ようこそ実力至上主義の教室へ ~ギフテッドとN.I.N.J.Aと……~   作:山上真

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第57話:龍園翔は、無人島生活を満喫する。

「おーし、下僕ども。前以て言っていた通り、お前たちは今日明日中にはリタイアしろ。飯やら何やらの問題を考えるとそれが限度だ。

 ぶっちゃけ、それ以上残られると、島に残る俺たちの負担がデカすぎる。方針上、俺たち島への残留組はどっか適当なスポットを占有して、あとはそこに引き籠もるつもりだからな。つーか、リーダーを当てられないためには引き籠もるしかねえんだが……」

 

 試験二日目。

 俺はビーチに並んだ連中へと向かって命令を下した。命令に従いやすいよう、キチンと方針の一端も説明してやった。これで従えねえようであれば、残念ながら『切り捨て候補』と見做すしかねえ。

 一応、『王』を自称するからには、支配下にあるコイツ等の面倒を見るつもりではいる。しかし、その大半が『その他大勢』の『有象無象』でしかねえのも事実。『犠牲のない勝利』こそが最上であるのは俺も認めるところだが、それが『理想論』の類でしかねえのも間違いねえ。である以上、どこかしらで『犠牲の容認』が求められるだろうことは否めねえ。

 現状は俺こそがクラスの『法』だ。そんな俺に従えねえというのであれば、そいつは『異分子』に他ならねえ。まあ、ヨイショするコバンザメばかりだと組織としては不健全であるのも事実だから、見所があるんなら許容してもいるんだが……。

 伊吹なんかはその筆頭だ。コイツは俺のやり方や人間性を心底から嫌っている一方で、その有用性と能力については認めてもいる。つまり、個人的な目標のために必要とあれば、好悪の情とは分けて物事を考えられるってことでもある。こういう奴は貴重だ。

 

「取り敢えず、引き籠もり先のスポットには目星を付けてある。お前たちには、必要な荷物をリタイア前にそこまで運んでもらう。てか、せめてそんくれえは働け。

 残る人員に関してだが、俺、石崎、伊吹、金田は確定だ。本来ならアルベルトにも残ってもらいてえところだが、お前にはコイツ等と一緒にリタイアしてもらい、船での監視役を任せてえ。

 まあ、何だ。多少羽目を外すくれえなら学校側や船のスタッフも目くじらを立てることはねえと思うが、それにも限度があるだろうからな。普通に生きてりゃ縁遠い豪華客船に浮かれ切って、度を越した馬鹿をやらかす……なんて可能性もねえわけじゃねえ。

 試験と関係のねえところでマイナス評価を食らうのもバカらしいからな。それを思えば、監視役を用意せざるを得ねえんだ。――そんなわけで、悪いが引き受けてくれ、アルベルト」

「イエス、ボス」

 

 俺の言葉に、アルベルトは端的に肯定の返事を寄越した。

 コイツもまた、道理を説けば非情な策だろうと受け入れてくれる。実に貴重だ。

 つーか、うちのクラスもDクラスほどじゃねえが程度の低い奴らの方が多いからな。正直な話、正攻法じゃあやっていけねえ。お話として成立するレベルにもねえ。それをどうにか()()()()()()()()()()()()まで持っていこうと思えば、外道や邪道な策を使うしかねえのが現実なんだ。

 そして頭の痛いことに、うちのクラスにはそれを理解している奴の方が少ねえ。本当、そんな状況で何で王なんて面倒なことをやってんのか我ながら不思議に思う。――まあ、とっくに答えは出てるんだがな。

 率直に言えばポイントのためだ。俺が王として立たなけりゃ、うちのクラスだってDクラスに負けず劣らずの低評価だったことだろう。CPゼロだって普通にあり得たんだ。さしもの俺も小遣いゼロで過ごすなんざ御免だからな。その危険性がある以上は、否応なく立たなきゃならなかっただけのこと。

 本当、感情的に俺を批判する奴は、その前に俺が立たなかった場合のことを考えてほしいぜ。考えたなら、ただ感情的な批判なんて出来る筈がねえんだからよ。

 理由がどうあれ、きっかけがどうあれ、せっかく王として立ったからには、その立場を満喫するまでのこと。縛りは多いが、だからこそ面白えのは否めない。

 

「面子から分かると思うが、アルベルトを除き、島に残るのは俺が特に評価している奴だ。……その上で問うが、他にも島に残りてえ奴はいるか? 

 ただし時任、テメエはダメだ。許可できねえ。俺個人としてはお前の反骨心は嫌いじゃねえんだがな。今回の試験だと『獅子身中の虫』になりかねん。こっちの()()()()()()()()()()()()となり得る奴を島に残すわけにはいかねえ。おとなしくリタイアするこった」

 

 俺はそれぞれの立場を明確に告げたその口で時任のことを扱き下ろした。言葉通り、俺個人としては時任の奴が嫌いじゃねえ。だが、王としての判断は別ってことだ。俺が全クラスのリーダーを当ててみせたところで、こっちのリーダーが当てられちまったら意味がねえからな。

 コイツの場合、その反骨心だけで他クラスにリーダー情報を売りかねねえ。まあ、実のところは売られても十分に対処できるんだが、それが現実になっちまったら、いよいよコイツの居場所がクラスに無くなるからな。

 なら、事前にその芽を摘み取ってやるのが、王としての慈悲ってもんだろう。――もっとも、真実それを慈悲として受け取れるかは俺の知ったことじゃあないがな。

 大事なのは、そういう見方が出来ることであり、真実そうなる可能性が少なくとも存在してるってことだ。そういったところまで考え方を巡らせることが出来ねえんなら、それは実力者ではあり得ない。この学校のルールではそうなるってことだ。

 そのことに自発的に気付いてくれりゃあ、それが一番なんだがな。ま、現実的には難しいだろう。

 

「チッ! 言われるまでもねえ。ただでさえテメエと顔を突き合わせてんのは苦痛なんだ。人数が減った上ですき好んで身を置くかよ。お言葉通り、ありがたくリタイアさせてもらうさ」

「ああ、それでいい。――それで、どうだ? 誰か残りたい奴はいるか?」

「私は残る」

 

 真っ先に意思表明をしたのは真鍋の奴だった。

 真鍋志保。クラス内における女子グループ一つのリーダー格であり、伊吹とは反りが合わずに揉めることが多い。上には弱く、下には強く出る典型的な小物――と、傍目からはそう見える。

 だが、真鍋のそんなスタイルは、組織という縦社会の中では至極普通――と言うより、それを前提として成り立っている組織の方が多い。

 社長、部長、課長、係長……組織内におけるそれらの立場が蔑ろになってしまえば、組織としては崩壊したも同然だ。

 

「龍園くんに気に入られて伊吹の奴は側近の位置に就いたけど、それによって私と彼女の間には明確な上下関係が生まれてしまった――と、そう認識している奴がクラスの中には多過ぎるのよ。

 ハッキリ言って、私は彼女に負けてない。まあ、負けを認める部分があるのは確かだけど、それはあくまで部分的。真鍋志保という人間が、伊吹澪という人間に負けているとは思わない。思えない。思っていない。

 けど、私がどう思っていようと、クラス内の雰囲気がそれを認めないのも事実。なら、この言い分を通すためには、まずその雰囲気を覆すところから始めなくちゃならない。そう考えれば、いい機会よ」

 

 真鍋の奴は、伊吹の奴を見ながらそう言った。

 

「いいぜ。お前の言い分を認めてやるよ、真鍋。お前は残れ。俺が認めるに値するだけの成果を出せたなら、お前も側近に取り立ててやる」

「……言質は取ったからね?」

 

 チラリと坂上の方に目をやってから、真鍋は念押ししてきた。

 このやり取りで俺は確信した。真鍋は組織型の人間だ。それと同時、能力志向の人間でもある。立場を尊重はするが、その立場に相応しいだけの能力を相手に求める人間ということだ。

 それで言えば、伊吹の奴は一匹狼タイプの人間だからな。オマケに、明確に優れているのは身体能力のみという、まさしく一点特化タイプ。真鍋の奴と方向性が合わねえのは道理だろう。

 

「前言を撤回するつもりはねえよ。……今は俺の独裁政権の見方が強いが、クラスという『一つの組織』を運営する上で、いつまでも今のやり方が通用する筈もねえからな。そういう意味でも、お前みてえなタイプの奴は必要だ」

 

 これで真鍋の奴が言うだけの能力を持っているのなら、それに越したことはねえんだがな……。

 その後も確認を取ったが、結局、真鍋以外に立候補者はなし。俺、石崎、金田、伊吹、真鍋の五人が島へと残留することになった。

 

 ♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢

 

「おら、出来たぞ」

 

 言って、俺は作った飯を出してやった。

 人数比で考えれば、ポイントで買った物資は潤沢にある。スポットエリア内にも――前提となる知識を有しているのなら――様々な資源がある。

 いくら『引き籠もり』戦法を取るっても占有エリア内をうろつく程度は普通にするから、飯に困ることはねえ。――それを作れるだけの技術があるのなら。

 

「つーか、伊吹よぉ。こういう言い方が偏見なのは認めるが、女子の癖して料理もまともに作れねえのはどうなんだ? なんだって残留組に女子を加えたと思ってんだよ?」

 

 いや、本当に。

 まあ、真鍋はまだマシなんだよな。単に包丁を使う技術が足りないだけで、作る料理に対するビジョンの共有は出来る。普段は皮むきなんかをピーラーに任せているのなら、この結果は不思議でも何でもねえ。むしろ、十分に許容範囲だ。――だからこそ、伊吹の残念さが際立つ。

 

「ウッサイわね! つーか、アンタが料理できることの方が私には信じられないんだけど?」

「んなこと言われてもな。出来るもんは出来るんだから仕方ねえだろ? ――つうよりは、俺に出来ねえことの方がねえんだよ。

 まあ、何でもかんでも出来ちまうと、楽しくもなんともねえからな。普段は自己暗示で意図的にブレーキ掛けてんだよ。出来すぎる、分かりすぎるってのは、本人にとっても苦痛だが、周りにとっても苦痛だぜ?」

 

 そう。人間ってのは『惰性』という『怠惰の沼』に溺れちまう生き物だ。――それでいて、未知を、理解の出来ねえもんを怖がる生き物だ。

 俺が普段から制限なしに生活しようものなら、誰にとっても救いのねえ結末が待ち受けることは確実だろう。何せ、制限を完全に取っ払っちまったら人間性さえ失われちまうからな。すなわち、『龍園翔』という人格の消失だ。そういう意味でも完全に取っ払うつもりはねえ。

『アカシックレコード』、『星の本棚』、『根源の渦』、『全ての始まり』にして『全ての終わり』……様々な言われ方をしている、()()()()。それへのアクセス権を、俺は生まれつき持ち合わせている。――本当のところは分からねえが、少なくとも俺はそう定義している。

 普通なら人間に耐えられるわけはねえんだが、俺は俺のまま、ある程度までは耐えられる。耐えられちまう。

 実際、俺は料理なんざ今までまともにしたこともねえ。それでも、現にこうして知識や技術を駆使した料理が出来上がっちまった。原初混沌にアクセスして、必要な知識や技術や能力を一時的に引き出したからだ。

 逆説、こうして料理が出来ている現実こそが、俺の異常性の証明に他ならねえ。

 何で俺がそんな能力を持ち合わせているのかは分からねえ。()()()()程度には分かっちゃいるが、所詮はその程度。アクセスして調べりゃあ詳細に分かるのかもしれねえが、そこまでして調べる気もねえ。

 だからこその『言霊論』でもある。この論説であれば、証明は出来ずとも信憑性を齎すには十分だし、俺自身も納得ができる。

 

「俄かには信じられないけど、ブレーキを外すことに負担はないの?」

「そりゃあ、あるさ。だが、限定的であればあるほど、負担が少ないのも事実でな。

 人間の可能性ってのは、それこそ無限に等しい。職業だけでもかなりのもんだ。無職の俺、ヤクザの俺、一流経営者の俺、一流料理人の俺……どれもこれも、是非や確率の高さは置いておいて、可能性だけなら否定はできねえだろ?」

「そりゃまあ、可能性だけならね」

「この料理は、そんな一流料理人になった俺の知識・技術・能力を引っ張ってきて作ったもんだ。ベースは俺なんだから、その時点で齟齬は極端に低い。テメエらが信じる信じないはともかく、俺にとってはそれが事実で現実だ」

 

 俺の言葉に、揃いも揃って無言になった。

 

「ッ……! もしかして、今回の試験に関してもその能力で乗り切るつもりってこと?」

「ほう? 気付いたか。ああ、その通りだ。

 世の中に『絶対』はなく、可能性だけは否定できねえ。つまり、今回の試験で俺たちが勝利する可能性もゼロじゃねえってこった。――が、流石に『完全勝利』なんかを求めちまえば、可能性は極端に狭まっちまうからな。それは流石に負担がデケえ」

「なるほど。それ故に『リーダー当て』に焦点を絞ったということですね?」

「ああ。『リーダー当て』だけならば、俺たちが完全勝利する可能性もそれだけ高まる。何せ、『偶然』や『当てずっぽう』の可能性だけは、決して否定が出来ねえからな。

 その上で、各クラスにはチョイとばかり『疑念の種』を植え付けてきた。『疑心、暗鬼を生ず』ってな。上手く転べば、何もねえところでも疑ってかかるようになっちまい、尚更防備を固めるだろう。――だからこそ、余計に『偶然』や『当てずっぽう』を否定できなくなっちまう。

 リーダー当ての際に、『リーダー当てで一人勝ちした俺』を引っ張ってくれば、逆説的にうちのクラスの勝利は確定する。

 これを覆そうとするなら俺と同種の力が必要になるだろうが、その場合はぶつかり合いが発生する筈だ。今までそんなことはなかったから、確信も確証もねえけどな」

「だから、重要なのは『リーダーを当てられない』、『リーダーを当てられる可能性が低い』状況を作り上げることだったのね?」

「ああ。最終メンバーを王と側近で固めちまえば、誰がキーカードを持っていてもおかしくねえことになる。リーダーつっても、所詮は試験の中での役割に過ぎねえからな。文字通りの『指示役』じゃねえ以上、理屈で考えればそうなる。

 加え、スポットをテントの中に納めたからな。尚更外部からじゃあ分からねえだろ。『偶然』や『当てずっぽう』で当てられる可能性だけは捨てきれねえが、外した場合のペナがデケえのも確かだからな。利口な奴ほど、確証や確信のねえ勝負はしねえだろ」

「その話が本当なら、まるで神様みたいな力ね……」

 

 肩をすくめ、まるで信じていない口調で伊吹が言った。

 それも当然。流石に現実味がなさすぎる。料理に関しても、似合わないのは承知の上で、『龍園翔が実は優れた料理技術を持っていた』と捉える方がよっぽど分かりやすい。

 

「ま、結果が全てを物語る。それを見てどう捉えるかはお前たちの自由だ。――んなことよりも、いい加減に飯を食え。冷めちまったら美味くねえぞ」

 

 俺は一方的に言い放ち、温度を失いつつある料理をかっ食らうのだった。 




龍園の能力に関してですが、終盤の伊吹のセリフに集約されています。
昨今のスパロボのラスボスってそんなんが多いですからね。出来ることの範囲や規模がデカすぎて、出来ないことを探すのが難しいレベルです。
ただ、流石にそんなんをそのまま引っ張ってくると作品として成り立ちません。そのために『現在の人格』をセーフティーとして設定しました。
能力を簡単に言えば一種の『現実改編』です。改変具合次第で負担も変わってきます。無理が大きければ大きいほど、人格に影響も出ます。

あと、本文中で語ってますが、本作の龍園は望んで『王』になったわけではありません。システムに見当が付いた結果、ポイントを得るために仕方なく起ちました。
まあ、起った以上は『王』を楽しんでいる面もありますが、苦労も多くて『なんだかなぁ……』的な部分もあります。
その一方で、そのハードモード的な部分も楽しんでいる面もあります。
人間ですから矛盾を抱えるのは仕方ありませんね。

あと重要なことを一つ。本作の真鍋志保は『かませ犬』ではありません!
原作だと恵に対する扱いから卑劣なイメージがありますが、そもそもは恵の方に原因がありますからね。恵が素直に謝っていれば済んでいた話です。
恵自身に非があるのに、それを認めて謝らなかったからこその展開であり、真鍋にしてみれば『弱い奴が粋がるな』になります。
また、原作だと龍園からの扱いも良くはありませんでしたからね。そりゃあ裏切る土壌は十分です。恐怖は『より強い恐怖』で上書きされるものですし。
とはいえ、龍園にとって真鍋が弱者であることに違いなく、である以上はあのような結果になっても仕方ないでしょう。

本作の真鍋はそういった解釈の基に設定されています。
彼女のスタンスは『組織主義の戦国武将』です。
立場や肩書なんかを重視しますが、それを冠する者には相応しい能力を求めます。
同時、能力を持つ者にはそれに見合った立場や肩書を求めます。
世の中は『御恩と奉公』で成り立ちます。搾取ばかりする輩には目上であろうと牙を剥きますが、しかと恩を与えてくれる相手には忠誠で報います。
能力的には『突出した部分は持たないけれど、どれもこれも最低限平均程度にはこなせるオールラウンダー』ですね。各ランクがC-からB-で纏まっています。
組織的には非常に使いやすく、いてくれればありがたい人材です。優秀な人材が増えれば、相対的に価値観が減るのも事実ですけどね。

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