ようこそ実力至上主義の教室へ ~ギフテッドとN.I.N.J.Aと……~   作:山上真

75 / 81
第75話:平田洋介は、クラスの統率に取り掛かる。

 清隆くんたちに『宣戦布告』じみた宣言をしてから、早速に僕は動き出していた。

 何せ時間がない。無人島試験を終えてこの船に乗り込んでから、既に三日目に突入している。この学校に限って、このまま何事もなく一週間の船旅を楽しんで帰還――なんて展開がある筈もない。無人島同様、必ず特別試験を仕掛けてくる筈だ。

 それを思えば、一刻でも早くクラスの引き締めを図らなければならない。そのための手回しは既に進めている。

 僕は担任である茶柱先生に用意してもらった会議室に入った。室内には既に何人かの姿があったが、いない生徒の方が多い。

 まあ、これに関しては想定内だ。実際、通達した集合時間にはまだ十分ほどの余裕がある。

 

「驚いたぞ、平田。よもや、お前がこんな提案をしてくるとは思ってもみなかったからな。――いやまあ、個人的に期待していたのは事実だがな」

「先生ならご存知かもしれませんが、僕もトラウマを抱えていまして……。

 それで中々踏ん切りがつかず、そして、そんな僕の躊躇いが山内くんを退学に追いやった面があるのも事実です。

 僕は『今あるクラスの笑顔』を大切にするあまり、『待ち受ける絶望』を軽視してしまったんです。

 僕はもう、クラスからただの一人も退学者を出したくはない。現実には難しいのかもしれませんが、その理想を諦めたくはないんです。――そのために、僕は起つことを決めました」

 

 茶柱先生に対し、僕は本心から答える。

 

「これも、そのために使うわけだな?」

 

 茶柱先生が封筒を手に訊いてくる。中身は見えないけど、まず間違いなく僕が頼んだものになるだろう。

 入学後の、クラスメイトの校則違反データ。それを月別かつ個人別に纏めてランキング化したものだ。早い話、『素行の良い生徒』ほどランキングの上位に位置することになる。

 他に、個人能力の推移を纏め、その変遷具合を学校視点でランキング化したものもある。こちらは()()()()()()したものと言えるだろう。立場を維持するにも這い上がるにも、いずれにしろ努力は欠かせないのだから。

 

「はい。本気でAクラスでの卒業を目指すなら、今までのようには出来ません。たとえ『個人の意思』を封殺しようと、無理にでも纏まらなければなりません。

 残念ながら、全員の意思を拾い上げつつ『上』を目指せるほど、僕たちは強くありません。それだけの実力はありません。

 だから、僕は先生に用意してもらったこれらのデータを用いて、クラス内にランキング制度を敷きます。クラス内に『互いが切磋琢磨する環境』を作ります」

「もっと詳しく言えば、試験対策などにおいて最優先されるのは上位十人の意向です。下位十人に発言権はなく、あったとしても聞いている余裕はないですから。

 発言権を得たいなら、評価を上げてランクを上げればいい。端的に言えばそういう寸法ですね」

「受け入れられないならそれも是です。『輪を乱す人物』として排斥するだけです。こちらとしても、『Aクラスでの卒業』を目指す気のない人物に掛ける情けはありませんし、誰にも彼にも手を差し伸べられるほどの実力を持っているわけではありませんから」

 

 僕が先生に答えると、松下さんと堀北さんがそれに続いた。

 

「では、高円寺に関してはどうする?」

「どうもしません。彼は『クラス評価』を意に介していないだけで、個人ではシッカリと好成績を叩き出しています。

 言ってしまえば、僕たちがこれから行うこと。『弱者の声を聞く必要はない』という方針。彼はそれを忠実に実行しているだけです。

 である以上、こちらがどうこう言うことはありません。――その代わり、向こうがクラス評価を蔑ろにしている以上、向こうの言うことを僕たちが聞くこともありません。

 そもそも、彼を輪に入れようとすること自体が間違っています。彼を制御しようとするなら相応に高い実力が必要になるでしょうが、僕たちの誰もそれほどの実力は持っていませんからね」

 

 肩をすくめて僕は答えた。高円寺くんについて考えると、どうしてもそういう結論にならざるを得ないだろう。

 それでも、その方針を高円寺くんに伝える必要があるのも事実なので、彼にも集合を掛けてはいる。まだ姿は見せていないけど……。と言うより、来るかも分からないけど……。

 そうこうしている内に時間を迎えた。

 

「……まだ来ていない人がいるわね」

 

 室内を見回したあと、堀北さんが口を開いた。

 確かに堀北さんの言う通り、本堂くんを始め、まだ姿を見せていない生徒もいる。

 それでも、高円寺くんは来ているし、女子も全員が姿を見せている。……来ていないのは一部の男子だけだ。

 今回、クラスに呼びかけたのは僕だ。極論を言えば、未だ姿を見せていない生徒から僕は受け入れられていないことになる。

 悲しいと言えば悲しいけど、仕方ないと言えば仕方ない。僕自身、個々人に対してシッカリと向き合ってきたわけでもないんだから。

 

「僕個人の本音を言えば来るまで開始を待ちたいところだけど、()()()()を思えばそうも言っていられない。――始めよう」

「いいのね?」

「うん」

 

 堀北さんの最終確認に、僕は頷きを以て答えた。

 

「みんな、呼びかけに応えてくれてありがとう。まずはそのことに対してお礼を言わせてもらいたい。

 そして、まだ姿を見せていない人たちもいるけど、早速本題に入りたいと思う。

 端的に言うよ。――今、この瞬間を以て、僕は起つ。今後は僕がこのクラスを率いる。そして、本気で『Aクラスでの卒業』を目指す」

 

 集まったクラスメイト達を見つめ、静かに、淡々と、僕は宣言した。

 当然ながら、会議室内はざわついた。皆にしてみればあまりにも唐突な話だ。『寝耳に水』な話だ。それを思えば無理もない反応だ。

 もっとも、幸村くんや王さんを始めとする一部の生徒は冷静さを保っている。何となくの想像は付いていたんだろう。

 僕はそれを無理に止めることはせず、自然と落ち着くのを待った。困惑している内に叩き込んで無理矢理にでも言質を取るのも一つの手ではあるけど、自然と反感も高まってしまう。

 それでは、ただでさえ難儀な先行きが更に難儀になってしまうだけだ。ハッキリ言って害の方が大きく、である以上、最初から言論を尽くして受け入れてもらった方がいい。

 

「よお、平田。俺の勘違いや聞き間違いでなけりゃ、これからはお前が俺たちの上に立つと、今そう言ったのか?」

 

 真っ先に声を上げたのは須藤くんだった。意外にも思えるし妥当にも感じる。

 メンチを切るかのように僕を睨みつけている。

 

「うん。そう言ったよ」

 

 もっとも、その程度で僕が怯むことはない。中学時代はこれで()()をやっていたのだ。ガンを付けてくる相手など慣れている。

 だから、自然体のままに言葉を返すことは十分に可能だった。

 

「……お前に能力があんのは俺も認めてる。だから、お前が俺たちを率いるっていうんなら、無意味に反対する理由もねえ」

 

 僕のそんな態度が意外だったのか、僅かに気圧されたように須藤くんが続けた。……入学時の彼であれば、よほどに言葉を荒げていた可能性が高い。それを思えば、確かに彼も変わっている。

 

「だが、理由は聞かせろ。今更――って言うほど遅くはねえが、『どういう風の吹き回し』だ?」

 

 向けられたのは、当然の質問。

 

「答えよう。ただ、須藤くんの質問に答えるなら、僕の過去を語るのは避けられない。長くなってしまうが構わないかな? 高円寺くんもいいかい?」

 

 僕は会議室内を見回して、特に高円寺くんに視線を向けて訊き返した。彼の反応次第では、先に彼への用件を済ませた方がいい。

 

「構わないとも。私が姿を見せたのには気紛れの意味合いが強いのは認めるが、その一方で暇潰しの面もあるからね。話の内容に特段興味があるわけではないが、時間を潰すにはもってこいだ。

 いやはや、無人島試験をリタイアしたことのしっぺ返しが、こんな形で返ってくるとは思ってもみなかったよ」

 

 肩をすくめて高円寺くんは言う。

 

「僕たちにとっては縁遠いこの()()()()も、『高円寺コンツェルン』の御曹司にとっては目を惹くものでもないってことかな?」

「ま、端的に言えばそういうことになるねえ~。君たち庶民にとっては嫌味になるのかもしれないが、私にとってはこの程度の船など豪華でも何でもないのだよ。民間船と大差ないのさ」

 

 僕の質問に、高円寺くんは悪びれもせず肯定する。

 確かに、ともすれば嫌味になるのかもしれないが、根底にあるのは『出自』という紛うことなき事実だ。事実に対して難癖を付けることほど滑稽なことはない。

 

「高円寺くんの了承も得られたことだ。話を続けるとしよう」

 

 そう前置きして、僕は僕の過去を語った。――出身中で起こったイジメに関する話を。

 

 ♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢

 

 どれだけの時間が掛かったろうか……?

 可能な限り冷静さを保っていたつもりだけど、あの過去が今も僕を苛んでいるのは紛れもない事実だ。語っている途中でヒートアップしていてもおかしくはない。むしろ()()だろう。

 実際、自覚の方も曖昧だ。遅刻していた生徒も加わっているけど、いつ加わったのかも分からない。

 

「補足を入れると、平田くんと学校は違うけど、私は中学時代にイジメを受けていたの。私の左脇腹付近には、その傷跡が今でも消えずに残ってる……。

 高校に入学してまで私はイジメられたくなかった。だから、私をイジメていた奴らを真似て強気な態度を取る一方で、イジメられないための方策を探した。

 そんな時、イジメに関わった者同士の共感でも働いたのか、平田くんが引っ掛かったの。

 私は平田くんに協力を持ち掛け、平田くんはそれに頷いてくれた。そんなわけで、私と平田くんが付き合ってるって話は全くの嘘。ただの偽装関係なの」

 

 僕が自分を落ち着けている間に、軽井沢さんが過去の一端を語った。

 こうしようとあらかじめ決めておいたわけじゃあないけど、僕たちの偽装関係を周知するには都合のいいタイミングだったのも事実だろう。

 そして、そのことに対してみんなの理解を求めようと思ったら、軽井沢さんもまた過去を明らかにしなくてはならないのは道理だ。

 

「もっとも、平田くんとは偽装関係だったけど、今の私が清隆のハーレムメンバーなのは事実なので、交際は受け入れられないから悪しからず」

 

 軽井沢さんは、お道化たように男子に対して釘を刺している。

 

「ちなみに私も!」

「私も」

「遺憾ながら私もね」

「私たちも――」

「――そうなるんですかね……?」

 

 軽井沢さんに続いて、佐藤さん、松下さん、堀北さん、長谷部さん、王さんが続いた。長谷部さんと王さんは未だ自覚が薄いみたいだけど、清隆くんの手が及んでいるのは間違いない。

 そしてその宣言は、彼女たちなりの軽井沢さんに対するフォローだろう。

 

「お前らな……。教師の目の前で堂々とハーレムだの何だのと宣言するんじゃない……」

 

 茶柱先生が、頭を押さえながら呆れを隠さずに言った。深い溜息も吐いている。

 

「学校側も認めている以上、隠しても仕方ないじゃないですか」

「そっちの方はあくまでも黙認だ。公に口に出しては認めていない」

 

 松下さんの言葉に茶柱先生はそう返した。黙認ではあっても、学校側が認めていることを教師が口にしたのだ。

 その事実に対し、茶柱先生は訂正を求める動きを見せない。

 

「ま、この場には監視カメラもないからぶっちゃけるが、私としても受け持ちクラスであるお前たちにはAクラスで卒業してほしいと思ってるんだよ。そのために必要とあればグレーな方法も取るとも。

 それに、せっかく平田が起つ気になったんだ。今しがた平田が告げた過去からDクラスの配属となったものの、元々はAクラスへの配属予定だったんだぞ。そのスペックは申し分ない。個人としても担任としても、可能な限りの後押しはするとも。

 平田以上に長く足踏みを続けていたが、今の私はかつての――高度育成高等学校生だった頃の熱意を取り戻したんでな。親友として、ライバルとして、これ以上知恵に情けない姿を見せるわけにはいかないんだよ」

 

 足を組み、ニヒルな笑みを浮かべて茶柱先生は宣言した。

 

「でだ、須藤。平田が起つ気になった理由は十分に伝わったと思うが、まだ何かあるか?」

「いや、ねえっす。『春樹の退学を無駄にしないため』ってんなら、返す言葉なんかありゃあしないっすよ。俺だって、その気持ちは同じなんすから……」

「そこに関しては俺も同じだな。……正直、俺と健は最後の最後で逃げちまった。あの時、春樹の奴が退学を避けられる可能性は低かった。俺と健はそれが分かってて、でも自分の手で春樹を退学に突き落とすのが嫌だったから、何だかんだと理由を付けて逃げちまったんだ。

 でもさ。苦えんだよ。『ダチだからこそ、自分の手で退学に突き落とすべきだったんじゃねえか?』って、答えの出ねえ質問に苦しめられてんだ。自分で自分を責めずにはいられねえんだよ。

 だからよ、俺と健は決めたんだ。俺たちはAクラスで卒業する。その事実を以て、春樹に報いる。

 春樹のダチはスゲえんだって。春樹が身を以て退学をいう事実を、その危機感を俺たちに伝えてくれたから、この結果があるんだって。アイツに、そう伝えてやりてえんだよ。

 自己満足って言われたらそれまでだけどよ。俺と健は『戦う理由』を定めたんだ」

 

 茶柱先生の質問に須藤くんが答えると、池くんもそれに続いた。

 決して喜ばしい称号じゃなかったけど、それでも、池くんと須藤くんは山内くんと合わせて『三バカ』と呼ばれていたんだ。そう呼ばれるほど頭が悪かったことは否定しないけど――その一方で、一纏めにされるほど仲が良かったのも事実なんだ。

 当然、山内くんの退学にショックを受けていない筈がない。自分たちで言った通り、()()()()()()()からこそ、僕以上に苦しみを受けていてもおかしくはない。

 

「理由は人それぞれだ。それをどうこう言うつもりはない。――それでも、『Aクラスでの卒業』という一点に関しては、クラス共通の目的とさせてもらう。

 それを達成するために、僕はこのクラスに『ランキング制度』を敷く!

 茶柱先生の協力を得て、それぞれの校則違反回数や実力の推移を元にクラス内ランキングを作成する。このランキングは月毎に入れ替わる。

 高い実力を示す。地力の向上に努力する。校則違反をしない。……こういった、ごく当たり前の行動を元にしてランクは変動する。

 たとえ高い実力を示しても、『上』を目指す努力が見られなければ、当然ながら先生によっては評価を下げるだろう。結果、ランクの下降が起こっても不思議はない。

 この、『上を目指す努力』は、部活動も含まれるから安心していい。中には、須藤くんのようにプロを目指している人もいるからね。そういう人にとっては、それに関わる技能を磨くのは当然のことだ。――しかし、だからといって全くクラスのことを省みないのでは、それはそれで評価が下がる原因となり得るから覚えておいてほしい。

 試験への対応策や何かについては、このランキングの上位十人の意見が最優先される。その一方で、下位十人には発言権はない。発言権を得たければ、ランクを上げる努力をしてくれ。

 これまで通り、皆の意見を尊重しながらのやり方だと、僕たちは『上』を目指せない。それだけの実力がない。()()()()でやってると、更なる退学者を出すことになる。――それを防ぐためには、個々人が意欲的に『実力の向上』に取り組み、努力するしかないんだ!」

 

 身振り手振りを加えて、僕は言葉を紡ぐ。正直に言ってガラじゃあないけど、効果的なのは否めない。

 

「高円寺くんに関しては、上位三人に位置している限り、クラスのことは気にしなくていい。先のような試験の場合、好きにリタイアしてくれて構わない。

 ハッキリ言って、君の実力は僕たちとは一線を隔している。無理に混ぜる方が危険だ。クラスのことを考慮すれば、最初から計算に入れない方がよほどいい。

 しかし、無条件に自由行動を許すのでは、クラスの皆が納得しない。それ故の必要経費として受け入れてほしい。

 出来る限り、君が基準としているだろう『強者の倫理』に基づいてみたんだけど、どうかな?」

 

 そして、忘れずに高円寺くんに対しても言及する。

 

「ふむ……。ま、いいだろう。その申し出を受けようじゃないか。私としても、今後雑音をシャットアウトできるのならそれに越したことはない。

 君も中々上手い落としどころに持っていくものだね、平田ボーイ」

 

 僅かに思案した高円寺くんは、それでも僕の提案を受け入れた。

 

「『クラス評価』とは言うけれど、『個人の評価が還元されてこその結果』だ。君が常にベスト3に入っているのなら、裏を返せばそれだけ()()()()()()()()()()ことになる。

 その事実がある以上、皆にも文句は言わせない。――文句を言う資格があるのは、君以上の順位に位置する者だけだ」

「いやいや、全く以てその通りだ。しかしながら、庶民の大半はごく当たり前のその理を理解していないから困りものだ。――そう。この世の中、弱い者に発言権などないのだよ」

 

 高円寺くんは、肩をすくめながら僕の言葉に同意した。

 

「さて。話が一段落したところで、ランキングを発表するぞ。これは夏休み突入時点で学校側が定めたデータに、先の無人島試験における私からの()()()()()()を加えたものになる。

 必然、それだけ普段から学校側にアピールし、それを学校側が評価していることになる。また、先の無人島試験での努力なり活躍なりを私に認められたということだ」

 

 そして、茶柱先生から現時点でのランキングが発表された。

 一位:平田洋介、二位:堀北鈴音、三位:松下千秋、四位:高円寺六助、五位:王美雨、六位:小野寺かや乃、七位:幸村輝彦、八位:池寛治、九位:軽井沢恵、十位:須藤健。……以上の十人がトップ10だ。

 正直に言えばホッとした。『これからは僕がこのクラスを率いる!』だのと言っておいて、ベスト5にも含まれていないようではお話にならないからね。それでも、一位とは思わなかったけど。

 僕と堀北さんを比較すると、身体能力はほぼ互角、学力は堀北さんが上、クラスメイトとの関わりは圧倒的に僕が上。僕と堀北さんとの順位を分けたのは、コミュニケーション能力と考えるべきだ。

 堀北さんと松下さんを比較すると、学力と身体能力は堀北さんが上、コミュニケーション能力は松下さんが圧倒的に上。これだけだと、松下さんの順位が上でもおかしくないのだけど……。

 しかし、高円寺くんは流石だ。先の無人島試験を初日でリタイアしたにも関わらず、四位に位置付けているのだから。それだけ、普段から高い実力を示している証拠と言える。先の試験をリタイアしていなければ、ベスト3に入っていても不思議はない。

 

「言うまでもないことだが、今回トップ10入りした連中だって短所・欠点は存在する。その上で、確かな実力を示したからこその結果と言える。

 付け加えると、うちのクラスは潜在能力(ポテンシャル)を評価された奴が多く配属されているから、現行の能力(スペック)は低い生徒の方が多いんだ。

 また、現状では『比較・参照データ』が少ないことも告げておく。トップ10入りしたからといって胡坐をかいていると、簡単にランクの変動が起こることを忘れるな」

 

 茶柱先生による補足が入る。

 

「ふむ……。ベスト3には含まれていなかったか……。仕方ない。帰りの試験では可能な限り君の意向に従うとしようじゃないか、平田ボーイ」

「そう言ってくれると助かるよ」

 

 良かった。どうにか予防線は張れたみたいだ。

 

「おい、帰りの試験ってどういうことだよ!?」

 

 須藤くんが吠えるが、高円寺くんはこれを無視。

 

「十中八九、これから試験があると高円寺くんは言っているのさ。これは僕も堀北さんも松下さんも同意見で、だから、このタイミングで表明したのもある」

「普通に考えて、この学校が一週間も生徒たちを無駄に遊ばせるわけがないからね」

「『上げて落とす』のは、昔から伝わる由緒正しい手法よ」

 

 否定しきれないのだろう。僕、松下さん、堀北さんの言葉に、皆はゲンナリとした表情を浮かべた。

 

「流石に試験内容までは想像しきれないけどね。舞台が船の中であることを鑑みると『宝探しゲーム』なんかは可能性がありそうだけど……」

「ま、可能性に過ぎないよね。部屋や席に困ることはないし、各々の『思考能力』を測る試験の可能性も否めない」

「無人島試験の内容を鑑みると、身体を動かす試験の可能性は低いと思うのだけどね」

 

 こんな感じだ。絞り込むには限度がある。結局は臨機応変に臨むしかない。

 ただ、そこで高円寺くんに好きに動かれると、それこそ試験がどうなるかなど分からない。『計算に含めない』とは言ったけど、それでも『予測値』を出したいのが正直なところなのだ。

 端からは『唯我独尊』や『傍若無人』に見える高円寺くんだけど、決してそうとは言い切れない。彼はあくまでも『強者の倫理』に従って動いているのだ。

 であればこそ、こちらも『強者の倫理』を前提にすれば、話の持っていき方次第で()()()()は抑制できる。……そう、ある程度だ。決して、『制御しきれる』とも『計算に組み込める』とも思ってはいけない。

 

「ま、そんなわけだからね。次の試験はトップ10の意向に従ってほしい」

「それは分かったけどさ。正直、池や須藤の奴がトップ10入りしている事実の方が驚きなんですけど? 一体どんな絡繰りなわけ?」

 

 僕の言葉に同意を示しつつ、池くんと須藤くんに対して言及したのは篠原さんだ。

 

「私から説明しよう。……篠原、お前がどう思っているかは知らないが、池は元々教師受けは非常に良いんだよ。

 ()()()()()()()()が玉に瑕ではあるが、コミュニケーション能力に関しては非常に高い評価を受けている。誰が相手でも気軽に話しかけに行ける面を含め、人間関係の構築は『非常に上手い』と言えるだろう。――もっとも、その()()()()()()()()故に評価が下げられている部分もあるのだがな……。

 加え、入学当初に比べると、徐々に、しかし着実に生活態度や成績にも向上が見られる。

 また、先の試験において、池はリーダー当てに大きく寄与した。真嶋の言葉を鑑みるに、アイツのクラスのリーダーを探ったのは池に他ならない。試験中、お前たちが身に着けていた腕時計のログデータが、その証明となる。

 真嶋クラスの連中が『リーダーを探られた』と想定するタイミング、付近にあったのは池のログデータだけだ。現実的に考えると難しい距離であるのは事実だが、結果的に真嶋クラスはリーダーを当てられている。

 裏を返せば、池は()()()()()()()()()()()()()()()という証明だ。

 須藤に関しては言うまでもないな。普段から確かな身体能力を示している。その事実は、他の評価が低いからといって消えるわけではない。それだけのことだ。

 篠原、お前はまず、その事実を認めることだ。負けん気は結構なことだが、キャンキャンと感情的に吠えるだけなら犬と同じだ。そんな輩は、この学校が求める実力者ではあり得ない。である以上、待ち受けるのは退学だ。

 お前たち全員に改めて言っておく。己の弱さを認め、変革できない生徒に先はない。Aクラスで卒業したいのなら、退学したくないのなら、死にもの狂いで努力することだ」

 

 言い捨て、茶柱先生は会議室を後にした。

 言っていることは間違いじゃないけど、篠原さんにとっては――他の生徒にとっても『苦い現実』だろう。

 

「厳しいけど、茶柱先生の言ったことは間違いじゃない。それは、山内くんが身を以て証明してくれた。……そうだろう?

 篠原さん。君が池くんや須藤くんに劣っていないと言うのなら、その証明方法は一つしかない。自分の実力を以て黙らせることだ。二人より上位にランクインすることだ。――それが出来ない内は、『負け犬の遠吠え』でしかない」

 

 意を決し、篠原さんに告げる。

 或いは、篠原さんは()()()()()ことを望んでいるのかもしれない。でも、それじゃダメなんだ。その結果に待ち受けるのは、()()()()()退()()に他ならないだろうから……。

 そして、それを防ごうとするなら、篠原さん自身が奮起するしかないんだ。そのためには、『苦い現実』であろうと受け止めるしかない。受け入れるしかない。それを怠れば、奮起しきれる筈もないのだから。

 篠原さんが良い意味で立ち直ることを期待して、僕もまた静かに会議室を後にするのだった。




決起した平田の、クラスメイトに対する宣言回ですね。
こういう場面も必要だと認識しています。

正直、高円寺六助というキャラは掴み切れないため、本作では基本的に『強者の倫理』を基準にして動きます。そこに『醜いものは嫌い』などといった感情が乗っかる形になります。
高円寺としては裁定が甘いかもしれませんが、原作の高円寺も決して『組織』を蔑ろにしているわけではないんですよね。『高円寺コンツェルン』を誇ってますし。
組織にしろ人にしろ、『名』と『実』を備えて初めて認める感じです。

高円寺にとって、今までのDクラスは『寄り合い所帯』に過ぎませんでした。
共通しての確固たる目的もなく、各々が好きに行動する。口ではどうこう言うものの、それを実行・実現するための『軸』がない。『一本芯』がない。
だから、自由気ままに動いていた面もあります。
ただ、そこに平田が起って『一本芯』を入れようとしています。『Aクラスでの卒業』という目的のために、『寄り合い所帯』という集団を『教室』という組織に変えようとしています。
高円寺としては、それを認めないわけにはいきません。少なくとも、最初から切り捨てるわけにはいきません。本当に機能するのか、取り敢えず様子見はします。
その上で、『クラス内で我儘するんなら、最低限これだけはしろ』と言われたら、高円寺の中で正当性はあります。
その条件が学校側が定める『クラス内実力者ランキング・トップ3』というのは、高円寺としても許容範囲としました。
実力者である高円寺にしてみれば、『トップ3でいいとは、私を馬鹿にしているのか?』という思いがある一方で、まだ本格的にクラスとして纏まるか分からないのも事実です。
そんな状況で、『一位』を維持するために普段から実力を披露・行使するのにバカらしさがあるのは否めません。正直、『自由に過ごしていいよ』という条件とでは釣り合いが取れません。
それ故の折り合い地点が『トップ3』であり、『おそらくは平田もそこまで考えて提案した』と判断したこともあり、高円寺も妥当としました。

今回羅列したトップ10には違和感があるかもしれませんが、そもそも原作でフィーチャーされている生徒が少ないんですよね。
その上で、現状はまだ無人島試験が終わったばかりであり、実力をアピールしきれていない生徒の方が大半です。
結果、須藤や幸村のように『短所や欠点が目立っていても、その一方で明確な強みを持っており、普段からそれをアピールできている生徒』と、平田のような『表向き特に欠点の見当たらない、総合的に優秀な生徒』がピックアップされています。 
本作で初期からフォローを入れている外村なんかは、未だ『強さの活かしどころ』がないため、結果的に学校に対して上手くアピールできていません。それ故トップ10には入りませんでした。
麻耶に波瑠加、三宅なんかも同様にアピール不足です。特に波瑠加と三宅は『一匹狼』気質なところがあるので、それが足を引っ張っている部分もあります。
かや乃がランクインしているのは、三宅に比べて『社交性がある』と判断したからであり、『水泳』という明確な強みをアピールする場があったからです。

感想・評価お願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。