ようこそ実力至上主義の教室へ ~ギフテッドとN.I.N.J.Aと……~ 作:山上真
第90話:平田グループは、ポイント整理を行う。
学校に戻ってきた『高度育成高等学校』の一年生たち。
その中でも、平田、鈴音、千秋の三人は自分たちの教室で待機していた。
これは例外的な転入生――葵伊織と天野亜真里の存在が関係している。
転入生である二人は、必然としてこの学校のルールを知らない。今現在は別室で担任である佐枝から説明を受けているし、そこである程度のことは知らされるだろうが、
それを一早く確認する必要もあれば、『クラスのルール』を共有する必要もある。
平田個人としては、『二人と仲良くしたい』という思いもある。
そんなわけで、少しでも早く合流するため、平田たち三人は教室で待機している次第であった。
なお、ポイントの徴収と『お小遣い』の分配に関しては、既にクラスメイトに説明済みである。徴収される側に不満が見られないわけではなかったが、理由を説明すれば受け入れてくれた。
何せ、このクラスには
その一方で、ポイントを温存した結果、使い切った連中に
後者は、おとなしく、それでいて善性の強い人物が多いから声を上げていないだけだ。決して不満を持っていないわけではないのである。
そこら辺の清算も踏まえれば、やらないわけにはいかない作業だ。これから本格的にAクラスを目指す上で、『クラス内の不和』など『百害あって一利なし』なのだから。
入学してからまだ半年も経っていないこともあり、データもシッカリと残っている。である以上、ポイントの増減履歴を確認すれば、誤魔化す術などありはしない。
既に『お小遣い』として、一人当たりに5万PPの分配を約束したのだ。である以上、『返すためのポイントがない』なんて言い訳は通じない。
「ふぅ……。取り敢えず、これでクラスメイト間でのポイントの貸し借りは無くなったかな……?」
「そうね……。たぶん、大丈夫だと思うけど……」
「うう、私のポイントがぁ……」
溜息を吐きつつの平田の言葉に、自信なさげに鈴音が続いた。その横で千秋が嘆いている。
我の強い生徒もいれば、おとなしい生徒もいるのが道理だ。そして後者は、とかく沢山の生徒から食い物にされていた。
一人当たりに貸したポイントはそれほど高額でもない。千ポイントや2千ポイント、数百ポイントなんて場合もあった。
しかし、『塵も積もれば山となる』ものだ。合計すれば優に『万』を突破し、長らくまともな収入がなかったことも相俟って未だに返還されていないのが実情だった。
とはいえ、まともな収入がなかったのは事実だが、決して収入がなかったわけではない。全ての返還は不可能でも、部分的な返還であればやってやれないことはなかった。――それでも返還されていなかったのだ。
その事実がある以上、『個人の意思』に任せていては、いつになったら貸し借りが終わるか分かったものではない。
場合によっては、借りた方はその事実を忘れている可能性だって捨てきれない。覚えていても、敢えて目を背けている可能性だってある。
これでは、『クラス内の団結』など夢のまた夢だ。
なので、『クラスリーダー』として平田が仲介役となることにしたのだ。
一人一人の端末の履歴を確認し、『誰にいくら送ったか』、『誰からいくら受け取ったか』をメモに取る。クラスメイトの人数が人数のため、これには鈴音と千秋も確認した。
念のため、担任である佐枝にもデータの提供をお願いした。二重チェックによって見逃しの可能性は大きく減っている。
その上で、一件一件清算していったのだ。手間であるのは事実だが、正確性を期そうとすればこの方が確実だ。
なお、そのためのポイントは取り敢えず千秋が立て替えた。おかげで、千秋の手持ちポイントは一時的に大きく減少している。千秋が嘆いているのはそれ故だ。
九月になってポイントが支給されてからでもよかったが、時間が掛かることは目に見えていたので、先んじて対処することにしたのだ。これも清隆が千秋にポイントを提供し、それを使い切らずに残していたからこそ可能なことだ。
ポイントの支給後、借りていた方に配る『お小遣い』はその分を差し引いた額になる。そして、それを以て千秋に補填することになる。このことも既に周知済みだ。
「ま、夏休み中にたかられる可能性が無くなったと満足しておきますか……。
いやしかし、ホント参ったわ……。こうなると、あの時の清隆くんの判断は決して間違ってなかったわね……。篠原さんも前園さんも、王さんからポイント借り過ぎでしょう……」
気を取り直した千秋は、しかしその直後に額に手を当てて千秋が溜息を吐いた。
五月のゴールデンウィーク。千秋、恵、麻耶、美雨、さつき、杏、池は清隆に勉強を見てもらう機会に恵まれた。その際に、清隆は『独力でのクラス移籍』用に溜めていたポイントの一部を千秋に提供したのだ。『クラスを移った詫び代わり』とのことだったが、提供相手に千秋が選ばれたのにはシッカリと理由があった。
その理由こそが『経済観念』であり、その点では千秋と美雨が候補に挙がったのだが、美雨が外されたのは、まさしく『押しに弱そう』という意見からだった。……これを見れば、その判断は的中していたと言わざるを得ない。
「王さん自身は二人を素直に勉強に向き合わせるための
ただ、それも今回で解消した。あとは、あの三人が何の衒いもなく友人関係を続けられることを祈るよ」
これであの三人の関係がギクシャクするようなら、たかりを前提にした関係だったという可能性が高くなる。友人関係としては不健全極まりないが、その可能性もないではない。
そして、もし本当にそうであるならば、今回、『クラスリーダーとしての仕事』を名目に平田たちという第三者が介入したのだ。その実績がある以上、たかる側はどうしたって二度目三度目の介入を意識しないわけにはいかない。必然、それは行動の端々に
「こういうのに関わると、改めて平田くんの苦労が身につまされるわ……。当時の私、本当の意味ではクラスメイトに対して目を向けてはいなかったから……」
「それを言ったら私もだけどね。どうしても身近な部分を優先してしまったし……」
平田の言葉を受け、鈴音と千秋が深々と溜息を吐いた。双方共に、『広い人間関係』を拒否していた部分があるのは否めない。
「まあ、あの三人の場合、全く別の理由から関係がギクシャクする可能性も無くはないけどね……。ほら、王さんが清隆くんのハーレムに誘われただろう? いや、正確には誘ったのは佐藤さんで、
「ああ。無人島試験での同一テントの件ね?」
無人島試験時、清隆と一緒のテントで寝ていた神崎ら星之宮クラスの男子から、『清隆を引き取ってくれ』と帆波に対して嘆願があった。
その理由は清隆の『甘え癖』にあった。普段の清隆からは想像つかないが、帆波らの尽力もあって感情が芽生えだした清隆は、特にプライベートでは『他人の熱』を求める傾向が強い。就寝時にはそれが顕著になり、意識的にか無意識下でか、抱き着くことで『自分が一人ではない』ことを確認したがるのだ。その上で、自分の愛情を示すべく、キスすることも厭わない。
女であればまだ受け入れることは容易だろうが、男であれば難しいだろう。感性の幼さに反し、ガタイは立派に成長しているのだから尚更だ。
「清隆くんとは何度か一緒に寝たことがあるし、僕が引き取っても良かったんだけどね。
曲がりなりにも試験中で、清隆くんとはクラスが違うし、テントという条件は神崎くんたちと同じだ。それを思えば、現実的には難しかった」
何気なく言った平田だが、鈴音は表情を引きつらせた。――それでいて、どことなく興味の色が浮かんでいる。
それを見て、千秋は理解と共感を示した。自分の同性――すなわち女性同士の同性愛には嫌悪感や拒否感を抱く一方で、男性同士の同性愛には興味を惹かれるのが女という生き物なのだ。その点は、基本的には生真面目な鈴音も同じだったということだろう。
もっとも、清隆と平田は
「恵ちゃんから聞いたけど、本当にただ『添い寝』をしただけみたいだよ。幼い子供をあやすみたいな……?
『母親役』は帆波ちゃんが務めることでどうにかなったけど、今度は『父親役』に困ることになったみたいでね。清隆くん自身、実の母親のことは知らない一方で、父親のことは知っているどころか嫌悪しているみたいだから、尚更相手に困ることになったそうよ。
で、結果的に『元クラスメイト』ってこともあって平田くんに白羽の矢が立ったみたい。帆波ちゃんが『女性版の平田くん』なら、平田くんは『男性版の帆波ちゃん』と言えるしね」
「まあ、実際に話を聞いた時には僕も驚いたけどね。でも、清隆くんと友好を深める上で
千秋が補足を入れ、それを平田は否定することなく素直に認めた。表情には微笑が浮かんでいるので、本当に疚しい部分はないことが窺えた。
「ただまあ、『クラスの違い』や、『似たタイプを両親役に宛がうのはどうなんだ?』って意見が出たこともあって、結果的に平田くんは『親戚のおじさん』ポジに落ち着いたみたい。ちなみに、帆波ちゃんとは姉弟設定。これであれば、性格の類似性にも説得力が出るしね」
「一之瀬さんも、アレで結構押しが強いよね。誕生日を訊かれたから答えたんだけど、『じゃあ、平田くんは私の弟で親戚のおじさん役ね!』だもん。イキナリだったから驚いたよ……」
その時のことを思い出したのだろう。平田が苦笑した。
「特殊事例をさて置くと、僕たちみたいな年頃の男女が『同じ空間で一夜を過ごす』ってのは、とても勇気がいるものだと思う。それがたとえ二人きりではなく、『テント』という空間であったとしてもね……。
『兄妹』、『親戚』、『幼馴染み』みたいなルーツがあるならまだしも、それがないなら尚更だ。
そして、誰もが誰も清隆くんの事情を知ってるわけでなければ、理解を示すわけでもない。特に清隆くんは『元クラスメイト』だからね。どうしたって『裏切り者』と捉えてしまう生徒はいるだろう。
それでいて、清隆くんは能力が高く、堂々とハーレムを形成している。ただでさえ嫉妬と無縁ではいられないのに、端から見た人間性は
実力では彼に敵わないからこそ、その蔑みが彼と一緒のテントで寝た女子に向かってもおかしくはない」
「で、私と長谷部さん、王さんはその的ってわけね。能力や実績があれば黙らせることも可能だろうけど、それはそれで嫉妬を生む……。本当、人間関係って面倒ね……」
再び鈴音は溜息を吐いた。
そういった機微に配慮した振る舞いを求めるには、生憎とクラスメイトの人間性は幼すぎた。全員が全員というわけではないが、大半がそうなのは間違いない。これまでのクラス評価がそれを如実に表している。
「現行の法が『ハーレム』を認めていないのも大きいだろうね。その点では、甘んじて非難を受け入れるしかない」
千秋が続く。
単純な嫉妬でないだけに、これはこれで面倒だ。
「もちろん、清隆くんなりに『敵意の緩和』に務めている。生徒会役員として彼が主導している『育成計画』なんて、その最たるものだろう。――だけど、誰もが誰もその恩恵に与れるわけではないからね」
「まして、その内容はこの学校の縮小版と言っていい『ペナルティありき』だからね。旨味だけを得たい人物にとっては堪ったもんじゃない」
だから、正直に言って『敵意の緩和』としてはあまり役立っていないのが実情だった。
「……止めましょう。努力したがらない人のことをいつまでも考えていたところで、それこそ不健全だわ」
鈴音がバッサリと切って捨てた。時にはこういう果断さも必要になる。
「……そうだね。――話を葵くんと天野さんに変えるけど、バスで伝えられた内容を二人はどう思う?」
「『神隠し』からの帰還者とのことだったわね。……そうね。俄かには信じられないけれど、『筋は通る』と言ったところかしら……?」
「鈴音ちゃんに同じく。……この学校の校則を鑑みると、転入生を受け入れる余地は少ないと思う。それでも受け入れた以上、
「僕も同意見だ。前提として、卒業特典を受けられるのはAクラスだけで、『クラス闘争』が敷かれている。
そして、既に入学当初の公平な状況
今回、二人がうちのクラスに配属となったのは、
退学なり移籍なりで総生徒数が減っているから、僕たちとしてはある意味でありがたいけど、『マンパワーの増加』という点で捉えたら他のクラスが不満を持つ可能性だってある。
有体に言って、転入生を受け入れるにはリスクの方が大きいんだ」
言って、平田は首を横に振った。
「その上で、転入生として受け入れたわけだからね。やはり
そこを考える上で、この学校が『日本政府直属の運営校』という事実を見逃してはいけないと思う。
そして、法律上、義務教育は中学までだけど、少なくとも高校までは卒業するのが一般的だ。
更には『神隠しからの帰還者』という理由……。
これらが重なれば、また
今度は、難しい顔で頷いた。
「まあ、そう考えるのが妥当だよね。『神隠し』の実態がどうあれ、『行方知れず』だった事実があるのは間違いないだろうし、その事実を知る人は興味関心を向けるだろうし……。そういった
そして、更なる問題として『神隠し』の実態が絡んでくる場合。これが『家出』とか『駆け落ち』とかじゃなく、『誘拐』とか『拉致監禁』、果ては本当に『神隠し』だった場合……。
誘拐とか拉致監禁の場合、再度狙われる可能性もあるわけだから、そこを考慮する必要がある。
ぶっちゃけ、本当に『神隠し』だった場合は如何ともしがたいと思うんだけど、噂だと政府にはそういうのに対処するための組織もあるみたいだからね。まあ、あくまでも都市伝説に過ぎないけど……。
後者にいくにつれて現実味がないのは間違いないけど、可能性を否定できないのも事実だからね。あの坂柳さんを見てしまったから、尚更否定はできないよね」
自然、三人の脳裏には髪と瞳の色を変えて杖も使わずに走って見せた有栖の姿が思い浮かんだ。有栖が先天性心疾患の認定を受けているのは事実で、それは入学以降の光景で三人共が認めている。だからこそ、『超常現象』と言うより他にない光景だった。
既に『超常現象』の前例を目撃しているのだ。である以上、種類と内容が違うからといって『神隠し』という『超常現象』を否定するのもおかしな話だ。
「この『高度育成高等学校』は、言い換えれば『陸の孤島』だものね。『教育機関』であり、『隔離施設』でもある。政府直属ということも鑑みれば、何か事が起こったとしても隠蔽は容易いでしょう。
そう考えれば、あの二人を受け入れるのにここほど打ってつけな場所もそうはないでしょうね……」
重苦しい雰囲気が三人を包んだ。考え過ぎな可能性は否めないが、否定できないのも事実である。
三人がこの場で伊織と亜真里を待っているのは、この不安を一刻も早く払拭したいのが一因として存在する。
「本当に、今ばかりは能天気な人たちのことが羨ましくなるわ……」
溜息を隠さずに鈴音が言う。言葉には出さないが、平田と千秋も同意見である。
三人は『一日千秋』の思いで、伊織と亜真里が来るのを待ちわびるのだった。
平田グループの気苦労は絶えません。
リーダーとして起ったことにより、これまで『なあなあ』で済ませていた雑事が降りかかるのは否めません。
本作の恵は清隆との勉強会以降、原作のような傲慢な振る舞いは鳴りを潜めていますが、アレは殊更に恵がピックアップされただけで、たかる生徒は恵以外にも存在すると思います。
本堂なんて、ジュースすら買えないほどにポイント使い切ってますし。
これからクラス一丸となってAクラスを目指さなければならない以上、そこら辺を清算して『不安要素』の解消に努めるのは必須事項です。
試験報酬と毎月の支給ポイントからの強制的な徴収と、一部ポイントの『お小遣い』としての分配。
前以てそれを周知して、不満はあれど受け入れられたのは、リーダーとして起った平田の人気あってのことでもあります。
原作の方だと、そこら辺どうなってましたかね……?
また、学校のシステム上、普通に考えてあり得ないだろう転入生を受け入れることになったクラスメイトとしては、当然の如くその事情を意識しないわけにはいきません。
いや、大半のDクラス生徒なら、『へ~、この学校でも転入生って受け入れるんだ……』的な感じで能天気に受け止めそうではありますけど、だからこそ平田たちが割を食う破目になると思います。
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