前方には白い壇があった。

 一人の教師が進み出て、その壇上に上がる。英語教師兼現Bクラス担任兼一年の学年主任を務める真嶋智也だった。

 

「今日、この場に無事に着けたことを、まずは嬉しく思う。――しかしその一方で、病欠による一名の不参加者、二名の退学者が出たことは残念でならない」

 

 二名の退学者――間違いなく戸塚弥彦と山内春樹だろう。

 一名の病欠者は、単純に考えると坂柳有栖か。杖を突いて漸く歩行が許可されているのだ。いくら管理下にあるとはいえ、町中ほどに整備されているわけでもない無人島への上陸を許可されなくても不思議はない。

 

「ではこれより――本年度最初の特別試験を行いたいと思う」

 

 そして、前置きを済ませた真嶋の口から、『バカンス』の実態が口にされたのだった。




原作読んだ時から思ってたんですけど、こんなスケジュールなら島に着くまでの間は普通に休息に努めるよな……と。
いくらなんでも『高校生の若さ』押し通すにも無理があるんじゃないか? ……と。
バスの中で休んでるかもしれませんけど、ベッドや布団じゃないんだから疲れだって取りきれないでしょうし……。

そこら辺を鑑みた結果、無人島で行われることを馬鹿正直に『バカンス』と捉えているかそうでないかで行動を分けてみました。
バカンス組→縁のない豪華客船にはしゃぎ回る。
危機感組→はしゃぎ回りたいのが本音だが、ぐっと堪えて休息に努める。
星之宮クラスのモブ生徒→右に倣えで休息に努める。
こんな感じです。

鈴音に関してですが、以前に学が建てたフラグの結果です。

千秋の方も、綾小路も桔梗もいないDクラスなら、実力を出し始めたらリーダーポジに祀り上げられても不思議はないと考えたため、そうなりました。
元々、千秋自身が祀り上げられることを危惧していたからの手抜きスタンスでもありますしね。

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