ようこそ実力至上主義の教室へ ~ギフテッドとN.I.N.J.Aと……~ 作:山上真
船は港に着いた。
乗り込んだ時と同様、ここからクラス毎に分かれて指定のバスに乗車し、『高度育成高等学校』に戻ることになるのだが……。
「失礼。『高度育成高等学校』の御一行で間違いないでしょうか?」
Aクラスということで真っ先に船を降りた際、引率者である知恵は見知らぬ男性から声をかけられた。年頃は二十代の半ばと言ったところだろうか? 傍らには少年と少女を一人ずつ同行させている。
声をかけてきたタイミングといい、その内容といい、『高度育成高等学校』の関係者に用があるのは間違いないだろう。
即座にそう判断した知恵は、しかし、次に取るべき行動を僅かに迷った。
生徒の制服からして誤魔化すことなど出来る筈もないのだが、その一方で、こちらのスケジュールを知っている者は――知ることが可能な者は限られているからだ。
それは『良くも悪くも』であり、その判断が付かぬが故の逡巡だった。
「ああ、失礼。先にこちらが名乗るべきでしたね。私、こういう者でございます」
その男性は丁寧な手つきで名刺を取り出し、これまた丁寧な手つきで知恵へと差し出した。
「ッ……!?」
名刺に目を落とした知恵は、驚きの余りに息を呑んだ。その名刺にはこう書かれていたからだ。『日本政府直属:特務機関「森羅」所属。天斎小吾郎』……と。
知っての通り、『高度育成高等学校』は日本政府直属の運営校だ。そこに勤める教師ともなれば、ある程度の情報は仕入れている。
特務機関『森羅』。それは超常現象や物の怪などの怪異に対処する、『歴史はあれど活動内容は眉唾物』の組織だった。
その一方で、名刺にある通り、れっきとした日本政府直属の機関である。知恵個人の感情や思惑がどうあれ、日本政府がその必要性を認めているのは間違いない。
それもあり、知恵は納得する。真実『森羅』のスタッフであれば、自分たちのスケジュールを知ることも叶うだろう。
「天斎小吾郎さん、ですか……。この名刺を見れば、身元を疑う余地はありませんね。
一之瀬さん、悪いけど他の先生方を呼んできてもらっていい? 『
名乗り遅れました。現在は『高度育成高等学校』で一年Aクラスの担任をしております、星之宮知恵と申します」
名刺を確認した知恵は、帆波に他の先生を呼ぶように頼んだ。自分一人だけだと手に余る可能性が否定できないからだ。
その一方、自分も名刺を渡して名乗り返す。
「用件はいくつかあるんですが、まずはこちらの二人に関してですね。葵伊織くんと天野亜真里さんです」
知恵から名刺を受け取った小吾郎が同行者の二人を紹介する。
「葵伊織です。はじめまして」
「天野亜真里です。よろしくお願いします」
紹介された二人もまた、軽く挨拶して一礼した。
「こちらの二名ですが、端的に言いますとそちらの学校への転入生です。……あ、理事長とのやり取りや書類上の手続きは既に済んでおりますので、その点はご心配なく」
「転入生、ですか……」
知恵はオウム返しに呟く。
通常、『高度育成高等学校』は転入生を認めていない。――しかし、例外がないわけではない。
その性質上、『高度育成高等学校』は何か問題が起こったとしても、揉み消しが非常に簡単な部類なのだ。もちろん、今の
逆に言えば、『高度育成高等学校』は『わけあり生徒』の受け入れ所としても機能しているのだ。
である以上、この二人がそうであるのは容易に想像がつくし、連れてきたのが『森羅』のスタッフとなれば、その事情もまた同様。むしろ、そうでなければ理事長が認可する理由がない。
(『神隠し』か何かの被害に遭って、帰ってきた子ってところかな……?)
言葉には出さず、内心で知恵は呟く。
ここ近年において、『神隠し現象』は度々人の噂に上る。真偽のほどはさて置いて、その事実は否定できない。大半は『家出』、『誘拐』、『拉致監禁』といったところであろうし、それはそれで問題だが、中には本当に『神隠し』が含まれていたとしても不思議はない。
そうであれば、『森羅』が絡んでいる理由にも納得がいくし、『森羅』から日本政府を通して『高度育成高等学校』に圧力がかかったとしても不思議はない。
経済状況にもよるだろうが、元来、この年頃の子供であれば学校に通うのが普通なのだ。それが『世の道理』である。
しかしながら、
そういった点を踏まえれば、少々特殊な学校ではあれ、いざ事が起こっても揉み消しが容易な場所に入れるのは不思議なことではないだろう。
「『森羅』の方が来ていると聞いたが……失礼ですが、貴方が?」
そうこうしている内に他の担任もやってきた。揃って名刺交換を行う。ついでに、三人に対して伊織と亜真里の紹介も行った。
「流石にこの場で詳しい事情を説明するのも憚られるので端的に言わせていただきますが、こちらの二人は『一年Dクラス』への所属になると理事長からは伺っております」
「なるほど。では、私の受け持ちになるということですね。――葵伊織くんと天野亜真里さんだな、はじめまして。現一年Dクラスの担任を務めている茶柱佐枝という」
佐枝の言葉に、伊織と亜真里が頭を下げた。
「このタイミングでここに来たということは、『学校まで一緒に向かえ』ということだろう。きたまえ。今後、君たちのクラスメイトとなる者たちの元へ案内しよう」
佐枝の言葉を受け、伊織と亜真里は小吾郎を見やる。彼が頷いたことで、二人は素直に佐枝の後を追っていった。
「すんなりと話が進んでありがたい限りです。――ただ、実のところ他にも用件がありまして……。
真嶋先生は学年主任でらっしゃるとか? 申し訳ありませんが、もう暫し私に同行いただいてよろしいですかね?
先生がご存知かは分かりませんが、この船には他にも
「ああ。そういう人物がいるらしいことは話に聞いています。――星之宮先生、先にバスに向かってください。私の受け持ちの生徒も一緒にお願いします」
小吾郎の言葉に頷いた真嶋は、その一方で知恵に下船とバスへの乗車を指示した。ついでに自分の担当クラスもお願いする。
「分かりました」
実際、話がいつ終わるかも分かったものではない。知恵は素直に了承した。
真嶋と小吾郎の横を、教師に引率された生徒たちが通り過ぎていく。
「付け加えますと、お宅の生徒にも同様の人物がいることも新たに判明しまして……。龍園翔と坂柳有栖、ご存知ですよね?」
「ッ……!? もちろん知っておりますが、あの二人が?」
思いもよらず告げられた生徒の名前に、真嶋は思わず息を呑む。
「はい。お恥ずかしい話、事前のチェックでは私共も協力したんですがね。如何せん、仕事内容が眉唾物なこともあって、うちは根本的に人手不足なんですよ。まあ、中には『少数精鋭主義』を謳う人もいますし、事実として
そのような事情から、中にはチェックから洩れた人物もいるわけでして……。その筆頭が龍園翔であり、坂柳有栖はその影響で『超常の力』に覚醒しました。
少なくとも、私共の方にはそのように報告が入っております。
「なんと……。坂柳は私の受け持つ生徒です。率直に言って言葉がありませんな……」
小吾郎の言葉に、真嶋は神妙な顔で頷いた。俄かには信じ難い内容であるのは間違いないが、敢えて疑う必要もない。
「である以上、こちらとしては無視も出来ないわけです。もちろん、日本政府も同様です。結果、『類は友を呼ぶ』じゃありませんが、『いっそのこと一纏めにしてしまえ』という判断を『上』は下しましてね。
件の漂流者も引き連れた上で、私もこのままそちらの学校にお邪魔させていただくことになります。……さっきも言いましたが、人手不足なんですよ、うちの組織。
本来ならまだ余裕はあった筈ですし、こちらもそのつもりで『正規の手続き』を踏んでお邪魔するつもりだったんですけどね――悪いタイミングで事が重なってしまった」
肩をすくめて小吾郎は言う。
そういった分野に関しては門外漢である真嶋には判断が付かない。――だが、『人手不足』の厄介さは身に染みて分かっている。
「ま、そんなわけなんで、私は件の『漂流者』を迎えに行ってきます。すみませんがバスの出発は送らせてください。あの学校のシステム上、関係者と一緒に行った方が楽でいいんですよ」
「天斎さんはここまで何で来られたんですか?」
「社用車ですね。人手が少ないこともあって、学校の敷地内まで乗っていって構わないと許可は出ています」
「そういうことでしたら、私が天斎さんに同行しましょう。生徒たちは単にバカンスを楽しんできたわけではないですしね。少しでも早く休ませてやりたい」
「……分かりました。真嶋先生が同行して下さるんでしたら、こちらはそれで構いません」
「では、私はバスと同僚に一言申し伝えてきます」
そう言ってバスの方向へ向かう真嶋を小吾郎は見送った。
後は追わない。これで小吾郎は場数を踏んでいる。真嶋はこちらを騙す人柄ではないと判断した。
「しっかし、俺一人が行ったところでどうにか出来るもんかな……? いやまあ、葵くんと天野くんが『見習いエージェント』として協力してくれることにはなっているが、実際どうかな……?」
葵伊織と天野亜真里。何の偶然か、家族構成は揃って『両親と姉が一人』の四人家族。また、通っている学校も同じだった。
中学時に揃って行方不明になり、家族からは捜索願が出されていたが、その共通点から警察には『駆け落ち』と処理されてしまい、まともに捜索されることはなかった。
そんな中で
その後は何やかやとあって探偵事務所を畳んで『森羅』に就職した小吾郎から話は伝わり、『森羅』は両名を次元歪曲現象『ゆらぎ』の被害者と判断した。
更にその後も何やかんやとあって『ゆらぎ』を引き起こしていた組織に大打撃を与えたわけだが、残念なことに壊滅には至っていない。
また、次元歪曲現象は何も『ゆらぎ』に限ったことではないのが、その後の調査で判明している。――もっとも、初動調査での判別は難しいため、最初は『ゆらぎ』認定されることも珍しくはない。
実際、伊織と亜真里から話を聞く限りでは、二人を巻き込んだのは『ゆらぎ』とは異なる現象だ。有体に言えば『召喚魔法』。それによって二人は異世界へと召喚され、そこで記憶と精神を操作され、現地の特殊機関の尖兵としていいように使われていたそうだ。
その一方、『怪我の功名』と言うべきか、そこで二人は魔法を習得するに至った。その魔法は、攻撃・防御・補助と多岐に亘っている。
その後、何やかやとあって記憶を取り戻した二人は元凶を打破。元いた世界であるこの地へと帰ってきた。
それ自体は非常に喜ばしいのだが、異世界で習得した魔法はこの世界でも――多少の制限はあれ――使用可能だったため、国としては無条件に自由を保証するわけにはいかない。
結果、二人は否応なく『森羅』に身柄を引き取られ、年齢から『見習いエージェント』として働かざるを得なくなった経緯がある。
幸いなのは、二人が理解を示していることだろう。
二人が扱う魔法の本質は『理を変える力』であり、そのために必要なのが『破壊の意思』。言い換えれば、『どんな障害があろうとも自らの欲望を貫き通す意思』とのこと。
異世界に召喚される前、伊織は気弱な臆病者で、それを克服するために空手を習っており、亜真里は引っ込み思案な自分を変えたいと思っていた。それは微弱ながらも確かな『破壊の意思』であり、故に二人は召喚されたらしい。
そして、今の二人は揃って己が『破壊の意思』を定めている。伊織は『正義』。亜真里は『自由』。その基準に弓引く振る舞いを、二人は決して許さない。そんな真似をしてしまえば、『破壊の意思』が揺らいでしまうからだ。それは自己否定に他ならない。
しかし、だからといって二人は決して頑迷ではない。基本的にルールを尊重する意思はある。程度次第ではあるが、
だからこそ、二人が高度育成高等学校を許容できるのか不安が尽きないのも事実である。
二人は確かに『見習いエージェント』だが、その一方で『貴重な戦力』であるのも間違いない。故に、お目付け役を任されてしまった小吾郎としては、万一の事態を想定しないわけにはいかない。自分の実力には確かな自信を持っている小吾郎だが、その一方で限度があるのも認めている。何でもかんでもは出来ないのだ。
「申し訳ない。待たせてしまいましたかな?」
「いえ。そんなことはありませんよ」
声をかけてきた真嶋に、小吾郎は内心の不安を隠しながら微笑で返す。
その後、二人は連れ立って件の漂流者――トウマ・カノウの元へと向かうのだった。
『高度育成高等学校』が日本政府直属の運営校ということ。
そこにナムカプシリーズをクロスさせたこともあり、日本政府繋がりで『森羅』から天斎小吾郎をチョイス、登場させました。
PXZ2までは終わった設定であり、必然的に小吾郎は『森羅』諜報部のエージェントとして働いています。
出番がPXZだけで物悲しいのが一因ではありますが、忍者繋がりなのもチョイスした一因です。
なお、小吾郎はN.I.N.J.Aではありません。源流を同じくし、別方向へ進んだ末裔同士です。とはいえ、クロスやフォルテとは面識があります。
あとは『スパロボX』より、主人公であるイオリとアマリを。舞台が『よう実』なため、ゲーム中とは異なり本名での参加です。
なお、本編だと召喚時期は高校時ですが、本作では中学時です。召喚先も『アル・ワース』とは限りません。
ぶっちゃけた話、伊織と亜真里はDクラスへのテコ入れです。生身でも戦えますし。
『高度育成高等学校』の立場と、日本政府の権力を鑑みれば、普通にこれくらいの無理は利くと思います。
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