ようこそ実力至上主義の教室へ ~ギフテッドとN.I.N.J.Aと……~ 作:山上真
葵伊織、天野亜真里の二名と合流した平田たちは、近場のカフェに来ていた。寮までの道案内もあれば、情報共有、意見交換の必要性もあったからだ。
夏休みということもあって無機質かつ伽藍洞な教室で行うのは気が咎めたのも一因だ。二人に対する
「じゃあ、茶柱先生からは当たり障りのないことしか聞いていないんだね?」
「おそらく、としか言えないがな。茶柱先生の言葉を信じるなら、そういうことになる」
平田の問いに、伊織が答えた。言葉は素っ気なく感じるが、その表情に嫌なものは見られない。
「取り敢えず、私たちが受けた説明を具体的に列挙していきますね」
伊織の隣に腰掛ける亜真里が、微笑みながらそう前置きした。
そして、伊織と亜真里の両名が内容を告げていく。それは大体にして、入学時と五月のネタ晴らしの際に告げられた内容と大差なかった。
「……ありがとう」
「気にしないでくれ。こちらとしても必要なことだ。むしろ、俺たちの方こそ礼を言わねばならない立場だろう」
快く話してくれた二人に平田が礼を告げると、伊織と亜真里も軽く頭を下げた。
「じゃあ、それらを踏まえた上で、もう少し詳しく僕たちが知る『実態』について話していこうと思う」
その言葉を皮切りに、今度は平田、鈴音、千秋の三人がかりで説明していく。
三人が知る『実態』も一端に過ぎないが、それでも数ヶ月を生活しているのだ。相応の濃さはある。
まずは、『ポイントで買えないモノは無い』という言葉についての説明から。
「個人的なクラス移籍に2000万PPが必要って……。で、現在のAクラスは既にそれを行使して他のクラスから合わせて三人をスカウトしている……と」
「それも驚きですけど、『テストの点数』を買えることも驚きです」
それを聞いた二人は分かりやすく驚いていた。額が額なら、その使い道も使い道だ。ポイントシステムもそうだが、普通の学校ではあり得ない。
「PPは『単純な生活費』ではないということか……。『戦略・戦術用の資金』という側面も併せ持っている……と」
「となると、問題なのは『如何にしてクラス一丸となるか?』ですね。烏合の衆ではどうにもならないでしょう。個人として飛びぬけた実力を持っていても、それでどうにか出来るのは当人だけです」
しかし、すぐに納得したように頷いた。
それを見て、逆に驚いたのは平田たちだ。
「呑み込みが早いのね。普通に驚いたわ……」
「まあ、俺たちもこれで結構濃い経験をしてるもんでね」
「バスの中で説明があったでしょう? 私たちは『神隠し』に遭い、それもあって学校は私たちの転入を認めたと……」
鈴音の言葉に、伊織と亜真里は苦笑を浮かべた。その言葉から察するに、二人の呑み込みの速さには『神隠し』が関わっているのは間違いないだろう。
「天野さんが言ったことだけど、その点で僕たちのクラスは大きく出遅れていると言っていい。
前以て言っておくけど、これは僕ら生徒の側が勝手に認識していることだ。学校側は公に認めているわけではない。そこは覚えておいてほしい。
たぶん、生徒の入学を認めるに当たって、学校側は相当に詳しく調査をしたんだろうね。学力、身体能力、コミュニケーション能力、モラル、判断力、機転能力……色々な能力を元に、過去も考慮した上で各クラスに振り分けた可能性が高い」
「そう判断する根拠は? 口ぶりから察するに、何かしらあるんだろうとは思うが……」
「こればかりは実際に過ごしてみないと分からないと思うけど、各クラスには
説明を受けたなら知っていると思うけど、各クラスはCPによってランクが入れ替わる。
それと、生徒はクラスの移籍や退学がないわけでもないから、基本的に僕たちは担任の名前でクラスを呼んでいるんだ。初期Aクラスは真嶋先生が担任を務めているから真嶋クラスだね。同じように、初期Bクラスは星之宮クラス、初期Cクラスは坂上クラス、初期Dクラスは茶柱クラスといった具合だ。……ここまではいいかな?」
平田の確認に伊織と亜真里は頷いた。基本、三年間は担任が代わることはないという。CPによってクラスランクの逆転が起こること、移籍や退学による生徒の減少が起こることを踏まえれば、担任名でクラスを呼び分けるのが一番正確性を保てるだろう。
「初期Aクラスということもあるんだろうね。真嶋クラスの特色は『優等生』だ。基本的に高水準の生徒が多い。流石に完全無欠って程でもないけどね。
この特色は、同時に『欠点』でもある。優等生揃いであるが故に、そう簡単に他人の指揮下に入ることを是としないのさ。するとすれば、その上で相手を認めた場合か、自分の利を認めた場合のみだ。
そして現状、あのクラスは三つの派閥に分かれている。攻撃的な性質の坂柳さんを中心とした坂柳派、保守的な性質の葛城くんを中心とした葛城派、どちらかに属することを是としない中立派だ。
今は坂柳さんが頂点に立っているけど、それは葛城くんの派閥だった男子が期末で赤点を取って退学したからでもある。詳しく言えば、それによってクラスに-300CPという不利益を出したからであり、その事実を葛城くんが重く受け止めて一歩引いたからだ。純粋な実力によるものではない。
流石に『初期Aクラス』としてのプライドもあるだろうから、纏まれる部分では纏まれる。互いが互いの能力も認めている。――けど、水面下では派閥争いの真っ只中だ。
他クラスにしてみれば、そこが
まずは真嶋クラスの特色から説明した。
「疑問なんだが、中立派は
「してないわ。平田くんは中立派と説明したけど、それはあくまでも便宜上の呼び分け方。実際は『その他大勢』よ。個人間での繋がりを持つ人はいるかもしれないけど、中立派としての統一意思なんてものは存在しない。――まあ、断言は出来ないのだけどね。
ただ、先日の特別試験の際に御一緒した中立派の生徒、森下愛さんというのだけど、彼女が盛大に愚痴を吐いていたし、両派閥の代表者もそれを咎めてはいなかったから、一定の理はあるのだと思うわ」
伊織の質問に鈴音が答えた。
確証はないが、まず事実だと思っていいだろう。干支試験において、真嶋クラスはそれぞれの派閥から一人ずつが辰グループに選出された。
そして中立派から選出された生徒である森下愛は、ディスカッションの最中に『なんで自分がこの面子と一緒なのか?』と散々に愚痴を洩らしていたのだ。アレが演技だとは思えない。
有栖と葛城も困った顔はしていたが、咎めはしなかった。『中立派』というだけで選出されたことに対する反応だとすれば筋は通る。
(或いは、森下さんの『我の強さ』に辟易していただけという可能性もあるけれど――それは言わなくていいわね)
鈴音は内心で呟いた。
伊織と亜真里も納得したように頷いている。
「星之宮クラスは『協調性』や『団結力』の強いクラスだね。善性の強い生徒も多く配属されている。『正統派』と言っていいだろう。真嶋クラスとはまた別の意味での『優等生』だ。
真嶋クラスが
そして、現時点で一番手強いクラスだ」
「入学して僅か一ヶ月後、五月早々に他のクラスから合わせて三人をスカウトしたんだったか?」
「うん。どうやってそれほどのポイントを稼いだのかは今以て不明だけど、不正でないことは先生が認めている。
正統派と言えば『搦手に弱い』っていうイメージがあるけど、あのクラスにそれは当て嵌まらない。学年内どころか学校内を通してもトップクラスに能力の高い生徒が何人か在籍していて、その人たちが見事に穴を潰している。無論、全部の穴を塞いだわけではないだろうけど、分かりやすい穴は見事に塞がれたね。
クラスの代表は一之瀬帆波さんという女子で、彼女を中心にクラスは纏まっている。
それと、生徒会には一年から三人が所属しているんだけど、その三人共がこのクラスの所属だ。そして現在の生徒会長は葛城くんの入会を認めなかった。
それらの事実だけでも、底知れなさの一端は分かってもらえると思う」
平田の説明に、伊織と亜真里は難しい表情を浮かべた。
「坂上クラスは『反骨心』の強い生徒が集められたクラスだ。それを取り纏めているのが、『王』を自称する龍園くんだね。その際には暴力の行使も厭わなかったみたいだから、一部からは『暴君』とも呼ばれている」
「学校は咎めなかったのか?」
「さて……? 龍園くんを訴えた生徒がいないとは思わないけど、龍園くんに何らかの処罰が下ったという話は聞かないね。先述の通り、この学校は『グレースタイル』を認めているからね。明確な証拠がないことにはどうにもならないんだろう。
そして、龍園くん自身、決してただの『暴君』ではない。彼は必要とあれば暴力を使うに否がないだけで、言葉で済むなら言葉で済ませていたと思う」
「……なるほど。反骨心の強い生徒が集められたクラスともなれば、『言って聞かせるよりも殴って分からせた方が早い』生徒たちの方が多かった。つまりはそういうことですね?」
「たぶんね。ある意味では
実際、龍園くんの行動によって五月にCPが残っていた可能性があるのは否定しきれない。龍園くんを否定するということは、その事実を否定することにもなるからね。それもあって、表立って反抗している生徒は少ない」
表情を顰めながらも、伊織と亜真里は頷いた。
「最後に僕たち茶柱クラスだね。『個性の闇鍋』、『不良品の集まり』……なんて言われてるよ。茶柱先生によると、
「念のために確認するが、それまでは?」
「誰も。グループごとのまとまりがないわけじゃないけど、基本的には各々が好き勝手に過ごしてたね。率直に言って、うちのクラスの実績はダメな意味で凄いよ」
伊織の問いかけに、千秋は苦笑を浮かべて首を横に振った。
「ちょっと訊くのが怖いですけど、具体的には?」
「最初の一ヶ月で1000あったCPをゼロまで溶かし尽くしたね。途中、星之宮クラスから学校を介した『善意の忠告』を受けるオマケ付き。
分かりやすく言えば、『授業中に騒ぎ過ぎた』ってこと。そして、他のクラスと学校が無視を続ける中で、星之宮クラスだけが唯一苦言を呈してきた。
正直、この事実は大きいと思う。表立って口にしていないだけで、学校側も高く評価したんじゃないかな……?
注意を受けたのはうちだけじゃなく坂上クラスも同じだったけど、該当者の比率には雲泥の差があった。これには、その時点で龍園くんが動いていた事実も大きいだろうね。
結果、学校側の判断により、うちのクラスからは一人の女子が星之宮クラスへと移籍することになった。それが佐倉愛里さん。教室では地味な雰囲気だったから気付かなかったけど、その実は新進気鋭のグラビアアイドル『雫』だった。――もっとも、そのことに気付いたのはもっと後になってからだったけどね。
先に言ったことに繋がるけど、個人でやれば2000万も掛かるような、『生徒の移籍』を罰則として適用したのも、それだけ学校側が星之宮クラスを高く評価したからである可能性は否めないよね」
亜真里の質問に答えた千秋は肩をすくめた。
あのまま愛里が茶柱クラスに在籍し続けていたところでその強みを活かすことが出来たとは思わないが、移籍によりその可能性がゼロになったのは事実だ。
そして、移籍が罰則として適用された事実。最低限の理由は説明されたし、一定の筋は通っていたけど、どうしたって
「そして、そんな事が起こってもなお、うちのクラスは変わらなかった。騒ぐのを止めただけで、授業を真面目に受けない生徒が多いのに変わりはなかった。
元からクラスをよく思ってなかったのは事実だけど、それを見て私も見切りを付けたものよ。そしてそれは、私以外も同じだった。極一部の真面目な生徒や、学校に疑問を抱いて様子見をしていた生徒なんかは、尚更にクラスメイトとの関わりを絶った。
その、後者の一人が綾小路清隆くん。私の隣席の生徒で、五月になってスカウトを受けて星之宮クラスに移籍していった男子。そして、今では生徒会役員の一人で、ハーレムの形成者でもある。
私が単に『見切りを付けた』だけだったのに対し、彼はキチンと行動に移っていた。……余程に特殊な環境で育ったらしくてね。教室では『事なかれ主義』を装っていたけれど、その実は高い実力を持っていた彼は、三年の先輩に対して自分を売り込んだのよ。
三年の先輩に勉強を教えることで、クラス移籍用のPPを稼ぎ出した。――クラスの誰も、そのことに気付いてはいなかった」
神妙な表情で鈴音は語る。率直に言って黒歴史だ。好んで語りたい内容ではない。
「すまない。ハーレムがどうのと聞こえた気がするんだが?」
「ええ、言ったわよ。もっとも、彼にそうするように唆したのはそこの千秋さんだけどね」
「は~い! 唆しました~っ! ま、時系列的にはまだ後なんで、詳しくはそこで」
伊織が口を挿めば、鈴音が頷き、千秋が手を挙げた。
内容的に気にはなったが、そう言われれば伊織としても無理にとは言い難い。時系列順で聞いた方が分かりやすいのは確かだ。
「そうして五月に入り、僕たちは『現実』を叩きつけられた。大半の生徒はポイントを使い切っていて、なのにポイントの支給はない。だけど、率直に言って『自業自得』だ。誰を恨むことも出来ない。
そんな状況で、スカウトを受けた清隆くんが星之宮クラスへと移籍をしていった。当然の如く怒りを向ける生徒は多かった。『裏切り』だと声を上げる生徒もいた。
その一方で危機感を強める生徒たちもいた。何せ、同じタイミングで『赤点での退学』が周知されたばかりだったからね。
先述の通り、うちのクラスは授業を真面目に受けていない生徒の方が多かったんだ。また、真面目に受けてはいたけど、周囲の騒がしさに集中力を阻害される生徒もいた。
僕たちのクラスは、誰もが誰も、『現実』を受け止めきれていなかった。
そんな折、再び星之宮クラスから手が差し伸べられた。極一部だけど、クラスメイトの勉強を見てくれたり、『過去問』の存在を教えてくれたりだね」
「その時に、私の所属するグループ+αが清隆くんから勉強を見てもらえることになったのね。
三年生に教えてるってのは伊達じゃないね。本当に分かりやすかったよ。『教え上手』って言うのかな……? 分からないところはどこまでも逆算して教えてくれるの。それも、嫌な顔一つせずにね。
で、その時に内の一人が引き続き面倒を見てくれるようにお願いしたわけ。と言っても、私たちの大半はポイントなんか持ってなかったからね。交換条件を持ちかけたわけ」
「それがハーレム入りだったと?」
伊織が口を挿んだ。
「そう思うのは無理もないけど、違うよ。それを提案したのはもっと後だね」
割って入られた千秋は、嫌な顔一つせずに否定した。
「さっき鈴音ちゃんもチラッと言ったけど、清隆くんて物心つく前から『天才の量産法の確立』を目的にする施設で育ったらしくてね。しかも、そこの責任者は実のお父さんで、お母さんには会ったこともないそうよ。
そんなだから、清隆くんて愛情らしい愛情を受けたこともないし、年齢とガタイに反して感情面は非常に未成熟なのよ。多分に合理的と言うか、もっと率直に『機械的』と言ってもいい。
ただ、清隆くん自身はそんな自分のことをよく思ってないのも事実でね。だから、その時に持ちかけたのは、私たちを感情面の教材にすること。
清隆くんは私たちに課題を出す。私たちはそれに取り組む。その達成率次第で、『グレーな内容を含むペナルティ』を私たちは受ける。極論、この学校の縮図だね」
「そう言われれば、否定はできませんね。この学校の謳い文句を鑑みれば理解はできますけど、赤点一つで退学はかなりグレーと言えますし……。
しかも、入学してからそれを伝えるのは尚更です」
千秋の説明に亜真里が頷いた。グレーと言うのなら、『高度育成高等学校』自体がだいぶグレーだ。
「あくまでも『互いの合意の上』で成り立ち、故にポイントのやり取りもない。そんな契約。私を含む一部のメンバーは、それを清隆くんと結んだ。女子が三人に男子が一人ね。
で、それを機に清隆くんとの付き合いが本格的に始まったわけなんだけど、知れば知るほど底知れなさを抱いたよ。怖ろしさを抱くと同時に、『手放すべきじゃない』と思った。
高い能力を持つ割に、清隆くん自身に確たる『軸』はなかったからね。感情面が未発達だから、欲望らしい欲望がなかったのよ。
その一方で、あらゆる『コト』、『モノ』に対する興味関心が高かった。それでいて、その度合いが等価だから、自分で優先順位を付けることも出来ず、何から手を付けるか選びきれない。
ここだけ見れば『優柔不断』で、教室で目立たなかったのはそれも一因ね。だけど、ひとたび必要と判断すればその行動力は高い。
普通に考えて危険よ。どう転ぶか、いつ爆発するか分からない爆弾に等しい。
だから、『ハーレムの形成』を持ちかけたの。……普通に考えて、三年間の学校生活の中で清隆くんの実力が知れ渡らない筈がない。実際、その時点で三年生に勉強を教えてたわけだしね。時間が経つにつれて周知されるのは否めない。
そして、清隆くんほどの能力を持っていれば女子が近付かないわけがないもの。なら、まとめて相手してもらえばいい。そうすることで、彼が暴発しないように縛り付けてしまえばいい。爆発の方向性を管理してしまえばいい。……そう思ったのよ。
そして学校を卒業後、将来的に政界に進出してもらい、合法的に法改正に着手してもらうことをお願いした。たとえ限定的であっても、法が複数婚を認めてしまえば、ハーレムも違法にはならない。
それが成立すれば、少子化の対策にもなるし、女子が一人の男子を巡って争う事態の根絶にも繋がる。ハッキリ言って良いこと尽くめよ。
そのための『下地作り』であることを強調すれば、現時点での『ハーレム形成』にも一定の筋は通る。謳い文句が謳い文句故に、学校側も高らかに否を唱えることは出来ない」
「松下さん、凄いことを考えるな……」
「ですけど、非常に合理的ではあります。少子化問題が騒がれ、確たる解決法が見出せぬまま長い年月が経っているのも事実ですしね」
伊織が呆気に取られたように呟く一方、亜真里は理解を示した。
「話を戻すと、無事に中間を乗り越えた僕たちは、七月の期末でクラスメイトから一人の退学者を出した。山内くんという男子だ。
そのことが、僕が行動を起こす直接的なきっかけになったのは間違いない。……実を言うと、一部の人たちにはそれ以前から起つように促されてたんだけどね、踏ん切りがつかなかったんだ。
中学時代、僕の通ってた学校ではイジメが起こっていた。ターゲットになったのは僕の幼馴染みで、だけど僕は自分がターゲットになるのを恐れて見ないふりをした。結果、幼馴染みは飛び降り自殺を敢行した。一命は取り留めたけど、脳死状態で今も病院のベッドの上さ。
そして何よりも最悪だったのは、そんなことが起こりながらも、そんな事を起こしながらも、ターゲットを変えてイジメが続行されたことだ。
僕は絶望し、贖罪のためにも、悲劇の再発を防ぐためにも、暴力を以て学校を支配した。
それによってイジメは根絶されたけど、学校からは活気が失われ、僕の学年は機能不全となり、全クラスが強制的に解体・再編された上、卒業まで厳しい監視体制が取られることになったのも事実だ。
そう。こうと決めたら、僕はやりすぎてしまうんだよ。その実績があるんだ。
僕はそんな僕を恐れ、その一方で、皆がワイワイとしていることに喜びを見出していた。――だけど、それが山内くんの退学に繋がってしまった。
直接的には山内くんの努力不足が原因だ。頭では分かっている。でも、感情が納得していないんだ。だって、こうなる可能性が高いことは分かっていたんだ。なのに僕は、
悩みに悩んだ結果、僕は起つことを決めた。幸い、堀北さんと松下さんが補佐をしてくれる。だから、かつてのようにはならないし、する気もない」
冷静さを取り繕いながら、それでも声の所々が震えていた。平田の苦しみがよく分かった。
それでも、その瞳には確かな輝きがあった。苦しみながらも、平田は前に進もうとしている。
自らも『破壊の意思』を宿すからこそ、伊織と亜真里にはそのことがよく分かった。
「僕、堀北さん、松下さんの三人を軸にして、クラス内にランキング制度を取り入れ、上位十名による合議制で運営していくつもりだ。――まあ、一人だけ例外がいるけどね」
「例外?」
「そう、例外。高円寺六助くんって言うんだけど、かの『高円寺コンツェルン』の御曹司で、基本的には『強者の倫理』で動いてるの。その性質上、彼を『クラス』という組織に組み込むことは出来ない。クラスメイトではあるけど、私たちでは扱いきれないのよ」
「普段から本気を出すそぶりは見せないけど、それでも確かな成績を叩き出してはいる。彼に協力を求めるなら、相応の対価を差し出すか、私たちが彼の領域まで昇り詰めるしかないでしょうね」
高円寺について語った鈴音と千秋は、揃って肩をすくめた。
「彼が毎月のランキングで上位三位以内に入る限り、クラスのことは気にしなくていいと言ってある。ランクを定めるのは学校側だからね。その時点で、クラスに対して
だから、二人もそのことは了承しておいてほしい」
「まあ、分かった。そういう取り決めがなされているのであれば、可能な限り口出しは控えよう」
思うところがないではないが、伊織と亜真里は頷いた。
「それで申し訳ないんだけど、二人はたぶんランキング最下位からのスタートになると思うんだ」
「まあ、転入生ですしね。何ら実績があるわけでなし、当然だと思います。ですので、あまり気に病まないでください」
「ありがとう。そう言ってくれると助かるよ」
平田が気まずそうに告げれば、亜真里が笑顔で応じた。それにより、平田は安堵の息を吐く。
「取り敢えずはこんなところだと思う。分からないことがあれば、気兼ねなく訊いてほしい。分かることであれば答えるから」
「ああ、ありがとう。そういうことであれば、連絡先を交換してもらえるか?」
「そう言えば、まだ交換してなかったっけ……」
伊織の言葉に、未だ連絡先を交換していなかったことを思い出した。
五人はこの場で連絡先を交換する。
取り敢えずの情報交換を済ませた一行は、伊織と亜真里に対する道案内をしながら寮へと帰るのだった。
平田グループと、伊織、亜真里との情報交換シーンです。
内容的に、読者にとってはくどく感じるかもしれませんが、それぞれのクラス、それぞれのグループ、個人で情報量や思考、判断に差があるのも事実ですからね。
適度にそこら辺を描写しないと、筆者の方が忘れてしまいます。ご了承ください。
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