ようこそ実力至上主義の教室へ ~ギフテッドとN.I.N.J.Aと……~ 作:山上真
「皆さん、呼びかけに応じてくれてありがとう。まずはそのことに対してお礼を言わせていただきます」
Dクラスのベースキャンプ。
一時的に星之宮クラスに退散をしてもらい、その場にクラスメイトを集めた鈴音は、そのような出だしを切って頭を下げた。
なお、鈴音の隣には千秋と平田もおり、二人も頭を下げている。
「待て。つまり今回の呼び出しの発起人は堀北、お前ということか?」
Dクラスにおける学力優等生の最先鋒である幸村が、メガネをクイと上げながら問いかけた。
「そういうことになるわね。まあ、直接的に私が呼びかけてもみんなが集まってくれるとは思わなかったから、千秋さんや平田くんに協力をお願いしたけどね」
「こう言っては何だが、お前――本当に堀北か? 俺自身、堀北鈴音という人物をよく知っているわけではないが、それでも今までの堀北と比べると違和感しかないぞ」
「率直な意見をありがとう。ま、否定はできないわね。――ただ、
些か以上に失礼な幸村の言動にも、鈴音は腹を立てることはない。むしろ、少し前までの自分を思い出して苦笑するくらいだ。
正直さは確かに美徳ではあるが、なるほど、常にこのような言い方をされれば腹を立てるのが道理だろう。そんな、妙な納得感があった。
「……なるほど。それで、今回クラスの全員を呼び出した用件は? それも
「ええ、そうね。率直に言えば、『リーダー当てをどうするか』について皆の意見を訊いておこうと思ってね」
「リーダー当て……? わざわざチャレンジする必要があるのか? 正直に言えばデメリットの方が大きいと思うが?」
鈴音の言葉に、幸村は不思議そうに問いかける。
「ええ、そうね。幸村くんの意見は正しいわ。当初は私たちも静観するつもりだった。――ただ、そうも言っていられない状況が出来てしまったのよ」
「第一に、これは知ってる人も多いと思うけど、龍園くんから一之瀬さんに対して行われた『予言』だ。
単純に考えれば『挑発』の一言で切って捨ててしまえる程度のことではあるけど、果たして彼はそんな
鈴音に続いて平田が口を開けば、それに同意する生徒は多かった。
「自信じゃなくて確定した事実……だったか? 確かに、単純に大ぼらで片付けるには不気味だぜ」
「そのセリフ自体、自信がありすぎるでござるよ。だって、彼は『クラスの王』を称しているのでござろう? しかも、どちらかと言えば暴力による『恐怖政治』でござる。
そんな状況で、支配者がそんな大見得を切って外したらどうなるか……。普通に考えればクーデター一直線でござるよ。外した場合のダメージが大きすぎるでござる」
「そう、外村くんの言う通り。その可能性があるからこそ、私たちは龍園くんを
その一方で、それが現実になってしまえば、
頭ではそう分かっているんだけどね。少なくとも、私には取れない、取ろうとも思わない戦術であることに違いはないかな」
順に須藤、外村、千秋である。
分かりやすく分解されたことで、Dクラスの誰もが『龍園を不気味に感じる理由』が分かった。
そして、それだけに危機感も増した。単純なポイントの問題ではない。『一致団結』が上手く嵌った際の
「なるほど。こちらでも何らかのアクションを起こすことで、坂上クラスの躍進に歯止めを掛けたいというわけか……。そして、そのための方法がリーダー当て」
「その通り。だけど、単純に坂上クラスを狙うのはこちらとしてもリスクが大きい。龍園くんの言いようからして、当てられないための方策も用意しているだろうしね」
「リーダーのリタイアか。あのクラスは既にポイントがゼロだからこそ、リタイアを恐れる必要はない」
「付け加えると、『リーダーを指名するタイミング』と『試験の終了時刻』に落差があるのも問題ね。その点においても、リーダー当てはハイリスクなギャンブルなのよ。
点呼をボイコットして他クラスのリーダーがリタイアしてないかを探ったとしても、確実に分かる保証はない。仮にリーダーが点呼前にリタイアしていたとしても、担任が点呼後にリタイアした生徒を船に連れていくことを選択した場合、外からはリタイアしたかどうかなんて分からないもの。そう、『点呼の場への同席』は何の保証にもならないのよ。
これでは、点呼をボイコットしてまで探る意味がない。
極論、『リーダー当て』は諸々の条件を加味した上で、最終的には運否天賦に任せるしかないのよ」
リーダーを探れるかどうか、相手がリタイア戦術に気付いているかどうか、気付いていたとして実行するかどうか、等々だ。
「龍園くんが一之瀬さんに示唆したことで、星之宮クラスとうちのクラスには『リーダーのリタイア戦術』は共有された。
そして、龍園くんは一之瀬さんを訪ねる前に真嶋クラスと交渉を行ったことを明言している。この時点で真嶋クラスと坂上クラスにはある程度の繋がりがあるのは間違いないし、真嶋クラスが同戦術を知っていてもおかしくないことになる。
現状、両クラスにとって僕たちは『取るに足らない相手』だろうけど、今回の試験で僕たちが星之宮クラスと同盟を結んだことで無視もしきれなくなった。順当にいけば、僕たちは300近いCPを手に入れることになってしまうからだ。
それを防ぐべく、『僕たちにダメージを与える』という一点だけで両クラスが手を結んでもおかしくはない。率直に言えば、『雑魚は雑魚のままでいろ』と、そういうことだね」
平田が肩をすくめて言った。
目障りでないなら無視も出来ようが、目障りになってしまえば、その可能性があるのなら、無視もしきれない。人間心理としては何もおかしなことではなく、だからこそ、その言い分には一定の理がある。
「その場合、僕たちが得られるポイントは170か。それでも、現状に比べれば十分と言えば十分だが……。
しかし、あり得るのか? いや、確かに可能性だけなら否定できないのは認める。だが、戸塚の退学により現在の真嶋クラスと坂上クラスに大差はないんだぞ。その状況で、敢えて両クラスが旨味を共有するメリットがあるのか?
坂上クラスからの、真嶋クラスに対する物資の提供。これに限っては成立する余地はある。坂柳の強制不参加により、真嶋クラスは最初から-30のペナルティを食らっているからな。
試験の性質上、無事に一週間を乗り切ろうとすれば、ある程度物資の購入にポイントを割くのは避けられないんだ。である以上、たとえ以後のPPと交換であっても、物資を手に入れられるなら手に入れたいだろう。その点において、坂上クラスの『バカンス戦術』と噛み合わせることは可能だ。
とはいえ、リーダー当てはまた別だろう? 僕としては、むしろ『出し抜き合い』や『騙し合い』に発展する可能性の方が大きいと思うんだが?」
平田の言葉にDクラスの生徒たちが言葉を失う中、率先して口を開いたのは幸村だった。
些か感情的になりやすいのが幸村の欠点ではあるが、冷静さを失わなければ論理的な意見を述べることが可能なことが、この瞬間瞬間で証明されている。
「ま、そうだね。私たちとしても同意見よ。こと『リーダー当て』において、真嶋クラスと坂上クラスが手を組む可能性は低いと踏んでいる」
「だったらさあ、わざわざ無駄に恐怖感を煽る必要はなくない?」
「はぁ……。篠原さん、話聞いてた? 私たちはあくまで『可能性は低い』と判断しているの。『ない』と断言しているわけじゃないの。100%中の10%でも起こる可能性はあるのよ。
である以上、蔑ろに出来るわけがないじゃない。特にうちのクラスの場合、すぐに感情的になる生徒が揃っているんだから……。
私たちは『低い』と判断し、それを貴方たちに伝えぬまま、その切り捨てた確率が現実に起こった場合、貴方たちは不満を持たずにいられる? 『何で言わなかったんだよ!』とか、普通に言ってくるでしょ?
正直ね、私はそんなの御免なの。だから、こうして事前に情報共有してるの。行動と決断には『クラスの合意』を以て臨みたいのよ。
私の我儘に思う? でもね。一人一人が危機感を持って真剣に取り組まないと、いつ退学になってもおかしくないし、クラス逆転なんて夢のまた夢なのが現実なのよ。
我が事として真剣に捉えられないならそれでもいい。だけど、その場合は何があろうと文句も不満も言わないで。そう、山内くんみたいに切り捨てられたとしても……」
千秋は溜息を吐き、呆れを隠さずに言った。その矛先は当初こそ篠原だったが、グルリと見渡すことで他のクラスメイトにも向けられた。
「とにかくよ。真嶋クラスと坂上クラスがリーダー当てで手を組む可能性は低いんだろ?」
「そうね。その上で、このままだと坂上クラスに当てられて220ポイントでのクリアが現実的なところだと私たちは判断してる。ポイントだけで言えば十分と言えば十分だけど、坂上クラスが波に乗るのを止めることは出来ない」
「この試験中、俺たちは『おんぶに抱っこ』だからか?」
頭を掻きながら口を開いたのは池だった。
「ちょっと池、それってどういうことよ!?」
「ガナんなよ、篠原。……今回の試験、俺たちの現状は『星之宮クラスありき』で成り立ってるってこった。俺たちは提示された選択肢から選んだだけで、自分たちじゃあ何一つとして決めてねえし、自発的に動いてもいねえんだよ。
初日、一之瀬たちに声をかけられる前の状況を忘れたか? 燦燦と陽が射す砂浜で、木陰に移動することもなく、『300ポイント温存するべきだ!』、『ある程度のポイント利用は避けられない。最低限トイレは買うべきだ!』って、散々と言い合ってたじゃねえか。
正直、アレほど無駄な時間はねえだろ。言い合いは仕方ねえにしても、せめて木陰に移動してからするべきだろ、普通に考えて。日射病や熱中症で倒れちまったら、それこそ『ポイントの無駄遣い』だろうが。
つまり、そういったことに気が配れねえほど、当初の俺たちは余裕がなかったってこった。……さっき幸村は偉そうに言ってたけどよ、当初はお前が『温存派の最先鋒』だったことを忘れんなよ?」
池の言い分は紛うことなき正論だった。そして、初日のことを例に出されれば、誰も反論など出来るわけがない。確かに炎天下を思えば日射病や熱中症でのリタイアは普通に起こり得たのだから。
「ム……。そうだな、池の言う通りだ。今、こうして落ち着いて物を考えて意見を言えるのも、それだけ心に余裕があるからだ。そしてそれは、星之宮クラスと同盟を結んだことにより、自分たちのポイントは温存したまま物資の提供を受けることが出来たからだろう。
だがそれは、星之宮クラスがそのように提案してきたからだ。そして当時の僕には思いつきもしない考えだった。今回の試験テーマ、それぞれのクラスの置かれた状況、それらのピースを並べて冷静に考えれば十分に思い至れる内容にも、僕たちは気付けなかったんだ。あくまでも
それを指して『未熟』、『視野が狭い』と言われたら、反論する余地はない。素直に認めるしかないだろう」
言葉は冷静さを保ちながら、それでも表情にはこれでもかというほどに
「だからこそのリーダー当てでござるか。リスクとリターンを天秤にかけ、その上で尚も選択することで、自分たちに弾みを付ける。結果は二の次。今は『自分たちで選択した』という事実こそが肝要。そういうことでござるな?」
「ええ、そういうことね。その上で付け加えるとするならば、私たちは真嶋クラスのリーダーを把握している」
「おい!? そいつはマジで言ってんのか?」
「マジもマジ。大真面目。うちのクラスのとある生徒に対し、私と千秋さんがその実力を見込み、探りを頼んだ。その上で成果を持ってきてくれた。――もっとも、証言だけで証拠はないわ」
「ちなみに、誰に頼んだかは現状で言うつもりはないから。正直、現状で公表すればそれだけで反対票に流れそうだしね」
「それってつまり、クラス内での評価は低い生徒ってことよね?」
「まあ、そうだね。でも、綾小路くんや佐倉さんの例だってあるでしょ? 誰か、彼の実力に気付けてた人はいる? 彼女がグラビアアイドルの雫だってことに気付けてた人は?」
その質問には、誰も答えることは出来ない。誰もが誰も、綾小路の実力には気付けなかったからだ。愛里と雫を結び付けることは出来なかったからだ。
その二人を例に出されれば、自分たちの
「さあ、選びましょう? 誰とは言わないけれど、現状でクラス内評価の低い生徒から齎された情報を信じて、真嶋クラスのリーダー当てにチャレンジするかどうかをね」
「まあ、『リタイア戦術』を含め外れる可能性の方が大きいのは認めるわ。その上で敢えて言うならば、私と千秋さんはその人物の能力を買っているし、証言に嘘はないと判断している。だから、見事リーダーが的中した場合には、誰が情報を齎したかも公表するわ」
千秋と鈴音の言葉に、Dクラスの生徒たちはざわついた。
しかし、いつまでも困惑してはいられない。
今再び、Dクラスは『自分たちによる、自分たちのための選択』を迫られたのだった。
Dクラスに必要なのは、兎にも角にも話し合いだと思います。その上で、『自らの指針を定められるリーダー』は欠かせません。
原作だと、リーダー当てはほぼ独断専行に等しかったですからね。
『清隆の果断さ』や『平田の鷹揚さ』、『話の都合』と言ってしまえばそれまでですが、相手の『リーダー交代』を考慮に入れないのはどうかと……。
特に龍園の場合、詰めは甘いにしろ搦手を使ってるのに違いはないんですから。
篠原アンチみたくなってますが、使いやすいんですよね。
池や須藤にテコ入れした分、彼女が割を食ってるのは認めます。もっとも、原作時点で感情的な振る舞いが目立つからでもありますが。
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