ようこそ実力至上主義の教室へ ~ギフテッドとN.I.N.J.Aと……~   作:山上真

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第80話:二人の『時任』。

「裕也か……。何をしに来たんだ?」

 

 自らを訪ねてきた人物に対してそう返したのは、星之宮クラスに所属する男子――時任克己だった。

 その態度は冷淡というほどではないが、目の前の人物を決して歓迎していないのは明らかだった。

 とはいえ、ここは克己の自室というわけでもなく、万人の利用を前提としたカフェである。『偶然の遭遇』を避ける術はない。

 

「変わってねえなあ、克己。可能な限り、決まった時間にドリンクを口に運ぶそのルーチン。成長と共に運ぶドリンクも変わっていったが、そのスタンスだけは変わらねえ。――だから、ここに来れば会えると思った」

 

 克己にそう答えたのは、坂上クラスに所属する男子――時任裕也だった。

 この二人、同じ苗字が示す通りに親戚である。

 そして、事実裕也の言う通り、克己は朝のコーヒーを堪能している最中だった。

 

「言葉を理解していないのか? 俺は『何をしに来た?』と問うたんだが?」

 

 眉をひそめ、克己は再度訊き返した。

 

「んな邪見にすんなよ。親戚同士じゃねえか。……俺は龍園の奴を失脚させてえ。力を貸してくれねえか? そっちだって、龍園の失脚は望むところだろう?」

 

 最初はニヤニヤと、しかし次の瞬間には表情を改めて、裕也は克己に言った。

 

「……断る。龍園のやり方に思うところがあるのは事実だが、彼は彼なりに限られた手札を元に努力している。その点は認めなければならないし――そもそもとして、俺は彼の失脚を望んではいない。

 むしろ、俺は彼よりもお前の方に不満を抱いている。お前は余りにも他力本願過ぎる。彼に不平不満を抱くのは構わないが、それをどうにかしたいなら、他人に頼る前に、まずは自分で動いてみせろ」

「ッ……! 動いたさ! やったさ! それでどうにかならなかったから、こうして頼んでるんじゃねえか!」

 

 克己の言葉を受け入れられなかったのか、裕也は激昂する。

 

「動いた? ただの()()()()()()だろう? それを以て、お前は『動いた』と言うのか? だとするなら話にならん。少なくとも、彼の行動を理解するべく努めるのが先だろう。

 彼は比較的早期にこの学校のシステムに気付いた。しかし、クラスメイトの顔触れを見るに、『口で言ってもどうにもならん』と判断した。

 それとも、お前は確たる証拠もない状況で、口で言われるだけで行動を改めたか? 改めないだろう? 

 それ故の強行だ。時には、言論を尽くすよりも一つの行動の方が結果を示す場合もある。事実、お前たちのクラスは五月をCPを維持したまま迎えることが出来た。

 茶柱クラスのように、CPがゼロにまで落ち込んだクラスもあるんだ。その事実を踏まえれば、間違いなく彼の功績だろう。

 そのことに理解を示そうともせず、()()()()()()()()()と反発するだけ。……裕也、お前はどこまでガキなんだ? この学校に入学した以上、それに相応しい態度を身に着けろ。でなければ、待ち受けるのは退学だぞ?

 第一、龍園が失脚して、誰が代わりにお前たちのクラスを率いるんだ? そんな人材がいるのか? 俺の見る限り、とてもそうは思えんがな……」

 

 裕也の怒号を意に介さず、克己は淡々と口にした。

 

「今もそうだ。お前は俺の言葉の意味を考える素振りすら見せなかった。

 お前が()()の家を快く思っていないことは知っている。この御時世だからな、離れようとするなら止めはしない。――しかし、重いぞ。

 受け入れるなら受け入れるで、離れるなら離れるで、また別の()()を背負うことに間違いはない。そんな様で、お前は耐えられるのか?」

 

 克己と裕也の苗字。『時任』が持つ意味は、知る者ぞ知る一方で非常に重い。生まれた家自体は違えど、それでも『時任』の家に生まれ付いた瞬間、二人はその重みから逃げ切ることなど不可能になった。成長し、自我が形成されていくにつれ、その重みを肌で味わうことになった。

 その事実は、確かに二人を圧迫することになった。

 

「ッ……! じゃあ、どうしろってんだよ!? 家は()()()()()()()()()()()を押し付けようとしてくる! お前は受け入れたのかもしんねえが、俺は受け入れたくなんかねえんだよ! 我慢が出来ねえんだ!

 だから新たな選択肢を手に入れるためにこの学校に来たっていうのに、俺はまた押し付けられるのかよ! 唯々諾々と、文句も言わず、それに堪えろって言うのかよ!?」

「俺が受け入れた……? 何を言っているんだ、お前は? 家職をバカにするつもりはないが、最初から受け入れるつもりなんざ更々ない。仕事に加わるとしても、他の経験を積んだ後で十分だ。

 早い話。俺もお前と同様、()()()()()()を手に入れるべくここに来たんだ。

 正直に言えば、必要以上に()()()()()()を押し付けたがるクラスの雰囲気は俺も苦手だ。だが現実問題、組織社会で生きようと思ったら対人スキルがあるに越したことはない。

 だから、俺なりに対人スキルを磨くべく努力してきた。文字通り、弱音を吐く()に打ち()ってきたんだ。

 俺とお前の初期配属クラスの違いも、それに起因するものだろう。闇雲な努力をしていたのがお前、先を見据えた努力をしていたのが俺。学校側は、正しくその点を評価した」

 

 ()()。同じ重みを感じてきたにも拘らず、二人のスタンスは対極的だった。

 

「並行論だな……。昔はそうでなかった気もするが、いつからこうなってしまったのか……。

 俺はもう行くぞ。今の俺とお前が言葉を交わしてもどうにもならん。

 それと最後に忠告だ。今回の試験、各クラスは手を取り合った。各クラスの代表がそうした。学校もそれを認めた。

 それにより、各クラスは均等に三グループずつの解答権を得た。仮に、お前が『龍園が解答権を得たグループ』以外の所属で、お前が『解答権を得たクラス』の意向に逆らう行動をした場合、『所属クラスを裏切った』として、そのしわ寄せはお前に向かうことになる。――その点を冷静に考えることだ」

 

 言い捨て、克己はその場を後にした。

 後には、その背を睨みつける裕也の姿があった。

 

 ♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢

 

「……それで、そのもの言いたげな視線は何かな? 姫野さん」

 

 カフェを後にした克己は、根負けしたように視線を隣を歩く少女に向けた。

 

「気付いてくれてたようで何より」

「気付かない筈がないだろうに……。で、本当に用件は何?」

「ただの野次馬根性が一つ。通りがかったら、普段とは異なる態度を晒してるクラスメイトがいるんだ。普通に考えて、そりゃあ気になるだろうよ」

「その言葉に理解は示すけどね……。あっちが俺の素だよ。元々、人付き合いはそんなに得意じゃないんだ。ただ、現在の組織化社会じゃあそうも言ってられないからね。どうにか取り繕っているんだよ」

「なるほどなるほど……。んじゃ本題だけど、お前、私たちの『陰キャの集い』に加入しないか?」

「『陰キャの集い』って……。自虐かい、それ?」

「好きに受け取ってくれて構わないよ。ただ、あっちが素だっていうんなら、常に今の態度を取るのはきつくないか? 加入すれば、素の態度を出すことも可能になるぞ」

 

 目的地も決めぬまま、二人は言葉を交わしながら通路を歩く。幸いにして、二人はクラスメイトであり、同じグループであった。一緒に歩いていても、特に疑問を持たれることはない。

 

「魅力的な提案ではあるけどね。俺が素の態度を出して、佐倉さんは大丈夫なのかい? 見てたなら分かると思うけど、俺、素の口調は割と冷たいよ」

「あ~、その問題があったか……」

 

 克己の言葉に、ユキは顎に手を当てて考え込む。

 

「うん、考えても分からん。実際に愛里の意見も聞いてみるとしよう」

「やれやれ……。僕も付き合う流れかい?」

「当然。お前がいなきゃどうにもならんだろ」

「はぁ……」

 

 ユキが端末を操作する。おそらく、愛里とやり取りでもしているのだろう。

 溜息を吐き、克己はユキに同行する。

 この場で断るのは簡単だが、そのうちに蒸し返されるのは分かりきっている。先述の通り、提案内容に魅力がないわけではない。そういった()()()()()()を加味した上での選択だった。

 

「……うん?」

 

 そんな中、不意に克己が足を止めた。

 

「どうした?」

 

 気付かず、そのまま数歩足を進めたユキが振り返った。

 

「いや。理由を告げるのは難しいんだが、このルートを進むのは止めた方がいい。別のルートで行くことをお勧めするよ」

 

 屋上から待ち合わせ場所である一階への道のりはいくつかあるが、大きく分ければ『階段を使う』か、『エレベーターを使う』に分けられる。そのエレベーターや階段にしても、設置されているのは一ヶ所だけではない。

 そんな最中での言葉だった。当然、ユキは怪訝な様子を隠さない。

 

「いや。そりゃお前、難しいだろう。たかがルートではあるけど、理由も分からないままお前の提案に従うほど、私たちの仲は良くないだろう?」

「そう言われたら返す言葉はないのだけどね……。まあ、理由を告げる分には構わないんだが、関係性が低いからこそ、受け入れてもらえる可能性が低い。その結果、ダメージを負うのはこっちの方だ」

「ふ~ん。言わんとすることは分かるが……。試しに言ってみる気は?」

「はぁ……。そうなると思ったよ。

 時任の家は、代々『予知能力者』や高レベルの『予測・演算能力』を持つ者が生まれやすい家系でね。名字の『時任』もそれ故だ。ご先祖様が、文字通り、当時の帝に()()()()()()のさ。それが、うちの家系の誇りでもある。生まれた家は違うけど、さっきの裕也も同じ家系だね。

 希少性に関しては予知>予測・演算>無能力となるけど、無能力者が後天的に能力に開花することもないではない。

 しかし、俺は()()()生まれ、裕也は()()()()生まれた。『歴史のある家』ってのは、それはそれで厄介だ。結果として、俺とアイツは異なる苦しみを帯びて過ごすことになった……」

 

 遠い目で、どことも知れぬ場所を見ながら克己が言う。

 ユキにはその理由が分かった。正直に言って眉唾物だ。ロマンはあるが、現実的に考えれば受け入れ難いだろう。

 

「そして、俺の予知能力が告げている。『こっちの道を進めば面倒なことになる』ってな……。

 厄介なのは、俺の予知は絶対ではなく精度にばらつきがあり、発動はランダム。自分自身で制御しきれているわけでもない。それでいて、努力次第で結果は変えられるんだ。

 それは喜ばしいことではあるが、事情を知らぬ者からは理解を得られず忌避されやすい」

 

 溜息を吐きつつ、克己はざっくりと語った。

 ユキは語られなかった事情を何となく察した。

 第三者に対して予知能力が働いた際のことを思う。――本人にとっては『善意の忠告』。しかし、事情を知らぬ者にとってはどうか。普通に気味悪がるのではないだろうか。

 

「……なるほど。今はどうかしらんが、昔の権力者は吉兆を占っていたらしいからな。当然、それを生業とし誇りとした家だってあるだろうし、その系譜が今の時代にまで残っていたとしても不思議はない。

 ちなみに、具体的にどう『面倒』なのか分かったりは?」

 

 僅かに表情を顰め、ユキは納得したように頷いた。その上で問いかける。

 ユキの問いかけに、克己は肩をすくめて応えた。本人の言う通り、そこまで万能の能力ではないようだ。

 

「……ちなみに、生命の危険なんてことは?」

「それはないと思う。それほどの面倒事なら、もっとガンガンと予知が警告してくる筈だからな……。

 ()()ってのは、受け取り方次第でどうとでも()()が変わるからでもある。

 言ってみれば、ゲームの『連続クエスト』みたいなものさ。関わり続ければ内容も面倒で厄介なものになるが、早期に関わるのを止めれば、或いは最初から関わり合いにならなければ、厄介さは然程でもない」

 

 恐る恐ると問われたユキの言葉に、克己は即答した。そこら辺は経験則で分かっている。

 

「こっちのルートを進んだ場合、間違いなく『面倒事』は起こる。――が、確定しているのはそれだけで、私たちの受け取り方や対応次第で、厄介さは如何様にも変化するってことか……」

 

 顎に手を当てながら、ユキは何度か頷いた。

 

「じゃあ、こっちに行ってみるとするか。私がこれからもお前と付き合いを深めるなら、お前が『陰キャの集い』に参加するのなら、実際に確認しておいて損はない。

 そも、ただでさえ『クラスメイト』という接点があるわけだしな。それを踏まえれば、否応なしに巻き込まれることもあるだろうさ。ある意味、『予行練習』には打ってつけだ」

 

 ユキの言うことは道理だった。少なくとも、理屈には適っている。

 

「そっちがそれでいいなら、俺の方も構わないけどね。本音を言えば、付き合いが続く方を望むよ。俺としても、()()()()()()()友人は欲しいからね。今のままじゃあ、素をぶつけられるのは裕也だけだ」

 

 そして、克己とユキは()()()()()()()()()ルートを進むことを選んだ。

 コツ、コツ……。

 会話はなく、靴の音だけが静かに鳴り響く。

 ちなみにだが、ユキが選んだのは階段を使って屋上デッキから五階に下り、そこから客室階専用のエレベーターを使って二階まで下り、再び階段を使って一階へと下りるルートだ。手間ではあるが、それ故に人気は少ない。『急がば回れ』を実行するには実に妥当なルートと言えた。

 予定通りに五階でエレベーターに乗り、二階のボタンを押す。後はエレベーターが停止したら降りるだけ――なのだが、二人は口を半開きにしてエレベーター内に留まっていた。

 

「……なるほど。こりゃあ確かに面倒だ」

 

 漸くにエレベータから降りたところで、ユキが重々しく口を開いた。

 

「右に同じく」

 

 僅かに一瞬だった。それに遠目だった。だから、見間違いの可能性の方が大きい。確信も確証もない。

 それでも、エレベーターのドアが開いた先、彼方を歩いていた人物には確かに見覚えがあった。――そして、普通に考えてここにいていい人物ではない。

 山内春樹。元茶柱クラスの『三バカ』の一人で、期末試験で赤点を取り、既に退学になった筈の生徒。

 二人が目にしたのは、確かにその人物だった。

 

「……どうする?」

「……見ない振りをしとこう。確かに興味はあるが、元々交流があったわけでもないからな。敢えて『藪をつついて蛇を出す』必要もないだろう」

 

 克己の問いに、ユキは首を横に振って答えた。

 既に退学になった筈の山内がこの()()()()にいる。気にはなるし、理由を考え出したらキリがない。()()()()()()という思いが無くはない。――それでも、()()()()()()()()に関わってまで知りたいかと言われたら、間違いなく答えは否だった。

 

「それが妥当か……」

 

 二人は顔を見合わせて頷いた。『君子、危うきに近寄らず』である。

 二人は『見間違い』と片付けて、待ち合わせ場所へと足を向けるのだった。 




まあ仕方のないことではあるんですが、『よう実』って焦点当てられている生徒が少ないんですよね。
名前だけの登場だったり、実際に登場しても描写がほんの少しだったり、原作小説読んでるだけだとビジュアルの分からないキャラも多いです。
それでいて、話を盛り上げるためなんでしょうけど、焦点を当てられた生徒ほど退学していくという……。
いやまあ、モブ生徒が退学したところで読者にとっては驚きも何もないので、その理屈は分かるんですけどね。

そんな事情もあって、話の都合上、半オリキャラと化した、せざるを得なかった時任克己の登場です。
最近はあまり目立ってませんが、あくまでも本作の主人公はアズとフォルテです。その上で、どちらかと言えばアズの方です。
で、そんな主人公の所属が星之宮クラスである以上、原作で目立った描写のあるキャラだけで回すには限度があります。
他クラスからキャラを引っ張ってきたのは、それが一因でもあります。結果として、それが克己を起用することにもなりましたが……。

いや、せっかく『時任裕也と親戚』って設定があるんだから、もっと焦点を当てられても良かったと思います。
まあ、原作で目立ってないから、自由に改変できる部分も大きいんですが……。

本作の克己は成長途上であり、持って生まれた『力』に振り回される部分も少なくはないですが、シッカリと強キャラの一人でもあります。
克己という名前で弱いのは個人的に許せません。エターナル!
スパロボシリーズとクロスした以上、『予知能力者』は欠かせませんし、その点で非常に都合のいい名前のキャラです。

『陰キャの集い』は、姫野ユキが結成した『素が閉鎖的な生徒の集まり』です。グループ内では『素の自分』を曝け出すことが推奨されます。
実情がどうあれ、グループメンバーの過半数が『陰キャ』だと認定すれば、加入条件を満たします。
現時点のメンバーは、姫野ユキ、佐倉愛里、綾小路清隆の三人です。そこに克己がスカウトされたわけですね。
結成時点からアズと神崎がスカウト候補者に挙げられていますが、高確率で桔梗やら帆波やら柴田やらが引っ付いてきそうなので、スカウトが見送られている実情があります。
『私たちは陰キャだから、陽の者は必要以上に近付くな!』がスローガンです。
善性の高い生徒が集まった星之宮クラスだからこそ受け入れられており、クラスメイトからは暖かく見守られています。

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