ようこそ実力至上主義の教室へ ~ギフテッドとN.I.N.J.Aと……~ 作:山上真
ことわざに、『思い立ったが吉日』というものがある。
何かを始めようと思った瞬間こそが最適なタイミングであり、先延ばしせずに即座に行動することが、成功や良い結果を引き寄せる。そういう意味合いを持つ。
然るに、『護身術を学ぼう』と考えた愛里とユキは早速行動に移し、清隆と克己もそれに付き合っていた。
好都合なことに、船内には身体を動かすための格技場がある。案内によると、生徒が自由に利用可能なフリースペースと、実際に師範から流派を教えてもらえる、言わば『体験塾』の二つに分かれているらしい。
なお、体験塾の方は学校の敷地内でも門を構えているとのこと。船の中に出張してきているのは、門下生獲得のための営業努力と言えるだろう。ここで教わって興味を持ってくれれば、学校に帰った後で入門してくれるかもしれない。言ってしまえばそういうことだ。
そういう理由もあって、もちろん一行の目的は体験塾の方だが、念のためにフリースペースの方も覗いておくことにした。
自発的に身体を動かしている生徒がいて、それを知っておけば、後々に何かしらの役に立つかもしれない。そういう考えがないでもない。
フリースペースも体験塾も、一室当たりを狭くすることで部屋数を稼いでいるようだ。勧誘対象は乗船している一年生だけで、入門してくれれば御の字という実情があるのだから、効率的と言えば効率的だろう。
「……あら? 綾小路くんに佐倉さんに……貴方たちも格技場に用事? でも御免なさい。見ての通り、この部屋は今私たちが使っているの」
室内にいたのは鈴音だった。ドアが開いた音に気付いてだろう。振り返ってそんなことを言ってくる。
見やれば、他に幸村と外村の姿もあった。
三人が三人とも、無人島で見慣れた体育着姿だ。
「オレと時任は付き添いの面が強いがな。佐倉と姫野が護身術を学ぼうと考えているらしい」
「星之宮クラスの時任克己だ。無人島試験ではクラス同士一緒に行動していたが、面と向かって言葉を交わすのは初めてだな。坂上クラスには親戚で同じ苗字の時任裕也がいるから、俺のことは名前で呼んでくれて構わない」
「姫野ユキだ。この四人で『陰キャの集い』を形成している」
清隆が答え、克己とユキが名乗る横、愛里は軽く頭を下げるだけで済ませた。元クラスメイトというのも一因だろう。改まって自己紹介する必要もない。言ってしまえばそういうことだ。
「陰キャの集い……? 何なのそれは?」
「必要以上の人付き合いがウゼえ、面倒臭え。そんな連中の集まりだな。……少なくとも、私の定義としてはそんなとこだ」
「素の自分を曝け出せる場所。そう考えてもいいかもしれないな。俺はそう認識している」
「友達は欲しいですけど、人付き合い、苦手なので……」
「成り行きで所属することになった」
当然の如く放たれた鈴音の質問に、四人が順に答えた。
「そう……。何となく分かったわ」
それを受け、鈴音はそう答えるのが精一杯だった。言葉通り、何となくしか分からない。しかし、何となくは分かった。
「そういうお前たちは?」
「格技場だからと言って、必ずしも格闘技だけを行わなければならない理由はないでしょう? 彼らが『身体を鍛えたい』って言うから付き合ってるのよ」
「久しぶりだな、綾小路に佐倉。そして、時任と姫野さんは初めまして。幸村輝彦という。
僕は学力には自信があるが、運動の方はそうではないんでな。しかしながら、この学校で過ごす以上、先々を見据えれば鍛えておいて損はない。そんなわけで、同じクラスの誼で堀北に教師役をお願いした次第だ」
「拙者も同じようなものでござるな。……あ、拙者は外村秀雄と申すでござる。コンピュータ関連とアニメ・ゲーム系のサブカル知識、そこから転じて一部の科目には自信があるでござるが、それ以外はサッパリでござってな」
四人は頷いた。一端の危機感を働かせれば、身体を鍛えようとも思うだろう。
そして、鈴音たちは最下層のDクラスだ。端的に言えばポイントに余裕が無い。この船内においては無料だが、学校に帰れば施設はあっても有料だ。である以上、『ジム通い』だの『道場通い』なんて選択が上がる筈がないのも道理だった。
「そうね。綾小路くん、ついでだから一手付き合ってくれない? 今の私が貴方に敵うとは思わないけど、『見取り稽古』が勉強になるのは否定できない事実だわ」
「そう言われてもな……。言葉からするに鈴音は何かしら武道を学んでいるんだろうが、一方のオレはそんな枠には囚われない
鈴音の言葉に、清隆は気乗りしない様子で返した。
鈴音の言葉が尤もなら、清隆の言葉も尤もだ。外野がどうこう言うことではない。
「そうね。それは否定しないわ。――言葉を誤魔化すのは止めましょう。単に、私が貴方とやりたいのよ。そうすることで、少しでも貴方という人間のことを知りたいの。
貴方が私をハーレムに誘ったんでしょう? ハーレムという形が現行の法にそぐわないのは知ってるけど、だからこそ貴方は将来的に法改正をしようと考えているんでしょう? つまり、将来的に私は貴方の奥さんということになるのよ。奥さんのお願いくらい、聞いてくれてもいいんじゃないかしら?」
そして、清隆の返事を受けた鈴音は攻め口を変えた。強かに言い放つ。
「やれやれ……。そう言われたら断れないな。――ただ、そうまでしてオレとやりたいんなら、
言葉に出した時点で、実現すれば偶然ではなく作為を疑われそうなものだが、証拠がない以上は疑念で終わる。
「上等! やれるものならね!」
言い放ち、鈴音は清隆へと踏み込んだ。開始の礼も何もない。
(剛を制するのは速・流・撃!)
踏み込みながら、内心で自分に言い聞かせることで、鈴音は自分に気合を入れる。――ただし、決して口には出さない。失敗した場合が恥ずかしいから。
(まずは速さで相手の気勢をくじく!)
鈴音から繰り出される拳撃と蹴撃の連打。
事前に鈴音が言い放った『見取り稽古』という言葉が利いているのだろう。根っからの善人とは言えないが、何だかんだで
十中八九、外野に見せるためだろう。
(そして、反動をも流れに組み込む!)
一連の攻撃は、まさに流れるが如く。鈴音が紛うことなき美少女ということも相俟って、『流麗』とすら言えるだろう。
(最後は、一撃で極める!)
確かな理屈の元、『柔』を『剛』の域まで昇華させた拳がトドメとして放たれた。
普通に考えて、『速い』とは『軽い』ということ。軽いが故に速さが出る。重くても速さが出なくはないが、掛かる負担は計り知れない。その理屈は覆らない。
しかし、速く軽いからと言って、『弱い』とは限らない。条件次第で、速さは『破壊力』にも通ずるのだ。軽さを補って余りあるほどの破壊力を持たせることも、決して不可能ではない。
「うおっ!?」
『おお~~っ!?』
結果、防御を固めていた清隆が吹っ飛んだ。両者を比べた場合、明らかに
その光景のインパクトも相俟って、外野が歓声を上げた。
「いや、驚いた。理屈は分かるが、理屈だけで出来るもんじゃないだろ、今の。空手による打撃だけではなく、合気道による
「正解。アッサリと種を見破られると、それはそれで傷付くのだけどね……」
立ち上がり、近付きながら問いかけてきた清隆に、鈴音は肩をすくめて答えた。
相手によって体格も体重も異なる。自分だって全く同一の状態ではない。結果、反動は毎回異なるのだ。それを組み込むのを前提とした攻撃故に、実行は至難の業だ。
名目として『見取り稽古』と言ったが、見ただけで覚えられるものではない。しかしながら、『人はここまで至れる』というのを見せる分には、確かな効果があっただろう。
「じゃあ、今度はオレだな」
「ええ、そうね」
清隆の言葉に鈴音は構え、数瞬後、端から見ていて実に呆気ないほど身を崩した。
「な……!?」
身を崩した鈴音自身が驚いている。それを意に介することもなく、清隆は鈴音の身体を拘束した。
「須藤から聞いたんだが、バスケットボールには『アンクルブレイク』という技術があるらしいな。須藤の説明ではよく分からなかったが、調べてみたところ、『ディフェンスの予測や重心の動きを利用する』心理攻撃らしい。
人間の体には反応できる動きに限界があるため、連続したドリブルやフェイントで左右前後に揺さぶると、ディフェンスは体の動きが追いつかず、足元がふらつくことがある。原理で言えばこういうことらしいが、何もバスケだけに言えることじゃないだろう?
鈴音は武の心得があるし、感情的な部分もあるが、どちらかと言えば理屈肌の人間だ。そしてオレを格上だと認めている。
だからこそ、どうしてもオレの攻撃を意識しないわけにはいかなかった。オレの動作一つ一つに対し、必要以上に気を割かないわけにはいかなかった。
それを短時間に連続で叩き込まれれば、限界を迎えて身を崩しもするさ。たとえ、外野からは
淡々と語っている清隆だが、ひっそりと鈴音の身体を撫でさすっていた。有言実行である。
もっとも、実際に撫でさすられている鈴音も、その光景を視界に捉えているであろう外野も、清隆の口にしたネタ晴らしに気を取られてキチンと認識してはいなかった。
それほどの『トンデモ理論』である。確かに理屈として説明は付けられるが、狙って実現するのは至難の業だ。まあ、それはさっきの鈴音の攻撃にも言えるのだが……。
種明かしを終えた清隆は、ツッコミを受ける前に鈴音を拘束から解放、立ち上がった。
一方の鈴音もツッコミを入れることはなかった。身体を弄られたことに対する羞恥と怒りはあったが、清隆の繰り出した
「じゃあ、オレたちはもう行くぞ」
「ええ。付き合ってくれてありがとう」
言って部屋を後にしようとする清隆たちを、鈴音は礼を言って見送った。
♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢
時間が経てば、流石に先の光景に対する言及と無縁ではいられなかった。四人は揶揄い、揶揄われながら、また別の部屋へと進む。
『は……?』
そして、目にした光景を信じられずに固まった。
室内にいたのは三人。櫛田桔梗とアズ・セインクラウス、そして見知らぬ男性である。
その見知らぬ男性が防御を固めている桔梗へと攻撃を仕掛けているわけだが、まさしく『人間離れ』した動きだったのだ。
怒涛の連続攻撃から、イナヅマのようなジグザグ軌道の連続蹴りを繰り出して空中に打ち上げ、最後に踵落としで地面に叩き落とす。そして、その全てを蹴りで行っている。
言葉にすればそういうことになるのだが、『え!? そんな動きが人間に可能なの!?』と思わずにはいられない。
「今のが『ライジング・メテオ』。俺の技では『奥義の入り口』と言えるだろうな」
「コレで『奥義の入り口』って……。トウマさんってどんだけトンデモですか……」
見知らぬ男性――トウマの言葉に、ヨロヨロと身体を起こしながら桔梗がツッコむ。
たとえヨロヨロとでも、アレだけの攻撃を受けた直後に身体を起こせる辺り、桔梗も大概タフである。少なくとも、来たばかりの四人からはそう見えた。
「そう言われても事実だから仕方ないだろ? こっからアレンジ技である『レイジング・ストライク』、正統進化系である『ライジングメテオ・インフェルノ』を経て、最終秘奥である『神雷』に至ったのは事実なんだからさ。
まあ、言い換えれば『迷走の証』にもなるんだろうけど……。何せ、レイジング・ストライクもライジングメテオ・インフェルノも、無駄があるのは否めないから……。
ただ、それらに費やした努力と時間があったればこそ、神雷に至ったのも間違いのない事実だ。
で、だが。俺が君に教えるのはここまでだ。俺と君は違う人間だからな。ここから先は、君が『君だけの秘奥』を見出すべきだ」
「まあ、道理ではありますね……。現実的に
トウマの言葉に、桔梗は納得した様子で頷いた。
あと数日で船は港へ帰るのだ。学校に帰る桔梗たち学生と、漂流中のところを船に拾われたトウマ。以後も接点が続くと考える方がおかしいと言えた。
「ただまあ、船が港に着くまで時間があるのも事実です。可能な限り、トウマさんには私の練習台になってもらいますよ?」
「断る気はないが、俺にも仕事があるからお手柔らかにな。――で、あの四人は君たちの友人かい?」
トウマのその言葉に、漸くアズと桔梗は清隆たちを認識した。
「清隆にユキに愛里に、時任……?」
「首を傾げるのは分からんではないが、そこまで行ったら俺のことも名前で呼んでほしいものだな、櫛田」
「ありゃ? キャラチェンでもした?」
「生憎とこっちが素だよ。普段のは外向け用の仮面だ。いい加減、面倒だったのも事実だしな。姫野に誘われたこともあって、彼女たちのグループに加わった次第だ」
「あ~。あの『陰キャの集い』とかいう……」
桔梗と克己の間でやり取りが繰り広げられる中、アズはアズで問いかけた。
「で、何で四人はここに?」
「話の流れの中で、私と愛里も『何か護身術でも学んでみるか』ってなってな。男共は付き添いだよ」
「そのついでに、どんな奴らが格技場を利用してるのか確認しようと思ってな」
「今の、凄かったね……。人間って、鍛えればあんな動きも出来るようになるんだ……」
「その言葉に対する返答はイエスでありノーでもあるな。俺の技は須らく気を併用してるから、ただ身体を鍛えただけじゃ難しいだろう。
もっとも、今しがた使ったライジング・メテオを習得した時点では俺も気を使えなかったから、やってやれないことはない。実際、今のだって素の身体能力で繰り出したものだしな。
そうでなかったら、桔梗ちゃんももっとダウンしてるよ。桔梗ちゃんは気を用いて防御を固め、一方の俺は気を用いない。その両条件が成立したからこそ、桔梗ちゃんのダメージは最小限で済んでいるのさ」
アズの質問にユキ、清隆、愛里が答えていると、そこにトウマが加わった。
「真実、アレほどの動きを生身で……?」
「言いたいことは分かるけどな。要は、『そこにどれだけ己を懸けられるか』だよ。
俺には好きな人がいてな。一目惚れだったわけだが、悲しむ彼女をどうにかしたくて我武者羅に頑張ったわけだ。色々と周りにも助けられたし、厳しかったし苦しかったけど、諦めることなく成し遂げた。たとえ昔ながらのアナログかつ直球過ぎる方法だろうと、結果が出たなら正当だ」
その言葉――特に『結果が出たなら正当』という部分を清隆は否定できなかった。
何せ、清隆自身がその証明みたいなものだ。――もっとも、清隆自身は気付けばあの環境だったので、必然的に『懸けるもの』もなく惰性でやっていたに等しいが。
だが、そんなでも清隆が今の域に至ったのは間違いないため、『まだ先がある』と捉えることも不可能ではない。
「そう堂々と言えるのは羨ましいな」
「ハハ……。別に必ずしも色恋と結び付ける必要はないよ。友人関係だって何だっていいんだ。ゆっくり悩め、若人。悩むのも必要なことだ」
「アンタだって十分に若いと思うがな……」
トウマの言葉は染み渡る。
清隆はそれを不思議に思いつつ、若く見えるトウマに『若人』呼ばわりされたことへのツッコミを入れるのだった。
『ラッシングダンディ』ならぬ『ラッシングガール』です。
本作で戦闘可能なキャラは、スパロボの方からスタイルやモチーフを引っ張ってきてます。
原作を確認しつつ書いているわけですが、『よう実』キャラの家庭事情が……。
幸村は父子家庭で、父親は教育者、母親は家を出ていった。
須藤も父子家庭で、父親は清掃員、母親は水商売だが家を出ていった。
帆波は母子家庭。妹が一人。父親に関しては不明。
葛城は祖父母と両親を失っており、双子の妹と共に親戚の家で育てられた。葛城は『全頭無毛症』で、妹も『病弱』とのこと。
鈴音のように、銘記されてなくとも『家庭環境に問題あり』と思える生徒もいます。
イジメだの喧嘩だの、個人で問題を抱えている生徒も少なくはなく……。
だからこそ、キャラの性格に納得できる部分が多いのは間違いありません。
葛城の堅物な性格は、『養家に面倒をかけまい』という精神からくるものでしょう。
その一方で、学や南雲、楓花に高円寺、清隆みたいに、『学生基準』で捉えると能力的に付き抜けた生徒もいます。頭脳面だけなら有栖も該当します。
相応の理由付けは必要でしょうが、もう『上限をどれだけ盛っても構わないんじゃね?』という気分になってくるのは間違いありません。
克己を『予知能力者』にしたのは、夏休み編で登場する『占い師』の存在もあります。
『高度育成高等学校』の敷地内に乗り込める辺り、かなりの『力』を持ってることが窺えます。
また、政財界の重役が『占い』などを重視している証左とも言えます。
本作がスパロボとクロスしていることもありますが、そこら辺も世界観自体を『ナムカプ風味』にした一因です。
そういう『特異能力者』が局所的に沢山いてもおかしくない理由付けであり、『高度育成高等学校』がそういう生徒の囲い込みを担っている理由付けにもなります。
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