ようこそ実力至上主義の教室へ ~ギフテッドとN.I.N.J.Aと……~ 作:山上真
「誕生日?」
電話越し。平田から伝えられた内容に、清隆はオウム返しに訊き返した。
『うん、そう。8/21は王さんの、8/24は井の頭さんの誕生日なんだ。僕は二人にプレゼントを買うつもりなんだけど、よかったら清隆くんもどうかなって……』
「そうだな……。オレも贈らせてもらおう。だが、生憎と何を買えばいいのか見当が付かない。よければ一緒に選んでもらえるか?」
『もちろん構わないよ』
「元クラスメイトの誼もある。佐倉にも声をかけようと思うが、平田はどう思う?」
『僕個人としては、一人でも多く祝ってくれる人がいるんなら喜ばしい限りだけど……』
答える平田の言葉尻は弱い。平田がどう思おうと、結局は美雨と心がどう思うかであるのは否めない。
「ま、接点が少ないのはオレも同じだ。だが、少ないだけで無いわけじゃあないんだ。オレに声をかけたなら、佐倉に声をかけたって不思議はないだろうさ。
それにタイミング的にも丁度いい。特別試験で星之宮と茶柱、両クラスの接点は深まったからな。お前も、それがあるからこうして誘ってきたんだろ?」
『……それもそうだね。ただ、生憎と僕は佐倉さんの連絡先を知らないんだ。悪いけど、彼女には清隆くんの方から声をかけてもらっていいかい?』
「ああ、分かった。じゃあな」
そうして清隆は通話を終えた。そのまま、『善は急げ』とばかりに愛里へと連絡を取った。
――それが昨日のことである。
「おはよう二人とも。今日はよろしく」
「ああ。おはよう、平田。こちらこそよろしく頼む」
「おはようございます」
そして翌日、寮のロビーで待ち合わせた三人は合流を果たしていた。プレゼントはケヤキモールで購入予定のため現地集合でも構わなかったが、こちらの方が確実だ。
今日の愛里はあくまでも『佐倉愛里』のため、いつも通りの地味目な装いである。『派手な装いは雫モードの時だけで十分』とは愛里の言だ。
「今日は王さんと井の頭さんの誕生日プレゼントを買う予定なんですよね?」
「うん、そうだよ。突然誘われて二人は迷惑だったかもしれないけど、僕としては、やはり一人でも多くの人が祝ってあげるべきだと思うから……」
「いえ、迷惑だなんてそんな……。そういう気持ちは、大切だと思います。
ただ、私ってこの学校に入るまでまともに友達が出来たことがないので、誕生日プレゼントを選ぶ基準がよく分からないんですよね……。親相手に贈るものとはまた別でしょうし……」
「オレもそうだ。そもそも、まともな人間関係自体、この学校に来て初めて構築したからな」
愛里と清隆は揃って首を傾げた。
一応、入学して数ヶ月が経っていることもあり、二人ともに誕生日プレゼントを贈ったことはある。だが、それもある程度距離が縮まっており、それに伴い相手の情報をある程度得ていたからこそ可能なことだったのは否めない。
一方、今回プレゼントを贈る相手は確かに『元クラスメイト』ではあるが、十分な情報を得ているとは言い難い。率直に言って知らないことの方が多いのだ。
「以前、池にプレゼントを贈った際に窘められたんだが、予算にも気を遣った方がいいんだろう? オレはそこら辺が分かってなかったんでな。贈ったプレゼントは池にとって高価過ぎたらしい。受け取ってはくれたが、その際に苦言を呈されたよ。『相手との関係性次第じゃあ嫌味になる』ってな」
「言われてみれば尤もだね……。私、ユキちゃんが相手で助かったかも……」
清隆の言葉を受け、愛里は理解を示しつつ安堵した。
5/26に誕生日を迎えた姫野ユキは星之宮クラスの生徒だ。クラスの傾向に反し、基本的には人付き合いを好まない。にも拘らず自分から愛里に近付いたのは、星之宮クラスの特色故だった。クラスの雰囲気に馴染めなかったからこそ、別クラスからの移籍でボッチだった愛里へと手を差し伸べた。
端的に言えば、愛里を『必要以上にクラスメイトとの関係を広げず深めないための防波堤』にしたわけだが、人付き合いが苦手な愛里にとっても利はあった。
そんなだから、双方の関係は急激に深まっていったのだろう。愛里は自然と誕生日プレゼントを選んで贈っていたし、ユキも普通に受け取ってくれた。
しかしそれは、所属が星之宮クラスであり、CPも高く、PPにも余裕があったからな可能性は否めない。
正直、そんなことは一切気にせずプレゼントを選んでいた。清隆の言葉で、初めてそのことを自覚した愛里である。
「付け加えると、『プレゼントを渡すなら、事前に相手の趣味や興味なんかについてある程度のリサーチはしろ』。『それが無理なら、せめて自分のお勧め品にしとけ。少なくともお勧め品を渡しておけば、暗に「同好の士に誘ってる」ってメッセージになるからよ』。『最終手段としてはギフトカードなんかもありだ』……ともな。
あれでコミュニケーション能力の高い池の言うことだから間違ってはいないと思うんだが、実際どうなんだ?」
清隆は平田へと問いかけた。愛里に訊いたところで効果が低いのは目に見えている。
「そうだね、間違ってはないよ。後はもう、どれを選ぶかはその人のスタンスとか互いの関係性次第になると僕は思うよ。
例えば井の頭さんの場合、自己紹介の時にも言ってたけど、趣味は裁縫や編み物だ。それで白熊シリーズのグッズが好きらしいね。
じゃあ、そこからプレゼントを選ぶとして、贈る側にある程度の心得がないと『手芸道具って何をプレゼントすればいいの?』ってことになっちゃうと思うんだ。
なら白熊シリーズのグッズにする? でも、それはそれで『彼女が持ってないのってどれ?』って問題に行き当たる。
結局のところ、リサーチしても何らかの問題にぶつかる可能性は高いんだよ」
平田の説明に清隆と愛里は頷く。
「次に、自分のお勧め品をプレゼントする場合。確かに池くんが言うようなメッセージ性はあるね。
だけど、例えば僕はサッカーが好きでサッカー部に入ってるけど、いくら『同好の士』に誘いたいからと言って、女の子相手にサッカー道具をプレゼントするのをどう思う?」
「相手は井の頭や王だろう? 流石に合わないんじゃないか? よく覚えてないが、そこまで運動が得意なタイプじゃなかった気がするぞ。
もっとも、女子相手だからといって、その選択を完全に除外するわけでもないが……。身体能力の高い鈴音や小野寺なんかであれば、ある程度の効果は望めると思う」
「そうですね。私も、サッカー道具をプレゼントされてもあまり喜べないかもです。アズや桔梗ちゃんなら普通に受け取るかもしれませんけど……」
平田の問いかけに清隆と愛里は答えた。
「そう、二人の言う通りだ。自分のお勧め品を渡すのも、相手とチョイス次第じゃあ逆効果になりかねないんだよ。
僕の場合、『ミサンガ』くらいであれば『応援してほしい』というメッセージ性に繋がるけど、『サッカーボール』なんかを贈った時には『一緒にサッカーをしないかい?』と受け取られても文句は言えない
もっとも、メッセージ性を込めるのは
御尤もな内容に二人は頷く。
「だからこその最終選択肢が、『ギフトカード』や『図書カード』なんかになるわけだね。要は『これで欲しいのを買ってね』と、選択肢自体を相手に丸投げするわけだ。現金を渡すのと大差ないけど、その一方で一番外れがないのも事実だね。ただ、現金を渡すのは余りに風情がないから、『プレゼント』というせめてもの体裁を整えるために『カード』に変えるわけだね」
平田から『プレゼント選択肢』のメカニズムを説明された清隆と愛里は、感心の眼差しを平田に向けた。
「よく『プレゼントは気持ち』と言うけど、今挙げたのは、プレゼントを用意する側が
中にはそこら辺を一切気にしない人もいるからね」
「と言うと?」
「誕生日だからプレゼントを渡す。……贈る相手のことなんか一切考えず、ただそのルールに従って行動する人も中にはいるってことさ。周りがプレゼントを渡すのに、自分だけ渡さないのは体裁が悪いだろう?」
『あ~……』
清隆と愛里は同時に納得の息を吐いた。確かに、中にはそういう人もいるだろう。
「オレとしては、ぬいぐるみとかを渡すのは個人的に疑問なんだが……。だって、何の役にも立ちやしないし、部屋のスペースを無駄に使うだけだろう? 普通に邪魔になるだけだと思うんだが……」
「そうだね。単に
ぬいぐるみであれば『インテリア』として使うことが出来るのは間違いない。好きな作品、好きなキャラのグッズであれば、リラックス効果も期待できる。感情面への刺激だね」
「……なるほど。インテリアに感情面か……。ありがとう、参考になった。オレは未だにそこら辺がな……」
かねてからの疑問をぶつけた清隆は、平田の返答を受け、礼を告げた。理解や納得をしきれたかは分からないが、理には適っている。
「オレは『インテリア』なんて物とは無縁の環境で過ごしてきたからな。である以上、そんな選択肢が思い浮かぶわけもない。
また、道具に対する『思い入れ』なんてものもありはしない。オレにとって道具はただ道具でしかない。どれだけ祈り願ったところで、道具が助けてくれるわけではないからな。結局はそれを使う側の技量次第だ」
「清隆くんの部屋って、清隆くん自身の
清隆の言葉に、平田は納得したように頷いた。
入学時に比べれば清隆の部屋にも色々と物は増えているが、ペナルティ道具を始め、必要に応じて購入した物が大半だ。しかも、節約を優先して大半は百均の代物である。
「逆に言うと、百均で済ませる『道具に対する拘りの無さ』が、今現在の清隆くんの
「そういう捉え方もあるか……」
フォローするかのような平田の言い分に、清隆はまたも頷いた。
実際、清隆は生まれてこの方十年以上も『全面が白で覆われた施設』――名の通りの『ホワイトルーム』で過ごしてきたのだ。例外は、所々に設置されたガラスや蛍光灯、そして他の人物ぐらい。
それに比べれば、寮の個室は初期段階からして『天国』と言える。普通に様々な物や色に囲まれているのだから。
「たぶん、オレは入学時点から個室に対して不満を持ってはいないんだな。改めて考えて、『十分に恵まれている』と思ってしまった。だから、敢えて変化を促そうとは思わないんだろうな……」
清隆は最初に寮の個室に入った時のことを思い出した。
個室に入って、初めて『この学校に受かって良かった』と実感した。
誰の目も、言葉も、自分に届くことはない。そのことに『自由』を覚えた。
人生をやり直せる――新しく始められることに『期待』した。
そして高揚した気分に従い、制服のままでベッドにダイブした。
「改めて思うけど、清隆くん、一体どれだけ酷い環境で過ごしてきたの?」
その言葉を聞いて、愛里が引き気味に清隆に問いかけた。
今ではもう、敢えて過去を隠してはいない清隆だが、それでも殊更に周知したわけではない。クラスメイト兼『陰キャの集い』のメンバーということもあり愛里も部分的には知っているが、やはり部分的でしかないのだ。
「以前にも言ったかもしれないが、物心ついた時には全面が真っ白に覆われた施設で、与えられた課題をクリアすることだけを求められる生活を送っていた」
清隆はその問いに端的に返した。間違ってはいないし、変化は無くはなかったが『微に入り細を穿つ』ほどの変化もなかった。
「そっか……。大変だったんだね……」
改めて、愛里としてはそのような感想しか出ない。余りに現実味がなさ過ぎて、我が事のように考えることすら不可能だ。しかしながら、清隆の行動の節々に、それを『現実』だとする『説得力』があるのも否めない事実である。
それ故の、端的な感想だった。
「大変、だったんだろうか……?」
「大変だったんだよ。そんな生活を送った結果、清隆くんはそれを『大変』だと感じることも出来ないほどに能力が高まったけど――反面、課題の乗り越えるための代償としていろんな部分がマヒしちゃったんだよ」
首を傾げる清隆に、愛里は断言した。断言しなければならなかった。ここばかりは、曖昧にしていい部分ではない。
「私、清隆くんと一緒にいて落ち着く理由がやっと分かったよ。清隆くんは『個』が極端なまでに薄いんだ。だから、私は清隆くんを『人間』として認識しながら、その一方で『空気』のように感じている。人間、空気を嫌がったりはしないからね」
「空気か……。酷い言い草ではあるが、オレ自身がそれに理解と納得を覚えるんだから難儀なものだな……」
率直なまでの愛里の言葉に、それを否定しきれなかった自分自身に、清隆は深々と溜息を吐いた。
「そうだね。……だけど、やっぱり清隆くんは人間だから。決して空気なんかじゃあり得ないから。――だから、このままじゃいけないと改めて思ったよ」
そう呟いた愛里は、清隆と向かい合った。
「綾小路清隆くん、佐倉愛里です。私と友達になってください」
そして、宣言して片手を差し出した。
なってくれませんかと、相手に選択を委ねるのではない。なってほしいと、自らの感情をぶつけた。
それこそが、佐倉愛里と綾小路清隆という二人の男女が、『人間』として向かい合うための第一歩だと思ったからだ。
今までは、ただ
けれどそれは、愛里が清隆を『空気』として認識しているが故でもある。人間と認めていながら人間扱いしていないのだ。
そのことを自覚してしまった以上、その状態で留まっていることなど愛里には出来なかった。だって、愛里が求めているのは
「綾小路清隆だ。オレもまた、お前と友人になりたい。なれることを望んでいる。或いは、その先に進むことも。――だから、こちらこそよろしく頼む」
清隆も愛里を見据えて言葉を紡いだ。
入学当初の清隆であれば、この言葉は文字通りに『言葉』でしかなかっただろう。当たり障りのない、ただ相手に合わせただけの返答。そこに清隆自身の意思はなく、然るにどう転んだって構わない。そんな空虚なだけの言葉だった筈だ。
しかしながら、今現在の清隆にとっては異なる。そこには確かに清隆自身の願望が含まれていた。
そして、二人の手が重なった。
「言っておくけど、私、安くはないからね?」
「オレだってそうさ」
友人関係の先に進むことを希望する清隆に、愛里は牽制を入れた。佐倉愛里の能力はまだまだ低いけど、それでも雫の人気は大したものなのだ。それ故のセリフであった。
それに対して、清隆は真っ向から返したのだ。自分に未熟な部分があることを否定はしないが、その上で、愛里と釣り合いが取れるほどには自分の実力は高い。『お前が高値なら、オレも高値だ』と、暗にそう告げたのである。
「平田くんも。これを機に私と友達になってください」
清隆と手を結んだまま、愛里はもう片方の手を平田に差し出した。
「オレの方からも、改めて言わせてもらう。平田、友人になろう」
清隆もまたそれに倣った。
「二人とも……。うん、友達になろう。僕は平田洋介。改めて、よろしくお願いするよ」
そして、平田もまた差し出された手を握り返した。
三人が輪になった瞬間だった。
8/1から二週間が『バカンス』で、学校に帰ってきたのはたぶん8/15です。
その前提で、原作4.5巻の描写からすると――
・伊吹編の開始は8/24。
・須藤のバスケ大会は8/24。当日だけか連日かは不明。ただ、8/24に敗北で終了・帰還は確定。
・葛城編は伊吹編の一週間前であることが描写されているので8/17が安牌。ただ、心の誕生日プレゼントの購入に誘われてモールに赴いた先での葛城との遭遇であり、誘いとショッピングの間に期間があったのか同日だったのかは不明なため、誘い自体はは8/15や8/16の可能性もあります。
・恵との待ち合わせが8/30でプールが8/31。
・鈴音編(断水)の日時は不明。普通に考えて、葛城編と伊吹編の間か、伊吹編以降でしょう。
・山内編は伊吹編以降。
こうして羅列すると、特に後半が凄いですね。
おそらく、バスケと同タイミングで他の競技の大会も行われているでしょう。
バスケの大会だけあって、サッカーとかの大会がないのもおかしな話ですし。
一応、本作もタイミングを可能な限りこれに合わせて執筆していますが、当然ながら原作との差異も存在します。
清隆が『誕生日プレゼントを買いに行く』のは原作と同じですが、同行者は平田と愛里に変化し、贈る相手も美雨と心の二人になってます。
まあ、現在では原作からの情報提供量自体が増えていますので、敢えてプレゼントを贈る対象を心だけに限定する必要はないでしょう。
そして、平田であれば両名の誕生日を知っていても不思議はなく、プレゼントを贈ろうとしても不思議はなく、清隆を誘っても不思議はありません。
で、本作の愛里も当然ながら原作とは変化を遂げています。
ので、一歩を踏み出しました。
根本問題、愛里って自覚がないだけで、原作からして内心では他者を見下していると思います。そして、自分の『美』には間違いなく自信を持っていると想定できます。
普通に考えて、そうでもないとイキナリ『グラビアアイドル』になったりしないと思います。その行動自体が、自分の『美』に自信を持つが故の表れでしょう。
当人に自覚がないだけで、きっと選り好みも激しいです。『友達が欲しい』も、『(自分の『美』に釣り合う)友達が欲しい』の可能性が大です。
その一方で、『美』以外に自信がないのも本当で、それ故の『引っ込み思案』。
ぶっちゃけると、表に出す部分が異なるだけで、根っこは有栖タイプ。
有栖は他人を『駒』と認識してますが、愛里は『有象無象』と書いて『ファン』と読む、でもおかしくありません。
少なくとも、状況描写だけを取り揃えると、そういう解釈も成り立つんですよね。
本作の愛里は、そういう解釈の上で構築されています。
そこにクラスメイトということで桔梗の影響も受けているものだからもうね……。
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