ようこそ実力至上主義の教室へ ~ギフテッドとN.I.N.J.Aと……~ 作:山上真
「やあ、平田。そちらの二人は友人かな?」
「どうもです、平田くん」
ケヤキモール内の店舗を順繰りに確認していた清隆たちは――正確に言うと平田は、横合いから不意に声をかけられた。
振り向くと、そこには少年少女の二人組。
「やあ、葵くん。天野さんも。……ああ、紹介するよ。こちらは葵伊織くんと天野亜真里さん。うちのクラスへの転入生だ。もっとも、合流したのは『バカンス』後だけどね……。
葵くん、天野さん、こちらは綾小路清隆くんと佐倉愛里さんだ。現在は星之宮クラスに在籍しているけど、元々は僕たちのクラスメイトでもある」
平田の仲介でそれぞれが挨拶を交わす。
「私たちは現地調査を兼ねてのショッピングなんです。やっぱり来たばかりですからね。足を運ぶところが多くて大変です」
苦笑しながら亜真里が言った。
高度育成高等学校の敷地内は、『小さな街』と言えるほどには多種多様な施設が存在している。と同時に、それだけの施設を収容できるほどの広さをも誇っている。回りきろうとすれば、相応の時間が掛かるのは道理だ。
現在は『夏休み』で時間があるからこそ、それを有効活用しているのだろう。三年間の学生生活を満喫しようと思えば、否応なくいずれかの施設の世話にはなるのだ。
まあ、ポイントがなければ満喫することも出来ないのが『現実』だが、それが生徒を奮起させる一因になっている面があるのは否めない。
「付け加えると、プレゼント探しもある。8/25は亜真里の誕生日だからな」
「そうなのかい!?」
「ちょっと、伊織くん! このタイミングで教えると催促してるみたいじゃないですか!」
「そうは言っても、相手が平田だからな。会って間もないが、知らないでいる方にショックを受けるタイプと見たぞ」
「言われてるぞ、平田」
「言われてますね、平田くん」
伊織の言葉に平田が驚きを露わにし、亜真里が伊織を窘め、伊織は肩をすくめて言い放つ。それに対し、清隆と愛里は苦笑しつつ平田を揶揄った。
「実は、僕たちもプレゼントを買いにきててね。8/21はクラスメイトの王美雨さんの、8/24は同じくクラスメイトの井の頭心さんの誕生日なんだ。
君たち二人が転入してくる前、僕たちは学校に『バカンス』という言葉に騙されて無人島へ連れていかれてね。そこと帰りの船内で『特別試験』なるものを受けたんだ。……で、特に無人島での試験の際に、僕たちと彼らは『クラス単位』で一緒に行動することを選択してね。
それもあって、いい機会だと思って僕の方から清隆くんを誘ったんだ。クラス移籍を果たして以降、個人間の繋がりが精々だったからね」
「システム上、この学校生活の根底に『クラス闘争』が敷かれているのは間違いないが、一度『特別試験』を受けると単純な敵対が『愚の骨頂』なのはよく分かる。試験内容にもよるだろうが、『協調』や『共闘』も十分に現実的な選択肢だ。――無論、『騙し討ち』もな。
そういうわけで、普段から他クラスの生徒と繋がりを持っておくことには、リスクはあるがリターンも望める。
それもあってオレは平田の誘いに乗り、ついでだから愛里にも声をかけた次第だ」
清隆の言葉は身も蓋もないものだったが、タイミング的に妥当なのは事実だろう。
「……なるほど。よければ俺たちも一緒に行動させてもらって構わないか? 王さんと井の頭さんだったか? その二人とは俺たちもクラスメイトになるわけだからな。
特に接点がない生徒からプレゼントを贈られても向こうは困惑するかもしれないが、こちらとしてもクラスの誰かしらとは早急に接点を持ちたいのが本音でな。いい機会だから利用させてもらう。――もっとも、知った以上は『クラスメイトの誕生日を祝いたい』のも本当だけどな」
伊織の言葉もまた率直だったが、状況を鑑みれば理解はできた。
「言いたいことは分かるけど、それはそれで、逆に王さんと井の頭さんが恐縮しちゃいそうな気がするね。8/25は天野さんの誕生日なんだろう? 自分たちだけプレゼントをもらって気が咎めない二人じゃないと思うから……」
伊織の言葉に理解を示しつつも、平田は唸った。
「平田くんて二人の連絡先は知ってます? 知っているなら、いっそのこと呼んじゃえばどうでしょう? サプライズ感は無くなっちゃいますけど、必ずしも必要なわけではないですし……。実際に相手に訊きながらプレゼントを選ぶのもありだと思いますよ?」
それを聞いて亜真里が提案した。
「俺が亜真里と恋人になったのも、
それに伊織が補足を入れた。
恋人同士でもこうなのだ。クラスメイトや元クラスメイトとはいえ、互いに知らないことの方が多いのも事実。それを思えば、悪くない手であるのは否めなかった。
「そうしてくれるとオレも助かるな。来といてなんだが、正直、サプライズってのは荷が重い。プレゼントを贈る気はあるが、何を送ればいいのか分からないのが実情だ。最初から『ギフトカード』か何かに逃げるのは、それはそれで違うだろうしな……」
「実際に訊きながら選べるなら、私としても助かります」
清隆と愛里まで同意を示す。
こうなっては、平田としてもサプライズに拘ってはいられなかった。
「……そうだね。じゃあ、二人に連絡を取ってみるよ」
端末を取り出しながら、平田は端の方へと寄っていく。まず間違いなく、電話をかけるのだろう。
それを見送り、自然と二対二で見つめ合った。
会話がないまま、暫しの時が経過する。
「いや、貴方たちは何を見つめ合ってるんですか?」
そこに、更なる第三者からのツッコミが入った。
「どうもです、清隆くん、佐倉さん。そちらの二人は『はじめまして』ですね。真嶋クラスに在籍しております、坂柳有栖と申します」
「……神室真澄」
振り向くと、そこにいたのは有栖と真澄だった。
有栖は慇懃に、真澄は素っ気なく。らしいと言えばらしい態度で二人は名乗った。
『有栖……』
自己紹介を受けた伊織と亜真里は、しかし何とも言えない表情を浮かべて有栖を見つめていた。
無論、伊織と亜真里が思い浮かべていたのは、職場の先輩である
「……何か?」
「いや、すまない。知人に『有栖』という名字の男性がいてね。割と濃いキャラをしてることもあって、つい思い浮かべてしまった」
「まあ、相方の女性の方が濃いと言えば濃いんですけど、彼の方もそれに引きずられる形で……」
首を傾げる有栖に対し、伊織と亜真里は謝罪しながら理由を告げた。
基本的にはツッコミ役だが、訓練の際には『二刀・一迅!』だの、『稲妻三段斬り!』だの、『奥義を受けろ!』だのと元気に叫んでいるのが、二人の知る有栖零児という男であった。
「葵伊織だ。こちらは天野亜真里。俺たちは転入生で、Dクラスに配属されることになった。よろしく頼む」
「よろしくお願いしますね」
改めて伊織と亜真里は名乗った。
「ほう? 転入生、ですか……」
「この学校って転入生オーケーなの? システム的に難しいと思うんだけど……」
意味深に有栖は呟き、真澄は首を傾げた。
「真澄さんの疑問は尤もですが、この学校も結構特殊な立ち位置ですからね。相応の理由があればあり得なくはないでしょう」
真澄に答えた有栖は、『違いますか?』と視線で伊織と亜真里に問いかけた。
「ご明察。俺と亜真里は『神隠し』からの帰還者でね。保護を兼ねてこの学校に入れられたんだ」
「まあ、説明を聞く限りだと、ちょっとしたことで退学になりかねないので、その点については疑問が無くはないんですが……」
伊織が頷く横で、亜真里は苦笑を浮かべた。
「尤もですね」
保護目的で入れたというのに、アッサリと退学になっては意味がない。
「あれ? 坂柳さんと神室さん? 二人も来てたんだ。こんにちは」
そこで平田が戻ってきた。
「こんにちは、平田くん。……なるほど。妙な組み合わせだと思っていましたが、平田くんが間に立っていたわけですか……」
「いやいや。確かに清隆くんと佐倉さんとは一緒に来たけどね。葵くんと天野さんに出会ったのは偶然だよ」
「確かに出会ったのは偶然だが、『一緒に行動しないか?』と提案したのも間違いではない。――それで、どうだったんだ?」
納得したように頷く有栖に対して平田が手を振ると、その横から伊織が補足を入れた。
その上で、平田へと問いかけた。
「ああ、うん。王さんと井の頭さんも合流することになったよ」
「おや? 何かご予定でも入ったんですか?」
「元々、僕たち三人は王さんと井の頭さんの誕生日プレゼントを買いに来たんだよ。それぞれ、8/21と8/24と近いからね」
「俺たちは現地調査を兼ねて亜真里の誕生日プレゼントを買いにな。亜真里は8/25が誕生日なんだ」
「これは奇遇ですね。私も誕生日プレゼントを買いにきたんですよ。8/29は葛城くんの誕生日なんです。真澄さんは私の付き添いですね。基本、私は御覧の通りに杖を使わないと歩けませんので……」
確かに奇遇だった。この場の全員が『誕生日プレゼント』を買いにやって来ている。
「お前が葛城に誕生日プレゼントを贈るのか?」
「何かおかしいですか? 確かに私と彼は派閥争いをしていますが、私は彼を認めています。である以上、誕生日を祝うくらいはしますよ。『それはそれ、これはこれ』というやつです。
もっとも、何を贈るべきか悩んでいたのも事実ですけどね」
清隆の疑問に有栖は答え、次いで肩をすくめた。
「坂柳に神室に、綾小路に佐倉に平田、そして見知らぬ二名……。一体どんな組み合わせだ?」
新たな声が掛かったのはその瞬間だった。話題に出したばかりの人物の声であるだけに、さしもの有栖も背筋を震わせた。
「ちょっと葛城くん! 驚かせないでくださいよ、もう!」
「いや、俺はただ見かけたから声をかけただけなんだが……。それで怒鳴られるのは些か理不尽ではないか?」
振り向いて有栖が怒鳴ると、葛城は困惑しながらも反論した。
「なに、彼女は単に恥ずかしがっているだけだろう。どうも君への誕生日プレゼントを買いにきたみたいだからな……。
俺は葵伊織。Dクラスへの転入生だ」
「同じくDクラスへの転入生で、天野亜真里です」
笑みを浮かべながら理由を告げた伊織が葛城へ名乗る。続けて亜真里も。
「転入生……? いや、そうなのか。俺は葛城康平という。真嶋クラスに在籍している」
転入生という言葉に眉を顰めた葛城だったが、それも僅かな間。直後には名乗り返した。
「しかし、坂柳。お前が俺に誕生日プレゼントを贈るというのか?」
「何かおかしいですか? さっき清隆くんにも言いましたけど、確かに私と貴方は派閥争いをしていますが、私は貴方を認めています。である以上、誕生日を祝うくらいはしますよ。『それはそれ、これはこれ』というやつです」
「そうか……。坂柳、お前は確か理事長の娘だったな?」
「そうですけど、それが何か?」
「お前が真に俺の誕生日を祝ってくれるというのであれば、一つ協力をお願いしたい」
「協力、ですか?」
葛城の言葉に、有栖は小首を傾げた。
「そうだ。率直に言って、俺はここの謳い文句の一つである『許可なき外部連絡の禁止』を甘く見ていた。物を送る程度なら大丈夫だと思っていたんだ。しかし、現実はそこまで甘くはなかった」
そこまで言われれば、葛城が求める『協力』に察しを付けるのは容易だった。
「俺は双子でな。8/29は俺の誕生日であると同時に、俺の妹の誕生日でもある。
うちは両親と祖父母を早くに亡くし、今は親戚の世話になっている。しかし、それも『世間体』を鑑みてのことだ。ただの親切心からではない。だからこそ、俺が祝ってやらねば、彼女は誰からも誕生日を祝われることはない」
「……なるほど。葛城くんの
協力を持ちかける以上、筋を通そうということだろう。葛城は理由を語った。
それを聞き、有栖は葛城の性格に納得を抱いた。そんな環境で育てば、そりゃあリスキーな行動は取れなくなるだろう。また、『世間体』からの養育であるのならば、葛城は『品行方正に過ごす』ことと『目に見える結果』を出すことを暗に強要されていた筈だ。
「分かりました。父への繋ぎを取るまでは協力しましょう。しかし、そこから父を説得できるかは葛城くん次第です。……これでどうです?」
「それで構わない。可能性が生まれただけでこちらとしては御の字だ」
有栖の提案に葛城は頷いた。
有栖は確かに理事長の娘ではあるが、その一方でこの学校の生徒であることに違いはない。出来ることにも限りがある。
それは葛城も承知の上で、だからこそ無理強いすることもなかった。
基本、生徒は生徒会を通して要望を伝える。だが、『許可なき外部連絡の禁止』は大々的に謳われている事項であり、入学前から知るのが容易なほどだ。それほどの事項、生徒会に頼んだところで容易に許可が下りるとは思えない。と言うより、許可を下せる立場にはないだろう。結局のところ、『公人』としても一生徒に過ぎないのだから。
普通に考えて、生徒会の力が及ぶのは学校内に限られるだろう。大目に見ても敷地内か。
それは葛城も承知の上で、しかしながら葛城としてはダメ元で生徒会に提案するより他になかった。
事項が多分に抽象的な表現なのも確かであり、葛城が甘く見たのも無理はないと言える。そこを突いて許可を得られれば……。そんな低い可能性に縋らざるを得なかったのが葛城の実情だった。
そこに、新たな選択肢が生まれたのである。
生徒としては上役の生徒会長でも、学校という組織内では下っ端だ。普通に考えてリスキーな選択は取れないだろう。
だが、理事長ともなれば組織内で相当の上役だ。生徒会長では踏み込めない部分にも、容易に踏み込むことが可能だろう。
たかが一生徒が、そう考えると尻込みするのも確かだが、その一方で現理事長はクラスメイトである坂柳有栖の父親でもあるのだ。クラスメイトの協力を得て、その親に
「横から口を挿んで悪いが、その時は俺と亜真里も同席していいか? もしかしたら手助けできるかもしれない」
「なに……? それはどういう?」
「悪いが、それに関してはここでは言えない。だが、損はさせないと思う」
伊織のその言葉に、葛城は有栖へと視線を向ける。葛城はあくまでも有栖に協力を求める立場だ。彼の独断で決められることではない。
「分かりました。父にはその旨も合わせて伝えましょう」
「……とのことだ。連絡先を交換しておこう」
伊織、亜真里、葛城、有栖はそれぞれの連絡先を交換した。
「それでは、私たちはこれで失礼しますね。父と連絡が付きましたら一報を入れさせていただきますので……」
その言葉を皮切りに、有栖、真澄、葛城はこの場を後にした。
それから程なくして美雨と心が合流し、誕生日プレゼントを選び合ったのだった。
本作のスパロボ勢は、基本的にデフォルト誕生日を使用しています。
なので、亜真里の誕生日は8/25になります。
そして、葛城の誕生日は8/29です。
その上で、一部例外はあれ、『男性が女性の』、『女性が男性の』プレゼントを選ぶという状況ですからね。自然、赴く店の候補は限られるでしょう。
8/21、8/24が誕生日である美雨と心の誕生日プレゼントを選びにきた清隆、愛里、平田とバッタリ遭遇してもおかしくはありません。
葛城にしてみれば、敷地外で暮らす妹にプレゼントを贈るに際し、理事長と生徒会長のどちらに頼むのが『許可を得やすいか?』という話です。
そらまあ、頼みやすいのは生徒会長の方でしょうけど、『許可を得やすい』と考えた場合は、まず間違いなく理事長の方になるでしょう。
所詮は『駄目で元々』なんですから、葛城がせっかくの機会を逃す理由はありません。
で、4.5巻の『双子の妹です。うちには両親がいないため祝ってやれるのは自分しかおりません』という葛城のセリフから、『養育者との関係が上手くいっていない』、『ある種の壁が存在する』という解釈を行うのは不可能ではありません。
本作では、その点を葛城の保守的な性格と結び付けました。
本作の伊織と亜真里は、『X』のイオリ主人公ルートを下地にしているため恋人同士です。その上で、『もしOGに参戦したら?』を想像して組み込んでいます。
そのため、本作の伊織と亜真里は『二人一緒に魔従教団を脱走』した扱いです。アカツキ姉弟のようにインターミッションでメインパイロットを入れ替える方式ですね。
その都合上、どちらもゼルガードのメインパイロットを張れる程度には『破壊の意思』が定まってますし、ドグマも強まっています。
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