ようこそ実力至上主義の教室へ ~ギフテッドとN.I.N.J.Aと……~   作:山上真

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第58話:池寛治は、モテるために特訓をする。

「うおおおぉぉ……っ!」

 

 俺は気合を入れて無人島の中を走っていた。山ん中ほど過酷じゃねえが、町中ほど整備されているわけでもねえ。人工的とはいえ、慣れ親しんだ自然あふれる風景だ。

 フォルテちゃん主催の『無人島ツアー』に参加した結果、俺は自分のルーツと考え違いを自覚するに至った。

 フォルテちゃんによると、俺んちはN.I.N.J.Aの家系らしい。忍者ではなくN.I.N.J.A。正式名称はニューインフィニティーなんちゃら。日本古来の忍者が、時代に合わせて変化して出来上がったそうだ。

 N.I.N.J.Aはその全員が固有にして特殊な神経細胞を備えており、それを覚醒させることで人間が持つ潜在能力をある程度自由に引き出すことが出来るそうだ。逆に言えば、『N.I.N.J.Aの素質』とは『その神経細胞を持っていること』に他ならない。

 無論、由緒正しきN.I.N.J.Aの家系である俺は、キチンとその細胞を備えている――らしいのだが、俺自身が曖昧な知識で行動していたことに加え、長いこと鍛錬から離れていたこともあって、俺は随分と錆び付いているらしい。

 正確には、錆び付いているというよりは歪。スムーズな部分とそうでない部分の差が激しいようだ。そう言われたら返す言葉もねえ。

 俺がキャンプだと思っていたことも、その実態はN.I.N.J.Aの訓練だったそうだ。身体的な訓練だけじゃなく、知識的な意味も含めて。今の今までそのことに気付いていなかったのだから、俺の馬鹿さ加減がよく分かる。

 常日頃からモテたいモテたいと言っている俺だが、モテる要素は十分にあったのだ。ただ、俺自身がそのことに気付いておらず、結果として使い道にも気付かなかった。

 小学校の時は、運動の出来る奴はチヤホヤされていた。だから俺もチヤホヤされたくて、体育は力を入れて頑張った。――結果、チヤホヤされるなんてことはなく、遠巻きにコソコソ話をされる始末。向けられる目も、決して気持ちのいいもんじゃなかった。

 当時はキャンプだと思っていたN.I.N.J.Aの訓練も、俺は下から数えた方が早かった。だがその実態は、子供たちの中でも上澄みを集めていたらしい。そして俺は、その事実を知らなかった。たぶん、両親はキチンと伝えてくれてたんだと思うが、俺はそれを聞き流していたんだろう。結果、次第に劣等感が募っていった。

 それらが重なった結果、俺は次第に体育に力を入れるのを止め、キャンプの参加も遠ざかっていった。

 それが中学時代のことだ。体育に力を入れなくなった俺は、チヤホヤされることもなかったが、小学校の時みたいに気持ちの悪いものを見る目を向けられることもなかった。

 小学校の時のことに思いの外ショックを受けていた俺は、それで是としてしまったんだ。そうしてズルズルと月日が流れていったことにより、今ではすっかりと鈍りきってしまったわけだ。

 なので、今は鈍りきった身体を少しでも鍛え直そうとしている。

 環境ってのは存外とバカに出来ねえらしい。人工的に作られたものだろうと、自然は自然。その空気が、N.I.N.J.Aとしての俺を刺激する。疲れはするが、それ以上に回復が早えんだ。

 

「凄いですね、池くん。私は、そこまでは……」

 

 オマケに、女の子と一緒に行動しているわけだから、俺のやる気も跳ね上がるってもんだ!

 お相手は山村美紀ちゃん。一般家庭の生まれにも拘らず、天然のN.I.N.J.Aとして覚醒してしまった稀有な女の子らしい。一種の先祖返りなのではないか? というのがフォルテちゃんの推測だった。

 根拠としては弱いが、それを裏付ける要素の一つが美紀ちゃんの苗字らしい。古来より、忍者は自然を友としてきた。土遁だの水遁だのの忍術にも、その一端が表れている。

 そう言われりゃあ、俺の『池』という名字も当て嵌まる。そして、美紀ちゃんの苗字は『山村』だ。山中の村なんてのは、それこそ忍者が暮らすには打ってつけだ。いわゆる『隠れ里』ってやつだな。

 時代の流れの中、そこから地に下りたのが美紀ちゃんの先祖という可能性は、決してあり得ないわけじゃねえだろう。……その論法で言えば、もしかしたら春樹の奴にもその可能性はあったのかもしれねえな。

 俺自身の自覚はともかく、曲がりなりにも正規の鍛錬で覚醒した俺と違い、美紀ちゃんは天然の覚醒者だ。だからか、美紀ちゃんは力の表れ方が歪だ。隠形方面に特化している。それが『影の薄さ』となって表れ、フォルテちゃんに会うまでは友人のいない生活を送ってきたらしい。実に泣かせる話だ。

 フォルテちゃんに気付いてもらえたことで影薄をどうにか出来る可能性が生まれた。それによりフォルテちゃんの指導を受けているらしいが、一朝一夕で成果が出たら苦労はねえ。今までに正規の訓練を受けたこともねえなら、方向性の違いもあるので尚更だ。

 結果、身体能力に関しては、鈍りきった俺の方がまだマシという有様だ。

 

「いやいや、俺は山村ちゃんだって十分にスゲえと思うよ」

 

 息荒く呟く美紀ちゃんに対し、俺はそう返した。紛うことなく本音である。

 美紀ちゃんがN.I.N.J.A修行に取り掛かったのは、現在の星之宮クラスに籍を移してかららしい。それでこうしてついてこれてるんだ。今までに一度たりともN.I.N.J.Aとしての修行をしてこなかったことを踏まえれば、十分以上に凄すぎる。

 ランニングコースの指定はフォルテちゃんがしたらしいが、周りを見れば頷かざるを得ねえ。知識がある前提だが、周りを見れば疲労回復に効果のある食いもんがある。これを食って、次の目的地までの繋ぎにしろってことだろう。

 

「はいよ、山村ちゃん」

 

 俺は雑に取ったそれを美紀ちゃんに渡し、手本を示すように目の前で食ってみせた。流石に、知識がねえならイキナリ食うのは怖えだろうからな。

 俺が食ったことで安全だと判断したのか、美紀ちゃんも口に運んだ。

 次の瞬間――

 

「う゛っ!? 不味いですね……」

 

 顔を顰めた美紀ちゃんが呟いた。

 

「まあな。生でも食えるけど、不味いから生で食うのはお勧めされてねえし。でも、生で食った方が薬効は高えんだぜ。……アレだ。『良薬口に苦し』ってやつだ」

「だとしても限度があると思います。……う゛うっ」

「そんな山村ちゃんには、お次にこれだ」

 

 そう言って渡したのは果物だ。皮ごと食べられて、ちょっとした水分補給にも、口の中をサッパリさせるにも十分だ。

 これまた目の前で食ってみせる。

 

「あ、美味しい……。口の中がサッパリしますね……」

 

 先ほどとは一転。美紀ちゃんは笑みを浮かべて呟いた。

 

「お気に召したようで何よりだよ。んじゃ、次の目的地に向かおうぜ?」

「はい……!」

 

 こうして、俺と美紀ちゃんは再びランニングに勤しんだのだった。

 なお、名目としては『資源回収』となっている。実際、まるっきりの嘘ではない。ゴール地点には目当ての薬草や香草なんかがあるからだ。

 その一方で、知識が無ければ役に立たないこともあり、即物的な効果を持ち合わせる物ではない。結果として、ニクラス合わせても回収の優先順位は高くない。

 それを利用して、こうして限られた時間を有効的に活用して訓練に充てているというわけだ。

 俺一人ならばサボりと見做されるかもしれないが、星之宮クラスの美紀ちゃんも一緒なのでそれもない。

 問題があるとすれば美紀ちゃんの影が薄すぎてサボりと見做される可能性が否定できないことだが、フォルテちゃんや綾小路を始め美紀ちゃんに気付ける人材もチラホラといるので、そちらからのフォローが入ることになっているのだ。

 

 ♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢

 

 資源回収に託けたランニングを終えてベースキャンプに戻ってきた俺は、その足で滝壺へと魚獲りへと向かった。魚釣りではないのがポイントだ。

 向かった滝壺には何人かの先客がいた。AクラスとDクラスの連中だ。ぼんやりと釣り糸を垂らしている。

 その中に見知った顔がいたので声をかける。

 

「よお、健。釣れてっか?」 

「ん? おお、寛治か。ふぅ……。正直に言やあサッパリだ。そもそも、俺ってこういうジッとしてるのとかって苦手なんだよな。

 ただ、それを『向いてねえ』の一言で済ますのは簡単だけどよ、これが『精神修養』に繋がって、引いては『バスケでの冷静なプレーに繋がる』って言われちまえばな……」

「苦手だろうと向いてなかろうとやるしかねえか」

「そういうこった」

 

 答え、健は再び水面に向き直った。そのまま続ける。

 

「そういうお前はどうしたんだよ、寛治。釣りに来たってんなら、残念ながら竿は全部埋まってんぞ」

「ああ。いい、いい。魚を獲りに来たのは事実だけどよ、釣りに来たわけじゃあねえから」

 

 俺は片手をパタパタと振りながら、そこらに転がってる石を吟味した。『魚の獲得』という結果に繋がるのなら、何も釣りに拘る必要はない。

 吟味した石をいくつか拾ったら、俺は水面に目を凝らした。

 魚獲りはキャンプの定番と言っても良かった。どれだけ獲れたかでその日の飯が左右されるんだから、幼いながらに必死になって取り組んだもんだ。

 確かに今は運動不足が祟って色々と鈍っちまってるけど、幼い頃には、今程度の能力が常態だった時だってあるんだ。――そして、それでも魚を獲ることは出来ていた。

 なら、身体能力的には問題がねえ。まあ感覚的な問題は残ってるが、やってりゃそのうちに勘を取り戻すだろ。

 そう楽観的に考えつつも、一発一発を真剣に狙う。闇雲にやったって勘が取り戻せる筈もねえからな。

 釣りをしてる連中の邪魔にならねえよう狙いどころを考えなくちゃならねえのは面倒だが、逆に言やあ、そこさえ気を付ければ文句を言われる筋合いもねえ。

 

「フッ……! フッ……! フッ……!」

 

 手持ちの石が尽きては拾い、手持ちの石が尽きては拾い、果たしてそれを何度繰り返したかも分からねえ。行為に没頭してからは、いちいち数えてもいなかったからな。

 だが、どうあれ投擲した石は水ん中を泳ぐ魚にヒットした。石を当てられた魚がプカプカと浮かんでくる。

 

「おいおい、マジか……!?」

 

 そんな声が聞こえたので振り向くと、すぐ近くに健がいた。

 

「おお、健。どうしたよ?」

「いや、そろそろ戻るかって話になったからよ。お前にも声をかけに来たんだよ」

 

 その声に周囲を見渡す。確かに、結構暗くなっていた。そして、人の姿もなかった。現時点でここにいるのは俺と健だけだった。

 

「……いねえけど?」

「他の奴らはとっくに戻っちまったよ。お前、声をかけても全然反応しやがらねえんだもんな。そんな奴を独りで放置するのもアレだから、『どんだけ石投げに夢中になってんだよ……』と呆れながら見ていたんだけどよ……。

 いや、今のは驚いたわ。まさか水中を泳いでる魚に石をぶち当てるなんてな……。最初っから狙ってたのか?」

「ああ、まあな。中学に上がってからは割と御無沙汰だったけど、それでも小学校の時までは割と家族とキャンプをしてたからよ。んで、そん時はこうしてよく魚を獲ってたんだ。こうして獲った魚が飯の量に直結するんだから、そりゃあ真剣にやってたさ。

 せっかくの環境だからな。『童心に帰る』ってわけじゃあねえけど、昔を思い出してさび落としってわけだ」

 

 言って、もう一投した。投げた石は、狙いを過たずに魚へと命中した。

 更に石を投げると、その都度に魚が浮かんでくる。

 

「なあ、健。網とかあるか? このままじゃあ、魚を気絶させても獲れねえことに今気付いたわ……」

「ここまでやっといてソレかよ……。やっぱお前ってバカだわ……」

「うるせえな! 馬鹿さ加減で健にどうこう言われたくなんかねえよ!」

「図星刺されたからってキレるんじゃねえよ。ちょっと待ってろ。スポットのエリア特典に網もあった筈だ」

 

 言って健が踵を返したので、俺もそれについていくことにした。流石に単独行動させるのもな……。

 

「なあ、健。俺ってさ、自分で思ってる以上に凄かったらしいんだよ」

 

 道中の暇潰しに、俺は自分の過去を語った。

 

「寛治ん家が忍者の家系なぁ~。俄かにゃあ信じらんねえけど、さっき寛治が石を投げて魚に連続で当ててたのは事実だからなぁ~。アレを見ちまえば、一概に否定も出来ねえな……。

 で、お前が親とのキャンプだと思ってたそれは、実際には忍者修行だったと……」

「俺自身は全く気付いてなかったけどな」

「それがそもそもおかしいだろ……。自分の家のことだろ? 何で気付かねえんだよ?」

「そう言われると困るんだけどな。でもよ? 今の御時世に『自分の家は忍者の家系でござい』って言われて、素直に信じられるか?」

「ま、信じらんねえよなぁ~」

 

 グダグダ、グダグダ。健と二人、言葉を交わしながら道を歩く。

 本当なら、ここには春樹もいる筈だった。――だが、現実にはいねえ。

 ただの不参加じゃねえ。学校を退学させられたことにより、この試験への参加自体が不可能になったんだ。

 そして俺と健は、『クラスのため』だの何だのと理由を付けて、春樹を見捨てた。直接的に退学を後押しすることはしなかったが、手を差し伸べることもしなかった。『()()()()()ことを()()()()』ことで、春樹の進退に直接関わることを避けた。

 その苦みは、今も胸の中に留まっている。この苦みが消えるとしたら、おそらく――

 

「なあ、健。俺たちは卒業しような。できればAクラスで」

「あ? 何だよ、急に?」

「春樹のことを思い出しちまってな。……あの選択が正しかったのか間違っていたのかは分からねえ。分からねえから、胸の中には苦みが留まってやがるんだ」

「まあ、な……。そこに関しちゃ俺も同じだ。俺もお前も、中途半端な、どっちつかずの態度を取っちまった。

 思うんだ。ダチだからこそ、自分の手で、直接的にトドメを、退学を突き付けるべきだったんじゃないかってな……。

 後悔だな。春樹はもう退学しちまった。思ったところでどうしようも出来ねえ」

「ああ、そうだな。どうしようも出来ねえ。――出来ねえから、自分たちなりにどっかでケジメを付けるべきだと思うんだよ」

「それが『Aクラスでの卒業』……か?」

「ああ。俺たちがキチンと卒業することで、少しでも春樹の退学に『意味があった』ことにするんだ。所詮は結果論に過ぎねえのかもしれねえけど、単に自分たちが楽になりたいだけなのかもしれねえけど、それでも、ただ漫然と日々を過ごすよりはマシだろ?」

「……だな。()()()()()()()()()()()()()()()()()()が、俺たちなりの責任の取り方か……」

 

 健と顔を見合わせて頷いた。

『Aクラスでの卒業』という事実を春樹の奴に送ることを、俺と健は決意したのだった。




徐々に徐々に、Dクラスからも本格的に『Aクラスでの卒業』を目指し始める者が出てきます。
正しくは、『個人的な目標にAクラスでの卒業を絡める者』ですね。

結局のところ、学校からの評価を気にしない、推薦なんかなくても構わない、という生徒にとっては『Aクラスでの卒業』に然したる価値はないでしょうしね。
売り文句に惹かれて入学したはいいものの、「そこまで苦労してAクラスで卒業する必要なんかねえよ」という生徒の方が大半だと思います。
卒業特典に関しては学校側も騙し討ちしてますので親への言い訳も立ちますし。
「卒業特典受けれるのは、学校側に最優秀と評価されたクラスだけだった」と正直に言うだけです。

取り敢えず、今話で池と須藤のそこら辺は描写できたと思います。
「後悔の無い選択を」と言ったところで、後悔するのが人というものです。山内の退学に票を入れても、救済に票を入れても、結局のところ池と須藤は『また別の後悔』を抱えることになっていたと思います。
その後悔を払拭するための理由に『Aクラスでの卒業』を結び付けるのは、そんなにおかしなことではないかなと。

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