ようこそ実力至上主義の教室へ ~ギフテッドとN.I.N.J.Aと……~   作:山上真

64 / 66
第64話

「これは罠だよ!」

 

 特別試験四日目の夜。

 テントの中に入り、()()()()()という段になって叫んだのは麻耶だった。

 当然、何だ? 何だ? と視線が集まる。特に、麻子、波瑠加、鈴音、美雨の向ける視線は怪訝な空気が顕著だった。

 まあ、清隆との添い寝が初めてどころか、()()()()()()()()()()()()自体に慣れていないだろうことを踏まえれば無理もない。

 

「ホナミンもひよりんも気付いてたでしょ!? 気付いてて黙ってたんだ! 私に教えなかったんだ!」

 

 自分に向けられる視線を意に介することなく、麻耶は帆波とひよりへ吠えた。

 

「佐藤さん、寝る前に五月蠅いのだけど。一体何ごと?」

「あ、ゴメン」

 

 鈴音に注意されれば、麻耶は素直に謝った。多少の校則違反をしたりはするが、基本的に根は素直な少女である。

 

「今日は試験四日目じゃん。で、試験は七日目の正午に終わるじゃん。それで、この場には清隆くんを含めて八人がいます。

 各クラスから一日に一人ずつ清隆くんと添い寝するとして、うちのクラスは一人余る計算になるんだよ! 人選的に、その余り者は私なんだよ! 叫ばずにはいられないよ!」

 

 そもそもが帆波による清隆の独占を阻止しようとしての措置であることを踏まえれば、一日ごとのローテーションを組むのは道理。しかし、今日を含めて夜は三回しかない。清隆の左右に一人ずつ並ぶとすれば、どう足掻いても六人が限度なのだ。

 そして麻耶にしてみれば、未だ清隆との添い寝経験のない波瑠加、鈴音、美雨を優先させるのは道理だった。嫌がらせでも何でもなく、Dクラスが『Aクラスでの卒業』を目指す上で()()()()()()()()なのだ。

 よく言われることだが、『上質であればあるほど得られるものも大きい』とされる。それは人間関係もまた然り。そして人間関係だけに留まらない。

 綾小路清隆という男子は、率直に言って『規格外』だ。『バグ』と言ってもいい。『一般的な高校生』の枠にはどう足掻いても当て嵌まらない。

 まあ、この学校自体にそんな生徒は割かしいるものだが、その中でも清隆は上澄みと言えるだろう。

 だからこそ、そういった人物と触れ合うことで得られる経験値は大きい。当たり障りのない関係ならそれほどでもないが、親密であればあるほど影響を受けずにはいられないのが道理というもの。

 学校側もある程度考慮しているようで、どのクラスにも最低限一人はそういった生徒が初期配属されている。そして、そんな貴重な生徒の一人を、Dクラスはウマウマと星之宮クラスに掻っ攫われてしまったのだ。

 他にも、『現役グラビアアイドル』という付加価値の高い佐倉愛里もDクラスから星之宮クラスへと移籍している。愛里はビジュアル特化型であり、学力や身体能力はそれほどでもないようだが、そのビジュアルだけでもお釣りがくるほどの戦力だ。こちらの移籍に関しては本人の意思は関係なく、自分たちの自業自得な面が強いからこそ尚更後悔の念が強い。

 更に言えば、山内春樹も退学になっている。戦力としては期待できないが、それでも人手が減ったことに間違いはない。

 つまり、既に都合三人がDクラスからいなくなっているのだ。そして、そのうちの二人は『有力戦力』として機能し得る人材であり、揃って星之宮クラスに移っているのがまた痛い。

 まあ、二人が二人ともDクラスに在籍していた頃は擬態していたのも事実であり、である以上、移籍していなかったとして、二人をDクラスが上手く活用できていたかと言われると疑問が残るのは確かだが、可能性そのものがなくなったことに間違いはない。

 こうなった以上、Dクラスに出来ることは、その事実を受け入れた上での『最善手』を模索することである。幸いにして、清隆は移籍こそしたもののDクラスに対する興味関心は強い。そして、いわゆる『有力生徒』に分類される者の中で、清隆ほどDクラスに対して興味関心を向ける者は他にいない。

 ならば、その強みを生かさない道理はない。同時、窓口が広くなれば広くなるほど、その恩恵もそれだけ多く受け取れるというもの。

 その観点で言えば、ここは麻耶の我欲を抑えるべき場面だった。波瑠加、鈴音、美雨という、新たな清隆との窓口を用意するべき場面だった。『Aクラスでの卒業』を最優先に考えるなら、それが最善手と言えた。

 実行したところで目標が叶う保証がないのは事実だが、努力せずして叶う筈がないのも道理である。

 だから、麻耶としては波瑠加、鈴音、美雨の三人を優先して清隆と添い寝させることに不満はない。

 不満があるとすれば、自分は我慢しなくてはならないのに、自分以上に清隆と添い寝している帆波とひよりが悠々と添い寝権を得ていることだ。コレばかりは麻耶としても許せることではなかった。

 そんな感じのことを麻耶が口にすれば――

 

「ただの色ボケ発言じゃなかったんだ……」

 

 と、そんな感想が波瑠加の口から上がった。

 

「色ボケじゃないよ! いや、そう見られても仕方のないことは認めるけど、私なりにクラスのことも考えてるよ!」

 

 プンスカ、プンスカ。両手を振り回しながら麻耶は言った。

 

「『Aクラスでの卒業を目指す』ったって、意気込みだけでどうしろってのさ!? 今回みたいに試験で高ポイントを得ることが出来たって、地力が足りなきゃ普段の評価で下がる一方だよ! 採点基準がいつまでも甘い筈はないし、授業態度だけ真面目にしたって、肝心の内容が理解できてなきゃマイナス食らって然りだよ! むしろ、ヘタに外面だけ取り繕う分、余計に評価が下がったっておかしくないよ!

 結局のところ、一人一人の地力を上げるしかないんだよ! そうやって実力を上げてった人たちが中心となって、周囲の成長を促す! それがこの学校の最適解!

 でも、特に私たちの場合、自分たちだけじゃ不可能でしょ!? 最初の一歩で躓くでしょ!? 自分たちで出来ないなら、他の人に面倒を見てもらうしかないじゃん!

 その点で、清隆くんほど打ってつけの人はいないんだよ! 勉強面はひたすらに理屈に特化しているから、時間と本人の努力で分からないところは埋められる。『ここが分からないのはコレが分からないからだ』って感じで、清隆くんは原因潰しまでしてくれるんだよ! 正直、そこらの教師よりよっぽど教師してるよ!

 その一方で、清隆くんはそんなズバ抜けた能力持ってるのに感情面が未成熟だから、『私たちを教材にすること』そのものが清隆くんのメリットになる!

 同時、感情面が未発達だから、こっちがどれだけ出来が悪くても決して不満を表すことはないんだよ! 教わる身として、これほどありがたいことはないよ!」

 

 ゼーハー、ゼーハー。勢いのままに捲し立てた麻耶は息を切らせた。

 麻耶の意見に全面的な同意は出来ずとも、大半が的を射ているのは事実だった。

 学校の謳い文句が謳い文句な以上、甘い目論見は自身の足を掬うことになりかねない。その上で対処可能な能力を持っているならまだしも、ことDクラスの生徒に対してそれを求めるのは高望みが過ぎる。

 そのくせに、人材難のDクラスでは自習すら覚束ないのが現実。学力の高い生徒が勉強を教えようにも、Dクラス内で最上級に学力が高い鈴音や幸村は沸点が低い。相手に求める基準が高くなってしまうが故に、馬鹿の相手には向かないのだ。そして、Dクラスには殊の外馬鹿が多いのである。

 

「そう言われれば否定はできないわね。少し前まで須藤くんと外村くんの勉強を面倒見ていたけれど、それでも許容範囲としてはギリギリだったから。

 桔梗さんやアズさんに面倒見たもらった上でのそれだから、最初から私が見ていればすぐに切り捨てていたでしょうね……。

 その時につくづく実感したわ。『学力が高いこと』と『教師役が出来ること』はイコールにならないってね……」

 

 顔に手を置きつつ、溜息を吐いてそう言ったのは鈴音だった。

 

「まあ、そうですね。いえ、本人なりに真面目に勉強を頑張ってるつもりなんでしょうけど、私としてはそんな風に受け止められないと言うか……。『いや、そんなこと気にしてる余裕あります!?』って何度言いそうになったことか……」

 

 美雨も苦笑しつつ同意した。

 

「でしょ!? 勉強に対するスタンス一つとっても、クラス内の上位勢と下位勢じゃそんだけの違いがあるのよ!

 ハッキリ言って下位勢には危機感が足りてない! にも拘らず、文句や不満だけは一人前! 認めたくはないけど、それがうちのクラスの実態なのよ!

 そっからクラス評価を押し上げるって、正直言って至難の業だよ? 到底綺麗事だけで行く筈もないでしょ? それを覆せる可能性が生まれるんだから、添い寝の一つくらい安いもんでしょ。

 特にうちのクラスの場合、目標を高く持って死ぬ気で努力しないと、いつ退学になってもおかしくないんだからさ」

「退学……か」

 

 麻耶の言葉を受け、波瑠加がポツリと呟いた。

 その脳内に浮かぶのは、当然ながら山内である。波瑠加は一遍の躊躇もなく山内の退学に賛成票を入れた。そこについては微塵の後悔もない。

 

「佐藤さんに言わせれば、私も山内くんと大差ないってこと?」

「言葉を飾らずに言えば。もちろん、長谷部さんだけじゃないよ。私だって恵ちゃんだって、それこそ『三バカ』で一括りにされてた池くんと須藤くんだって大差ない。

 山内のくんの退学は、言ってしまえば『底辺の中の底辺』が学力試験で引っ掛かっただけ。学力面では私たちも底辺であるのに変わりはないのに、どこに喜べる要素があるの? どこに安堵できる要素があるの? ――ないでしょ。それで安堵できるのなんて、優に平均を超える学力を持ってる生徒だけだよ」

「……真理だね。私たちがするべきは、退学を免れたことへの安堵じゃなく、『次は自分が退学になるんじゃないか?』って危機感を持って対策を図ることってわけだ」

「そう。退学したくないのなら、危機感を持って相応の行動をするべきなんだよ。幸い、この学校は『グレーゾーン』を許容している。ポイントがあればコンドームやピルだってそこらのコンビニや薬局で普通に買えるんだから、極論すればセックスだって許容してるんだよ」

「それは……流石に言いすぎじゃない? いくら何でもセックスを黙認するってのは……」

 

 口を挿んだのは麻子だった。その表情は見るからに困惑を浮かべている。

 

「してるよ。――と言うより、この学校が真にその謳い文句を実行するつもりならせざるを得ないね」

 

 だが、そんな麻子の言葉を一刀両断したのは友人である帆波だった。

 

「麻子ちゃんは『美人局』って言葉を聞いたことはない? 端的に言えば『異性関係を利用して金銭を脅し取る行為』を指すんだけど……」

「あ~、聞いたことはあるかも……?」

「美人局じゃなくても、水商売の可能性もありますね。『貢ぐ君』という言葉を聞いたことは?」

「たしか、『金品やプレゼントを貢ぐことで女性の気を惹こうとする男性』……だっけ?」

「そうですね。こちらは既に『死語』となっているそうですが、単に指し示す言葉が変わっただけで、そのような行為をする人自体がいなくなったわけではありません。

 貢がれることで気分を良くして、口外禁止の情報を落とす。商売女性や商売男性に夢中になる余り、己が身の丈を超えて貢いでしまう。……これらは、決してあり得ないことではないんですよ。

 だからこそ、それらの『予行演習』には確かな()()()()があります。基本、ポイントは学校の敷地内でないと使えませんし、手持ちがゼロになっても最低限の生活は送れますからね。それによって身を持ち崩してしまっても、最悪は『退学』で済みます」

「美人局だってまた然り。さっきは金銭を例に挙げたけど、『情報』に代わることだって珍しくはないし。分かりやすいところで『産業スパイ』」

「産業スパイ――企業や組織の機密情報を不正に入手し、競争上の優位を得るための諜報活動を指す。

 古来から続く由緒正しい方法よね。言ってしまえば忍者の仕事の一つでもあるし。

 でもそうか。特別試験の内容次第では、それらが使われる可能性は否定できないわけか……」

 

 深刻そうに呟いたのは鈴音である。

 

「それは流石に無理がない?」

「そうかしら? 確かに特別試験それだけだと難しいかもしれない。だけど、いざその時のために、普段からターゲットとお近付きになっていたとしたらどうかしら? 人道的に言えば卑怯卑劣極まりない行動ではあるけれど、効果的なのは確かよ。

 そして、この学校はとかく『実力』を重視する。気付けなかった方が、警戒心の足りなかった方が悪い。そういう結論に持っていかれる可能性だってなくはないわよ? その結果として退学になったとしても、所詮は学校の用意した『授業』なんだから」

「……それって、ありなの?」

「さあ? あくまでも現時点で分かってることからの推測でしかないもの。

 ただ、仮にセックスしていたとしても、妊娠や証拠映像などの明確な根拠でもない限り、処罰されることはないでしょうね。『疑わしきは罰せず』よ。

 その分、根拠がある場合には容赦もないでしょうけどね。『そんな簡単に証拠を掴ませる未熟者に用はない』……と、言葉にすればこんなところかしらね」

 

 分かりやすく顔を顰める麻子に対し、鈴音は肩をすくめて答えた。

 

「でもまあ、可能性としては捨てきれないよね。だから、その点でもハーレムは効果的だよ。スパイだって、他の相手に入れ上げてる人物をすき好んで狙うとは思えないしね」

「他に沢山の女がいるような男に熱を上げる『バカ女』の看板を被る代わりに、自衛手段として利用しろって?」

「端的に言えばね。もっとも、『英雄、色を好む』の例もある。清隆くんが実績を出せば出すほど、口さがない悪評は意味をなさなくなっていくだろうね。

 むしろ、清隆くんを選んだ、清隆くんに選ばれた、その点を以て評価は上がっていくと思うよ?」

 

 その後も何やかんやと盛り上がり、そうこうしている内に麻耶の不満も沈静化されたのだった。




本作の池、恵、麻耶、千秋はゴールデンウィークからほぼ連日清隆による教導を受けていますので、流石に原作ほど能天気ではありません。
千秋を除けば初期能力が『底辺中の底辺』だったので、学力や身体能力といった基礎能力は今でも『底辺~平均』レベルです。
池はN.I.N.J.A細胞を活性化させることによりある程度の底上げが可能ですが、基本的にはこんなものです。
あくまでも底辺連中を優先したカリキュラムだったこともあり、そこら辺が元から優れていた千秋の場合、そういった面での成長は然程ありません。していないわけではありませんが、他三人に比べると非常に緩やかです。

ただ、清隆が麻耶たちから『感情の発露』的な方向で影響を受けている一方で、麻耶たちは清隆から『感情の抑制』、『合理的思考』といった影響を受けています。
そのため、着実にステップアップはしています。そこに関しては千秋も同様ですね。
反面、『清隆ありき』であることに違いはないので、容易く離れられなくなってもいます。

前回から今回に関し、波瑠加に対しての行いなんて『詐術』や『洗脳術』と大差ありません。
言ってみれば、麻耶は危機感を煽って目的とする『着地点』へ誘導し、波瑠加は疑問を覚えつつも危機感が勝った結果、それに従ってしまったわけです。
麻耶の行いを端的に言えば、『身体で清隆を繋ぎ留めろ』と波瑠加に指示したに等しいです。
そして当の波瑠加は、それを認識しているにも拘らず、『退学』という別の危機感に意識が向いてしまい、『身体の危機』には然程意識が向いていない状態です。
まあ、そういう風に誘導されたわけですが……。
でなければ、流石に『同い年の異性との添い寝』なんて波瑠加も簡単には許容しないでしょう。

なお、これらの行いに対し、麻耶はこれっぽっちも罪悪感を抱いていません。自分が底辺スタートだったことも一因ですが、心底から『波瑠加のためになる、波瑠加の成長に繋がる』と思っています。善意100%です。
『クラスの一員ならクラスのために努力しろ。身体を張れ』という考えがあるのは否定しませんが、それも『Aクラスの卒業』及び『クラス逆転』という目標と結び付いているからこそです。

当然ですが、『セックス云々の許容』はオリ設定です。R-18版との兼ね合いもあります。
ただまあ、作中で語ったように『艶事』への対処法云々を鑑みれば、決しておかしくはないかな……と。

感想・評価お願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。