ようこそ実力至上主義の教室へ ~ギフテッドとN.I.N.J.Aと……~ 作:山上真
星之宮クラスと茶柱クラスで同盟が結ばれたことを契機に、まずは茶柱クラスのベースキャンプを定めた。話し合いをするにしても、落ち着ける場所があるに越したことはないからだ。
同時、茶柱クラスに先手を譲ったのは、単独ではそれだけ決めるのに時間がかかりそうだったからである。話し合いの中には、必要物資の確認も含まれる。そのため、話し合いの存在をちらつかせることで茶柱クラスを急かした形になる。その点については、茶柱クラスのリーダー格いずれからも反論は上がらなかった。
そうして、茶柱クラスのベースキャンプが定まったところで、初期配布の簡易テントを運び入れ、その中で話し合う運びとなったのだ。
なお、星之宮クラスのベースキャンプに関しては、旅慣れしておりサバイバル経験もあるアズと、防諜意識に優れたN.I.N.J.Aであるフォルテに任せる形になっている。そのため、帆波が安心してクラスを離れていられる側面もある。
「しっかし、改めて見てみると、このルールもよく分かんない所が多いんだよね~。
環境汚染を発見した場合にはペナルティを科すってあるけどさ、『じゃあ、その環境汚染の範囲はどこからどこまで?』ってなっちゃうのよね。……ならない?」
「確かにね。衛生面で考えると、うがいや石鹸での手洗い、頭を洗ったり身体を洗ったりにもシャンプー、リンス、ボディソープの類は必要不可欠だ。
だけどそれは、
よくよく考えれば、そこには確かに矛盾が存在している」
帆波の問いに平田が答える。
そう考えれば、物資を物資を購入するにしても、どこがどう落とし穴に繋がっているか分からないのが実情だった。
アズやらフォルテやら桔梗やら、正直に言って頭の回転や危機管理意識がそこらの高校生を優に上回る面子と一緒のクラスということもあり、帆波も神崎も否応なくその影響を受けている。
そのため、落ち着いた状況で改めてルールの確認に勤しむのは当然のことであった。
話し合いに対するDクラスからの参加者――平田、鈴音、千秋にしても、ルールの読み込みに反論はなかった。
「発見した場合
「ああ、なるほど。目隠しエリアを用意して、その中で汚れを落とす分には構わないわけだ。まあ、流石に衆人環視の中で裸になる趣味は誰だってないだろうから、シャワーの際は問題ないとは思うけど……」
「逆に言うと、それ以外の時が怪しくなってくるわね。分かりやすいところで、手洗いやうがい、料理の際に出た不要物の処理なんかだけど……」
神崎が意見を述べると、千秋が納得を示し、鈴音が続いた。
そう、シャワーの時は全裸を晒すこともあって
料理も同様。この環境だから出来ることなど限られるとは思うが、それでも料理によっては灰汁や皮などが出るだろうし、物によってはそのまま捨てては環境汚染に繋がる可能性は否めない。
「取り敢えず、ゴミ処分用のバケツやゴミ袋は必須だな。料理の際の不要物に関してもそうだが、歯磨きなんかの際も無制限に支給されるビニールとシートを利用すればいいだろう。ビニールやシートは、何も簡易トイレだけに使用しなくてはならないわけではないからな」
人数分のテントに、この人数を十分に回せるほどの仮設トイレなどは確定していたが、新たに必要な物資が確定した瞬間だった。よくよくマニュアルを確認すれば、歯ブラシは支給されることがハッキリと記載されているが、歯磨き粉については言及がない。バケツとゴミ袋の他、歯磨き粉も加えられる。
「つーか、お前ら、同盟を結ぶのはいいけど契約書は交わしたのかよ?」
そんな状況で口を挿んだのは、愛里の付き添いで同行を余儀なくされたものの、現在はテント内の一角で何することもなく暇を持て余しているユキだった。
「そこまでする必要はあるかな?」
「あるだろ。なあ一之瀬。優しさを尊重するのは構わねえけどな、いい加減、
さっきの神崎の言葉を補足するが、
Dクラスに手持ちの余裕がねえのは明らかだ。その上で、私たちのクラスと同盟を結んだことも遠からずバレるだろう。この二つが結び付いた瞬間、ちょっと悪知恵の働く奴なら、Dクラスの生徒を唆すことなんてすぐに思いつくぞ?
『お前ら、Aクラスと同盟を結んだんだろ? 隙があったらで構わねえ。チョイとコイツでカードキーの写真でも撮っちゃくれねえか? 成功したら報酬もやるからよ。なあに、普段からそこらの写真を撮ってりゃあ、疑問に思われやしねえよ。自分たちでもデジカメを購入すりゃあ尚更だ。名分なんてどうとでもなる。何せ、こんな珍しい環境だからな。記録に残そうとするのは何も不思議なことじゃねえ』……と、言葉にするならこんな感じか?
成功すればそれでよし。リーダー当てにチャレンジする傍ら、カメラに映った情報を元に環境汚染を訴えればいい。証拠映像があるんだから、それを撥ね退けることなんざ不可能だ。
失敗したなら失敗したで、『デジカメを窃盗された』と訴えればいい。契約書を交わしていない以上、優先されるのは状況証拠だ。そして、他クラスが交換したデジカメを持っている時点で、そいつに反論の余地はない。その瞬間、Dクラスは即座に失格となり、以降のそいつは村八分だ。
Aクラスへのスパイへと仕立て上げられるのと並行して、自分たちのクラスに対する自滅因子にも仕立て上げられるわけだ。
どっちにしろ、カメラの映像を確認するように促せば、その被害は私らにまで波及する恐れがある。同盟を結んで一緒に行動しているんだからな」
何でこんなことも思いつかねえんだ。そう言わんばかりの呆れと不満の表情を浮かべながら、ユキは起こり得るだろう展開を口にした。
「無論、裏で動いた奴がいることにはすぐに気付けるだろう。証拠がないから問い詰めることは出来ないだろうけどな。
そして、そんな分かりやすい方法を取った時点で、そこには一つのメッセージが込められていることになる。すなわち、『組む相手を間違ったな』。
今回の試験テーマが『自由』だからこそ、方法としては『騙し』もありだ。無論、度を越しすぎれば成立しない可能性もあるが、この学校が『実力者の輩出』を掲げているからこそ、成立する可能性もまた高い。
ここまで語った上で再度確認するが、本当に契約書を結ばなくてもいいのか?」
流石に、こうも明け透けに言われれば危機感は高まって然り。実際、起こり得る可能性を否定できなかった。
「……契約書を交わそっか」
「そうだね」
お互いの顔を見合わせた帆波と平田は、一つ頷いて契約書を交わすのだった。
そしてそのことは、すかさず両クラスへと周知された。これにより、両クラスは本当の意味で同盟関係と相成ったのだ。ただの口約束と違って契約書があるのだから、それを否定する余地はない。
ユキの推測した
その後も話し合いはだいぶ有意義に進んだ。
その助けとなったのは他ならぬユキだった。『弱者の視点』とでも言えばいいのか。己が実力の低さを自覚し、その上で孤独を好む彼女だからこそ、その危機感や警戒心もまた強い。それは、高レベルのオールラウンダーが揃うこの場面では、穴を埋めることにも繋がったのだ。
「ったく! 同行するだけでよかったんじゃねえのかよ。何だって私がこうも意見を口にしなきゃならんのだ」
ブツクサブツクサ。ユキの不満は中々収まることはない。
矛先に立たされた帆波と神崎は、甘んじてその非難を受けるしかない。実際、自分たちでは思い付かなかった
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帆波たちが話し合いを行っている間、他の生徒たちとて何もしていなかったわけではない。
流石はN.I.N.J.Aと言うべきか。フォルテと美紀はスポット占有に動く傍らで、『エリア特典』とも言える物資や資源の情報も掴んでいた。野に埋まった食材やら釣り竿などの、本来ならポイントと交換しなければ得られない品々のことである。川の水だって、スポットを占有して初めて正式に利用可能となる。占有前に利用しているところを教師にでも見られれば、一発でペナルティだ。
そういった各種資源に対する情報があったため、特に星之宮クラスの生徒は積極的、かつ効率的に動いた。帆波と神崎、綾小路らがDクラスとの話し合いで不在だからこそ、否応なく桔梗とアズが星之宮クラスの指揮を執ることになったのも一因だ。『生徒会役員』という肩書は強い。
普段はその肩書故にクラスの指揮から一歩離れることにしているのだが、頼まれれば否とは言えない。
Dクラスの生徒を動かす上でも、肩書は役に立った。『契約』という正当性に、知名度とそれが齎す説得力が加われば、Dクラスの生徒たちも拒めなかったのだ。端的に言えば、『南雲に対する二年生』と同じ状況である。
その上で『働かざる者食うべからず』と脅されれば、おとなしく従うしかない。
「アズ・セインクラウス。アズでいいよ。よろしく」
「指揮は頼んだぜ!」
「おう! よろしくな、アズ」
「三宅明人だ、よろしく頼む」
「長谷部波瑠加。アズも私のことは波瑠加でいいよ。よろしくね。……あ、男衆は名字で呼んでね?」
そんな中で、アズは両クラスにおける体力自慢の男たちを率いることになっていた。星之宮クラスからは柴田、茶柱クラスからは須藤と三宅だ。
また、流石に
「んで、俺たちは何をすりゃいいんだ?」
「端的に言うと『塩づくり』。二クラス合わせた人数を食べさせなきゃならないからね。味を付けるための調味料は必須だよ。天然自然の味を楽しむって手もなくはないけど、流石に一週間の間、三食それが続くのは耐えられないでしょ?
この環境なら、質に拘らなければ自分たちの手で塩を作ることも不可能ではないからね。うちのクラスで海辺の一角を占有したらしいんだけど、その区画内なら塩づくりに挑戦できるし、だったら作るべきでしょ」
その情報を齎したのは他ならぬN.I.N.J.Aだ。その時点で信憑性は十分である。
「ポイントで手に入れるんじゃ駄目なのか?」
何気ない調子で確認してきたのは柴田だった。
「颯って普段料理する?」
「いんや。自炊はサッパリだ」
「なら分からなくても無理はないか……。前提として、普段から料理をする生徒でも、一度に作るのは基本的には自分の分だけ。多くても四~六人分が精々だと思うんだよね」
「うんうん」
「だけどそれって、自宅とか学生寮でのことじゃん? こことは環境から設備から雲泥の差なわけ。必然、向こうでのルールが完全に通用する道理はない。
二クラス分、教師も含めて八十人以上の料理を用意するには、どれだけの食材と調味料が必要になると思う? 普段の感覚で考えると、完全に足りないよ?」
『あ!』
アズの言葉に、その場の全員が声を上げた。指摘されて、初めてそのことに気付いたらしい。
「っちゃ~、言われて気付いたけど、確かにそうじゃん。加えて、さっきも言ってたけど設備も環境も大きく違うからね。必然的に作れる料理の幅が狭まるし、
だけど、そうして手に入る調味料の量も分からない。朝昼晩、毎回八十人以上の料理を作って、それが一週間も続けば、調味料だけでどれだけのポイントを持っていかれるかも分からないじゃん!」
流石に女子だけあって、波瑠加は普段から自炊しているらしい。或いは、ポイントがないからこそ必要に迫られてのことかもしれないが……。
ともあれ、最低限の自炊能力は身に着けているからこそ、波瑠加の抱いた危機感は深刻だった。
「それってつまり、俺たちが塩を作らねえことには味気ねえ飯を食うことになるってことか?」
「加えて、ポイントもどんどんと減っていくと……」
「ヤベえじゃねえか!?」
その一方、自炊をしない男子陣も別の意味で深刻だった。
「そうだよ。ヤバいの。だから塩づくりをしようって言ってるの。……ま、言っても初日で時間も押してるからね。今日中に作れるとは元から思ってもいないけど、準備を進めておいて損はないから」
「あ~、ま、そりゃそうか。島に着いたのは昼過ぎで、そっから試験説明やら何やらとあったからな。流石に今日中は無理だよな……」
慌てふためいた男子たちも、どうにか冷静さを取り戻した。
そうして砂浜に辿り着いた一同は、明日以降のために塩づくりの準備に取り掛かるのだった。
無人島特別試験は、原作時点でどうとでも解釈できる余地があって、それ故に楽しくもあり難しくもあります。
『栄養食とミネラルウォーター』のセットは、クラス単位で一食10ポイントすることが原作で明らかになってます。
仮設トイレは20ポイント、『男子用テント二つで20ポイント』と描写されていることから、テントは一つが10ポイント。
仮設シャワーは不明ですが、ウォーターシャワーは5ポイント。ただし、熱源にガス缶を使っていることは描写されてますが、ガス缶がいくらかは不明。
釣り竿は餌釣りで1ポイント、ルアー用で2ポイント。
フロアマット、枕数個、コードレス扇風機の組み合わせがテント二つ分で12ポイント。
また、エリアの資源に関しては、原作でDクラスが占有したエリアを流れる川が、『スポットに指定されたものであり、許可のない利用を禁ずる』旨を書かれた看板があることも明らかにされてます。
その一方で、DクラスとAクラスで発見したトウモロコシについて取り合いが発生しています。これに関しては葛城が譲ったことで、実際にはそこまで発展してませんが……。
川の例に準えると、単に両クラスが気付かなかっただけで、どこかに同様の注意書きがあった可能性は否めません。
歯ブラシは支給されるけど、歯磨き粉に対する言及はありません。
野外生活をするなら尚更に必要である筈の石鹸からして初期配布されません。
人数を考えれば各種調味料を買ったところですぐに無くなるでしょうし、何ポイントでどの程度の量が来るのかも想像するしかありません。
正直、考えれば考えるほどに訳が分からなくなってきます。
なので、この無人島特別試験編はかなりの独自解釈が入っています。
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