ようこそ実力至上主義の教室へ ~ギフテッドとN.I.N.J.Aと……~ 作:山上真
「さて、どうしよっか?」
知恵に頼んで借り受けた会議室。
制限時間の23:30が刻一刻と迫る中、帆波は集まった面々の問いかけた。
担任の知恵の同席なくして会議室を借りることは出来ないため、どうしても21:20組が終わってからの使用となってしまう。当然、22:00は既に過ぎているため、話し合う時間は少ない。
「どうすると言われてもな……。これが試験で、干支になぞらえて十二グループで行われる以上、『優待者』は各クラスから均等に三人ずつ選出されると見ていい。そこが崩れると試験としての公平性も崩れてしまうから、最低限、そこは確実だろう。
逆に言えば、裏切りを働かれても、各クラスとも受けるダメージは-150CPで済む。――もっとも、だからといって積極的に裏切りを働きに行って外せば、ダメージはその程度では済まない。最悪は一つのクラスに-450CPが上乗せされることになり、『優待者』を当てられた分と合わせれば-600CPだ。
では、『裏切らないのか?』と問われると、首を傾げざるを得ない。自分たちのクラス以外の『優待者』を全て当てれば450CPを得ることが出来るからな。自分たちのクラスの『優待者』を全て当てられても300CPは得られる。他のクラスにそれを許すのは避けたい。となれば、妨害の意味でも当てにいかなければならない。
だがそうすると、今度は俺たちが多量のポイントを獲得することになりかねず、『無人島試験の采配は何だったんだ!?』という事態になりかねない。かといって、敢えて外しに行っても俺たちのダメージが蓄積するだけ。
結論、これをどうこうするのは俺たちだけだと不可能だ。どうこうしたいなら、他クラスと交渉する必要がある。
しかし、現状Aクラスの俺たちが話を持ち掛けて、他のクラスがどこまで同意してくれるかには疑問が残る。茶柱クラスは協力してくれるかもしれんが、真嶋クラスと坂上クラスになるとな……。相手の善意に期待するのは些か望み薄だ。
つまりは、『その上でなお話に乗らざるを得ない状況』を作らなければならないわけだ。――そんな方法がどこにある?」
帆波の問いに、難しい顔で神崎が答えた。
神崎の言っていることは尤もだった。十分なほど、説明された試験ルールに則った判断だ。
「あるよ」
「あるね」
「あるだろう」
しかしながら、極一部の面子――アズ、桔梗、清隆にとっては違った。
「……なに?」
神崎が呆気に取られた様子で訊き返した。
「今回の試験、『優待者』には法則がある。それを以てすれば、十分に脅しをかけることは可能だろう。そして、各クラスとも現時点で『優待者』を定めることは出来る。
帆波の『辰』グループを例に取るが、選抜されたメンバーのリストを、
言って、清隆は会議室内に用意されているホワイトボードに、リストを見ながら名前を書いていく。
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「そして、『辰』は干支では五番目に数えられる。結果、このグループの『優待者』は坂柳有栖ということになるんだ」
「そうか! 言葉では干支を表す発音をしながらプリントでは分かりやすい漢字に変えられているのは、俺たちの意識を干支から遠ざけるためか!」
「グループの説明が干支の順番通りじゃなかったのもそうだろうね」
「更に言えば、『辰』グループに龍園がいるのも勘繰りをさせるためでしょうね。いやまあ、リストのメンバーを見れば龍園がいること自体は不思議でもないんだけど、なにせ名字が『龍園』だもの。龍同士の繋がりから勘繰っちゃっても無理はないと思うわ」
清隆の説明に神崎が手を打てば、アズと桔梗が補足を入れた。
名字なり名前なりに、動物を表す文字が含まれている人物は割といる。流石に全部のグループでそんなことはないだろうが、龍園のように極一部のグループだけでも事例があれば、意味を見出そうと深読みしだしても無理はない。
今回の試験は『シンキング能力を問う』と明言されているのだから尚更だ。
そして、その人物が見事に『優待者』だった場合、法則に気付かない生徒は尚更騙されるだろう。
「……で、だけど、さっきの神崎の危惧は何もうちのクラスだけのものじゃないと思うのよね。
ダメージは最小限にしたい。ポイントは可能な限り独占したい。他のクラスに独占させたくない。……この先の展望も見据えると、相反する思考に囚われるのが必然よ。
それで中には吹っ切っちゃう人もいるでしょうけど、優秀であればあるほど『現実的な路線』に落ち着くでしょ。だって、まだまだ先は長いんだもの。一時的にトップに立つことが出来ても、それは以後の『集中攻撃』を招く要因になりかねない。戸塚に対して行われたような『盤外攻撃』だってあり得る。
そこら辺を踏まえれば、一発逆転を狙える範囲で牙を研ぐのが利口ってもんよ」
「あ~、そういや、うちのクラスが盤外攻撃を仕掛けられていないのは、俺たちからの『報復攻撃』を恐れているからって話だっけ……」
桔梗の言葉に柴田が手を打った。
関係ないようでいて、十分に関係がある。総保有PPという点で、星之宮クラスは他クラスにとって脅威なのだ。入学して僅か一ヶ月で他クラスから三人もスカウトした事実が、その恐れを助長する。
仮に坂上クラスが、戸塚にやったような挑発攻撃に出たとしよう。星之宮クラスの場合、その保有PPを用いてどんな報復に出るのか予想が付かないのだ。『普段おとなしい人物ほど、キレれば怖い』という言葉もある。それ故に、坂上クラスが星之宮クラスに対する挑発攻撃を控えている面があるのは否定できないだろう。
だが、それが通用するのはあくまでも星之宮クラスが相手だからだ。
「現状、星之宮クラスがトップに立っているのは他のクラスにとっても利点がある。うちのクラスは抑止力であり安全弁なのよ。
クラス逆転は狙いたいが、早々にうちのクラスがトップから転げ落ちても困る。しかしながら、過剰な一強状態も困る。あくまでも
だから、たぶん……」
桔梗の言葉を遮るように、会議室のドアがノックされた。
制限時間にはまだ余裕がある。クラスメイトは全員が集まっている。無論、現場監督として知恵も同席している。――である以上、ドアをノックしたのは『客人』と捉えるしかなかった。
「清隆、ボードの――もうやってたか……」
桔梗がホワイトボードを見れば、そこには有栖の名前しか残っていなかった。
ただ一つ、ボードに書かれた名前。実に意味深であり、他クラスを威圧するには打ってつけだ。
「どうぞー!」
代表して帆波が外へと声をかけた。
♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢
やって来たのは錚々たるメンバーだった。一言で言えば辰グループのメンバー。各クラスの代表格だ。
「考えることはどのクラスも一緒ってことなんだろうね。レンタルできる会議室はどこも埋まっていたよ。――おかげで、電話で呼びかける手間が省けた」
「……との言葉から分かるように、今回の発起人は平田くんでして。私と龍園くんも唐突に訪問を受けたわけです」
「平田単独の訪問であれば引き受ける理由もねえが、『
元からいた生徒たちが離席し、辰グループのために席を空けた。
「坂柳さんと龍園くんが言ったように、僕の方から今回の試験について皆に提案があるんだ。
ただ、それを言う前に今回の試験の前提条件について確認しておきたい。まずは言い出しっぺの僕から言わせてもらうよ。――今回の試験において、『優待者』は各クラスから均等に三人ずつが選ばれる」
「『優待者』当てに動かない場合、自クラスが受けるダメージは最小で-150CPとなる」
「『優待者』当てに動いた場合、最高で+450CPを得られるが――その反対、-450CPを負う可能性がある」
平田、有栖、龍園が順番に語り、その眼を帆波へと向けた。対外的に、星之宮クラスの代表は帆波だからだ。
「優待者の選出には法則がある」
帆波は吞まれることもなく落ち着いて答え、その上でホワイトボードに視線をやった。
自然、他の面々もホワイトボードに目を向けることになる。そして、そこに書かれているのは有栖の名前だ。その意味を見出すのは容易い。
「流石だね。正直に言えば、僕たちはまだ法則を見つけてはいない。それに、僕自身が起ったばかりだから統率に不安があるのも事実だ。
しかし、その上で敢えて言わせてもらう。――今回の試験、解答権を均等に分けないかい?
CPは大切だ。だがPPも大切だ。クラス内に指揮は行き届くのか? 勝手な行動を取りはしないか? どこかのクラスが一人勝ちしないか? ……今回の試験には、そういった諸々が付き纏う。それを和らげるための一手だね」
「なるほど。自クラスが『優待者』のグループの解答権を得れば、CPは得られずともマイナスもない。他のクラスに比べてPPを多く得られる分、収支としてはプラスになる」
「その一方で攻撃に出る気なら、自クラス以外が『優待者』のグループの解答権を得ればいい」
「或いは、統率が行き届かない部分を選択するのもありだね。どのクラスにだって、反対派と言うか少数派はいる筈だもの」
「ま、そういうことだね。一人勝ちは出来なくなるし制限も掛かるけど、どのクラスにもメリットは生まれることになる」
それぞれが納得した様子で意見を言えば、平田は肩をすくめて同意した。
「ですが、問題もありますよ。解答権を得たグループ以外が暴走した場合はどうするんです?」
「だからこその事前交渉さ。先生は匿名性を考慮すると言っていたけど、条件次第では教えてもらえる筈だ。
辰グループは、選出された生徒の顔ぶれからして、それぞれの担任が評価していることは間違いがないと思う。そんな面々が、事前に話し合って
それを個人的な思惑で妨げるなら、それは
である以上、『獅子身中の虫』に対処するのは当然のことだ。先生に提示を求めるにも、制裁を加えるにも、十分な条件じゃないかな?」
有栖の問いかけに、平田は冷静さを維持して答えた。
「ハッ! 今までからは考えられねえほど果断じゃねえか! 一体どうしたよ? 平田」
「起つと決めた以上、それに相応しい行動を取るだけさ。正直に言えば本意じゃないけど、優しいだけでも意味がない。それじゃあ待ち受けるのは退学だ。そのことは、山内くんが身を以て示してくれた。
その事実があるから、僕はこうして起っている。そして起ったからには、クラスを統率するからには、僕たちも本気で『Aクラスでの卒業』を目指す。それだけのことだよ」
龍園の問いかけにも、平田は微笑を崩さない。
「なら、まず私たちが詰めるべきは『制裁内容』になるかな? 極論、違反のペナルティも違反者に押し付けてしまえばいい。『逆らうならそれだけの覚悟を持て』。言ってしまえばそういうことだね」
ただ
「そういうことになる。――ただ、その上で一つだけ言わせてもらうなら、条件に退学を含めるのは避けたい」
「……ふむ。優しいと見るべきか、それとも厳しいと見るべきか、何とも判断に悩みますね」
「……だな。制裁内容にもよるが、場合によっちゃあ『生き地獄』を味わう目に遭うからな」
淡々と語る平田に、有栖も龍園も思案する。
そも、団結力の高い星之宮クラスを除けば、どのクラスだって統制が行き届いているとは言い難いのが実情なのだ。
有栖にしてみれば、葛城派に中立派閥。
龍園にしてみれば、時任を始めとする反抗的な生徒。
平田が齎した今回の提案は、それらを抑えるのに非常に都合が良いのも事実だった。
予め『代表同士で約定を結んだ』こと、その上で『違反があった場合には違反者にその責を全て負わせる』ことを周知すれば、たとえ違反者が出たとしても代表が責められることはない。皆無とはいかないだろうが、それ以上に違反者が責められることになる。
そして、この学校の理念は『将来の日本を背負って立つ次代の育成』だ。そこに通う生徒である以上、
入学してから漸く一学期が終わったばかりであることを鑑みれば、実際の実力に期待するのはまだ早い。それでも、理屈として、行動だけなら心掛け一つで変えられるのだから。
「最低限、『PPの全没収』は必要でしょうね。詫びとして、それを元々の解答権を持っていたクラスに譲渡するのは必須でしょう。
その上で、該当クラスに
たとえば、今後は体育祭なんかもあると思いますが、それぞれの種目で複数回は行われると思うんです。『借り一回』は『一種目全て』に丸々作用する。これであれば、
「……なるほどな。
んで、今回の違反者の行動は、
それでいて、俺たちはそいつを見せしめに支配力の向上を狙えるわけだ。最低限の得はある。
違反者にとっちゃあ悲惨だが、そもそも指示を裏切らなければいいだけのことだ」
極論、龍園の言う通りだ。
「じゃ、そういうことで! 星之宮先生、契約書の用意をお願いします」
「はいはい了解。……いや~、
言葉は明るく、それでいて表情には複雑さを表しつつ、知恵は契約の立会人を務めるのだった。
『小さな変化』が積み重なったが故の『大きな変化』と言えるでしょうね。
原作ではスペックの割にパッとしない感のある平田ですが、吹っ切れれば十分に高スペックを発動してくれると思います。
鈴音:判断力B-、協調性E
平田:判断力B+、協調性A-
龍園:判断力A、 協調性E-
帆波:判断力B、 協調性A-
有栖:判断力A、 協調性C+
葛城:判断力B、 協調性B-
一年生編のガイドブックによると、それぞれの判断力と協調性は上の通りです。
協調性が低いということは、『他人のことを考えられない』、或いは『他人に合わせる気がない』ということでもあり、それは『傲慢』や『独善』と言い換えることも出来ます。
優先すべきは『自分の考え』であり、それだけ果断な決断が出来ます。実行力があるかはさて置き、見事に鈴音や龍園に当て嵌まります。
有栖の協調性は平均よりもちょっとマシな程度です。これは他人を『駒』として上手く機能させるためと考えれば筋は通ります。
他方、平田、帆波、葛城は協調性が高い分、どうしても『周り』を意識した判断を下すことになります。
協調性が高い分だけそれは顕著になり、必然的に『己の実力』を発揮しきれない状況に陥りがちです。『周りに足を引っ張られる』わけですね。
もっとも、だからこそ人気が高くなりやすいですし、ハマった時は強いんですけど……。
前者は『アイツの判断に任せればいいや』という土壌を生みやすく、後者は『自分たちでアイツを支えよう!』という土壌を生みやすくなると思います。
分かりやすく言えば信長と家康ですね。
本作ではそれを下地に変化を加えているわけですが、前者は『多少丸くなった』、後者は『多少厳しくなった』程度に済ませているつもりです。
異論反論は認めますが、個人的にはそのつもりです。
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