ようこそ実力至上主義の教室へ ~ギフテッドとN.I.N.J.Aと……~   作:山上真

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第60話:池寛治の秘密忍務

「はぁ……。堀北ちゃんも松下も無理難題を言いすぎだって……。まあ、ノせられて引き受けちまった俺も俺だけどさ……」

 

 などと、俺は独り愚痴を吐いていた。

 二人から頼まれたのは、言葉にすれば何のことはない。この試験における真嶋クラスのリーダーを探ることだ。

 基本方針として、堀北ちゃんや松下はリーダー当てにチャレンジする気はなかったらしい。まあ、当たった場合の旨味はデケえけど、外した場合のダメージもデケえからな。

 うちのクラスとしては1ポイントでも多く欲しいのが正直なところではあるが、ポイントの温存が叶ってる状況なのも事実。高円寺のリタイアによるポイントの減少がつくづく痛えが、『ダメージは最小限に抑えられた』という堀北ちゃんたちの言葉も間違いじゃない。

 高望みをして足を踏み外しちまったら、そっちの方が馬鹿らしい。……そういう言い分も、決して間違っちゃいねえだろう。

 そして、他のクラスのリーダーを探るにも、闇雲にやりゃあいいってもんじゃない。前提として、リーダーと思しき生徒の名前を知ってなきゃならないし、ブラフや何かの可能性も視野に入れなきゃならない。発言者――情報提供者に対する一定の信用も必要だ。

 例えば、今ここに春樹がいたとして、春樹の奴が『偶然他クラスのリーダーを目撃しちまったんだよ!』と言ったところで、『一体誰が信じるか?』という話になる。いや、平田の奴なら信じるかもしれねえけど、俺や健だって信じやしないだろう。『また大ぼらを吹いてやがる』で終わりだ。

 オマケに、実際にリーダーを目撃していたとして、春樹の奴が『そいつが誰か知ってるのか?』という問題も出てくる。

 リーダー当ては、試験終了日朝の点呼時に指名するみたいだからな。顔写真付きのリストが用意されているわけじゃあるまいし、顔だけ、名前だけを知ってたところで意味はないんだ。

 リーダーの同行者がそいつの名前を呼んだところで、それがあだ名や偽名だったら? 対象人物に対する前提情報がなければ、意味がないどころか、場合によっては物の見事に騙されることになる。

 その指名方式だって、担任に名前を告げるだけでいいのか、リーダーの名前を紙に書いて提出する方式なのかも不明だ。

 そういう諸々を考えていけば、『リーダー当てはリスクの方が大きい』という堀北ちゃんや松下の言い分は十分に筋が通っている。まあ、これ自体が受け売りなんだけどよ。

 ただ、初日に坂上クラスの『王』を自称する龍園が齎した予言。俺もその場にいたから分かるが、あの挑発とも取れる言葉には()()()()が含まれていたのも事実だ。

 普通に考えりゃあ()()()()に決まってるんだが、楽観的な俺ですら気楽には受け止められなかった。まあ、俺自身が龍園の奴をよく知らないってもあるんだろうけどな。

 最大限に楽観的に考えた場合、270にベースキャンプ分のボーナスポイントが18前後加算されて、リーダー当てを度外視すれば300近い結果で終わる。

 が、予言通り龍園にリーダーを当てられちまった場合、獲得ポイントは220にまで落ちるどころかボーナスポイントまで得られねえ。坂上クラスと真嶋クラスには繋がりがあるみてえだから、最悪は真嶋クラスにも当てられることになる。そうなりゃ獲得ポイントは170にまで減っちまう。

 高円寺のリタイア以外はポイントに一切手を付けないでこの結果ってのは、正直に言ってダメージがデケえ。それでも200近いポイントが入る分まだマシなのかもしれねえが、精神的なダメージがデカすぎる。

 うちのクラスの場合、俺も含めて『口だけ達者』な奴が多いからな。言うことはデケえけど、言うだけの能力を持ってる奴は少ねえんだ。予想が現実になった場合、そんな奴らから反骨心を奪い尽くすには十分だろう。

 そして肝心の反骨心がなくなっちまえば、反撃も何もあったもんじゃねえ。

 もっとも、これは最悪の予想だ。坂上クラスから真嶋クラスに情報が伝わるとは限らねえし、伝わった情報を真嶋クラスが信じるとも限らない。そう考えれば、実に現実味の薄い予想だ。――だが、現実化する可能性自体は否定できない。

 それを防ごうとすれば、当初の方針はどうあれリーダー当てに目を向けるのも無理はねえ。

 しかし、この件で星之宮クラスの助力は頼めねえ。そんなことをしちまえば、借りが膨らむ一方だ。

 つまり、独力で他クラスのリーダーを探る必要があるわけだ。

 だが、ここで話が振出しに戻る。『人材がいない』という、根本的な問題だ。うちのクラスには、『リーダー探り』を任せられる人材がいねえんだ。

 頭脳面や身体能力面では優れた能力を持っている堀北ちゃんだけど、そのコミュニケーション能力は最底辺だ。()()()()()()()能力は持ち合わせていても、()()()()()を結び付ける能力がない。

 そんな折に明らかになったのが、『池寛治()がN.I.N.J.Aの家系である』という衝撃の事実だ。俺自身にその自覚はなかったし、能力もだいぶ錆び付いてはいるが、その一端は今でも持ち合わせていた。

 その事実に、堀北ちゃんと松下は一種の希望を見出したらしい。

 こう見えて俺は意外と顔が広いから、他クラスの生徒の名前と顔も大半は知っている。

 そして人間という奴は、とかく自分を中心にして考えがちだ。――だからこそ、『高所から見られている』という考えには中々思い至らない。

 ここが町中であれば考えが及んだかもしれないが、自然の中だからこそ、『木の上から見られる』という思考には行き着かないのだ。高校生にもなって木登りする奴なんてそうはいないしな。

 

『いい、池くん? 私たちはこの試みが必ずしも成功するとは思っていない。――けど、仮に成功した場合は、その立役者が誰だったのか、私も松下さんもキチンとクラス内に公表する』

『つまり、成功した場合、池くんは一躍クラスのヒーローってわけだ。もしかしたら女の子にもモテるんじゃない?

 まあ、うちのクラスのことだから反感を寄せてくる生徒の方が大半だとは思うけどね。何で池くんの言うことなんか信じるのよ? とか、何で池くんにそんな重要な仕事を任せてるのよ? とかね。

 けど、そんなのは知ったこっちゃない。こっちとしては()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だけでしかない。「負け犬の遠吠え」に耳を貸す道理はない』

『そういうことね。そしてそれは、「私たち二人は池寛治を評価している」という事実を表す。

 その上で、貴方も女の子にモテたいというのなら、「誰にモテたいか」を真剣に考えた方がいいと思うわよ?』

 

 この仕事を頼まれた際、二人から言われた言葉を思い出す。あんな言葉でノせられるのだから、俺も割かし単純だ。

 

「しかし、『誰にモテたいか』ねえ……?」

 

 確かに、女の子にモテたい、女の子と付き合いたいとは昔から思ってたものの、()()()()、という考えはなかった。

 いろんな女の子の名前を挙げたりはしていたものの、裏を返せばその中なら『誰でも良かった』ということになる。

 そのくせして、そのための努力をすることもなかった。やらないわけではなかったが、『表面的な努力』と言われてしまえばそれまでだ。

 それが入学当初の俺で、今では変わってきている。理由や動機はどうあれ、勉強や体力トレーニングもしているのだ。

 そしてそのことを、堀北ちゃんと松下は認めている。たぶん、軽井沢や佐藤も。

 だからこその忠告ということだろう。何せ、彼女たちは全員が『綾小路ハーレム』の一員なのだから。

 選り好みするには俺自身の能力が足りず、選り好みしている間に綾小路や他の奴に掻っ攫われるかもしれない。しかし、選り好みしないのであれば、努力次第で可能性はある。

 その一方で、綾小路の例でみると、能力さえあれば『ハーレムも十分に可能』ということになる。

 暗に二人はそう言ってきたのだ。

 

「要は優先順位を付けろってことなんだろうけど……」

 

 何とも難しい問題だ。答えが出せそうにないので、取り敢えず棚上げしておく。

 なので、今は努力を重ね、実績を示すことを優先する。それによって、新たに浮かぶ選択肢もある筈だ。

 

「……っと、来たな」

 

 真嶋クラスが洞窟以外にもいくらかのスポットを占有しているのは承知の上だ。その上で、探りやすいだろうスポットに狙いを付けた。

 向こうも警戒はしているだろうが、その範囲にはどうしたって限度がある。

 一方、こちらには『昔取った杵柄』がある。N.I.N.J.A細胞の活性化に伴う『視力の強化』、『隠密能力の強化』、『筋力の強化』であれば、今でもどうにか可能だ。それらを一遍にとなれば途端に難しくなっちまうが、やってやれないこともない。

 ここら辺が出来ないことには、山でのキャンプで獲物を獲ることなんて不可能だったからな。小学生の身で食い扶持を増やそうと思えば、ターゲットとして狙えるのは小動物ぐらいしかいない。その上で、()()()という機を逃さない必要もある。必然、そこら辺に関わる能力は重点的に強化せざるを得なかった。

 文字通り、汗水垂らして真剣に鍛えたんだ。確かに錆び付いちまったのは確かだが、完全に機能しなくなる筈もねえ。

 そしてこの手の能力は、とにかく感覚がモノを言う。すんなりと掴めちまう奴もいれば、ひたすらに時間がかかる奴もいる。

 その点で言えば俺は後者だった。俺と一緒に訓練を始めた奴が、俺より遅くに訓練を始めた奴が、俺より早くに成果を出していく。そういったこともあり、俺は自分のことを落ちこぼれと認識していたわけだが……。

 そうして費やした時間は、決して無駄じゃなかったってことだ。数年間のブランクがあることを鑑みれば、異常なほど早くに感覚を取り戻すことが出来たんだからな。

 まあ実を言えば、視力強化と隠密強化に関しては中学の頃も割と頻繁に使っていたんだけどよ。いやだって、女の子のスカートの中や着替えシーンを覗くのに便利なんだもん! 健全な男子たる者、使える能力があるんなら使うだろ!?

 たとえ怪しく思われても距離が距離。何かしらの道具を使わなきゃ覗けるわけがねえ。そして俺は手ぶらってわけじゃねえがそんな道具は持ち合わせてねえ。

 その上で、怪しさが分散されるように、俺は大抵誰かしらとつるんで行動していた。俺の押しの強さはそこから来ている。

 結果、『容疑者の分散』に加え『証拠がない』という当然の『理屈』によって、俺の『身の潔白』は証明され続けていたわけだ。……その節は大変お世話になりました。

 そんなわけで、今の俺がいるのは件のスポットから百メートルは離れた場所だ。その上で、木の枝の上に身を潜めている。

『距離』と『頭上』という、二つの意識的な『死角』を突いているわけだ。正直、これでバレちまったらお手上げだ。

 

「『付き人』神室真澄ちゃんに、『護衛』の鬼頭隼、んで『窓口』橋本正義か……。坂柳派の中でも最大手じゃねえか……」

 

 真嶋クラスにおける派閥争いの勝利者――坂柳派。その頂点に立つのが『天才』坂柳有栖ちゃんであるのは有名な話だが、その脇を固める人材も相応に有名だ。それが今挙げた三人である。

 有栖ちゃんは確かに天才だが、天は二物を与えなかったのか、反比例するかの如く身体能力は脆弱だ。その脆弱振りは、先天性の心疾患故に杖無しでの歩行を病院から禁じられているほど。

 そんな有栖ちゃんであるから、自分で出来ることには尚更に限りがある。水滴で滑って転倒する危険性を鑑みれば、風呂やシャワーだって独りで入れるかどうか……。

 である以上、『身の回りの世話』、『自身の身の安全』、『自身の手足となって動く人材』の三つを欲するのは当然と言える。この三人は、文字通りその方向で選ばれた人材なのだ。神室ちゃんは『私』に重きを置いた人材であり、橋本は『公』に重きを置いた人材。そう考えれば被りもない。

 逆に言えば、この三人であれば誰が試験のリーダーを務めていてもおかしくはない。

 もちろん、こちらにそう思わせることこそが狙いの可能性もある。だが、その可能性は低いだろう。

 チラリと腕時計に目をやり、現在時刻を確認する。そろそろあのスポットの占有時間が切れる頃だ。まあ、だからこそ狙いを絞ってここに陣取っているわけなんだけどよ。

 タイミング的に、あの三人の誰かがリーダーである可能性は高い。

 

「さあ、誰だ……? ――ッ!?」

 

 俺が前のめりになって呟いたのと、鬼頭の奴が勢いよく振り向いたのはほぼ同時だった。

 直感的に聴力を強化する。他の制御が疎かになる分バレる可能性は高まるが、そんなことは言っていられねえ。

 

「……したよ? 鬼頭」

「いや、誰かに見られているような気がした」

「え!? ……誰が? どこに? アンタの戦闘勘の高さは認めてるつもりだけど、張り詰めすぎてるんじゃない?」

 

 そんなやり取りが聞こえてくる。鬼頭の奴はこっちをジッと見ているし、橋本と神室ちゃんはキョロキョロと辺りを見渡している。

 

「……かも、しれんな」

「ふぅ……。脅かさないでよ。ちゃっちゃと更新して戻りましょ」

 

 言って、神室ちゃんはポケットからカードキーを取り出し、それを橋本へと渡した。橋本はそれを機械へと通し、カードキーは再び神室ちゃんへと渡る。

 そして、三人はその場を去っていった。方向的に、また別のスポットへと向かうのだろう。

 

「っぶねぇ~。鬼頭の奴、マジかよ……。あそこから俺に気付きかけるなんて何もんだ……?」

 

 それを見送り、完全に姿が見えなくなってから更に十秒ほども経ったところで、漸く俺は安堵の息を吐いた。

 最初から潜んでいたから、かろうじて気付かれなかった。元からいた小動物か何かと誤認した。……そんな風に考えておいた方がいいだろう。

 

「ま、何にせよお仕事は達成だ」

 

 俺はまだ見ぬ未来を夢見て浮かれ気分になる。――龍園が言っていた『リーダーのリタイア』による『リーダー交代』の可能性を、この時の俺はすっかりと忘れていたのだった。 




ある意味で、鈴音と千秋の危機感は原作以上に高いです。
特別試験だけならともかく、先々を見据えた場合、星之宮クラスと違い茶柱クラスはリーダー当ても視野に入れないわけにはいきません。
その一方で、どうしようもなく実働戦力に欠けているのが茶柱クラスの実情です。
清隆もいない。桔梗もいない。愛里もいない。山内もいない。この時点で原作以上のマンパワー不足に陥っているのは否めません。

星之宮クラスと同盟を結んだ結果、茶柱クラスの方針は『温存策』と他クラスから見做されています。
だからこそ、真嶋クラスにも油断があって然りです。『探り』を入れることが可能な余地があります。
同時、探りを入れていることが真嶋クラスにバレてしまっては元も子もありませんので、ものすごく繊細な作業になります。
その結果、『N.I.N.J.Aの家系』と判明した池に白羽の矢が立ちました。

過去に関しては、まあ池のことだから便利な能力があれば『覗き』に使うくらいはするだろうな……と。
ついでに、池のコミュニケーション能力の理由付けにも使用。
池にN.I.N.J.A設定を加えた瞬間――

「覗きスポット探そうぜ!」
「ここなんかいいんじゃね?」
「ダメだ! 距離があって見えねえ!」

馬鹿同士でそんなやり取りをして、他の奴が悔しがっている中で自分一人だけN.I.N.J.A細胞を活性化させて視力を強化し覗きを敢行している池が浮かびました。
『体力とかは衰えている一方で、N.I.N.J.Aとしての能力は衰え切っていない』ことに対するこじつけなのは否定しませんが、池らしさは残せているかと思います。

正直、鬼頭に関しては設定が固まっていません。まあ、固まっている人物の方が少ないんですけどね。
なので、どうとでも転べるよう、最低限の強者感を付与しておきました。

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