ようこそ実力至上主義の教室へ ~ギフテッドとN.I.N.J.Aと……~   作:山上真

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第50話

「よお。チョイと偵察に来たんだが、邪魔しても構わねえかな?」

 

 星之宮クラスのベースキャンプの境界線。

 ニヤついた笑みを浮かべてそんなことを宣いながらそこに現れたのは、坂上クラスの『王』――龍園翔だった。

 

「これまた堂々としてるね……。どうぞ。うちのクラスに隠すものはないからね」

 

 呆れた表情を浮かべながらも、帆波は龍園を招き入れた。

 

「ほう? どうやら、さっきの言葉に嘘はねえようだな。お前らの陣地だってのに、Dクラスの奴らがわんさかといやがる。……同盟でも結んだか?」

「ご明察。こっちからは物資を提供し、向こうからは労働力を提供してもらう。互いの占有したスポットは共有し、お互いにリーダー当てはしない。……簡単に言えばこんなところかな」

「クク、それはそれは……。俺もお前らと同盟を結べたらと思ったんだが、どうやら一足遅かったか……」

「説得力のない言葉をどうも。その気があっただろうことまでは否定しないけど、訪れるのがこんな夜の時点で優先順位は低かったんでしょ?」

 

 話しながらも歩を進める。テントの中には案内しない。帆波は龍園を侮ってはいない。彼からは()()()()()()()()()()()()をヒシヒシと感じるからだ。

 アズと綾小路を筆頭に、『強者』足り得る存在がクラス内にゴロゴロいるのも一因だろう。実際には『ゴロゴロ』と言えるほどの数ではないが、割合で考えたら十分にそう言える。

 大量に支給してもらったビニールをレジャーシート代わりに、その上に腰掛けた。龍園もそれに続く。

 周辺環境は筒抜けになるし、それだけ多くの情報を仕入れられるだろうが、その一方で監視下に置くことも出来る。怪しい動きは防げる。

 

「お前らの状況を鑑みれば、うちのクラスと同盟を結ぶメリットは低いからな。現在のCPはお前らの一強状態。俺たちと真嶋クラスが『どんぐりの背比べ』で、茶柱クラスが貫録のゼロだ。

 お前らにとって一強状態は望むところでないだろうが、その一方で()()()()()()()()()()()()()()()()()ってな心理が働くのは当然だ。そうなると、下には下で潰し合ってもらい、それと同時に味方を募るのが定石。そして状況的に、味方足り得る資格を持つのは茶柱クラスしかいねえ。

 大差が付いている故に、茶柱クラスが一切ポイントを使わずに今回の試験をクリアしたところで、やはり大差が付いていることに違いはねえからな。たとえ今回の試験で一ポイントも得られずとも、お前らは変わらず安全圏に位置することが出来る。

 そして、今回の試験においてポイントを一切使わずにクリアすることは難しい。不可能と言ってもいいほどだ。だからこそ、たとえ『労働力の提供』と引き換えであったとしても、CPがゼロの茶柱クラスに対しては多大な恩を売ることが出来る。

 それにより、今後は茶柱クラスの矛先を他のクラスにズラすことが出来る。永劫とはいかずとも、一時的には可能だろう。

 結果、B、C、Dの三つ巴となり、お前たちはトップであるにも拘らず悠々と状況を見守ることが出来るってな寸法だ。俺たちだって、大差が付いているなら下を気にするつもりはねえが、差が縮まればそんなことも言ってられねえからな。

 いやはや、よく考えられているよ。ルールに則り、状況を上手く活用した、コレ以上ないほどの正攻法だ。そして正攻法を主体とするお前たちは、だからこそ評価も得やすいことだろう。人気者にだってなるだろう」

 

 パチパチパチパチ……。龍園は拍手をした。

 龍園の言うことは事実だ。少し考えれば分かることではあるし、否定するつもりもない。

 しかし、だからこそ帆波は龍園が恐ろしい。そこまで分かっていて、どうしてこうも落ち着いていられるのか……?

 真嶋クラスと同盟を結ぶ? だが、果たしてそれにどれだけの意味があるのか? 

 確かに、『対星之宮クラス』という一点では結び付くことが叶うだろうが、その一方では()()()()()()が発生する筈だ。

 形だけの同盟に意味はなく、安全を考慮してガチガチに縛りすぎれば、行動力の低下にもメリットの低下にも繋がる。それでは意味がない。同盟とは、互いにメリットがあるから結ぶのだ。

 均等にポイントを出し合い、物資を購入して共同使用する? 手段としてなくはないが、必然的に()()()()()()()()()()()()()が強制される。普通に考えて無理筋だ。――星之宮クラスと茶柱クラスの状態が例外なのだ。

 

「俺の余裕が怖えか? 一之瀬」

 

 クツクツと嗤いながら、龍園は帆波へ問いかけた。

 図星を指されたことにより、帆波の背筋に冷たい汗が流れる。

 

「なぁに、心配するな。うちのクラスは、極一部の人員を残して大半をリタイアさせるつもりだからな。

 王ってのもコレで大変なんだよ。福利厚生には気を遣わなくちゃならねえ。特に、うちのクラスは普段暴政を敷いているから尚更だ。

 故に、こんな時こそバカンスを楽しませてリフレッシュさせねえとな? でないと、革命を食らっちまうってもんだ」

 

 そう言って、龍園は呵々大笑した。

 

「それって、つまり……」

「ああ。うちのクラスは『リーダー当て』への全賭け(フルベット)だ。実際に試験で身体を張るのは、『王』である俺と、俺が認めた側近――そして、俺に自分を売り込もうって奴に限られる。

 ただし、アルベルトの奴は除外されるけどな。アイツには先にリタイアしていく奴らの監視役を任せなきゃならねえ。

 当然、リーダーに関しては候補がそれだけ狭まることになるが――さて、俺は誰をリーダーに指名するかな?」

 

 クツクツと龍園は嗤う。

 

「おかしなことを言うね。この時間なら、既にリーダーは決まっていると思うけど?」

「ああ、決まってるな。――アルベルトの奴に」

「アルベルト君に……? ッ……!? そう、そういうことね。『正当な理由なくリーダーを変更することは出来ない』というルール。裏を返せば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ということ。普通に考えて、リタイアは正当な理由に該当する……」

 

 帆波は驚愕と共に息を呑んだ。今回の試験において、星之宮クラスはリーダー当てに関与する気はなかった。最終日までにポイントは使い切るつもりなので、当てられてもダメージはない。CP差は縮まることになるが、過剰な一強状態よりは遥かにマシである。

 そんな判断なものだから、リーダー当て周りに関してはルールの読み込みが足りなかったらしい。

 

「他の奴らに関しては、一気にポイントを使い切って遊ぶだけ遊び倒す。島でのバカンスを満喫したら、あとは試験が終わるまで豪華客船を満喫してればいい。

 そんだけすりゃあ、流石にクラスの奴らもリフレッシュできるだろ。たとえCPが増えずとも、俺への反感はだいぶ弱まる。そもそも、CPが増えねえと決まったわけじゃねえしな。

 まあ、そんな方針だから否応なくリタイアでポイントがゼロになっちまう。だから、そうなる前に購入した物資をPPで売りつけようと思ったんだがな……」

「なるほどね。物資の提供と引き換えに、毎月一人当たりからポイントを提供してもらえるような契約を結べば、そっちのクラスとしては十分に旨味があるわけだ」

「御名答。しかしながら、この方針を取るには否応なく相手を選別する必要がある。例えばDクラス相手にこの内容を持ちかけたところで、PPを回収できる目途がねえからな。必然、話を持ち掛けるだけ無駄だ」

「現状、DクラスのCPはゼロだからね。当然の判断だと思うよ」

「つまり、可能性があるとするなら、お前たちか真嶋クラスしかあり得ねえ。だが、さっきも言った通り、お前たちは現状の一強状態を好んではいねえ筈だ。わざわざPPを払ってまで物資を購入するとは、ポイントの温存に努めるとは思えなかった。

 だからこそ、最初に真嶋クラスに話を持っていたわけなんだが、そこで思いの外に時間を食っちまってな……」

 

 フゥ……と、龍園は溜息を吐いた。

 

「戸塚の退学で葛城は失脚した。現状は坂柳の一強状態。しかし、その肝心の坂柳はこの試験に参加しておらず、船でお留守番だ。

 同時、失脚したとはいえ葛城の支持率がゼロになったわけじゃねえ。自派閥に対する統制は十分に利いている。

 結果、真嶋クラス内で喧々囂々のやり取りだ。

 葛城は自身の支持率低下を理由にして判断を下さない。あくまでも坂柳派の判断に従うとして責任を投げた。まあ、現状の力関係を鑑みれば納得の理由だ。

 一方の坂柳派は、優れた能力を持つ奴はいるが、その役割は『駒』でしかねえ。女王の指示なくして判断を下せる筈がねえんだ。事前に坂柳からある程度の指示は受けているだろうが、所詮は『ある程度』だ。如何に坂柳が天才でも、全知全能の神ならぬ身では、事前に全てを見透かせる道理もねえさ。

 まあ、やろうと思えば『駒』でも独断で判断することも出来ただろうが、そこまで覚悟を決められる奴もいなかったらしい。前提として、坂柳が支持されているのは、あくまでもその『頭脳』故だ。決して『人柄』を支持されたわけじゃない。

 この学校生活においてPPが重要な要素を占める以上、『今後、一定のPPを提供する』なんてことを独断で決めちまった日には、どれだけ坂柳の怒りを買うかも分からねえからな。

 中間の際、真っ先に戸塚を切り捨てようとしたのは有名な話だろ? 坂柳自身は明言していねえが、アイツが真に『天才』を自負するなら、アズが語ったような方法を思いつかねえわけがねえんだ。

 だからこそ、坂柳の意に反する――かもしれない――行動を取った際の代償を恐怖するのは当然のことだ。自分が戸塚の二の舞になるかもしれねえ。退学に追い込まれるかもしれねえ。同じ派閥に所属しているからこそ、その恐怖と無縁でいられねえのは頷ける話だ。

 おかげで、肝心の交渉がにっちもさっちも進まねえ。仕方ねえから、こっちのポイントでトランシーバーを用意してやって、先公に船の中の坂柳に届けてもらい、そこで漸く本格的な交渉がスタートだ。いやはや、参ったぜ……」

 

 龍園は肩をすくめ、再度溜息を吐いた。

 なるほど。帆波は頷いた。十分にあり得る話である。

 葛城と有栖の力関係に決着が付いていないのであれば、葛城が判断を下す可能性もあっただろう。しかし現実として、両者の力関係には決着が付いている。

 である以上、内心で思うところがあっても、それがルールに則ったものである限り、保守派の葛城が敢えて有栖の判断に逆らうことはあるまい。 

 それは同時、たとえ葛城が判断を下せる内容であったとしても、自身に勝利した有栖の許可がない限り、葛城が全体指示を下すことはないということでもある。下すとしても、精々が自派閥の相手に対してのみだろう。

 

「にゃはは……。お疲れ様、と言えばいいのかな?」

「それが心底からの労いならありがてえがな。――で、真嶋クラスとの交渉にどうにか決着が付いたから、ダメ元でこっちにも顔を出してみたわけだ。結果は、やはりダメだったがな」

「まあ、ポイントだけで言えば、望んでこっちが一方的に使っているわけだからね。この状況で、敢えてPPを払い続けてまで物資の提供を受ける理由はないかな」

「ま、そうなるだろうな。……邪魔したな、一之瀬。俺はここらで失礼させてもらうとしよう」

 

 言って、龍園は立ち上がった。

 

「待って!」

 

 踵を返そうとするその背に、堪らず帆波は声をかけた。

 

「どうしたよ?」

「さっき、『リーダー当てに全賭け(フルベット)』って言ってたよね? 勝算があるの?」

「十分にな。……そうだな。もののついでだから、チョイと与太話にシャレ込むとするか……」

 

 立ち上がった龍園は、再び腰を下ろした。

 

「与太話?」

「ああ。与太話も与太話さ。――一之瀬、お前は『言霊』ってやつを信じるか?」

「言霊……って言うと、『言葉には力が宿る』っていう、あの言霊?」

「ああ。その言霊だ」

 

 帆波は暫し考え込む。全く予期せぬ内容だけに、改めて自分がどう思っているのかを吟味する必要に迫られたのだ。

 

「信じてもいれば、信じてもいない……かな? 言葉遊びみたいな結論だけど、私個人としてはそうなっちゃう。

 時と場合次第では、()()()()、っていう風に思うことがあるかもしれない。――けれどその一方で、行動の理由に言霊を持ち出すのを許容できないことだってあるかもしれない。特に、犯罪とかそういうことであれば尚更に。

 だからまあ、結局は自分の都合次第になっちゃうだろうね」

 

 そして、結論を告げた。何とも我儘な気もするが、吟味した末の結論がそうなのだから仕方がない。

 

「そうか……。ま、お前に限らず、大抵の奴はそんなもんだろうさ」

「ってことは、龍園くんは違うの?」

「ああ。俺は言霊ってやつを信じてんだ。それこそ、心の底からな。でねえと、俺自身に説明が付かなくなっちまうからな。……一之瀬、俺の名前を言ってみろ」

「え? 龍園翔だよね? ――ちょっと待って。龍園翔……、『()()から飛()する』……?」

 

 問われ帆波は答えたが、その直後、話の筋から龍園の言いたいことを察知。その名前を、その言葉の、文字の意味するところを想像した。

 

「今でこそ幻想に追いやられちゃいるが、それでも、この世界において龍は()()()()()()として語り継がれている。大凡、それは()()()()()()としてではあるが、その強さ故に()()()にも転じている。

 ここまで言えば、俺が何を言いたいのかも分かるだろ? 俺は文字通りに『最強の中の最強』、『支配者の中の支配者』になることを運命付けられてるってわけだ。

 その一方で、龍の園から飛翔することにより、必ずしも()()()()()に囚われなくなった。

 言っちまえば、俺は()()()()ってわけだ」

 

 自信満々に龍園はそんなことを宣う。

 

「いやいやいやいや! いくらなんでもそんな……!」

 

 さしもの帆波もその言い分には大手を振って否定する。

 

「ま、無理もねえな。むしろ当然の反応だ」

 

 それに対し、龍園は怒ることもなく、逆に笑みを浮かべて肯定する。

 

「だがな、一之瀬。この試験が終わった時――俺たちのクラスがリーダー当てで150ポイントを稼いだ状況になっても、そんな風に言っていられるかな?」

 

 そうして笑みを浮かべたまま、挑発紛いの言葉を繰り出した。

 

「ッ……! それだけの自信があると?」

「いいや。あるのは自信じゃねえ。確定した事実だ。今回の試験テーマが『自由』だからこそ、普段はかけている、かけられている制限を取っ払う理由としては十分だ」

「普段は手を抜いているってこと?」

「その認識も違うな。……そうだな。『役割を演じている』と言った方が正しいかもしれねえな。普段の俺は、役割に準じた力しか出せねえのさ。そこらの高校生に相応しい程度の……な。

 しかし、訊くが一之瀬。()()()()()()()()()()()()()ってのはどの程度だ?」

「そんなの……ッ!?」

 

 答えようとして、帆波は答えられなかった。口を噤むしかなかった。

 高度育成高等学校の特色なのかもしれないが、数は少ないながらにチラホラと()()()()()()()()()()()()()()()が存在するのも確かなのだ。そして、そんな連中でも、現状において晒されている部分は極一部なのだ。片鱗と言っていい。

 帆波たち現一年生が入学してから、未だ三ヶ月強しか経っていないことを思えば、全てを曝け出している方がおかしい。

 似て否なる理由で、帆波たちが入学してからそれだけの時間しか経っていないから、先輩方の実力も把握しきれてはいない。

 つまり帆波は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()を知る由もないのだ。

 そして、そんな()()()と言っていいような連中も、同じ学校の生徒であるからには『そこらの高校生』に区分されてしまう。

 

「まあ、そういうこった。この試験ではこの俺の――お前らが時に敵対し、時に共闘するだろう『王』の実力を知らしめてやるよ」

 

 そう言って立ち上がった龍園は、今度こそこの場を去っていった。

 帆波はおろか、たまたま同席して話を聞いていた面々も、龍園の姿が見えなくなるまでは何のアクションも起こすことが出来ずにいたのだった。




スパロボとオカルトは切っても切り離せません。
そんなスパロボとクロスしている以上、舞台が『よう実』であっても、やはりオカルトと切り離すことは出来ないのです。

龍園には『強者ムーブ』がよく似合います。
本作の龍園は、ポテンシャルだけなら作中最強です。アズだろうとフォルテだろうと綾小路だろうと、全力を出した龍園相手には単独で勝利することは不可能です。
端的に言えばスパロボのラスボスです。
世界に望まれて生まれた存在ではありますが、人の世によっては文字通りの『バグ』です。

状態としては『Fate』のサーヴァントを想像すると分かりやすいかもしれません。
現在の龍園はあくまでも『型に嵌めた状態』であり、それ故に諸々制限された状態にあります。
それは龍園翔として生まれた存在が、『人であること』を最優先にしているからでもあります。
また、現在の『龍園翔』の人格は、それによって生まれたものでもあります。

龍園自身、人生を楽しむためにもそう簡単に枷を取っ払うつもりはありませんが、必要とあれば限定的に取っ払うことも辞しません。それとて自分の能力であることに違いはないわけですので。

龍園をこのように設定したのは、綾小路との対比にするためです。
本人の意思とは関係なく人の身で超人への階に手を掛けたのが綾小路なら、龍園は超人として生まれながら階を下りて人の身へと堕した者です。
その龍園の選択とて、あくまでもオリジナルの選択であり、階段を下りたことによって生まれた現在の龍園の人格とは関係がありません。

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