ようこそ実力至上主義の教室へ ~ギフテッドとN.I.N.J.Aと……~   作:山上真

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第59話

 アズが砂浜に塩づくりの確認に来ると、何人かのグループに分かれて作業している最中であった。

 日差しが強いことを利用した塩田方式の作成法。

 浅めに穴を掘り、上にポイントで購入したレジャーシートをかけ、海水を汲む。蒸発したら、更に新しい海水を入れる。やってるうちに濃い海水が出来るから、あとはそのまま乾燥させるなり、焚火を使って蒸発させる、そんなやり方だ。

 全体的に肉体労働だが、穴の準備さえ終わってしまえば、あとは都度に海水を足していくだけである。

 初日の料理にはポイントで購入した調味料を使ってもみたのだが、やはり減りが格段に早かったのだ。その上で、量自体もそれほどではない。一家族程度が使う分には暫く保つのだろうが、八十人以上もいればそうも言っていられない。

 それが塩づくりに重点が置かれた理由にもなっている。初日にアズの指揮の下で一ヶ所だけ穴が掘られてはいたのだが、『それでは足りないだろう』という判断に至るのは至極当然の話。二日目には更に穴の数が増えた。

 一角にはそこらの石を組み上げて作った簡易かまども用意されている。自然乾燥でも構わないのかもしれないが、やはり濾過した方に魅力を覚えるのが人間のサガだ。

 濃くなった海水を鍋に入れ、グルグルとかき混ぜながら火にかける。蒸発が進むにつれ、海水は減り、液体は白く濁っていく。

 その中身を、もう一つ用意した空鍋へと移し替えるわけだが、空鍋の上には誰かしらのTシャツがセットされている。Tシャツを使って濾過するのだ。

 濾過した液体をもう一度火にかけて、再び濾過。これを繰り返すことで、Tシャツの上には塩が残るという寸法だ。

 その都合上、塩づくりは数人一組で当たっている。海水を汲む作業だけなら一人でも出来るかもしれないが、特に濾過作業が面倒だ。一人だと度々Tシャツを洗いに戻らなくてはならないし、その間は作業が止まってしまうことになる。

 それよりは、元から複数人で作業させることで、Tシャツ自体に余裕を持たせておいた方がいい。そういう判断が働いたのだ。

 また心情的に、如何に滅菌消毒されるとはいえ、男の汗をたっぷりと吸い込んだTシャツを濾過機にするのには――それによって出来上がる塩を食べるのには抵抗を持つ生徒の方が多かった。

 その一方で、自分たちの汗が染み込んだTシャツで濾過されて出来上がった塩を男子に食わせることに抵抗を持つ女子も多かった。

 なお、その双方に関しては、特にDクラスの声が大きかった。星之宮クラスはそれほどでもない。元より協調性や団結力に優れたクラスだ。その言い分に理解は示すが、滅菌消毒されることを踏まえれば特に抵抗感のない生徒の方が多かったのだ。

 もっとも、この作業で塩を作らないことには、味気ない食事で苦しむのは自分たちである。星之宮クラスだけに濾過作業を任せるわけにはいかない。『海水を汲むのはやりますが、濾過作業はお任せします』なんて言い分は通用しないのだ。

 これに関しては鈴音と千秋が『嫌なら食うな』と声を揃えて言い放ち、特に抵抗のあるわけでもない平田もこれに賛同。そうなれば感情論がいつまでも長続きする筈はない。理屈的には、濾過作業で滅菌消毒もされるのだから。

 こうして、Dクラスにしては割かし早くメンバーが選抜された。主には自薦で、足りない分を他薦だ。

 結果、恵、麻耶、千秋の仲良し三人組、波瑠加、鈴音、美雨の計六人が塩づくりに駆り出されることになった経緯がある。

 なお、平田はベースキャンプで留守番である。クラス内で発言力のある人物が一人もベースキャンプにいないのは、それはそれで不安があるのも間違いない。まあ、留守番と言っても何もしていないわけではない。星之宮クラスからの協力要請を受けて、それに人員を割り振る作業に当たっている。

 さておき。

 駆り出された塩づくり組であるが、最初は勝手が分からないこともあり六人一組で作業に当たっていたが、今では三人一組で作業に当たっている。また、その全員が水着である。海辺での作業なので何の違和感もない。

 うちの仲良し三人組の方――

  

「清隆分が足りない……」

 

 ぐったりと垂れながら恵が呟いた。

 

「清隆分って、なに?」

「文字通りに綾小路清隆のみから補充できるエネルギーのことよ。呼び名は『キヨタカニウム』でも可」

 

 アズが問いかければ、恵はうなだれたままで答えた。

 

「端的に言えば『未知のエネルギー』だね。実際、感じ取れるのも恵ちゃんぐらいしかいないし……」

「でもねえ……。理屈での存在証明は難しくても、恵ちゃんを見てると信じざるを得ないというか……」

 

 恵の親友である麻耶と千秋は、何とも言えない顔で補足を入れた。

 

「恵ちゃんによると、現在発見されているのは『キヨタカニウム』、『ヨウスケニウム』、『チアキニウム』の三つ。

 まあ端的に言うと、『寄生虫』を自称する恵ちゃんが、『寄生先』として目を付けた相手からしか補充出来ない成分だね」

「どうも、『寄生先その二』です」

 

 麻耶が更なる補足を入れれば、千秋は片手を挙げて答えてみせた。ちなみに、その一は平田洋介、その二が綾小路清隆である。

 

「恵ちゃん曰く、『経験簒奪(スティール・ライフ)』。件の成分を摂取することで、恵ちゃんに変化が表れるのよ。技量・技能・能力的な意味で」

「簡単に言えばバフがかかる。一度の摂取量次第で、バフがかかる時間と量がそれだけ変化する。――反面、それに応じて身体に負担がかかる」

「バフがかかった状態を常態にするために、身体の方が適応しようとするのよ。俗に言う『知恵熱』状態が続いて、適応が終われば熱も治まる。言葉にすればそんな感じ。

 もっとも、摂取したエネルギーの全部を吸収できるわけでもない。あくまでも恵ちゃんの体感でしかないけど、10のバフがかかったなら、取り込めるのは2~4くらい。まあ、時間の経過と共にバフ自体も効力を弱めて道理だから、頷ける話ではあるね。

 そんなわけで、バフの量がそれほどでもなければ知恵熱状態もそれほどじゃあないんだけどね。大量のバフがかかれば、知恵熱状態もそれだけ続く」

「以前、恵ちゃんが大量のキヨタカニウムを摂取したことがあるんだけど、その時はホント大変だったよ。

 うつらうつらして傍目からは非常に危うく見えるのに、授業内容はキチンと理解してるし、問題集だって完答なんだもん。体育だってそれは同じ。それまでからは信じられないほどの好成績を叩き出す。

 結果、皆して『何が起こった!?』って大騒ぎ。摂取した量が量だったから、治まるまで時間もかかったし……」

 

 二人の言葉は、俄かには信じられない内容だった。言っては何だが、いかにもゲーム的である。

 しかし、アズはその言葉を否定できなかった。方向性は違えど、自分にもそんな能力があるからだ。自身のやる気次第で能力にプラス補正がかかる。一定以上のやる気に達すれば、能動的に『ゾーン』に入ることが出来る。

 これもまた実に反則じみた能力であり、いかにもゲーム的だ。

 自分がゲーム的な能力を持っている以上、他の誰かが持っている可能性を否定はできない。ぶっちゃけ、N.I.N.J.Aだって同じようなもんだし。

 

「なるほど……。それであの状態は?」

「そんな能力を得た――と言うか、目覚めちゃった代償的な……?

 私たちもよく分かってるわけじゃないから推測に過ぎないんだけど、恵ちゃんが目覚めた能力って『寄生虫』を称するが故だと思うのよ。

 であるなら、寄生虫が寄生せず、別々に行動していることそれ自体がおかしいわけだからね。それを埋めるための『摂取衝動』に襲われるのも当然だと思わない? 

 幸か不幸か、恵ちゃんは複数の相手を寄生先に選んでたから、そういう意味じゃあ私や平田くんから摂取することで衝動を抑えられてはいたのよ。――その分、清隆くんからの摂取が遠のいていたことになるからね」

「遠ざかっていた分だけ、清隆からの摂取を求めていると……」

「それだけじゃなく、さっきも言ったけど以前にどぎついレベルでキヨタカニウムを摂取しちゃってるわけだからね。ハッキリ言えば、『過剰摂取』を『通常摂取量』だと身体が誤認しちゃってるのよ」

「ああ……」

 

 アズは頷いた。

 つまり、誤認状態にあるために、通常摂取量だと物足りなく感じてしまうわけだ。

 

「幸いなのは、恵ちゃんの精神自体はそこをキチンと認識していて、自制心が働いていることね。これで自制が利いてなかったら、どんだけヤバいことになっていたか……」

 

 千秋は安堵の息を吐いた。

 

「ちなみにだけど、どうやって摂取するの?」

「ん~。普通に接触するだけでも、ある程度は摂取できるみたいだよ」

「アレだよ。履き潰しの靴とか、運動後のシャツとかって、汗なり何なりを吸って臭いもキツイわけでしょ? その分だけ効果が大きいと思えばいいと思うよ。後に引くって言うか……」

「ああ……」

 

 麻耶の出した例に、アズは再び頷いた。

 良くも悪くも、強烈すぎるが故に強く印象に残ってしまい、それが尾を引いてしまう。……なんてのは、割とあることだ。悪い方の代表格は『トラウマ』だろう。

 本人の努力で何とか出来ないわけでもないが、『時間の経過に伴う印象の低下』も、解決のために必要な要素と言えるだろう。

 

「大変だね」

 

 もっとも、アズに出来るのは他人事な感想を呟くのが精々だったが。協力したくとも、アズにどうこう出来ることでもない。

 

「私たちに何ができるってわけでもないからね」

「様子を見ながら、恵ちゃんが()()()()()()()を取りそうになった際にブレーキをかけるのが精々だね」

 

 アズ、麻耶、千秋の三人がそんな会話をしてる時だった。

 おもむろに立ち上がって、ごく自然的に近付いてきた恵が千秋を舐めた。

 

「ひゃん!? ちょっと恵ちゃん!?」

「ゴメン。悪いとは思うけど、我慢が出来ないの!」

 

 怒鳴る千秋を意に介さず、尚も恵は舌を這わせる。よく見れば、千秋が掻いた汗を舐めているのが分かった。

 なるほど、こうしてチアキニウムとやらを摂取しているのか……。

 

「ちょっと二人とも~! 遊んでないで水汲みやってよ~!」

 

 頷くアズを余所に、麻耶が恵と千秋を叱った。塩田を見れば、だいぶ海水が蒸発していた。確かに、海水を足さなければならないだろう。

 

「まあ、頑張ってね」

 

 一声かけてアズはその場を去っていく。

 そんなアズに、後ろから銘々に声がかけられた。仲良きことはいいことだ。

 

 ♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢

 

 仲良し三人組の元を去ったアズが次に訪れたのは、波瑠加、鈴音、美雨の凸凹三人組の方だった。

 凸凹と言っても特段仲が悪いわけではない。良いわけでもなかったが。選抜されたメンバーの都合上、一纏めにされた組み合わせなだけだ。

 

「どんな感じ?」

「やっほ~、アズ。まあ、問題はないんじゃないかな」

「どうも。滅多にない体験だからね。せっかくだから楽しませてもらってるわ」

「私もです。大変ではありますけど、やり甲斐もあります」

 

 アズが訊ねると、順に答えが返った。

 その言葉通り、三人の顔には笑みが広がっていた。作業を楽しんでいるのは本当なのだろう。

 

「いや~、騙し討ちを食らった時にはどうなるかと思ったけど、コレはコレで楽しいもんだよね。

 もっとも、うちのクラスだけだとこんな楽しめてたか分かんないから、アズのクラスには感謝してもしきれないよ」

「……ですね。本当に、うちのクラスももっと仲良くできたらいいと思うんですけど……」

「難しいでしょうね。私が言うのもなんだけど、うちのクラスって我の強い生徒が集まっているもの。それでいて根本的に能力の足りていない生徒の方が多い。

 言ってしまえば、『極端なスペシャリスト』と『レベルの低いオールラウンダー』が大半で、例外は『十分に能力はあるけど、欠点が大きい』生徒。

 オマケに、自分の考えを優先するがあまりに、他人に対する配慮に欠けている生徒が多い。

 これじゃあね……」

 

 肩をすくめて鈴音が溜息を吐いた。

 Dクラスを指して『個性の闇鍋』とはよく言ったものである。

 

「うん。本当に堀北さんの言えたことじゃあないよね」

「堀北さんの場合、言ってること自体は正しいんですけど、伝え方は厳しすぎる部分がありますからね……」

「悪かったわね。兄さんを模倣してるうちに自然とそうなっちゃったのよ」

「あ~、そっか。堀北さんって、あの生徒会長がお兄さんなんだっけ。お手本がアレじゃあ、真似る方も自然とそうなっちゃうか……」

 

 波瑠加が納得したように頷いた。学が『アレ』呼ばわりされているが、仕方のない部分はあるだろう。能力が高く責任感も強い人物ではあるが、だからこそ付き合う方にも相応の能力が求められるものだ。

 自然、能力が足りない人物にとっては、『厳しい』、『堅苦しい』の代表格となるだろう。『生徒会長』という肩書もそのイメージを押し上げる。

 学の場合、近場で過ごしていればその()()()()が浮き彫りになるのだが、それはアズが十分な能力を保有しているからでもある。実際、新一年生が生徒会に入るまでツッコミを入れる人物がいなかったのだから。

 いや、それで言うならば反対のスタンスを取る南雲が『ツッコミ係』と言えるのだろうが、極端すぎて正しく機能していなかった。

 結論から言えば、アズたちが入るまでの生徒会は組織として歪に過ぎたのだ。その点で言えば、自身の反対派と言える南雲の生徒会への入会を認めた学は慧眼を持っていたと言えるだろう。

 惜しむらくは、そこで終わってしまったことだ。どんな組織であれ、間に立つことの出来るバランサーは必要不可欠なのである。

 だからこそ、現在の生徒会は最高布陣と言えるだろう。

 アズがそんなことを思っている間にも、凸凹三人娘は和気藹々と塩づくりに励んでいる。

 

「んじゃ、私は行くね。塩づくり、頑張って」

「また後でね~」

「はい!」

「また後で」

 

 三者三様の言葉を受け、アズはその場を後にするのだった。




幕間的な話。
心に余裕があるから、原作と違ってノビノビとしてます。
せっかくなので、恵にはスパロボ的なオリジナル技能『寄生虫』を設定しました。

効果:特定の対象に隣接することで『寄生』コマンドが利用可能。同一対象には1ステージに一回のみ。
使用することで対象の能力の何割かを自身に上乗せする。パーセンテージは毎回ランダムだが、パーセンテージが高ければ高いほどデメリットも大きくなる(行動不可、気力減少など)。また、極稀に技能もコピーする。
既定のターンが終了すれば、上乗せした能力の何割かがそのまま自身の能力値にプラスされる。コピーした技能もそのまま習得する。規定ターンを迎える前にステージをクリアした場合も同様。

早い話、ターンを費やせばレベルアップせずとも能力が上がります。ランダムで技能もコピーします。その分、PPやらスキルパーツやらが浮きます。

R-18版を意識した描写もチラホラと混ぜてます。
活動報告に『スパロボ的技能募集』板を立てましたので、このキャラにはこんな技能がいんじゃね? 的なのがあったらご協力をお願いします。
特に千秋と麻耶と外村。

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