ようこそ実力至上主義の教室へ ~ギフテッドとN.I.N.J.Aと……~ 作:山上真
「お! ここは道場か?」
格技場に新たな闖入者が現れた。龍園翔。『武道や武術と縁のある男ではない』というのが、この場にいる龍園を知る者の共通見解だった。
「龍園くん……? 何をしにここへ? 貴方が武を嗜んでいたとは思えませんが……」
「あん? なんだ、坂柳じゃねえか。色ボケはもういいのか?
まあ質問に返すなら、単にぶらついた結果辿り着いただけだよ。特に目的があったわけでもねえ。気の向くまま、足の向くままに進んでいたら、ここに着いただけのことだ」
色ボケ云々には思うところがあれ、そう言われたら有栖に返す言葉はなかった。
人は出かける際に目的地を持つが、必ずしもそうとは限らない。『場所』ではなく『事柄』を目的にして出かける場合もあるし、それが『時間つぶし』などであった場合、それこそ目的なんて『有って無きが如し』である。
「てかよ? 武云々を抜かすなら、坂柳の方こそ縁遠いと思うがな。先天性の心疾患とやらはどうしたよ?」
「それを治すために学ぶことにしたのですよ。何せ、
無論、今後の医療の発達次第では治療の目途が立つのかもしれませんが、私はそれを悠長に待ってはいられないんですよ。何しろ、今のままではセックスすら満足に出来るかも分かりません。
現在の坂柳当主である父の子は私一人だけです。その私がこれでは、由緒ある『坂柳』の系譜が私の代で途絶えてしまうことになります。もちろん、養子を取るなりすれば『家』を残すことは出来ますが、血が途切れるのに違いはありません。
そして、それは私の望むところではありません」
有栖は澄まし顔で『対外的な理由』を語った。根本に清隆に対する色恋があるのは否定しないが、それ以外にもキチンとした理由は存在するのだ。
特に『名家』や『名門』に分類される家柄ほど、『次代への継承』を考えないわけにはいかない。
坂柳家は教育者の家系として著名であり、有栖の祖父は現内閣総理大臣の鬼島とも懇意であった。
鬼島は有栖たちも通っている『高度育成高等学校』の設立を推し進めた張本人であり、有栖の祖父はその理事長に就き、現在はその息子にして有栖の父である成守が理事長の座に就いている。
その事実を捉えると、坂柳家は日本政府ともズブズブの関係であり、尚更条件に該当する。
有栖が『坂柳家の次代』として家のことを真剣に考えるのであれば、自分の次代を考えないわけにはいかないのだ。
もっとも、ただ家のことを考えるのであれば、『人工授精』や『体外受精』といった方法もある。有栖自身、今まではそれを視野に入れていた。
だが、やはり有栖も
そして、可能性が生まれたのだ。ならば、有栖にとって躊躇う理由はない。
「へえへえ、『上流階級の責務』ってやつね……」
とはいえ、そんな有栖の御家事情など龍園にとっては知ったことではなかった。肩をすくめ、鼻で嗤ってお終いである。
しかし、御家事情に興味はなくとも、『坂柳有栖』個人のことであれば話は別だ。色恋がどうのといった話ではなく、龍園にとっては有栖もまた自分を成長させるための
である以上、『坂柳有栖が今以上に成長する可能性』には興味を惹かれて然りである。
「しかしまあ、医療じゃなくて武術からのアプローチとなると、太極拳でも学んでんのか? たしか、太極拳には健康法としての側面もあるんじゃなかったか?」
「太極拳を連想するのは分かりますが、私が入門した流派は違いますね。太極拳と比較した場合、知名度としてはマイナーもマイナーです。私自身、敷地内の道場を渡り歩いて初めて知りました」
「ほぉん? 今まで知りもしなかったのに入門を決めたってことは、何かしら裏付ける要素でもあったってところか?」
「まあ、そうですね。『流派の一端』として、いわゆる『波動拳』とか『かめはめ波』じみた技を眼前で見せられたわけです。少なくとも、私が可能性を信じるには十分な要素です」
有栖は誰もが知るであろうメジャーな技を比較対象に挙げた。波動拳は
全米格闘チャンピオン『ケン・マスターズ』の名は、その技である『波動拳』、『昇龍拳』、『竜巻旋風脚』と共に世界に轟いている。
「初めてテレビのモニターで波動拳を目にした父は、その『波動の技術』を目的に彼を私の師として招こうとしたそうですが、すぐに断念したと伺ったことがあります。
まあ、相手は『全米格闘チャンピオン』であると同時に『マスターズ財団』の社長ですからね。父の伝手を使っても無理難題が過ぎるでしょう」
また、ケンの扱う技――特に波動拳については、『ヤラセではないのか?』、『CGではないのか?』という意見が付き纏ったりしている。
これは現地で直接に技を目にしたか、あくまでも
実際、有栖とて師範の技を直接この目で見ない限り、気功だの波動だのは『オカルト』の一言で片付けていた。
N.I.N.J.Aの『特有の神経細胞を鍛えることで潜在能力を引き出す』というのは、まだギリギリ
自身が神祇無窮流を学ぶことで、無窮流の極意である『気の修養と操作』の難しさと奥深さを、これ以上ないほどに実感している有栖だった。希望はあるが、それ以上に絶望があるのが現実だ。
「んで、太極拳でも『ケン・マスターズ格闘術』でもなければ、一体何を学んでるってんだ?」
「神祇無窮流という流派です。剣術をメインとしてはいますが、あくまでもメインなだけです。兄弟流派である不易久遠流は免許皆伝に『武芸十八般全ての習得』を掲げているので、神祇無窮流でも学ぼうとすれば剣以外も学べるでしょうが、専ら剣と無手術に偏っているようですね」
「土地柄や時代柄、という理由も存在するがね。門下生が希望してくるのは、大概にして剣と無手だ。薙刀や弓もいないわけではないが、それらに比べると格段に少ない」
龍園の質問に有栖が答えると、補足するように師範が続いた。
「神祇無窮流……?」
怪訝そうに龍園が呟いた瞬間だった。彼の雰囲気が一変する。姿かたちは一切変わらない。――しかし、その身に纏う空気が明らかに変わっていた。
「くぅ……っ!?」
「なに……っ!?」
「これは……っ!?」
『ッ……!?』
自然、龍園以外の者はその煽りを受けた。腕に覚えのある者――フォルテ、クロス、師範は警戒を露わに身構え、それ以外は息を呑むのが精々だった。
「ああ、驚かせてしまいましたね。失礼」
それに気付いた龍園が軽く頭を下げて謝罪した。声は龍園そのものだが、口調といい態度といい、普段の龍園とは似ても似つかない。
そして、謝罪しながらもその身に纏う空気は変わらなかった。その場の面々は、変わらず緊張を強いられる。
「しかし、『神祇無窮流』ですか……。いつぞやにどこぞから渡ってきた稀人が齎したモノだったと記憶しています。私にとっては瞬きが如きですが、人間にしてみれば百年~千年は昔でしたかね……?
我らにも多くの影響を齎したこともあり、よく覚えていますよ」
「お前は……何だ?」
構えを解かず、緊張を露わにクロスが問いかける。
クロスがそうなるのも当然だった。クロスは現在進行形で龍園に畏怖を覚えている。
「よもや、
一方、やはり構えは解かぬまま、しかし心当たりがあるのか師範は怪訝そうに呟く。
「ポゼッション……? 何です、それ?」
こちらもまた身構え、しかしクロスと師範以上に疲労を露わにしたフォルテが問いかける。
「我が流派、神祇無窮流の『神髄』とも謳われる現象だ。
無窮流で『気の修養と操作』を学び、そこに神祇――『精霊』や『八百万の神々』の力を借り受け、技に乗せることで初めて『神祇無窮流』となる。
しかしその本質は、ただ『神祇の力を借り受ける』ことではなく、『神祇との合一化』にあるという。
あくまでも『流派の目指す頂』であり、『理論的に起こり得る現象』とされているだけだったが、この男の状況を見るに、そうとしか思えん」
説明しながら、それ故に『現状のヤバさ』を改めて理解したのだろう。師範の言葉に力はない。
「お見事。そちらの推察通りです。私は貴方たち人間が『神』や『精霊』と呼ぶモノの一柱。『世界の端末』の一端に他なりません。
まあ、何の因果か人の身を持って生れ出づることになってしまいましたがね。正直、このことには私の方が困惑しています。
我々という存在は、言ってしまえば『世界の機構』=『システム』であるが故に、『世界から与えられた役割』に沿って行動していればよかったんですよ。そんな成り立ち故に我らは『自我』に乏しく、必要があって人に接する場合も、その方法が限られていました。
そこに一風を齎したのが神祇無窮流であり、人の方から我らに近付こうとする者が現れたことで、接触が楽になった事実があるのは否めません。
そして、その事実は我らの側にも少なからぬ影響を齎しました。私が神祇無窮流を知っているのはそれ故ですね」
龍園の身に降りた存在は、師範の言葉を認めつつ、自分について説明をする。証言だけで証拠も何もあったものではないが、言ってみれば
「歴史の流れの中、仕事が極端に減ったモノがいるのも事実でしてね。私もその例に反しません。興ては滅び、滅びては興るのが世の常であることを踏まえれば、もはや慣れたものであり、珍しくもなんともなかったんですが……。
とはいえ、そんな繰り返しの中、『変わらぬようで変わっている』のも世の常です。それを思えば、我が身に起こったこともある意味で『必然』と言えるのでしょう」
重々しい空気とは裏腹、龍園は肩をすくめる。
「と、頭で理解したまでは良かったのですがね。普通に考えて、いきなり人の身に生まれ変わらせられたところで、すんなりと適応できるわけがないでしょう?
いや、器に相応の力しか持っていないのであれば、或いはそれも可能だったのかもしれませんがね。――どういうわけか、元々の力をそっくりそのまま持ち越していたんですよ。
裏返せば世界に何かしらの目的があることに他なりませんが、人の世に紛れるには不便・不都合極まりません。
結果、私自身は基本的に眠ることにしました。私という『本質』は眠りに就き、器に相応の『アバター』――言い換えれば『仮想人格』を作成し、それに任せることにしたんです。そのため、基本的に貴方たちが知る龍園翔という人物はアバターを指すことになりますね」
誰もが頷かざるを得ない。普段からこんな空気を垂れ流されては、人としては堪ったものじゃない。
「それで、その眠っていた神様とやらが何のために起きてきたんだ? 何の理由もなしにそんなことをするとは思えんが?」
クロスが問う。
その内容は尤もと言えた。本質が起き上がってしまえば、仮想人格にどのような影響があるかも分かったものではない。普通に考えて、本質が眠っているから仮想人格は無事でいるのだ。
「ああ、そうでした。少しばかり、あなた方に力添えをと思いましてね」
「力添え……だと?」
「ええ。眠ってはいるものの、器の状況はキチンと認識しておりますのでね。いや、流石にそれすらもサボってしまえば、世界からどのような文句を言われるかも分かったものではありません。私としても、それは御免被ります。
器は『人としての同胞』と切磋琢磨することで、高みに昇ることを目論んでいます。そのためには、同胞が強敵であるに越したことはありません」
言いながら、龍園は有栖へと目を向けた。
超常の存在から直視され、有栖の身体を極度の重圧が襲う。今までは、直視されていないからどうにか耐えられていた。その事実を、有栖は否応なく認めなければならなかった。
「おっと、失礼。申し訳ない、お嬢さん。やはり、私が表に出るのは不便でならない。
とはいえ、貴方に触れないことには話が進みませんのでね。少しばかり目を瞑ってもらっても構いませんか? その方が、そちらも多少なりと楽でしょう」
「待て。坂柳に何をするつもりだ? 彼女は我が流派の門下生に他ならない。我が身が御身に敵うとは思わんが、理由如何では師範として刃を向けぬわけにはいかない」
有栖の方へ足を向ける龍園の前に、師範が立ち塞がった。
「なに、簡単なことですよ。言ったでしょう? 私は元々の『権能』をそのまま持ち越しているんです。
器の知識によると、そこな少女は先天性の病によって身体を動かすのも一苦労だとか。その状況は器にとっても好ましくありません。
ですので、我が権能にてその少女を精査し、その上で最適かつ暇なモノを宿らせようかと思いまして。その程度であれば世界も許容すると思いますしね」
何気なく言う龍園だが、師範にしてみれば信じ難い内容だった。
その内容を信じるなら、有栖はいきなり神祇無窮流の神髄にチェックをかけることになる。文字通り『超常の力』による『力圧し』で肉体の方に影響を与えようというのだ。正直、『荒療治』にも程があるというものだった。
しかしながら、有栖の状況を踏まえれば『望外の幸運』と言えるのも確かだった。そもそも神祇無窮流の場合、最初の一歩である『気の修養と操作』からして難題である。
日本という国は『八百万信仰』を含めて超常存在を身近に捉えてはいるが、『それを己が身で感じられるか』=『チャンネルが開いているか』となると話は別なのだ。陰陽術だって、もはや『過去』の技なのである。
早い話、理屈はともかく、実感として『取っ掛かりがない』のが現実なのだ。神祇無窮流が『個々人の資質に拠る部分が大きい』と言われる由縁である。
実際、通ってから数ヶ月が経過している有栖だが、未だ最初の段階で四苦八苦しているのが現実だ。有栖の場合、身体を動かせないので尚更に時間がかかっている。
その点で言うと、この師範はかなりの才能を有していることになる。何せ若い! 本人の自己申告によると『未だ二十代』とのことであった。
だが、そんな師範とて
「理屈は分かるが、それで有栖は大丈夫なのか?」
「その心配は尤もです。だから直接触れて精査するんですよ。見るだけでも何となくの状態は分かりますし、その上でシステマチックに処理することも出来ますがね。如何せん、人の身というものは脆弱ですので。その少女の場合、輪をかけてです。
私個人としては、人の身に生まれ変わっても感性自体は超常存在ですので、それで少女が壊れてしまっても『あ、そう……』で済ませられるのですがね。――しかしながら、人の身で生きていくことを踏まえれば好ましくないのも確かです。
分かります? これで私なりに可能な限り気を遣っているんですよ。その上でなお断ると言うのなら、それもまた是です。お節介は取り止めましょう」
龍園の口から紡がれるその言葉。それを聞けば、尚更に目の前に立つ男が
行動自体は親身ではある。その一方で、本人の言う通り『お節介』や『気紛れ』の域を出ない。そして、それによって齎される結果は、軽くその域を超えている。――少なくとも、『人間』の感性では。
「…………」
また、そうまで言われれば師範も口を噤むよりなかった。
何せ、事は有栖の進退に関わることでもある。『師範』の立場から口を挿むにも限度があった。
「分かりました。ありがたくその慈悲をお受けしましょう。お返しは龍園くん――貴方の『アバター』への敗北でよろしいですか?」
そして、有栖が答えた。重圧故に目を瞑ってはいるが、その言葉は非常に勝ち気だった。
それを受け、龍園は笑った。
「ええ、構いませんよ。それが出来るなら願ってもない。しかしながら、そう簡単にいくとは思わないことですね。これで我が器は成長速度が速いですので」
言いながら、龍園が有栖の頭に手を乗せる。
「……終わりました。――では、私も再び眠るとしましょう」
手を離した龍園がそう言うや否や――龍園と有栖は床に倒れたのだった。
スパロボとクロスした結果、キャラや一部環境の異常性が際立つことになりましたので、世界観自体、それを『許容する土壌』にしました。
もっとも、本作の基本的な舞台は『高度育成高等学校』です。
スパロボの場合は、生身が強いキャラもいますが、あくまでも『人間が乗り込めるロボット』が登場する世界観です。
部分的に引っ張って来るだけならまだしも、流石にそこまで世界観に手を加えるのは行き過ぎです。
結果的に落ち着いたのが、『ナムカプシリーズ』の世界観でした。『ナムカプシリーズ』タグの追加はそれ故です。
『ストリートファイター』がいたり、『堂島の龍』を始めとするYAKUZAが跋扈しているような世界観であれば、個々の異常性は薄れるでしょう。
それに伴い、龍園のキャラ設定も以前より定まりました。
スパロボで言えば『聖獣』や『高次元生命体』、魔装機神で言えば『高位精霊』や『聖位精霊』に当たる存在が、『力はそのままに人間として生まれてきた』のが本作の龍園です。
ただ、今話で言及したように、その本質はどちらかと言えば『高位精霊』や『聖位精霊』寄りです。
そのため、第一に考えるのは『世界』のことであり、自身の一存で『過剰な変革』を促すのを是とはしません。結果として、基本的には眠りに就くことを選びました。
今回行った有栖に対する行為は、彼の中では『過剰な変革』には当たりません。本文中で描写している通り、『ちょっとした気紛れ』、『お節介』レベルです。
その一方で、どこからが『過剰』になるのかを本質自体も理解しきれていない部分があります。
『理屈としては知っているけど、実態は把握しきれていない』という点では、対象は異なれ清隆と通じる部分があります。
そのため、原作清隆のように『必要となった場合にのみ積極的に動く』のが、本質のスタンスです。
説明では『アバターを作成した』ように告げていますが、実際のところそんなことはなく、普段表に出ているのは、あくまでも『真っ当に人間として成長した龍園翔』です。
要は捉え方の違いですね。本質にしてみれば、オリジナルはあくまでも自分なので。
一方、世界観をナムカプシリーズ風味にしたため、危険もそれだけ大きくなります。
喧嘩に明け暮れていた龍園ですから、『裏』に巻き込まれる可能性もそれだけ高まります。
ですので、本当にヤバい時は本質が表に出て対処していました。――そういう設定になりました。
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