ようこそ実力至上主義の教室へ ~ギフテッドとN.I.N.J.Aと……~   作:山上真

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第82話:『陰キャの集い』。

 山内に関しては、学校側からの『そっくりさんだった』という発表を以て解決を見た。教師も困惑、ないしは驚愕していたのを目撃した生徒も多かったし、こればかりは()を疑うこともなくすんなりと信じられた。――一部の生徒を除いては。

 

「御自慢の予知能力だかで警戒心を働かせた当人としてはどう思う?」

「随分と嫌味な物言いだな、姫野。――率直に言えば否だ。本当にそっくりさんであれば、俺の予知能力が働く理由もない。そっくりさんと関わり合いになったところで、所詮はこの船の中だけのこと。そこまでの面倒事にはならない」

「あ~、やっぱそうなるのか……。個人的には外れてほしかったんだが……」

「まあ、そこまで気にする必要もないだろう。確かに俺たちが目撃したのは()()()()()()()()だった可能性もあるが、俺たちは()()()()で片付けた。その後は学校側から『そっくりさんだった』と正式な発表があった。面倒事に発展する可能性は低い」

「ない――とは断言しないんだな?」

「出来るわけがない。世の中、何がどう繋がっているのかも分からないんだからな。早期に降りかかる面倒事を回避できただけで、結局は遅かれ早かれな可能性は否定できない」

 

 堂々と危険度スレスレの会話をしてる二人だが、それだけの安心感があって行っているのも事実だった。何せ場所が混浴である。正確には混浴に併設されたサウナだ。

 スパは利用しても、混浴まで利用する生徒は少ない。興味はあっても、実行段階で足を止める生徒の方が大半だ。まず間違いなく羞恥心が邪魔をする。その上で入ってくる生徒もいないではないだろうが、異性の姿がないと分かれば、少し待っても来なければ、見切りを付けてサッサと退散するのがオチだ。

 二人の知る限りでは、堂々と混浴を利用しているのは『綾小路ハーレム』ぐらいである。そして件の清隆も、今現在は愛里と二人で混浴部分の風呂を楽しんでいる。サウナにやってくればすぐに分かる。

 

「微妙に安心できないセリフをどうも。――私はそろそろ戻るけど、アンタはどうする?」

「俺も戻る。サウナは好きな部類だが、長居する方ではない」

 

 二人は揃ってサウナを出た。廊下を歩き、浴場部分へと向かう。

 愛里も清隆もゆったりと風呂に浸かっていた。

 

「戻ってきたか。じゃあ、今度はオレがサウナに行ってくる」

「おう。愛里を見ていてくれてありがとうよ」

「大したことじゃない。個人的には役得でもあったからな」

 

 そんなやり取りの後、入れ違いで清隆がサウナへと向かった。

 ユキと克己がサウナに向かおうとした際、本来なら清隆も同行しようとしたのである。それを、愛里をダシにして断ったのだ。

 愛里は男性が苦手だ。正確には、最初から好色な視線を向けてくる男性が苦手なのだ。程度や関係性次第では許容できるが、グラビアアイドル『雫』を前に好色を隠せる男性の方が少ない。必然、最初の一歩で『受け入れ拒否』される男の方が大半だ。

 他人の目を過剰に恐れ、それをどうにかしたくてグラビアアイドルになったまでは良かったが、結果として、余計に他人の目を恐れるようになってしまったのが愛里だった。

 それでも、『雫』として()()()()()()に入れば過剰に気にしなくはなるようだが、その分、素の愛里でいる時は()()()()が激しくなるのだから難儀なものだ。

 星之宮クラスの雰囲気もあって、素のままでも安定的に接することが出来る相手が増えたのは事実だが、流石に混浴まで許容できる相手は少ない。――その数少ない相手が、清隆であり克己だった。

 愛里は清隆に対しては()()()()に救われている。徐々に無機質ではなくなってきているが、最初がそうだったことは間違いない。そこからの積み重ねは、それだけ清隆を受け入れるに至っていた。

 克己に対しては、『過剰に他者を恐れる』ことへの共感を抱いている。受け止めはするが、積極的に自分からは近付かない。最後の一線が堅いと言うべきか。そういう点ではアズと共通するだろう。

 

「お帰り~。サウナはどうだった?」

「ああ。普通に気持ちよかったぞ」

「そっか。私も行ってこよっかな……?」

「おう。行け行け。正直、アンタは個人の戦闘能力がないんだから、護衛を兼ねて逆ハーを形成するぐらいが丁度いいよ。――でなきゃ、護身術を学ぶかだな」

「護身術かあ……。実際に学ぶとなったらユキちゃんも一緒にやってくれる?」

 

 愛里は逆ハー云々にはサラリとシカトして、護身術に興味を示した。

 今現在はグラドル活動を休止してこの学校に通っているが、就職難のこの御時世、必要も無いのに就いた職を辞める必要もない。然るに、卒業なり退学なりでこの学校を去った後には、再びグラドル活動を再開することだろう。

 しかし、グラドルなんていつまでもやれるものじゃない。有体に言えば若い内が旬なのだ。次第に方向性をシフトしていくことになるだろう。――或いは、『上』の意向により問答無用で切られるか。

 シビアと言えばシビアだが、現実的と言えば現実的な見方だ。

 学校に関しては愛里本人の意向もあるから所属事務所が口出しするのが難しいのは事実だが、それでも、『高度育成高等学校』の謳い文句を踏まえれば、事務所にとっては損の方が大きいのだ。積極的に後押しして漸く人気が出始めたグラビアアイドルが、三年間も使えなくなるなんてダメージがあるに決まっているのだから。

 そも、芸能人なんてものは『人気』がモノを言う社会だ。どれだけ実力があっても、人気が得られなければ活躍など出来やしない。まして、三年間も表立った活動がないとなれば、今現在はブログなどで応援しているファンもそっぽを向きかねない。

 そうなればどうなるか? 『一からの再スタート』と言うほど酷くはないが、中途半端に人気を得た分、逆に厳しくなる可能性も否めない。『またやってるよ』、『引退したんじゃなかったっけ……?』などといった蔑みの声とも無縁ではいられない筈だ。

 それを承知の上で、所属事務所がなおも積極的に後押しするかは怪しい部分があるのは否めない。

 成長して戻ってくればそれで是。成長してなければ()()()すればいいだけ。……それが事務所の本音だろう。所属アイドルを()()として扱う都合上、仕方のない考え方ではある。

 そしてそのことを踏まえれば、()()()()()()()()()()ためにも何かしらスキルを身に着けておいて損はないのが事実である。

 

「私もか? まあいいけど……。最低限の護身能力を身に着けておいて損がないのも事実だしな」

「助かるよ~。何て言うかね、クラス移籍は確かに私の状況を好転させたし、着実に成長している自信はあるんだけど、それによって今までは考えられなかった部分にまで思考を働かせるようになっちゃって……。端的に言って鬱になりやすい」

「いや、鬱って……」

「ホントだよ~。確かに思考能力は上昇したわけだけど、学力然り身体能力然り、実能力に関してはマダマダなわけじゃん? 雫としての人気度と知名度を私から取ったら、『何が残る?』ってのが正直なところじゃん?

 これで大した成長もせずに職場復帰した暁には、地下アイドルからのAVデビューだって視野に入れなきゃならない状況だよ。所属事務所にしてみれば、損切りするにしたってこれまでに後押しした分の損失を少しでも回収できるに越したことはないんだからさ。単にグラドルを辞めさせられるだけなら、十分に恩情だよ」

 

 ズウンと肩を落としながらの愛里の言葉を、しかしユキも克己も否定はできなかった。僅かな期間ではあるが、『騙し討ち上等』・『グレースタイルも許可』の『高度育成高等学校』で生活すればこそ、『あり得る』としか思えなかったのだ。

 

「確かに……。こうしてお前がこの学校に通っている間、事務所は『利益を生み出す機会』を延々と逃し続けているわけだからな。場合によっては、それすらもお前に被せてくれる可能性は否定できないか……」

「んで、幸か不幸か愛里は十分に巨乳だからなあ……。AV女優に堕としても、客が付く可能性は十分にある。『元グラドル雫、AV女優に転向!』なんて謳い文句が付けば尚更か……」

「そうなの……。考えまいとすればするほど、ついつい考えちゃって……。これはもう、何か()()()()()()()でも見付ければ、考えなくて済むようになるかなって……」

 

 克己とユキの言葉に愛里は頷いた。

 

「或いは、最悪の事態が起こっても大丈夫なように、今のうちに()()()()()をしておくか……か。

 ぶっちゃけた話、セックスの経験がないから、過剰に悪く考え過ぎちまってる部分もないわけではないだろうしな……」

 

 愛里の考えに理解を示しつつも、ユキは別の意見を提示した。

 自分が陰キャであることを否定はしないが、それでも高校生である。性行為に関して一端の興味があるのは否定できなかった。

 そしてこの世の中、『知らないから過剰に恐れる』部分があるのは間違いではない。

 逆説的に考えれば、一度セックスを経験してしまえば、『AV転向』を過剰に恐れる可能性が無くなる可能性は存在する。『誰と』という問題は変わらずに付き纏うかもしれないが、少なくとも()()()()()()に対する恐怖感や嫌悪感が薄まる可能性は否定できない。

 

「その考えに一理あるのは認めるが、初体験が最悪だと、よっぽど悪く考えるようになってしまうんじゃないか?」

 

 ユキの意見を否定はせず、それでも難を示したのは克己だった。

 彼もまた性経験はないが、それでも健全な男子である。そちらの方面に興味がないわけではない。

 そして、性描写に厳しく、それでいて()()が軽くなってきているのが昨今の風潮で、一般コミックやライトノベルでも普通に扱われるようになってきているのが現実だ。

 乳首の描写には規制をかける一方で、『セックスした』ことを如実に匂わせる一般作品は少なくない。しかも学生同士の作品も多い。

 何ならライトノベルの場合、絵ではなく文章がメインだからか、手扱きやフェラチオなどの前戯であれば普通に描写されている作品もある。

 だからこそ、『周りからも()()()()だと認識されていたカップルが、()()()()()()()()()()()()』様を描いた作品もないではない。方向性としては『悲恋』になるのだろう。

 克己自身は『面白いものは面白い』という認識だから、昔から少年・少女の括りに囚われずコミックを読んできたし、ライトノベルに手を出すようになってからもそれは同様だ。

 そして、それが克己のコミュニケーション能力を鍛える一助になったのは間違いない事実だった。

『好きな作品を介しての交流に男も女も関係ない』ということなのだろう。Aという作品についての会話から方向性や作者繋がりで別の作品に話が移り、それがまた話と人の輪を広げる。……克己のコミュニケーション能力はそうやって鍛えられたものだし、件の作品もそうやって紹介された物だ。

 克己個人の認識としては、悲恋なんかを扱うのは女性向け作品に多いように思える。『連載の中の一部』という形であれば男性向けでもなくはないが、『読み切り』であれば女性向けに多い印象だ。――あくまでも克己個人の認識としては、だが。

 

「あ~、その意見も否定はできないか……」

 

 克己の意見に、ユキは難しい表情で頷いた。

 

「いや、あの、二人とも? 私から話を振っておいて何だけど、私がセックスする方向性で話を進めないでほしいんだけど……。いや、決してセックスに興味がないわけじゃないんだけどね。私にはまだ早いかなぁ~って……」

 

 真面目な顔で意見を出し合う二人に、流石に愛里がツッコミを入れた。

 まだ経験もしてないのに、他人のセックスを肴に盛り上がらないでほしい。――紛うことなき愛里の本音であった。

 

「って言うか、二人はどうなの? いつの間にか距離縮めてるし、さっきも一緒にサウナ行ってたし……」

 

 故に、愛里はちょっとした反撃を試みた。弄られっぱなしは御免である。

 

「私とコイツ……? いや、どうなんだろうな……? ありと言えばありな気もするし、なしと言えばなしな気もする」

「まあ、俺自身はコイツに誘われて加入したばかりだが、揃いも揃って『陰キャの集い』とやらのメンバーだからな。普通に考えて、()()()()()()が成就するとは思えんわけだ。そもそも、存在するかも分からんのが本音だな。

 それでも、俺も健全な高校生男子の自覚はあるからな。性行為に興味がないわけではないし、『将来的には誰かと結婚するんだろうな……』と漠然と考えたりはする。

 だが、逆に言えば、それで想像する相手も特にいないわけだ。強いて言わせてもらうなら、姫野でも構わないし、佐倉でも構わない。――しかし、一之瀬や網倉は勘弁と言ったところか。

 早い話、『自分が楽に接することが可能な相手なら誰でもいい』ってことになるんだろうな……」

「たぶん、私もそうなるんだろうな。『自分を偽ってまで無理に相手に合わせたくない』のが()()で、けど、そうしないと回らないのが『組織化社会』の()()で、だからこそ、寄り添うなら『素の態度で気楽に接せる相手』ってことになるんだと思う。

 ただそれは、その条件を満たしている相手であれば()()()()()ってことになる。

 その点で言えば、セックスを含むカレカノ関係の相手としてコイツと綾小路は候補に挙がるわけだが――現実的に考えて綾小路は無しだな。

 私個人としては、特にハーレムに関して思うところはない。『ハーレム作るならご自由にどうぞ』ってのが本音だ。だから、綾小路がハーレムを形成し始めた後も、変わらず交流できてる側面があるのは否めない。

 だけど、私までもがハーレムに組み込まれるってなったら流石に却下だ。綾小路個人と付き合う分には構わないが、ハーレムメンバーとまで交流を持つのは御免だ。率直に言って面倒臭い」

 

 ちょっと揶揄うつもりだった愛里の思惑を余所に、ユキと克己は真面目に考え込んだ。

 

「付け加えるなら、それも現時点での判断だからな。互いが互いのことで知ることも少なく、『一緒にいて気楽』という一点に基づいた判断だ。

 そして、これから次第ではどうなるかも分からんのが現実だ。互いを知ることで関係が深まる可能性もあれば、アッサリと離れる可能性もある。

 そう認識してしまえるが故に、敢えて『居心地のいい距離』から動こうとも思えない。

 その一方で、カレカノ関係やセックスに夢を見る部分がないわけでもないから、その相手として真っ先に思い浮かべる相手が限られてしまう。

 或いは、このもどかしさも青春というやつなのかもしれないな……」

「所詮はこの学校に入ってから知り合った同士だからな。()は存在するが、自信を持って行動できるほどの()()には至っていないのが正直なところだ。

 正味な話、一時の欲に溺れて失うには勿体ない相手ってことだな。外向けの仮面を着けずに交流できる相手は気楽だよ。

 好きな作品について意見交換できるだけで俺は良かったのに、輪が広がるにつれて、俺の口調や態度に苦言を呈してくる奴も増えていったからな。組織化社会を踏まえれば決して間違っているわけではないし、善意によるものだったから、面倒ではあったが必要経費として受け入れた。その結果、今に至っている。

 それで星之宮クラスに初期配属された部分もあるだろうから異を唱えるばかりじゃないが、それでも、息苦しい部分があるのは否めない。『素の態度で気楽に接せる相手以外と、無理に付き合う必要はあるのか……?』と、自問することも少なくはない」

 

 二人の言葉を聞けば、愛里も決して否定はできなかった。

 佐倉愛里と雫は同一人物だ。それは間違いない。だが、どちらが本物かと言えば佐倉愛里の方だ。愛里にとって、雫はあくまでも『外向けの仮面』に過ぎない。

 しかしながら、自己改革として『グラビアアイドル』なんてものを選択してしまったが故に、世間一般の大衆にとっては雫の方が本物になっている。

 その差異が愛里を苦しめていることに間違いはない。愛里自身の根が善良であるが故に、『ファンを騙している』なんて自己否定に苦しめられることも少なくはない。

 だからこそ、グラビアアイドルとしての活動から離れ、佐倉愛里として気楽に接せる相手が出来たこの状況に救われているのは事実だ。

 一般に『社交性』と表現される、()()の必要性。

 それが齎す、()()との落差。

 程度は違えど、それに苦しめられているのが三人の『現実』だった。

 だからこそ、セックスだの何だのと濃い話題を気楽に話せるこの関係が、非常に貴重で気楽なのも間違いのない『現実』だった。 




克己は主にユキや愛里と行動することが増えます。

本作の愛里は、原作と違って清隆への恋心が育ったわけでもなければ、身を置くクラスも違いますので、思考が回される部分も必然的に異なります。
である以上、本文中で描写したことを考えずにはいられないだろうなあ……と。
三年って短いようで長いですからね。ブログへの写真投稿だけでどこまでファンを繋ぎ留められるかってなったら普通に疑問が残ります。
猥談のようで、真面目に『将来設計』についての話し合いです。高校一年でも、考える人は考えるでしょうし……。
まあ、それを話し合ってる場所がおかしいですが、時間も性差も気にしないでいられる関係って貴重ですよね。

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