スタイリッシュ異能バトルの世界で俺だけTSして魔法少女としてエロゲの竿役と戦っている 作:かませ犬S
気まずいな。
原作の雲雀の苦悩を知っているからこそ余計に気まずい。チ〇コを失って悲しんでいる俺が馬鹿みたいじゃないか!
いや、まぁ⋯⋯第三者が聞けばチ〇コチ〇コ言っている俺が馬鹿にしか見えないだろうが、それにしたって比較対象が悪すぎる。
雲雀の家は両親が幼い頃に離婚しており、雲雀とその妹は父親に引き取られて育てられた。原作の漫画では殆ど出番はなかったが、長距離ドライバーをしているという描写があったか?
父親が仕事で家を空ける機会が多かった為、雲雀と妹は兄妹としてとても仲良くなった。二人で助け合いながら、生活していたからな。
家事の分担から父親にできない相談、雲雀が妹の勉強を見たり⋯⋯原作を見る限りではとても仲の良い兄妹だった。
そんな兄妹だからこそ、雲雀にとって最も大切なモノが妹になるのは必然だった。
雲雀は能力に目覚めた代償として『妹の記憶』のみがすっぽりと抜け落ちた。
消えたのはあくまでも記憶だ。写真やスマホに残る妹とのやり取りは全て形として残っている。家に帰れば妹もいる。
さりとて、記憶を失った雲雀には、妹だと言われても他人のようにしか思えない。家族として培った思い出を全て失っているから。
大切だった存在を全て忘れた。
家に帰って
親しげに接してくる
全ては妹を傷付けないため。
もう、大切でもなんでもない他人のような存在なのに⋯⋯それでも、兄としてあろうとする。
俺はそんな雲雀の苦悩や葛藤を知っている。妹ちゃんの涙を知っている。雲雀の慟哭を知っている。
だからこそ言い出せない。
どう考えても同列に考えていいものではない。まだ相棒いこーる大切な者と勘違いされている方がずっといい。うん、そうしよう。
雲雀もこんな可愛らしい女の子がチ〇コを失って喚いていたなんて、知りたくないだろう。真実は闇に葬るに限る。
「⋯⋯⋯⋯」
「⋯⋯⋯⋯」
気まずいなー。二人して無言。雲雀の悲しげな表情に釣られて、俺も似たような顔をしている筈だ。
「名前⋯⋯」
「え?」
この空気に耐えきれなくなって、そういえばまだ自己紹介をしていなかった事を思い出した。俺は原作知識で一方的に知ってはいるが、雲雀は俺の事を知らないはず。
流石にもう、不審者とは扱われていないだろうが、関係性は良くしておくに限る。まずはお互いを知ることからだ。
「名前⋯⋯教えてほしい」
「俺の名前、だよな?」
「うん」
今の上目遣い良かったんじゃないか? 雲雀がドギマギしているのが見て取れる。
原作のかっこいいシーンしか記憶にないから、俺に対してこういう反応している雲雀はなんか⋯⋯新鮮でいいな。
俺しか知らない雲雀の一面みたいで、なんか得をした気分だ。
とにもかくにも、空気を変える事には成功したとは思う。さっきも暗い空気ではなく、どことなくラブコメの波動を感じる空気感。
この場合⋯⋯ヒロインは俺か!
いや、ないないないない。
『アビリティ・ストライク』のメインヒロインは雀だ。原作ではくっ付くのか、くっ付かないのか分からない絶妙な距離感だったな。
もしかしたら
雲雀のヒロインといえば雀だ。漫画を読んだ読者なら誰だってそう答える。
そんな訳で俺がヒロインなんて事は夢小説でもありえない展開だろう。
何処の馬の骨とも分からない俺を雲雀が好きになる事など万に1つもないだろうから、俺が過剰に気にする必要はないな。
「俺の名前は 霧崎 雲雀」
「霧崎、雲雀くん」
「歳⋯⋯多分近いよな? くん付けじゃなくて雲雀でいいよ」
「うん。ありがと⋯⋯雲雀って呼ばせて貰うね」
これで雲雀から悪印象を持たれていたら雲雀呼びを許して貰えなかったな。名前ではなく苗字呼び⋯⋯霧崎って呼べって雲雀に言われたらショックで立ち直れない自信がある。
俺の中で雲雀で定着してるからなー。今更呼び方を変えるのはきついきつい。
なので雲雀呼びを許してくれてありがとう。素直な気持ちで感謝を込め、一礼。そして満面の笑み。
男の時とは違うルックスの良さは上手く使うべきだと判断して、鏡の前で笑顔の練習だったり演技の練習は昨晩一夜漬けでやった。
何故かミューが教官を名乗り出て細かいところまで指摘してきたな。
表情が硬いからもっと自然にとか、声の出し方はもっと抑揚をもってとか、参考になる意見も多かったが、後半は露骨にセクハラしてきたから床に沈めておいた。
害獣であると同時に淫獣でもありそうだから、気を抜かないようにしよう。
「あ、あぁ!⋯⋯よろしく!」
照れるように雲雀が顔を逸らす。
これは練習の成果が出たと判断していいだろう。俺の笑顔は主人公にも通じるぞー!!
これはこの先でも活かす事ができそうだ。うん、まぁ⋯⋯使い道なんて、ほとんどないんだけどな。
『アビリティ・ストライク』に出てくる敵キャラなら何人かお色気だったり、媚びる行為が有効そうなのがいるけど、俺の敵には通用しないだろうな。
俺の相手は導入とか興味ないからエロシーンだけやろうぜ、みたいな敵キャラだぞ。戦闘に負けるいこーる即レイプだから、やり取りなんて皆無だ。本当にカスみたいな敵だな。
「君の名前も、聞いてもいいかな?」
「うん、いいよ」
そのまま名乗るのは良くないな。
俺の名前は五十嵐 順平だ。どう解釈しても女の子の名前として受け取ることができない。そのまま名乗れば純平?って雲雀も不思議に思うだろう。
完全な別名を名乗ると呼ばれた時に反応出来なかったりするから、名前は極力本名に近い方がいい。とりあえず「平」を除けるのは確定だな。
決めた。
「私の名前は五十嵐。五十嵐
名前の馴染みやすさから
呼ばれても反応出来るように今日も鏡の前の練習だな、うん。それなら別名名乗っても良かった気がしないでもない。
「俺も純って呼んでいいかな?」
その顔とその声はズルいな。素直にかっこいいと思う。俺が男じゃなかったら惚れていたな。もちろん断る理由もないので、オッケーを出す。
「よろしくね」
「あぁ、よろしく」
雲雀と名前で呼び合う関係くらいには進展したか? ひとまずこれで敵対する事はないだろう。
「それじゃあ、私は帰るね」
「え?」
雲雀は驚いているが、俺は当初の目的を達成したからな。これ以上雲雀とやり取りをする必要はない。
厳密には違うが、俺と雲雀は似たような境遇。そこから親近感が湧き仲良くなって、名前を交換した。他人から知人くらいには進展しただろう。ここまでいけばもう十分だ。必要最低限の関係は構築したと言っていい。
原作イベントを今日と同じように見ていれば、姿を消していても同じように雲雀に気付かれる可能性が高い。
その時に顔見知りなら面倒な展開には発展しにくい。それだけで十分だ。
雲雀と仲良くなって原作に介入したい!なんて思いは、こうしてやり取りしていても微塵も湧かなかったしな。女の子になって本当にそういう気が失せたんだと思う。
「またね、雲雀」
マジカルパワーでゆっくりと宙に浮いていく。この際に雲雀に手を振るのを忘れない。
どうだ!俺の知るアニメを参考にした仕草。別れ際のこういうやり取りが男の子は大好きだって俺は知っているんだぜ!
「純!」
「なに?」
「また、会えるよな!」
十中八九、また雲雀とは会うことになる。今日、明日の話ではなく⋯⋯原作イベントが進む五日後。
俺はその日の原作イベントを必ず見に行くだろう。何故ならそのイベントこそが『アビリティ・ストライク』の最初の山場。
───『
雲雀に会いたいとか、活躍を見たいとかではない。推しキャラに会いたいから見に行く。それだけである。
「会えるよ⋯⋯だから、死なないでね」
「あぁ!純にまた会うまで死ぬ気はないよ!」
お互いに対する好意の表れか、別れ際の表情は笑顔だった。主人公らしいなんとも爽やかな笑顔だ。
いい笑顔だろ?