ようこそ実力至上主義の教室へ ~ギフテッドとN.I.N.J.Aと……~   作:山上真

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第55話:山村美紀のN.I.N.J.A修行。

 フォルテさんの後に付いて無人島内を歩き回る。

 探索――と言うほどのことではない。探索そのものは既にフォルテさんが終えてしまった。

 まるでアニメやコミックで描かれる忍者のように、フォルテさんは実に気軽な様子で木から木へと飛び移って見せたのだ。そんな方法で移動していれば、地面を歩くよりよほど早く島内を回れるのは道理だろう。

 その上で情報収集にも怠りはないようで、あくまでも自分たちが占有したスポットエリア内に限るが、この人工的に整備された無人島のどこに何が用意されているのかも把握してしまったらしいのである。

 改めて、正規の修行を積んだN.I.N.J.Aの凄さを思い知らされた気分だ。今の私には到底真似できない。真似しようにも基礎能力が足りていない。

 それはフォルテさんも重々承知しているようで、私に同じ真似をしろとは言わない。

 その代わりと言うべきか、だからこそと言うべきか、厳しい部分はトコトン厳しいのだ。

 今現在は正規の道を歩きつつ、どこに何があるのかを叩き込んでいる最中だ。それだけでなく、採取法もまた然り。

 食べられる野草、各種薬代わりに使える薬草、山菜、野菜、果物に魚、飲み水を合わせ、探せばそこら中に資源は用意されているわけだが、それが食べられることを、それが薬として使えることを知らなければ意味がないのもまた事実。

 また、それらの知識を持っていたとして、食べ方、薬としての使い方を知らなければ、やはり意味はない。

 そんなわけで、フォルテさんによる『無人島採集ツアー(日帰り)』が組まれたわけである。N.I.N.J.Aの端くれとして私は強制参加だけど、アズさんや綾小路くんを始め、他にも参加者はいる。

 

「人工的に整備されているだけあって難易度はそこまででもないけど、まあ山籠もりの練習台としては打ってつけなんじゃない?」

「そう気楽に言えるのもどうかと思うのだけど……。でもそう……。もしかしたら高円寺くんがリタイアしたのは、そこに理由があるのかもしれないわね……。彼、私たちにしてみれば紛うことなき()()の類ではあるのだけれど、その一方で高い能力を持つ実力者であることに違いはないでしょうからね」

 

 首元に巻いたタオルで額の汗を拭いながら、そう言うのは堀北さんだ。生徒会長の妹らしいけど、それを裏付けるだけの実力は持っている。今朝の綾小路くんとの勝負は残念な結果に終わってしまったけど、間違いなく今の私よりは身体能力に優れている。

 ええ、今朝の一幕は私もこっそりと見学してました。もっとも、私に気付いていたのは極一部の面子だけだったけれど……。

 と言うか、フォルテさんによるN.I.N.J.A修行の成果で以前よりは幾分か力を使いこなせるようになった私の気配に気付ける辺り、アズさんや綾小路くんの異常さがよく分かる。櫛田さんも、その二人を利用することで間接的に気付いていたようだし、星之宮クラスは『魔窟』と言っても過言ではないかもしれない。

 フォルテさんによると、アズさんは国外の、綾小路くんは国内の特殊な施設の出身らしく、彼女はN.I.N.J.Aとしての仕事でその二人を監視するべくこの学校に入学したらしい。フォルテさんの実力を知れば知るほどにその仕事内容には首を傾げざるを得なかったけど、今朝の一幕を見れば納得するしかない。

 意外だったのは、池くんにも気付かれたことである。偶然かとも思ったのだけど、私が移動するごとに視線を寄越すのだから、決して偶然ではないことが分かる。――と言うより、それを『偶然』で済まされてしまったら私の立つ瀬がない。

 

「この学校って謳い文句は立派だけど、生徒は()()()()()()()()()()()の方が多いからね~。いわゆる『パンピー』や『凡人』で、それを磨いていくスタンスなわけだ。――もちろん、例外はいるけどね。

 必然、磨かれた後ならまだしも、磨かれる前に高円寺くんの凄さを理解できる方がおかしいよ。『高円寺コンツェルン』の御曹司ともなれば、その教育環境は格段と優れている筈だし、それを凡人の尺度で測れるわけがない。そもそも、測ろうとすること自体が間違いとも言える。

 そんな彼にしてみれば、この無人島は『遊戯場』と大差ないのかもしれないね。遊び場で真面目に試験に取り組む方がおかしいって。いや、試験のテーマが『自由』であることを鑑みれば()()可能性自体はあったかもしれないけどね。そこに点呼やら何やらルールが重なれば、遊ぶ気が失せてもおかしくはないよね。

 むしろ、()()()()()()()()()()()()()()と見ることも出来るんじゃないかな?」

 

 一方、そんなことを言うフォルテさんに流れる汗は()()()()程度。暑さを鑑みれば、異常なほどに発汗が少ない。

 そしてそれは、アズさんと綾小路くんも同じだった。まあ、流石にフォルテさんよりは汗を掻いているけど、異常であることに違いはない。

 櫛田さんは普通に汗を掻いている。そのことに少し安心した。

 池くんは――何だろう……? ()()()()と息を切らしてはいるのだけど、その割に発汗が少ない。判断が付かない。

 

「……なるほど。点呼は一日二回。一回のボイコットで-5P。初日は朝の分がなく、最終日は夜の分がないことを鑑みても、合計すれば-60Pにはなる。そう考えれば、最初の点呼前にリタイアしてくれたおかげでダメージは最小限に抑えられている。

 言われて気付くなんて、我ながら情けないわね……」

 

 堀北さんは溜息を吐いているが、仕方のない部分はあるだろう。『スタンスの違い』なんてものは、分かりやすいようで存外分かりにくい。それが自分のスタンスとかけ離れればかけ離れるほど、計算から零れ落ちる部分は多くなる筈だ。

『灯台下暗し』。分かりやすい部分を見落とすのはよくあることだ。テストでの『ケアレスミス』と一緒である。

 ともあれ。点呼を一回ボイコットしてからリタイアすれば、合わせて-35Pになるのだ。ボイコット前提で考えるのなら、初日の点呼前にリタイアしてくれたおかげで、Dクラスのダメージは最小限で済んでいる。

 1ポイントでもCPを多く得たいDクラスにしてみれば、そこに高円寺くんの普段のスタンスを鑑みれば、むしろ協力的とすら言えるだろう。

 真面目に試験に参加しろ。そういう意見があるのかもしれないけど、実力者ほど実力を安売りはしないものだ。である以上、遊び程度に必要以上に実力を披露する筈がない。――にも拘らず協力させるというのなら、相応の代価を用意する必要があるだろう。

 高円寺くんが進んで実力を披露するというのなら、彼自身が試験にそれだけの価値があることを認めた時だろう。必然、試験はそれだけの難度を誇ることになり、間違いなく他の生徒の大半は付いていけないだろう。

 シビアと言えばシビアな見方だけど、ビジネス的に考えれば何もおかしなことではない。

 例えば、うちのクラスには佐倉さん――グラビアアイドルの『雫』がいるけれど、彼女にグラビアアイドルとして正規の仕事を頼むとすればかなりの費用がかかるだろう。佐倉さん自身は善意で安く引き受けようとするかもしれないけど、間違いなく事務所側がそれを認めない。それは人気取りにはいいかもしれないけれど、その一方で雫の価値を落とすことにも繋がるからだ。

 だからこそ、ショッピングモールでのポスターモデルは、あくまでも高度育成高等学校の一生徒である佐倉愛里を対象としたものなのだ。その点で言えば見事にグレー部分を突いている。

 端的に言えば、『子供の思考』と『大人の思考』の違いと言えるだろう。高円寺くんは『大人の思考』でものを考え、他の生徒たちは『子供の思考』でものを考えている。重きを置く部分が異なるのだから、そのままでは話が噛み合う筈もないのだ。噛み合わせようとすれば、どちらかが大きく譲歩――相手の思考に合わせる必要がある。

 言っては何だけれど、今のDクラスの生徒にそれが出来る人は少ないだろう。堀北さんとか一部の人は出来るかもしれないけど、間違いなく数に呑まれる結果になる。

 クラスの勝利。クラスの輪。その両立を果たせれば一番いいのだろうけど、それは簡単なようですごく難しい。

 クラスの勝利を優先した結果、クラスの輪に罅が入る。クラスの輪を優先した結果、クラスの勝利が遠のく。そのどちらも、普通にあり得ることなのだ。

 今はAクラスに位置している私たち星之宮クラスだって、その点は一緒だ。むしろ、極一部の優秀な人材に引っ張られての結果という部分が強いだけに、いつ何時崩れ去ってもおかしくはないのが実情なのだ。試験次第では、指示が行き届かないことだってあるだろうから。

 今回の試験は、クラス全員が一緒に行動を取ることが出来る。それは協調性や団結力を武器にする星之宮クラスには有利に働く。

 けれど、試験によっては終始別行動や分散行動を余儀なくされることがあるかもしれない。一緒に行動することは出来ても、意思の疎通を図ることは禁止されることがあるかもしれない。

 その時にモノを言うのは『個人の実力』に他ならず、その時こそ私たちは真価を測られることになるのだろう。

 

「はい、着いたよ~。ここら辺は草の群生地だね」

 

 思考が一段落つくと同時、目的地に着いたらしい。フォルテさんが手を広げて示すそこは、まさしく()! ()! ()だった。

 正直、知識がなければ『雑草』の一言で片付けてしまうだろう。かく言う私自身、『雑草』としか認識できない。野草、薬草、香草に関する知識なんてそこまでないのだ。有名どころが精々で、売り物として扱われているのを目にするくらいなのだから仕方ない。

 まあ、『仕方ない』では済まされないのが今の私の立場なのだが……。曲がりなりにもN.I.N.J.Aたる者、ここら辺の知識は必要経費らしい。

 

「ほう? ここら辺は切り傷や擦り傷に効くやつだな。今朝がた鈴音に使ったやつか?」

「そだね。割と使いやすい部類だよ」

「こっちは打ち身に効くって言われてるやつだね」

 

 大部分が呆然とする中で、積極的に動き出す綾小路くんとアズさん。いや、お二方は何だってそんな知識を持ってるんですか……?

 

「これは……包帯代わりと言うか、絆創膏代わりと言うか、そんな感じで使っているやつね」

 

 そんな中で、次に動き出したのは堀北さんだった。一枚の大ぶりな葉っぱを手にフォルテさんへと問いかける。

 言われてみれば確かに。見覚えがあったそれに、私は内心で頷いた。何せ今朝がた堀北さんの治療に使ったのと同じものだ。であるならば、そりゃあ堀北さんだって気付くだろう。

 

「そうそう。そういうので抑えないと、薬効も弱くなっちゃうし、草だけに汚れも広がっちゃうしね」

 

 堀北さんの言葉にフォルテさんが答えた。そりゃまあ、ただ塗っただけだと、シャツなんかに色移りしてしまう可能性は否めない。それを防ごうとすれば、やはり何かしらで抑える必要があるのは道理だ。

 と、感心や納得してばかりもいられない。この機に私も覚えなければならないのだ。写真に撮ることも出来ず、ノートにスケッチすることも出来ず、ひたすら頭に記憶するしかないのが厄介なところである。

 フォルテさんからは『一度に全部を覚える必要はないよ。てか、普通に無理だし』と言われてはいるが、N.I.N.J.Aとして押さえておくべき基礎知識だというのであれば、その言葉に甘えきりというわけにはいかない。結局のところ、遅いか早いかの違いだけで、いずれは覚えなければならないのだから。

 フォルテさんは、一つ一つ丁寧に、採取の仕方や使い方を教えてくれる。中には根っこごと取らないとすぐに枯れてしまって役に立たなくなる物もあったし、その一方で雑に毟っても問題のないものもあった。

 効能もピンキリで、特化型の物もあれば、一つ一つの効果は弱いけれど複数の効能を持つ物もあった。

 煮だす物、乾燥させて擂り潰す物、生でも食べられる物……数えていけば本当にキリがない。

 今まで門外漢だったからこそ、これを一から覚えるのは本当に大変だ。

 身体を鍛えるのも大変だけれど、これにはこれでまた違った大変さがある。

 それでも、図鑑を見ながら覚えるのと、現地で現物を見ながら覚えるのでは、確かな違いがあるのもまた事実。図鑑が訴えるのは視覚に対してだけだ。しかし、こちらは嗅覚や触覚を始め、それ以外の感覚にも訴えかけてくるのだから。

 一通りの説明が終わったら、また次のエリアへと歩き出す。ある種計算して植えられているからこそ、一つの群生地に植えられている種類は限られている。

 

「ルール上、スポットエリア内の資源は占有特典なんだけどね。救済処置って言うのかな……? スポットエリアの被らない、一周の空白地帯もあるんだよね。そして、そこにもきちんと資源は用意されている。『トウモロコシ』の植えられているフリーエリアなんかもあったよ。

 どうも、フリーエリアほど分かりやすい食材なんかが配置されているっぽいんだよね。流石に島全体を回ったわけじゃないから断言は出来ないけどさ。

 フリーエリアの資源はそれこそ早い者勝ちだろうから、そっちを先に回収するのもありかもしれないね。まあ、フリーだからこそ他のクラスとのイザコザが起こる可能性も否定はできないわけなんだけど……」

「或いは、占有エリアではあっても、ベースキャンプからは距離のあるエリアの資源を回収するかだな。

 だが、その言葉を信じるのなら、占有エリアに配置されている物はある程度の知識が必要になるか……。つまり、闇雲に人を派遣しても意味がない」

 

 移動手段は徒歩で、道は整備されているとはいえ歩き慣れた舗装路ではない。そういう点も鑑みて判断する必要もあるだろう。何を優先的に回収するかで、食事情も変わってくるのだから。

 

「ホント、『自由』だの何だの言っておいて、実情を知れば知るほどに厭らしい試験だよね。逆に言えば、相応の知識があるなら過ごしやすくなるのも間違いないわけで、その点では『実力者が優遇されている』と捉えることも出来る」

「いわゆる『雑学』の類も無駄にはならないということだな」

 

 アウトドア経験、薬草や香草なんかの知識、それらを備えている高校生が果たしてどれだけいることだろうか。普通に考えて多くはないだろう。しかし、決して『いない』とは断言できない。

 そういう点で言えば、誰にでもアピールチャンス――『実力を披露する機会』は用意されていると捉えることも出来る。そりゃあ、運に左右される部分もあるだろうけど……。よっぽどニッチな技能や知識なんかは、活かしどころがあるかどうか……。

 杜氏の生まれで酒造りの知識を兼ね備えていたところで、高校生では生かす機会なんかありはしないだろう。精々、酒好き教師との会話のネタになるくらいか。まあ、それはそれでコミュニケーションの役に立っているのだろうが……。

 正味な話、日常生活において『影の薄さ』が役に立つことなど早々ありはしないのである。尾行なんかの役には立つだろうが、『尾行をするような日常生活とは何ぞや?』という話になってしまう。

 同時、私自身にそれほど体力や身体能力がないのも問題だ。相手次第ではあるけど、尾行したところで、肝心の情報を得るより先に距離を離されそうだし体力も尽きそうだ。

 だからこそ、私は『影の薄さ』以外の武器を欲して止まないのだ。まあ、一朝一夕で得られる筈もないのは分かりきっているけれど。

 同時、N.I.N.J.Aには必須の技能でもあるので磨きをかけないわけにもいかない。

 本当、世の中は儘ならないものだ。求めるものほど、そう容易くは手に入らないのだから。

 暗鬱な私の心とは裏腹に、陽の光は燦燦と降り注ぎ、私たちを照らすのだった。




おや? 池の様子が……?

スポットの占有エリアは全域をカバーしているわけではなく、洩れる箇所も相応に出てきます。
で、そういう洩れ出た部分=『フリーエリア』ほど、原作で描写されたトウモロコシみたいに、『分かりやすい資源が置かれている』設定です。
その分だけ他クラスとの接触や諍いが起こりやすくなります。
一方で、占有エリア内の資源は、水なんかの分かりやすいものを除けば、『活用に相応の技術や知識が必要』ということにしました。
実際、魚だって釣り上げるためには釣り竿が必要ですが、釣り竿があれば確実に釣れるわけではありませんので……。
各所に用意された資源の扱いに困ったため、本作ではこんな感じにしました。

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