ようこそ実力至上主義の教室へ ~ギフテッドとN.I.N.J.Aと……~ 作:山上真
「時間が押してるからちゃっちゃか進めていくよ!」
帆波の掛け声に、生徒たちは同意した。
「色々と脱線しちゃったのも事実だけど、この学校の大まかな方針が見えてきたのも事実です!
一つ、この学校が指す『実力』は成績だけに囚われません。確かに学業成績や運動能力も含まれてはいるんだけど、コミュニケーション能力に協調性、それと相反するようなエゴイズムも含めて、実に様々なものを指していると思われます!
一つ、この学校はグレースタイルを容認しています。バレれば問題だけど、バレなければ問題ではない。また、バレたとしても、そのバレ方次第、タイミング次第では、やはり問題ではない。そういうスタイルです。
個人的に思うところはあれ、世の中にそういう部分があるのは否定できません! 詐欺とか横行してますからね!
それを防ごうと思えば、それに精通する必要がある。その考えは、決して間違っているわけではありません。爆弾処理班とかが分かりやすいでしょう。爆弾の詳しい知識がなければ、解体なんて出来るわけがありませんからね。
そういう意味で、グレースタイルに対して限定的ながらも容認箇所を用意するのは、仕方のない部分もあるのでしょう!
一つ、クラス単位で成績が上下し、公に卒業特典を受けられるのは最上位クラスだけだと思われます。A、B、C、D……成績に応じて、クラスの冠自体が移り変わると考えるべきでしょう。
そして、それぞれのクラスには学校側の定めた特色があると想定され、それは長所であると同時に短所でもあります。うちのクラスで言えば、長所は協調性があること、短所は主体性のない、或いは少ない生徒が多いことですね。良くも悪くも、社会の定める指針、組織の定める指針に流されがちということです!」
はきはきと帆波が述べる。
耳に痛い部分、納得しきれない部分もあるだろうが、生徒たちは黙ってそれを聞いている。
「これらを前提にした上で私たちが真っ先にするべきは、クラスでの優先順位を定めることだと思います!
ぶっちゃけたことを言いますが、組織人には主体性なんて必要ありません! 主体性と言えば聞こえはいいですが、言い方を変えれば『個人の我儘』、『エゴイズム』に他ならないわけですからね。エゴを持つことは確かに大切ですが、必要以上にそれを表に出されたのでは、健全な組織運営なんて出来やしません!
我慢できない部分は譲らない。だけど、それ以外の部分では譲る。それはそれで立派な長所です! そしてうちのクラスにはそれが出来る生徒が多い! つまり、妥協範囲が広いということでもあるんです!
それぞれの譲れない部分を軸にして、クラス全体での優先順位を定める! それさえ行ってしまえば、結果がどうあれブレることはありません! 何せ、それが出来る生徒が揃っていますからね!」
そう。きちんと話し合った上で軸を定めてしまえば、一丸となって取り組める生徒が1-Bには揃っているのだ。
そんなわけで、『これだけは譲れない!』という部分を持つ生徒から、それを発表していってもらった。思いつかない生徒は後回しだ。
結果として、『団結する』、『可能な限りフェアプレーを心掛ける』、『自クラスを最優先にして、余裕があれば他のクラスにも手を差し伸べる』、『Aクラスを目指す』、『可能な限りクラスメイトは見捨てない』……などという方針が持ち上がった。
「まあ、こんな具合で意見が挙がったわけですが、中には相反するものもあります。
分かりやすいところで、朝にアズが言ったような『リストラを想定した試験』ですね。この場合、普通に考えたらリストラする相手を選ぶのが常道です。敢えてそれに反しようとすれば、クラス成績が下がる可能性は高いです。
ですので! そういった場合にどうするのかを! 今のうちに決めておきたいと思います!
そんなわけで、ここでも星之宮先生に協力してもらおうと思います。一人一人、星之宮先生に対して自分の意見を送ってください。これに関しては、ただ自分の心に従ってください」
「……まあ、いいけどね」
勝手に巻き込まれた星之宮先生が溜め息を吐いた。
暫しして意見が出揃ったのだろう。星之宮先生が口を開いた。
「結果から言うと、見捨てないという意見が多数です。ただ、状況によりけりという意見もあります。その際のクラス成績次第だとか、クラスメイトとして認められる相手かによる、といった感じですね。クラスに馴染もうとしない人物をクラスメイトとして認めることは出来ない、そういうことでしょう」
これにて、見捨てないという方向で優先順位は定まった。だが、少数派の意見にも頷ける部分はある。そこを忘れてはならないだろう。
「これにて方針は定まりました! 私たちはクラス内の団結・連帯を最優先に、その上でAクラスを目指します! 基本的にはフェアプレーを心掛け、余裕があれば他のクラスにも手を差し伸べます! 皆さん、そのためにそれぞれが協力し合っていきましょう!」
『おおおぉぉーーーっ!』
帆波がこぶしを挙げると、生徒たちも声を揃えてこぶしを挙げた。
「俺からもいいか? 近いうちに、クラス内での役職というか、役割分担を定めるべきだと思う。例として柴田を挙げるが、柴田はサッカー部志望なだけあって運動には自信があるんだろう?」
「俺? まあ、そうだな。勉強はそこまでじゃないけど、運動には自信がある」
「そんな柴谷には、体育とか体育祭とかでの牽引係を任せるといった具合だな。他にも、忍者を自称するフォルテには諜報担当を任せるといった具合だ。
こんな感じで、最低限主要分野の首脳陣は早いうちに定めておくべきだと思う。そして、首脳陣で都度都度試験や行事の対応なんかを定めていくのがベターだろう。
流石に、毎度毎度クラス全員で集まってはいられないし、話し合ってもいられないからな」
例として分かりやすかったためだろう。そして理由も尤もであるためか、頷いている生徒たちが多い。
「もっとも、流石に今すぐ決めるには情報が足りていないからな。近いうちに確認を取る機会を設けるから、誰にならついていきたいか、誰にならどの分野を任せられるか、各自それぞれに目星を付けておいてくれ」
神崎の言葉に銘々が肯定を返した。
「じゃあ、今日のところはこれにて終了とします!
目下気を付けるべきは授業態度や生活態度だね! 皆、廊下は走らず、遅刻や無断欠席、授業中の私語は厳禁だからね! 携帯操作に関しては、担当の先生に都度都度確認を取るってことで!
あ、星之宮先生は監視カメラの件の報告をお願いしますね」
「りょうか~い。それじゃ、鍵をかけるからちゃっちゃと部屋を出ちゃって」
星之宮先生に促され、全員が会議室を出る。
教室に荷物を置いている生徒も多いため、取り敢えずは全員揃って教室に戻ることとなった。
♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢
その日の夜。
「で、後で話をするってことでしたけど、いつになったらするんですか?」
寮の自室にて、アズは呆れの眼差しを向けながらフォルテに問いかけた。
アズの自室である。聖域である。すき好んで第三者を招待したくなどない。――ただし、友人であれば話は別。
そして現状のアズにとって、フォルテはクラスメイトかもしれないが友人ではない。それでも招いたのは朝の一件があるからであり、話をするとのことだったからだ。だから嫌々ながらも招いたのである。
だというのに、学校から同行してきたこの女は、招かれたのをいいことにそのまま居座り続け――もっとも、何をするでもなく部屋の一角に座っているだけなので、その点では不満などないのだが――、挙句の果てにはアズ手製の夕食さえ御馳走になっている。……施設を出たばかりの頃は『知識はあれど経験はない』状態だったために目玉焼き一つ上手く作れなかったアズだが、今ではその限りではない。ミツバ邸での生活を経て、一端の家事能力は身に着けている。
まあ、美味しそうに食べた上で笑顔で礼を言われれば、アズとて悪い気にはならない。
それに、根本的な人付き合い自体が希薄だったこともあり、『誰かと一緒の空間で過ごす』こと自体にそこはかとなく喜びを覚えているのも事実であった。
きっかけがどうあれ、相手がどうあれ……だ。
そんなわけで、アズがフォルテに抱く『不満』が『呆れ』に転化するのも、決しておかしな話ではなかった。
何をするでもなく座っていたフォルテは、アズから声をかけられたことで、『ん?』と声を上げてアズの方を向いた。さも『いま気付きました』と言わんばかりの表情を浮かべており、それがまたアズの呆れを助長させる。
「いや~、ゴメンゴメン! 理由があってのことで、それも自分で選んだが故のことだけど、私ってば今まで訓練漬けの日々だったからさ。こういう空間自体が新鮮で、何て言うか慣れてないんだよね。
学校に通ってなかったわけじゃないけど、私ってばN.I.N.J.Aとしてはまだ未熟者だから、どうしてもそっちに比重を傾けなきゃならなかったしさ」
後ろ頭に手をやりながらそう言ったフォルテは、テヘリと舌を出す。そこに嫌味は感じられず、だからこそ、先の表情も自然に浮かべたものであることが分かる。分かってしまう。
「まず、それです。忍者ってまだ残ってたんですか?」
「あ~、発音上仕方のないことかもしれないけど、まずはその勘違いから訂正しておくね。日本古来の忍者を源流としているのは間違いないけど、正しくはアルファベットの『エヌ、アイ、エヌ、ジェイ、エー』でN.I.N.J.Aなの。
『New Infinity Neuron - Japanese Assassin』の頭文字から取られていて、直訳すると『新たな無限大の神経細胞を持つ日本の暗殺者』になるかな?」
「New Infinity Neuron - Japanese Assassin ――略してN.I.N.J.Aですか。そこについては分かりました。……で?」
「N.I.N.J.Aはそれぞれに『特戦隠密』っていう集団を形成していてね。政府や各種機関に密かに雇われて、そこでエージェントとして様々な活動に従事しているの。
で、私の属する特戦隠密に
その対象は二人。――実際はもっといるんだけど、私が受けたのは二人だけ。
一人は、外国に端を発する『A機関』の出身者、アズ・セインクラウス。一人は、国内の教育機関である『ホワイトルーム』にて『最高傑作』と謳われる綾小路清隆。
調べた限り、この二つの機関は非常に似通っていてね。『孤児院』だの『教育機関』だの言えば聞こえはいいけど、その実態は人権無視のオンパレード。
あらゆる組織が一枚岩であるわけもなし、お偉いさんが危ぶむのも分からないではないよね! ……ま、それを言ったら、程度が違うだけでN.I.N.J.Aも似たようなものだけどね!
更に言うと、この両名は該当機関を脱走しているのよ。それがまたお偉いさんの頭を悩ませることになったわけ。本人の意思なのか、それとも機関の意思なのか、判断が付かなかったのね。
これまでは他の団員がそれとなく見張っていたんだけどね。あろうことか、この両名はこれまた揃って『高度育成高等学校』への入学を希望した。
閉ざされた『陸の孤島』である高育の敷地内に人員を派遣するのは、如何にN.I.N.J.A、如何に特戦隠密と言っても一筋縄じゃいかない。そんなわけで、まだ未熟ではあったけど、年頃的に都合のいい私に白羽の矢が立ったってわけ」
「なるほど」
アズは頷いた。こちらが追っ手を警戒しているように、事情を知らぬこの国の諜報機関がアズを警戒していてもおかしくはない。おそらくは、兄であるエッジもそれとなく監視されていることだろう。
まあ、そう言われた方が納得はできる。実際、今までにもそれとなく気配を感じたことはあったのだから。ただ、そこに不穏なものを感じなかったから無視することが出来たのも事実だ。
「理由は分かりましたけど、それで何だってまた初手から警戒させるような真似をしたんです?」
「だ~か~ら~、何度も言ってるけど、私ってば未熟なの! 経験不足なの! それでいて『舐められないようにしよう!』なって思っちゃったものだから、ああいう行動を取っちゃったわけ! そしたら、それが原因で対象が苦しみだしたもんだから、こっちの方が困ったわよ!」
「ああ、そうですか……」
これまたアズは納得した。せざるを得なかった。
事情を聞く限り、フォルテにとってはこれが初仕事なのだ。あくまでも『メインを務める』という意味で。その結果、空回ってしまったのだろう。そして、それによってアズは被弾した。
結果から言えば、それによって一足飛びに距離を縮められたのも事実ではあるが、アズとしては釈然としないものがあるのも事実だ。
フォルテも相応に厳しい訓練を積んできたようだが、その根底には『自分の意思』がある。
しかし、『厳しい訓練を積んだ』という点では共通していても、アズには根底となる『自分の意思』がない。少なくとも、自分から関わろうと思って施設に関わったわけではなく、受けようと思って訓練を受けたわけではない。幼くして親を失い孤児となり、それでいて引き取り手の現れなかったアズには、否応なく孤児院の世話になる選択肢しかなかった。そしてその孤児院とてアズ自身が選んだわけではない。あくまでも
「まあ、理由は分かりましたから許しますけど、お詫びは期待していますよ?」
「ちなみにどんな?」
「そこはそちらが選んでください。成功失敗を含めて、『コミュニケーションを育む』ってのはそういうことでしょう?」
「……もっとも過ぎて言葉もありません」
「では、改めてこれからよろしくお願いしますね、フォルテ」
「うん! よろしく、アズ!」
アズが手を差し出せば、フォルテは満面の笑みを浮かべて握り返したのだった。
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