ようこそ実力至上主義の教室へ ~ギフテッドとN.I.N.J.Aと……~   作:山上真

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第63話

「一之瀬、少しいいか?」

 

 特別試験四日目の夕食時、神妙な顔で帆波に問いかけたのは神崎だった。なお、声をかけたのが神崎というだけで、柴田、浜口、渡辺も一緒に神妙な表情を浮かべている。

 浜口――浜口哲也は星之宮クラスの一員で、メガネをかけた男子生徒だ。中世的な顔立ちをしており、『男性要素を感じさせない生徒』として女子からの人気も高い。協調性の高い生徒が集う星之宮クラスに初期配属されているだけあってコミュニケーション能力は高く、自己申告によると『運動は苦手だが、勉強は得意』とのこと。

 渡辺――渡辺紀仁も星之宮クラスの男子だ。やはりコミュニケーション能力は高く、自己申告によると『運動も勉強も平均よりは少し上』とのこと。

 

「神崎くんに、柴田くんに、浜口くんに渡辺くん……? どうしたの?」

「率直に言うが、就寝時、綾小路を引き取ってもらえないか? いや、是非とも頼む!」

 

 小首を傾げて帆波が問えば、神崎はそう言って頭を下げた。いや、神崎以外の三人も一斉に頭を下げている。

 

「……何故だ?」

 

 それを見て、不思議そうに口を開いたのは、話題に上げられた清隆だった。

 

「率直に言って、俺は同性愛に偏見はないつもりだ。――しかし、俺自身はノーマルなんだ。付き合うにしろ結婚するにしろ異性がいいんだ。

 そりゃあ、喜びの余りに同性同士でハグすることはあるし、その程度であれば許容している。許容できる覚悟はある。

 だがな? 寝ている最中に抱き着かれ、挙句の果てには頬にキスをされるなんてのは、流石に許容できないんだ! 相手が幼い子供であれば笑って受け流すことは出来るかもしれないが、綾小路の場合、幼いのは感性だけで、ガタイは立派な同年代なんだよ! 受け流すには無理があるんだよ!」

「神崎なりに綾小路に注意はしたし、怒りもした。けどな、対して効果がないんだよ! 初日は神崎、二日目は柴田、三日目は浜口だった。この調子で行けば、今日は俺であっても不思議はないんだよ! いつ野郎に唇を奪われても不思議はないんだよ!

 正直に言って、綾小路と同じテントじゃあ精神的安寧が得られないんだ! 特に寝床が区切られてるわけじゃないから尚更だ! だから頼む! 一之瀬、『お母さん役』として綾小路を引き取ってくれ!」

 

 神崎と渡辺の、心からの叫びだった。見れば、柴田も浜口も震えている。見事なまでのキャラ崩壊だった。

 

「清隆くん、神崎くんたちに抱き着いてキスしたの?」

「したが、それほどおかしなことか? オレにしてみれば、『母親役』が帆波なら『父親役』は神崎だ。少なくとも、()()()()()()()()()()()()()()()()よりは、神崎の方が余程いい。柴田たちは兄弟枠だな。

 だから、オレなりに親愛の情を表してみたんだが……」

 

 帆波の問いに、清隆は不思議そうに答えた。

 

「だ、そうだけど?」

「綾小路、お前のその気持ちは嬉しい。嬉しいが、少なくとも今のところ、俺たちはお前のことを『子供』や『兄弟』として見ることは出来ないんだ。『友人』としか見れないんだ。

 そして、友人同士でキスすることなんぞそうはない。柴田風に言えば、サッカーの一大大会で優勝するくらいは必要だろう。普段からキスなんてしないんだ」

 

 神崎は清隆の両肩に手を置き、嘆願するように言った。

 

「むぅ、そういうものか……」

 

 元々が齢に似合わぬ『無垢なる感性』を持つが故の落とし穴だった。ある程度感性が育ったなら、その程度の『愛情表現』をしてもおかしくはない。幼い子供が親しみを覚える親兄妹にキスをすることなんて、おかしくもないのだから。

 異性ならばその点を甘く見ることも出来ようが、同性ならばその限りではない。普通に考えて、中々受け入れられる筈もないのは道理だ。

 そこら辺の機微を、清隆は理解しきれていない。――正確に言うと、理屈としては理解できているのだが、感情に押し流されていた。感情を持て余していた。

 

「分かった。じゃあ、清隆くんは私の方で引き取るよ。――今夜からは私と一緒に寝ようね~、清隆くん」

 

 帆波はキリッとした表情で神崎たちに告げたかと思いきや、次の瞬間には締まりのない笑顔で清隆に告げていた。まるっきり『年下の子供』扱いである。

 

「分かった」

「待ってください!」

 

 清隆が頷くのと、ひよりが叫んだのは同時だった。

 

「私だって清隆くんと一緒に寝たいです! 帆波さんだけに独占はさせません!」

「そーだそーだ! 独占反対! 私だってガタイと感性のギャップにやられてるってーの!」

 

 流石は『綾小路ハーレム』の一員ということか。ひよりと麻耶は真っ向から反対意見を口にした。

 

「じゃあ、清隆くんと一緒のテントでも構わない人は挙手してください。その結果を受けて、テントの人員振り分けを変更します」

 

 二人の剣幕に対し、帆波は慌てることなく口を開いた。そして、それは当然の提案でもあった。

 多人数用のテント暮らしな以上、帆波が清隆を受け入れれば巻き添えを食う女子がいるのだ。誰も彼もが男子の清隆を受け入れられるわけがない。

 かと言って、清隆を引き取らないのも悪手だ。神崎たちは精神的にだいぶ追い詰められている。このままではリタイアすることになりかねない。ポイント的な痛手はないが、マンパワー的な意味での痛手は大きいのだ。

 シュパパパ……! 帆波の提案に対し、一部は機敏に手を挙げた。

 八人用のテントで清隆と帆波が確定な以上、残りの枠は六つ。そのうちの二つは真っ先に反論したひよりと麻耶がゲットした。

 残りの枠は四つ。公平を期すならば、星之宮クラスから一人、茶柱クラスから三人が望ましい。

 

「んじゃ、うちのクラスからは~、長谷部さんと堀北さんと王さん……どう? 清隆くんと一緒のテントで寝てみない?」

 

 麻耶は顎に人差し指を当てながら自クラスの生徒たちを見渡し、凸凹三人娘に声をかけた。

 

「んえ、私……?」

「私ですかぁ!?」

「まあ、構わないけど……」

「理由もあるよ。清隆くんは年齢とガタイに反して、その感性は『幼い子供』なの。つまり、『癒し』が必要なのよ!

 端的に言うと、長谷部さんの人選理由はおっぱいで、王さんは雰囲気。堀北さんは新しくスカウトされたからだね!」

 

 悪びれもせずに麻耶は言ってのけた。

 

「おっぱいって……」

「いや、本当に。清隆くん、前にスカウトしたい人物を挙げたことがあるんだけど、そこに長谷部さんも入ってたから。付け加えると、帆波ちゃんも櫛田さんも佐倉さんも。

 ほら、よく『巨乳は母性の象徴』って言われるじゃない? つまり、それだけ清隆くんは愛情に飢えてるんだよ! ただ、今のところ『おっぱい枠』は帆波ちゃんしかいないから……」

「だから私に加われと?」

「うん。清隆くん、『輪の外側』には徹底してドライだけど、『輪の内側』にはそこまででもないし。今は感情が育ち始めたこともあって割と緩めになってるし。基本的に高スペックだから、お近付きになっておいて損はないよ? 勉強だって教えてもらえるし、分かりやすいし。

 長谷部さん、ただでさえ教室内だと孤立気味だし、勉強だって苦労してるでしょ?」

「まあ、確かにね……。分かった。私にもメリットがないわけじゃないし、引き受けるよ」

 

 暫し悩んだ末、波瑠加は麻耶の誘いに頷いた。

 麻耶の言う通り、波瑠加は教室内だと孤立気味だ。本人が一匹狼タイプであり、一人でいるのを苦にしてはいないが、それはあくまでも精神的なものだ。勉強面になると話は違う。だからこそ、そこを突かれると弱かった。

 

「雰囲気というのは?」

「そのまんま。清隆くん、前に王さんのことを『癒しを感じる』って言ってたし」

「そうですか、綾小路くんがそんなことを……。分かりました。私もお誘いに乗らせていただきます」

 

 正直に言えば、美雨にとってもいい機会だった。

 今現在、美雨は二人の男子に惹かれていた。

 一人は同じクラスの平田洋介である。美雨にとっては大きな、平田にとっては些細な出来事で想いを寄せることになった。しかしその時点で、平田には既に軽井沢恵という彼女がいた。

 後に恵本人の口から偽装関係であることを告げられたが、それは美雨に一つの楔を打ち込むことになった。偽装関係を受け入れる優しさを平田らしいと感じる一方で、仮に自分が告白して受け入れたもらった場合、平田が自分を大切にしてくれるかどうか、疑念を抱かざるを得なくなったのだ。

 そもそもにして、平田に受け入れてもらうには、前提として平田と恵の偽装関係が解消される必要がある。恋人関係の二人に横から乗り込めば、悪口雑言は避けられない。

 そして、そこまでするほどの想いを平田に抱いているかというと、美雨自身首を傾げざるを得なかった。本気も本気ならば、こんな風に考えるまでもなく行動に移している筈だからだ。

 逆説、こうしてワンクッション置いて()()()()()()()()()()()()()()が、『恋に恋している』証左とも言えた。

 一方の清隆は、人間性自体は平田に遠く及ばない。非常に合理的であり、ある種の機械性も感じた。――けれど、不器用ながらも確かな優しさを感じたのも事実なのだ。

 その後、清隆は女性陣に求められるままにハーレムを形成した。普通に考えると『女の敵』そのものな行動だが、ハーレムと言っても、そこには確かな目的が存在した。その目的も、ある意味では立派と言える。

 少子化問題は、長年に亘って日本を取り巻いている。だからこそ、その解決策の一環として『複数婚の樹立』を目指す。余りにもぶっ飛んでいるが、少子化問題の解決策としては、決して否定できるものではない。

 そして、本人が将来的に政界へ進出してそれを掲げるに当たり、説得力を増すためにハーレムを形成している。本人自身、『沢山の子供や孫に看取られて逝きたい』という目的があるらしく、ハーレムに受け身なだけではない。

 だからこそ、決して独占は出来ないにせよ、清隆は美雨に対して『確かな想い』を返してくれる可能性が大きい。

 女の子にとって、恋愛とは一種の戦いなのだ。この齢になって夢ばかり見てもいられない。

 そして難儀なことに、感情は平田を、理性は清隆を選んでいるのが現在の美雨なのだ。これに決着を付けようとするならば、美雨の方からも何らかのアクションを起こす必要があるのは否めないのである。

 

「で、私は消去法ってわけね」

「まあ、そんな感じ。付け加えると、如何に清隆くんが認めても、先人としては堀北さんをチェックしないわけにはいかないからね」

 

 鈴音は、清隆本人が直近で誘った人物だ。

 ハーレムの一員として清隆の意向を無視する気はないが、ハーレムの一員だからこそ、麻耶が鈴音の為人をチェックしようとするのはある意味で当然だった。

 そして鈴音自身、それに対して否定する気はない。

 こうして、茶柱クラスからの人選は決まった。

 残るは、星之宮クラスからの一枠のみ。ここが思いの外に紛糾していた。

 

「麻子、参加すれば?」

「麻子ちゃん、どう?」

「麻子さん、どうですか?」

「お試しにはちょうどいいと思いますよ?」

 

 日中のことを思い出した女性陣――桔梗、帆波、ひより、千尋が、これ幸いと麻子に誘いをかけているのだ。

 麻子自身、昼間は恥ずかしがってしまったが、ハーレムへの参加を口に出したくらいには前向きだったのも否めない事実である。

 また、清隆一人に対し女性陣は七人である。人数差を鑑みれば、確かにその分だけ安全であると言えるし、『お試し』に丁度いいのも事実であった。

 

「う~、分かったわよ! 女は度胸! 私も参加する!」

 

 こうして、麻子も参加することが決まった。

 清隆、帆波、麻子、ひより、麻耶、波瑠加、鈴音、美雨という、男女混合、異色の組み合わせでの同一テントである。

 

「お前らなぁ……。食事中に教師の前で大々的に話し合うことか!?」

 

 もっとも、状況が状況である。呆れ混じりに佐枝が叱責するのは、ある意味で当然と言えば当然であった。

 そして、当然と言うべきか知恵が宥めに入った。

 

「まあまあ、佐枝ちゃん。いや、確かに『一般的な男女』で考えれば問題であることに違いはないんだけどね。如何せん、綾小路くんの感性と言うか、感情の未熟さについては理事長も認めてるのよ。

 ぶっちゃけ、『未だかつて学校に通ったことがない』なんて言ってるのを耳にすれば、担任としては確認しないわけにはいかなかったしね。

 結果、理事長のゴリ押しがあったから、綾小路くんが入学を認められた部分があるのが分かったわ」

「理事長が? ……いや、そうか。そうだな。確かに、理事長には元から綾小路を知っているような雰囲気があった」

「だからね。そうまでして理事長が綾小路くんを入学させた理由を考えるとね……」

「能力的には大変優れている綾小路をわざわざDクラスに初期配置したのは、『感情面の発達』を期待してのこと。

 確かに。そう考えれば一概に止めていいのか判断に迷うところではあるな。常識的に考えれば間違いなく止めるべきところだが、これも一種の『荒療治』か……」

 

 知恵と佐枝の間でそんな会話が行われ、二人もまた『消極的賛成』とせざるを得なかった。悲しきは宮仕えである。時には『一般常識』よりも『上層部の意向』を持ち上げなければならない時もあるのだ。

 

「お前たちが一緒のテントで寝るのを止めはせんが、くれぐれも節度は守れよ?」

「アバンチュールに挑戦してもいいけど、くれぐれも私たちにバレないようにね?」

 

 二人の女教師は、全く正反対の言葉を清隆たちに送るのだった。




同性と異性の『感性の違い』だったり、教師・大人としての『ジレンマ』だったりを書いてみました。

海外に行けば挨拶代わりに『ハグ』や『キス』をする国もありますが、日本はそれほどでもないですからね。
『一般常識』による異性関係への縛りが強く、欲求不満が高まるからこその『HENTAI文化』があるというか……。
『許容された範囲内』での『リビドー放出』に躊躇いがないというか……。
それが『日本』という国が持つ一面なのは否定できないと思います。

そんな下地がある中で、ガタイは立派な男子高校生、精神性は漸く『幼い子供に至った』レベルなのが本作における清隆ですからね。
そりゃあ、周りは扱い方・接し方に困るでしょう。
いや、普段の清隆は『感性の幼さを覆い尽くすレベルで理性が高い』ためにある程度誤魔化しや擬態も利きますけどね。

神崎たちも話としては理解しているつもりでしたが、一緒のテントで過ごすことで危機感が高まりました。
少なくとも、試験中のテントにはポイントで購入しない限り、ベッドや布団なんかの『境界』はないと思いますし。
暑苦しいな……? と思って目を覚ましたら、同級生の男子が『寝ぼけながら自分に抱き着いて頬にキスをかましている』わけですからね。
された方にしてみれば、困惑やら恐怖やら怒りやらが湧き上がって然りです。
注意すれば、抱き着く対象こそ毎回変わるものの、それが連日続くことに変わりはないわけです。される方が耐えられなくなっても不思議はありません。

知恵や佐枝も対応に困ります。
普通に考えれば、『教師の前で何を話してやがる!』からの『わがまま言うな!』で終わりになりかねませんが、元担任と現担任だからこそ、清隆の『特異性』の一部を理事長から伝えられています。
挙句に、茶柱クラスと星之宮クラスは一緒に行動をしていますからね。既にポイントを使い切った星之宮クラスの生徒である神崎らがリタイアする分には『ポイントに変動がない』=『試験に影響は出ない』と捉えることが可能だとしても、上記の事情から『マンパワーの低下』が茶柱クラスに影響を齎す可能性は否定できません。それがリタイアに繋がる可能性もまた。
教師・大人としては止めるべき。だけど、止めてしまったら試験に影響が出かねない。推測に過ぎませんが、そこに『理事長の意向』も加わります。
結果、二人が選んだのは『生徒の自主性に任せた黙認』です。無論、教師として最低限の注意はしましたが、それだけです。
その『注意』の方向性にも、佐枝と知恵のスタンスの違いを出してみました。
本作においては、生徒に対して『学生』であることを求める向きが強いのが佐枝、『個人』であることを求める向きが強いのが知恵です。
過去の一件が起因しているのは間違いなく、それに対する二人の捉え方・考え方の違いでもあります。

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