ようこそ実力至上主義の教室へ ~ギフテッドとN.I.N.J.Aと……~   作:山上真

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第67話:綾小路ハーレムは、船内スパを満喫する。

 無人島特別試験は、ある意味で『大番狂わせ』に終わった。

 第四位――星之宮(A)クラス。獲得ポイント:ゼロ。

 第三位――真嶋(B)クラス。獲得ポイント:ゼロ。

 第二位――坂上(C)クラス。獲得ポイント:150

 第一位――茶柱(D)クラス。獲得ポイント:270

 蓋を開ければ、現在のクラス評価を真っ向から覆す戦績だったのだから仕方ない。

 未だCPとして反映されてはいないが、夏休み明けにCPが反映されれば一部にクラス変動が起こる。

 星之宮クラスは千越えをキープしてAのまま。

 現在のBクラスである真嶋クラスはCへと落ち、逆に現在のCクラスである坂上クラスがBへと上がる。しかし、真嶋クラスのポイントは六百台後半、坂上クラスのポイントは七百台前半と、いつ再度の逆転が起こってもおかしくはない。

 茶柱クラスはDのままでCPも漸く270だが、大きく弾みを付けたのは間違いないだろう。

 

 ♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢

 

「お帰りなさい、皆さん。試験、お疲れさまでした」

 

 船に戻った生徒たちを涼やかな声が出迎えた。視線を向ければ、そこには杖を突いた少女が一人。真嶋クラスの坂柳有栖だった。

 

「試験結果についてはこちらにも伝わっておりますが、詳細確認は後にいたしましょう。まずは疲れを癒しがてら、それぞれなりに意見を纏めておいてください」

 

 試験には参加できなかったが、それでも有栖は真嶋クラスのリーダーである。その言葉には、クラスメイトに対する労わりと共に、有無を言わさぬ()()()が込められていた。

 

「了解した、坂柳。流石にこちらも疲れている。お言葉に甘え、報告は後にさせてもらう」

 

 葛城が真っ先に答えてその場を後にする。彼の派閥員と思しき面々もそれに続いていった。

 

「では私たちも。現状の我がクラスのリーダーである坂柳有栖がそう言うのであれば、この状況で敢えて歯向かう理由もありませんのでね」

 

 女生徒の一人がそう言って歩き出せば、それに続くように歩き出す生徒たち。

 それでも、まだ残っている生徒たちの姿があった。

 

「どうしました? 皆さんも自由にしていただいて構いませんよ。――ああ。ただし、真澄さんだけは残ってくださいね。私の補佐をお願いします」

 

 残った生徒を不思議そうに見渡した有栖は、うちの一人――神室真澄に向かって声をかけた。

 

「はいはい、了解」

 

 諦めたように真澄が頷くと、漸く他の生徒たち――坂柳派も歩き出した。

 

「それでは、私もこれで失礼させていただきますね――と、言いたいところですが……」

 

 その場にいた、同じく試験上がりの他クラスの生徒たちに一礼した有栖は、しかしその場を去るのではなく、とあるクラスへとゆっくりと近づいていった。

 そして――

 

「ああ、清隆くん! 一週間も貴方に逢えず! 姿も見れず! 声も聴けず! 私にとってはまさしく()()()()()()一週間でした!」

 

 ガバリと清隆に抱き着いて、そんなことを宣った。ばかりか、清隆に密着したままスーハスーハーと呼吸をし、クンカクンカと匂いを嗅ぐ。――有体に言って、『変態』の姿がそこにはあった。

 

「ブッハハハハ……! おいおい、どうしたよ坂柳。真嶋クラスの天才少女は、いつから色ボケ女にクラスチェンジしたんだ?」

 

 それを見た大多数が唖然とする中、指を指して爆笑する人物が一人。龍園翔だった。

 

「何かおかしいですか? 乙女心が初恋を拗らせれば、この程度は普通だと思いますけど? ――まあ、私自身、『恋』と自覚したのはこの学校に入ってからですが……。

 七歳の時に清隆くんに一目惚れし、そこから一切出逢うこともなかったんですよ? それがこの学校に入ったことで面識を持てたんです。距離を詰めようとするのは当然だと思いませんか?

 しかも、相手はハーレムを形成中なんですよ。単にお行儀良く接しただけでは埋没して終わりではないですか。それに何の意味があるんです? 体裁などどうでもいいのです。まずは自分を印象付けることが出来なければ、勝負の土台に上がることすら出来ません!」

 

 清隆に抱き着いたまま、それでも顔だけは龍園の方を向いて有栖は力強く言った。

 

「いや、まあ、一理あるのは認めるんだけどね。こんなのが私たちのクラスリーダーってところには、流石に思うところがあるかなと……」

 

 一方、真澄は片手で顔を覆い、ガックリと肩を落としながらそんなことを言う。

 それでも、もう片手にはシッカリと有栖の杖を握っている辺り、人の好さが表れていた。普通なら、羞恥心に負けてこの場を去っていてもおかしくはないのだから。

 

「ということで、清隆くんもお疲れでしょうし、一緒に寝ましょう! 清隆くんは疲れを癒せる。私は一週間分の『清隆くん成分』を補充できる。まさに一石二鳥です」

「ちょおぉぉぉっと待ったあああぁぁ……っ! 清隆くんとの添い寝は私が先約だよ! 独り占めはさせないよ!」

 

 清隆の腕に抱き着きながら麻耶が言う。結局、試験中は添い寝が出来なかったため、その分も不満が溜まっていた。

 

「貴方は……たしか佐藤麻耶さんでしたか。まあ、仕方ないでしょうね。独占は諦めましょう。――元より独占する気もありませんでしたが……」

「寝るのは確定なのか? オレとしては、先にスパにでも行ってゆっくりと汗を流したいんだが……」

 

 女子二人のやり取りを余所に、清隆がボソリと呟く。

 一週間という試験の間、シャワーが精々だったのだ。それを思えば、風呂への欲求が強まっても不思議はなかった。

 

「では、先にスパへ行きましょうか」

「賛成~!」

 

 この場の誰しもが風呂への欲求をそれなりに持っていたこともあり、まずはスパへと向かうことになったのだった。

 なお、勢いに呑まれた一部生徒たちはスパへの欲求を諦めて自室の風呂で我慢することにしたらしいが、そんなのは清隆たちの知るところではなかった。

 

 ♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢

 

 流石は豪華客船と言うべきか。船上の施設にも拘らず、そのスパは大した設備であった。

 一般に、スパは『入浴・休憩・美容・リラクゼーションを組み合わせて過ごす施設の総称』とされる。風呂だけではなく、それらに関わる機能を兼ね備えているからこその『スパ』なのだ。

 男湯と女湯に分かれているのは勿論のこと、水着や湯着を着用の上で混浴も許可されている。サウナもあれば岩盤浴もある。機械式と人力のマッサージもある。汗を掻いた体を休めるための休憩スペースも、男、女、混浴の各所に用意されている。

 

「いいですか、清隆くん。全身を洗い流したら忘れずに混浴に来てくださいね?」

 

 有栖のみならず、女子の大半にニッコリ笑顔を向けられれば、清隆に断る術はなかった。むしろ、男湯までは同行していた神崎や柴田がその圧に屈した。

 

「ほら、女子が待ってるぞ。おとなしく行ってこい」

 

 こんなものである。

 家族とも認識している友人に見送られ、清隆は釈然としない気持ちを覚えながらも混浴に向かった。

 なお、混浴への道中には無人の水着や湯着のレンタル所兼着替えスペースがある。

 自前の水着を持ってくる必要がないのは清隆としてもありがたかった。水洗いはしていたが、体育着も含めて一週間ほぼほぼ着っぱなしだったのだ。どうせなら、下着を含めて本格的に洗濯をしたいのが本音である。

 とはいえ、学校に戻るにはまだ一週間もある。一体どうしたものか……? ――そんな清隆の疑問は、瞬く間に解決した。

 

「だったらさ。女子の皆で話してたんだけど、清隆くんも一緒に行かない? 坂柳さんから聞いたんだけど、この船って大規模な無人洗濯スペースがあるみたいなんだよね。言ってみれば、『お金のかからないコインランドリー』的な……?」

 

 あくまで聞きかじり故に帆波もハッキリとはイメージ出来ていないみたいだったが、その言葉だけでもなんとなくは想像できた。

 

「流石に一週間も時間がありましたのでね。杖を突かなくてはならない分、他の人より歩くのが遅いのは認めますが、そもそもにして生徒に許された行動可能範囲には限度があります。歩き回ってチラ見する程度の時間は十分にありましたとも」

 

 湯着と水着、人によってどちらを着ているかは様々だったが、共通してデザインはシンプルだった。おそらくは、あくまでも入浴を目的にしているからだろう。

 その視線を察したのだろう。有栖が口を開く。

 

「甲板にあるプール用の水着は、もっと凝ったデザインの物もレンタルしているみたいなのですけどね」

 

 有栖による補足が、清隆の推測を補強した。

 

「こっちには洗い場はないんだな……」

 

 浴室内を見回してポツリと清隆が呟く。

 いくつかの浴槽、サウナルームへの扉、休憩スペースへの扉、一行がやってきたそれぞれの更衣室への扉はあるが、頭や体を洗うための洗い場はなかった。

 

「前提として、『水着もしくは湯着の着用』を義務付けているからでしょうね。これで洗い場があれば、わざわざ義務付けている意味がなくなりかねません」

「まあ、頭はともかく、身体を洗うってなれば着ている物を脱がなきゃならないからね。混浴でそれは、流石に本末転倒じゃん」

 

 結局はそういうことだろう。

 そんなことを話した後は、全員揃って風呂に身を沈める。

 

「ふぅ……。寮の個室風呂とは比べ物にならんな……」

 

 当然と言うべきか。清隆には温泉施設に赴いた経験がなかった。学校の敷地内にはスパ施設も存在しているし興味はあったのだが、入浴だけなら寮の個室で十分なため、ひたすら後回しにしてきたのだ。

 

「正直、だいぶ損をしてきた気分だ。豪華客船とはいえ船上のスパでこれほど心地いいのなら、敷地内のスパにも行っておくべきだった」

「気持ちは分かるけどさ~。でも、敷地内のスパって混浴ないじゃん。いや、行ったことないから想像でしかないんだけどさ」

「あぁ……。たぶん無いよね。まあ、女の子同士で行って和気藹々するのも、それはそれで楽しいんだろうけどさ。――やっぱ、清隆くんがいないと楽しみもマイナスされちゃうよね」

「それな~。てなわけで、この貴重な一週間、思う存分満喫しないとね」

「同感だ。……と言うことで、向こうの風呂に行ってくる」

 

 ザパリと音を立てて立ち上がった清隆は、他の浴槽へと足を向けた。

 

「おお、泡が立っている!? これが『泡風呂』というやつか……!?」

 

 遠からず、そんな喜色に満ちた清隆の声が女性陣の耳に届くのだった。

 女性陣はクスクスと笑いながら、或いは清隆の後を追い、或いはまた別の浴槽へ向かい、或いはそのまま同じ浴槽に身を沈めていた。

 

「清隆~! こっちのはジェットバスだよ~っ!」

 

 そんな恵の声が響けば、程なくして清隆はそちらに向かった。その行動だけで興味津々なのが分かる。それに比べれば表情など些細なものだ。

 

「これが『ジェットバス』……!?」

 

 清隆がいそいそと浴槽に身を沈め、恵と隣り合って座ったのが見える。

 泡風呂もジェットバスも、家庭風呂とは縁遠い。やってやれないことはないが、やろうとしなければ、その機能を求めなければ、家庭だと味わえないのは事実である。

 当然、如何な『高度育成高等学校』の学生寮とはいえ、大量生産の個室の浴槽にそんな機能を付けているわけがない。

 

「寮の個室風呂もね~。蛇口からお湯と水出して調整するんじゃなく、ボタンを押せば勝手に沸かしてくれる分だけ上等なのは分かるんだけどね~。

 なまじっか優れている分、ついつい機能を上望みしちゃうんだよね~。物足りないって言うかさぁ~」

 

 清隆の隣で、恵がそんなことを言う。

 

「確かに。実際にコレを体験してしまえば、寮の風呂にも求めたくなる気持ちは分かるな」

 

 タオルを頭に乗せ、湯船に身を預ける清隆の表情は、ふんわりと緩んでいた。

 火山活動が活発故に温泉に恵まれた土地。

 宗教を介して根付いた『水で清まる』という感覚。

 天然温泉の時代から存在した『疲労回復』の効能。

 更には、江戸時代に広まった銭湯の普及によって、入浴は『個人の贅沢』から『都市生活の一部』へと変化。そして、高度経済成長期には『家庭風呂』が一般化した。

 疲れを落とす。気持ちを切り替える。冷えた身体を戻す。眠る準備をする。……日本の毎日入浴は、清潔習慣であり、休息の儀式でもあるのだ。

 そういった感覚は、もはや『魂』として日本人に刻まれているのだろう。それは特殊な環境で育った清隆も変わりないということだ。

 種類は少ないながら、清隆自身が多様な風呂に触れることで、初めてそのことが顕在化した瞬間と言えるだろう。

 

「いい顔してるよ、清隆」

「……そうか?」

「うん。すっごく緩んでる!」

 

 そう言う恵自身の表情が緩んでいた。それでいて、気持ちのいい笑顔だった。

 

「……そうか。――さて、せっかくだからサウナも堪能するかな」

 

 フッと笑った清隆は、そう言って再び立ち上がり、今度はサウナの方へと向かう。

 ドアに貼られた案内書きを読むと、扉の向こうは普通のサウナに繋がる通路と岩盤浴に繋がる通路に分かれているようだ。

 

「さて、どちらへ先に向かうべきか……?」

 

 清隆の本音としてはどちらにも興味がある。しかし、当然ながら人数制限が存在する。まあ、この人数なら全員を収容できるみたいではあるが……。

 周りに任せる……? いやいや、時にはそれも必要だろうが、ここは自分の意思を最優先にしたい。――『自分で決めること』を決めた清隆は、まずはサウナへと足を向けた。自分の知識では、岩盤浴よりもサウナの方が『一般的』だと認識しているためだ。

 

「これが『サウナ』……!?」

 

 本日何度目かの歓喜を露わにした清隆は、しかしすぐにギブアップした。いようと思えば居続けることも出来るだろうが、如何せん経験がないために一人だと()()()()が分からなくなる恐れがあったからだ。

 それは岩盤浴においても同様で、取り敢えずは一番最初にギブアップする女子に合わせることにしたのだった。




取り敢えず、今話で無人島試験は終わったわけですが、反省会やらなんやとあるので、次の章になるのはそれが終わった後になります。

清隆にはいろんなお風呂にワクワクしてほしい。そんな思いから、今話の内容となりました。
なお、実際の豪華客船にスパやら何やらがあるかは分かりません。筆者とは縁遠いですので。
本作で描かれる豪華客船は、原作を参考にしつつも、大部分に筆者の『想像』と『妄想』が組み込まれていることをご了承ください。
仮にも『豪華』を冠するんだから、必要以上に期待しちゃってもおかしくはないと自己弁護しておきます。

まあ、無人島でのサバイバル試験上がりの状況を鑑みると、コインランドリー的な設備は合っても不思議はないと思います。
如何に洗濯の必要があるとはいえ、豪華客船のスタッフとはいえ、見ず知らずの相手に下着やら何やらを預けたくはないのが人情でしょう。
それでいてこの人数ですからね。一度に大人数を回せなくちゃ、全員分の洗濯が終了するまでどれだけ時間がかかるか分かったものじゃありません。
必然、大規模な設備が必要になると考えました。

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