ようこそ実力至上主義の教室へ ~ギフテッドとN.I.N.J.Aと……~ 作:山上真
「占い……?」
突然告げられた内容に、時任克己は首を傾げた。『神祇無窮流』の道場で一汗流し、その休憩中のことである。愛里が『占いに興味はないか?』と訊いてきたのだ。
「うん。先日、ケヤキモールに行った際に知ったんだけど、夏休みの間だけ外部から占い師が来ているらしいの。それでちょっと気になって……」
克己の反応に情報の提供不足を悟ったのだろう。愛里は言葉を続けて補足を入れた。
そこまで言われれば、突然の話題にも納得がいった。基本、敷地内の施設や設備には不足がない『高度育成高等学校』だが、その一方で限度もある。アイドルのコンサートが開かれることもなければ、遊園地や動物園、水族館なども存在しない。
まあ、学生が生活の主体に置かれているからして、常設の『美術館』は存在しないが、一定間隔で『美術展』は開催されるらしい。
言ってしまえば、今回の占い師もそのパターンだろう。学校側も学生の不満緩和に努めているわけだ。
「分からなくはないが、その時に行かなかったのか?」
「私一人じゃなかったから……」
当然とも言える克己の質問に、愛里は首を横に振って答えた。
克己は頷いた。単独行動でないのなら、それだけ自由が利かなくて道理だ。オマケに愛里のことだから、気になったところで一緒の面子に提案できるかも怪しい。
「しかし、それはそれで首を傾げざるを得ないんだがな。お前がプライベートを一緒に過ごすような相手なんぞ、『
だが俺には声をかけられていないから、ユキか綾小路のどちらかと出かけたと考えるのが妥当だろう。
そうでないとすれば櫛田やアズが思い浮かぶが、それも些か考えにくい」
それはごく普通の推測であり、克己の希望でもあった。
愛里が単独で出かけたのではないのだとすれば、その相手は限られる。『陰キャの集い』を除くとすれば、精々がアズか桔梗ぐらいなものだろう。あの二人は、アレで中々他人への配慮が行き届いている。可能性だけならおかしくはない。
その一方で、アズと桔梗は中々の有名人でもある。その存在に気付いてしまえば、まず周りが放っておかない。雫モードであれば愛里も許容できるだろうが、素のままではキツイだろう。
そう考えると、やはり一緒に出かけた相手は『陰キャの集い』しか克己には思い浮かばない。だが自分は誘われていないのだから、
もしそうでないのだとすれば――自分だけが除け者にされたのだとすれば、克己としては些か以上に悲しすぎる。
そして克己の認識では、ユキであれ清隆であれ、愛里が提案を自粛する要因がない。
「ああ、うん。元々は清隆くんに誘われてね」
そう前置きして、愛里は事情を語った。
「……なるほどな」
克己は納得した。
元々愛里を誘ったのは清隆であり、その理由、互いの関係性、諸々を踏まえた上ではあろうが、だからこそ愛里も誘いに乗ったのは否めないだろう。
しかして、『想定外の事態』とはいつ何時でも起こり得るもの。『三人でのお出かけ』は、愛里の意図せぬところでその規模を膨らませていったわけだ。
そして、元々のお題目が『元クラスメイトへの誕生日プレゼントの物色』であるが故に、『近日中に誕生日を迎える茶柱クラスへの転入生』が同行者に増えるのも、『元々プレゼントを贈る相手』が同行者に増えるのも、愛里には止める術がなく、同時に断る術もなかった。
また、そんな風に同行者が増えてしまったからこそ、占いが気になりはしたが誘うことも出来なかった。
その後はその後で、愛里も他に意識を割かれていたので、自然と占いのことは頭から離れていたらしいが、取り敢えずは誕生会なんかも終わって一段落付いたこともあり、改めて気になってきたとのこと。
「ああ、ケヤキモールに来ている占い師さんですね。でもあれ、占ってもらう条件が『二人一組』でしたよ?」
横から口を挿んできたのは有栖だった。場所が『神祇無窮流』の道場なので、彼女がいるのは何らおかしなことではない。
「そうだったんですか!?」
「ええ。私もあの後、気付いてちょっと覗いてみたんですが、注意書きにそのようなことが記載されていました」
「うん? 口ぶりからすると坂柳も一緒だったのか?」
「モールでバッタリと出会って、そのままいくらか会話をしただけですよ。会話が終わった段階で別れましたので、最後まで同行はしておりません」
同じく横からユキが問いかけると、有栖は補足を入れた。
「8/29はうちのクラスの葛城の誕生日でね。元々はソイツに贈るプレゼントを選びに行ったのよ」
「……なるほど。坂柳の性格を思えばおかしなことではないか……。
で、お前たちは占ってもらわなかったのか?」
「もらいませんよ。その理由がありませんからね」
有栖は苦笑しながら、顔の前で片手を振った。
「でも、そうだったんですね……。そういうことなら、気にはなるけど、わざわざ占ってもらう必要はないかな……?」
「ふ~ん、その心は?」
「『二人一組』ってことは、まず間違いなく『恋愛関係』か『友人関係』でしょ? それって、わざわざ占ってもらう必要ある? 極論、なるようにしかならないでしょ?
そりゃあ、私だってすき好んで今の関係を壊したくはないけど、でも決して変化しないわけじゃないから。
具体的なところを言うと、件のお出かけをした際に、私と清隆くんと洋介くんは友達になった。私からそれを望んだ。二人はそれに応えた。
少なくとも、
愛里の言うことは尤もだった。
元より人間関係なんてのは具体的な定義付けが難しい。役職や年齢による上下関係はまだしも、友人関係なんてのは最たるものだろう。どうすれば『友達』になり、どこからが『親友』になるのか、具体的なカテゴライズなど出来ようもない。その友人関係が異性間であれば、いつ恋愛関係に変化しても不思議はないのだ。
そしていざそうなってしまった場合、己が恋愛感情に封をして友人関係を続けたところで歪なだけだ。崩壊のタイミングを遅らせる一方で、その被害規模を拡大することになりかねない。
一緒にいて気が休まるのは、『気の置けない仲』が正常に機能している証拠だ。逆に言うと、関係を維持するために必要以上に配慮している時点で『気の置けない仲』ではあり得ない。
「早い話、人間関係に関することであれば、わざわざ占ってもらう必要なんてないんだよね。本当の『親友』とか『恋人』って、自然と苦楽を共に乗り越えられるものでしょ? 私が求めてるのって『そういう関係』で、そんなのは『一朝一夕』で成り立つものじゃないし、どうしたって『ある程度の苦楽』は避けられないんだよ」
シビアと言えばシビア。でも、理想と言えば理想。そうして成り立つ関係が愛里の求める『友達』である以上、確かに占ってもらう必要などないだろう。
物事に対処する時、備えがあるに越したことがないのは事実だが、前情報を得たところで確実に備えられるとは限らないのだ。前情報を得たことで逆に振り回されることもある。ならば、自然のままに、泰然自若と構える方が上手くいく場合だってある。
「そういう人間関係とは関係のないところで占ってもらえるんならありがたいんだけど、前提条件が『二人一組』じゃあ、あんまり期待できないしね……」
苦笑しつつ、肩をすくめて愛里は言った。
「なら、俺が占ってやろうか?」
だから、それを見て克己は言った。
「え?」
「俺からすれば、『占い』も『予知』も『予測』も似たようなもんだ。
付け加えると、俺自身が『俺と繋がっている天神地祇』と向き合うにも丁度いい機会と理由だ。有象無象の願いのためには頑張れなくとも、友人の願いのためなら頑張れるさ」
克己にしてみれば紛うことなき本音だった。『時任の神子』たる克己は生まれた時点から天神地祇と繋がっているのだから、結局のところ、克己自身の意思が左右するのは間違いない。
その『力』で傷付かなかったわけじゃない。むしろ、大きく傷付いたからこそ今がある。そして、『休息』と呼ぶには十分な時間が経ったのも事実だろう。
どうしたって時任克己は『時任の神子』であることから逃れられないし、逃れる気もないのだ。だからこそ、いつまでも目を背け続けているわけには、逃げ続けているわけには、甘え続けているわけにはいかない。
そもそも、克己がこの学校に来たのは己が『力』と向き合うためだ。この学校に来ることでその機会が得られると『力』が教えてくれたから、克己はこの学校に入ることを目指したのだ。
さりとて、その『傷付いた過去』故に、『力』と向き合うことに恐怖が伴うのも道理というもの。有象無象の願いのために、その恐怖と向き合う気にはなれないのが克己の本心である。――だが、友人の願いのためであれば、恐怖と向き合うのも吝かではない。それもまた克己の本心だった。
すなわち、克己にとっては今が『分水嶺』の一つなのだろう。真に克己が愛里を友人と思っているのであれば『力』の行使から逃げるわけにはいかず、ここで逃げるようであれば克己は愛里を真の意味では友人と思っていないことになる。
「さあ、佐倉愛里。俺に何を占ってほしい?」
「…………」
克己の質問に、しかし愛里は答えなかった。答えられなかった。
この選択は、愛里にとっても非常に
克己は『友人の願いのためになら頑張れる』と言った。それは間違いなく克己の本心なのだろう。
一方の愛里は、克己のことを真の意味で友人と思っているのか? その自問に、愛里は答えを見出すことが出来なかった。結局のところ、今現在の愛里にとって克己との関係は
クラスメイトではあるが、まともに接したのは無人島試験後の豪華客船からで、ユキが連れてきたことがきっかけだ。流れのままに始まって、流れのままに続いている。
「その質問に答える前に、一つ訊いていい?」
「どうぞ」
「時任くんは、『私のことを友人だと思っている』ってことでいい?」
「そう言ったつもりだが」
愛里の質問に、克己は迷うことなく即答した。克己が愛里のことを友人と思っているのは間違いないだろう。――だからこそ、尚更愛里は答えられなかった。
基本、愛里は優柔不断な人間だ。こうと決めたらどこまでも突っ走る『猪突猛進』な気があるが、決めるまでに時間が掛かるのも事実である。
愛里とて克己を友人と思いたい。しかし、心のどこかがブレーキをかける。『克己は真に友人足り得る相手なのか……?』、『自分は真に克己の友人足り得るのか……?』。そんな自問が、グルグルと頭の中で巡るのだ。
猜疑心が強く、その一方で自分に自信がない。いや、自分に自信がないからこそ、猜疑心が強くなるのか。
そんな自分のことを『度し難い』と思いつつ、どうすることも出来ない。それが佐倉愛里の認識する、佐倉愛里だった。
「まあ、アレだな。こればっかりは互いのスタンスの差によるもんだろう。――である以上、『陰キャの集い』のメンバー同士、ここは私が間に入るのが筋だろうさ。
克己は愛里を友人と思っている。……これに違いはないな?」
「ああ」
見兼ねたのだろう。そこにユキが口を挿んだ。
ユキの質問に、克己は頷きを以て答える。
「んじゃ、次は愛里への確認だ。愛里は克己を友人と思っているか? いや、
「……うん。本当の意味で『友人』になれているかは分からない。分からないから、『友人』になりたいとは思ってる。――だけど、『友人』になれるのか自信がない……」
ユキの質問に、愛里は俯きがちに答える。
「なら、話は簡単だ。まずは一歩を踏み出すことだ。『友達になりたい』って、自分から口に出して手を差し出すことだ。
本当に『友達になりたい』って思ってるなら出来るだろうし、どうしても出来ないのなら、現時点では『上辺だけの思い』ってことだ」
ユキの提示した答えは、どこまでもシビアだった。しかし道理ではあった。
「人間関係に対するスタンスなんて、それこそ『千差万別』だしな。顔を会わせて軽く会話するだけで『友人』認定する奴もいれば、よっぽど時間をかけて漸く『友人』認定する奴もいる」
「スタート地点や幅の違いということですね。例えば『関係値』とでも呼ぶモノが合計で100あったとして、2~80までが『友人』、81~を『親友』認定する人もいれば、1~50までは『その他大勢』、51~漸く『友人』に入り、90を超えてやっと『親友』認定する人だっているでしょう。
セリフから察するに、佐倉さんはよっぽど友人関係を重く捉えているみたいですしね。克己くんもそこそこ重く捉えてはいるようですが、愛里さんほどではありません。その落差によって、佐倉さんは余計に重く捉えているフシがあるのは否めませんね」
ユキと有栖が、克己と愛里の人間関係を分解する。
端的に言えば、『愛里は重く捉え過ぎ』ということになるのだが、コレばかりは本人の意思一つでどうにかなるものでもない。
明確な基準がないからこそ、『気楽な相手』と『友人』の間にどれだけの壁がそびえるかはその人次第だ。――たとえ実態に大差がないとしても。
「しかし、『言うは易く行うは難し』なのが世の中だからな。ここは一つ『落としどころ』を定めよう。
克己はどこまでなら『過去のトラウマ』と向き合える? 友人相手なら向き合えるのは聞いたが、『陰キャの集い』は? 『この道場の連中』はどうだ?」
「……『道場仲間』までなら多分大丈夫だとは思うが、コレばかりは実際にやってみないと分からんな」
ユキの問いかけに対し、暫し悩んでから克己は口を開いた。
「なら、まずは『道場仲間』からやってもらっていいか? ぶっちゃけ私でも構わんのだが、特に占ってほしいこともないんだよな」
「……ふむ。『道場仲間』という制限を掛けることで、導かれる結果にも制限を掛けようということか。道理ではあるな。
基本、俺の『予知』は苦難や災難を告げる。しかし、絶対の結果ではない。努力や行動次第では回避や対処も可能な場合が大半だ。その前提は了承しておいてくれ」
ユキの言葉に頷いた克己は、前置きして瞑目した。そして、自分から『道場仲間』に共通するトラブルが存在するかを天神地祇へと問いかける。
「応えがあったぞ。『水を備えておくが吉』だそうだ。どうも、夏休み中にトラブルで断水が起こるらしいな」
目を開いて告げた克己の言葉に、その場の全員が顔を見合わせるのだった。
原作4.5巻の『断水騒動』の具体的な日付が分かりません。
取り敢えず4.5巻に収録されていることから、本作では『夏休み中』とし、『伊吹編の後日』と設定しました。
前話の『誕生会兼歓迎会』は8/20~8/23のどこかくらいの想定です。
ただ、これも部活の大会日程が分からないので曖昧にしています。
小さな大会なら『当日だけ』の可能性もありますし、大きな大会なら『連日』の可能性もあります。
バスケとサッカーで日付が異なる可能性もあります。
そこら辺がハッキリとしないので、曖昧にせざるを得ません。大会と被ってたら、当然ながら平田が参加できませんので。
原作清隆は、生徒会役員でもなければ、特に情報網を展開しているわけではないので『情報弱者』と認識しています。少なくとも、情報の獲得が遅いのは間違いないでしょう。
ただ、当然ながら情報自体は清隆がその情報を得る前に既に出回っているわけで、本作ではそこら辺を考慮して反映しています。
一応、可能な限り原作の時系列に沿わせてはいるつもりですし、その順番で投稿しています。
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