スタイリッシュ異能バトルの世界で俺だけ魔法少女としてエロゲの竿役と戦っている   作:かませ犬S

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曇らせ①

 ───酷い顔だ。

 

 鏡に映る俺の顔には目の下に濃い隈ができている。眠れていない証拠だ。

 

 今日が大事な大事な一日だと言うのに俺は自分の体調の管理すらできていない⋯⋯。 頼りない親友でごめんよ啓吾。

 

 ⋯⋯けど、必ず救うから。俺の手で助けるから。

 

「⋯⋯ふぅ」

 

 冷たい水で顔を洗う。

 

 気分が少しだけ落ち着く。

 

 結局昨日は何も手につかなかった。啓吾とのやり取りですら上の空。どうしても今日の原作イベントの事が脳裏に浮かんで⋯⋯不安で何も出来なかった。

 

 俺自身が、こんなに心が弱いとは思わなかったな。失うことをこんなに恐れるなんて⋯⋯。

 

 手を見れば微かに震えている。ギュと握りしめて不安を誤魔化す。

 

「⋯⋯⋯⋯」

 

 男である自分を失った時よりも⋯⋯俺は、啓吾を失うことを恐れている。その自覚はある。俺の中でそれだけ啓吾という存在が大きいのだろう。

 

 スマホで時刻を確認する。現在時刻は12時47分。原作におけるソルシオン戦、啓吾と雲雀の戦いは今から一時間後に起きる。

 

 俺はその前に悪魔たちと戦わないといけない。今回はこれまでと違って一度に二体の悪魔がこの世界にくる筈だ。

 

 幸い、啓吾の能力で悪魔の全貌は分かっている。俺が戦うのは双子の悪魔で「右近」と「左近」というコンビネーションが武器の敵。名乗りが長いらしいから開幕でブッパすれば、一体は削れる筈だって啓吾は言っていたな。

 

 残りの一体を素早く仕留める。啓吾を救うには俺が効率よく敵を倒す必要がある。昨日、眠れない夜に何度もシミュレーションした。俺ならできる。

 

 

 

「大丈夫、俺が助けるから」

 

 

 

 ───鏡に映る俺は覚悟が決まった顔をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マジカルブラスター!!エックス!!」

 

 初めて持つ可愛らしいステッキの先からピンク色の光線が二つ発射される。それぞれが違う放物線を描いて標的である悪魔に向かい、最後は交差するように交わった。

 

「倒したポヨ!!」

 

「くそっ⋯⋯」

 

 俺の横で消えていく悪魔を見てミューがはしゃいでいるが俺の心境はそれどころではない。

 

 

 ───手こずった。

 

 

 啓吾のアドバイス通りに悪魔が名乗りを上げている最中に開幕ブッパで一体を潰した。『兄者じゃぁぁぁ!』と俺が殺した悪魔の⋯⋯恐らく弟が泣き叫んでいるうちにもう一体!と続け様にマジカル波を放ったが躱されてしまった。

 

 そこからズルズルと長引いて⋯⋯。

 

「強かったポヨね。まさかの兄を殺されてパワーアップするとは思わなかったポヨ」

 

 そんな事はどうでもいい。そのせいでいつものように直ぐに倒せず、使ったこともないマジカルステッキまで取り出す羽目になったとか、そんなことすら今はどうでもいい。

 

 急げ!早く!間に合うか!?

 

「どこ行くポヨ!」

 

 ミューの言葉は無視して、身を翻し出せる最高速度で空を飛ぶ。まだ、間に合う。大丈夫、大丈夫だ。焦る気持ちを必死に抑えつける。

 

 どれくらい移動した?分からない。焦燥が心を乱して冷静な判断が出来ずにいる。それでも今は動くしかない。

 

 原作の知識を必死に思い出しながら啓吾と雲雀が戦っていた廃工場に辿り着いた。ここは以前、雀とおばさんが戦っていた場所だ。

 

 雲雀たちが通う学校から近く、人通りが少ないのもあって何かと戦場にされがちだ。いや、それはどうでもいい。

 

「音がしない⋯⋯」

 

 俺の期待していた戦闘音がしない。啓吾も雲雀も能力バトルにあるまじき派手さのない能力ではあるが、二人がやり合えば少なからず音がする。

 

 漆原の時に見せたような物をぶつける動きや、原作のソルシオンが見せたトラップ戦術であれば物が倒れる音は必ずする。

 

 距離の問題で二人のやり取りの声が聞こえなくても物が倒壊する音は衝撃だ。全く聞こえないのはありえない。

 

 まさか⋯⋯もう、終わったのか。

 

 魔法少女に変身したせいでスマホも一緒に普段着と消えているので、時刻の確認をする術がない。悪魔との戦いはこの原作イベントより早く始まった。

 

 素早く倒せば余裕で間に合う。けど、今回⋯⋯俺は手こずってしまった。その時間のロスの間に二人の戦いは終わってしまった?

 

「此処に用があったポヨ?」

 

 声が聞こえて振り返ると俺の後を追ってきたミューがいた。今はこいつの事なんてどうでもいい。二人が戦っていたこの建物の中までしっかり探すべきか。

 

 そう判断して動こうとした時、

 

「もしかして、此処に来る途中で見えた少年に用があったポヨ?」

 

「───っ! どこにいた!」

 

「あっちポヨ?」

 

 ミューが腕指した方向に急いで飛ぶ。

 

 けど、そこにいたのは目当ての人物じゃない。⋯⋯雲雀だ。遠目に見ても五体満足である事が確認出来る。

 

「原作と違う⋯⋯」

 

 雲雀の状態を見て震える声で口にする。漆原との戦いで雲雀が原作とは違う動きをしていたのは分かっていた。それを少しばかり甘くみていた⋯⋯。

 

 原作のソルシオン戦は漆原に何も出来ずに負けた事で自身の無力感から意気消沈していた。それもあってソルシオン戦は終始押されっぱなしだった。

 

 ソルシオンが準備した罠にかかり、雲雀は致命的な負傷をする。それが右足の骨折。俺の眼下に映る淀みのない足取りをみるに骨折はしていないだろう。

 

 つまり雲雀は啓吾との戦いに危なげなく勝利した? それが本来の地力だと言わんばかりに⋯⋯。

 

「っ⋯⋯」

 

 慌てて引き返す。俺の事を追ってきていたミューとすれ違いながら、廃工場まで戻り建物を隅から隅まで探す。

 

 いない。

 

 もう移動した後か⋯⋯そうなると、啓吾がいる可能性があるのは『Los Lobos(ロス・ロボス)』のアジトだけ。

 

 必死に思考を巡らせる。どこにアジトはあった?本拠地ではなかった筈だ⋯⋯日本各地に点在するアジトの一つで、ここからさほど距離が離れていない場所のはず。

 

 記憶を頼りに場所を絞り込む。詳細な描写はなかったが、候補となる場所は二つしかない。

 

「もう、行ったり来たり何をしているポ⋯⋯ぐふっ!」

 

 俺の傍まで寄ってきたミューが鬱陶しくて、つい殴り飛ばしてしまったが、まぁいい。今はそれどころじゃない。

 

 時間がない。急げ急げ。逸る気持ちのままに空を飛ぶ。

 

「違う⋯⋯」

 

 一つ目の候補はハズレだ。

 

 周囲に漫画の描写に似ていた雰囲気の店はあるが、ここじゃない。即座に思考を切り替えてもう一つの候補地へ向かう。

 

「あれは⋯⋯」

 

 原作と似ている描写の裏路地、その近くに啓吾が乗っているバイクが置いてあった。間違いない、此処だ。

 

Wolf(ウルフ)⋯⋯」

 

 バイクが止めてある近くに一つの店がある。古びた看板には原作と同じ店名が。

 

 入口の扉に手をかけた時、中から銃声が聞こえた。

 

 俺の体はその音が聞こえた瞬間に動いていた。入口の扉を勢いよく開けて店内へと入る。鍵がかかっていない不用心さすら今はどうでもいい。

 

「なに、してんだてめぇ!!」

 

 店内に入って直ぐの俺の視界に赤い血を流しながら床に倒れる啓吾の姿が映った。原作と違ってヘルメットは被っていない。苦痛に歪む顔が、俺を見て驚愕に変わる。

 

「あん?誰だてめぇ」

 

 啓吾の背中を足で踏みつけながら、銃口がゆっくりと俺へと向けられたが気にはしない。

 

「無事か!まだ生きてるか啓吾!」

 

「なんで、此処にきてんだ、純平⋯⋯!早く逃げろ!!」

 

 俺の心配の声をかき消すように啓吾が叫ぶ。

 

 その声に安堵する自分がいた。間に合わないと思っていた。もう、啓吾が死んでいるかもしれない⋯⋯そんな最悪の展開が脳裏に過ぎっていて、それが怖くて仕方なかった。

 

 けど、まだ啓吾は生きている。撃たれたのどこだ?床に飛び散る血を頼りに負傷箇所を探す。足か⋯⋯。

 

 漆原の癖だな。まずは足を撃って動けなくしてからいたぶって殺す。それがこいつのやり方だ。

 

「お前は少し黙ってろ、負け犬」

 

「ぐっ⋯⋯がっ!!!」

 

 啓吾の背中を漆原が力強く踏みつけた。

 

「やめろ!」

 

 啓吾が傷付けられる光景が許せなくて、漆原目掛けてマジカルブラスターを放つ。桃色の光線は真っ直ぐに漆原へと向かい、そして霧散した。

 

 最初から分かっていた結果だ。作中最強のラスボスの漆原の前ではあらゆる攻撃が無力。そんな事は分かってる。それでも俺は啓吾を救うために戦わないといけないんだ!

 

 もう一度、マジカルブラスターを放とうとマジカルステッキの先を漆原に向ける。その様子を漆原は楽しそうに眺めていた。余裕の表れだ。

 

「なるほど⋯⋯てめぇが純平か」

 

「⋯⋯⋯⋯」

 

 漆原が俺の事を頭から足までゆっくりと見定めるように見た後、啓吾に向かって楽しそうに笑いかける。

 

「はははは!ここに居る負け犬が、俺の大事な人だって言ってる癖に男の名前だったからホモ野郎かと心配してたのに⋯⋯ちゃんと女じゃねぇか」

 

「───え?」

 

 啓吾の大事な人?

 

 漆原が言った言葉が頭の中で反芻し、信じられない思いで視線を啓吾に向けると、そっと顔を伏せた。

 

「どういう⋯⋯ことだ」

 

「あん?てめぇ、こいつに護られる立場でいながら何も知らねぇのかよ」

 

 俺が、護られる立場?

 

 言葉の上手く飲み込むことが出来ない。頭の中に俺の知らない情報がいっぱい入ってきてパニックになってる。

 

「こいつはな、お前を護るために『Los Lobos(オレ様の組織)』に加入したんだよ」

 

「⋯⋯言うな」

 

「誰に命令してんだ、負け犬」

 

 漆原が啓吾を強く踏みつける。ボキッという骨の折れる音がした。

 

「ぐぁぁぁぁ!!」

 

「啓吾!!」

 

 慌てて近寄ろうとするが、銃口が向けられ『動くな』と警告される。

 

「動けば殺すぜ。お前じゃなくて、この負け犬をな」

 

 それが決して脅し文句ではないことを俺自身が一番よく分かっている。こいつは、文字通り俺が動いた瞬間に啓吾を殺す。

 

 それくらいは当たり前にやってのける。

 

 俺は、この状況では何もできない。

 

「話を戻すか。どうやらお前はこいつから何も聞かされていないようだな。ならオレ様が教えてやるよ」

 

 小馬鹿にするように啓吾を一瞥し、鋭い視線を俺に向ける。

 

「オレ様に(ルオ) (グイ)っていう右腕がいてな。そいつがそこの負け犬を見つけて、有用な能力(アビリティ)だから組織に入れたいとオレ様に言ってきた」

 

 啓吾の能力は個人で扱うよりも組織として使った方がより有効的に使える。啓吾の能力ほど万能なものはないだろう。『Los Lobos(ロス・ロボス)』からすれば喉から手が出るほど欲しい能力だ。

 

「興味はなかったが⋯⋯若鬼が強く押すもんだからな、組織に入れる事にした。けど、そこの負け犬はオレ様の誘いを断りやがった」

 

 腹立たしそうにもう一度、啓吾を踏みつける。

 

 呻き声を上げる啓吾を見ても俺は何もすることができない。悔しさで歯を噛み締めた。

 

「殺してやろうとも思ったが、若鬼が止めてな。仕方なくやり方を変えることにした。古典的なやり方ではあるが、人を動かすのはそいつの弱味を握るのが一番手っ取り早い」

 

 『Los Lobos(ロス・ロボス)』は全員が全員、組織のボスである漆原に忠誠を誓う組織ではない。中には無理やり加入させられて、死ぬほど憎んでいる者もいる。

 

 けど、誰しもが逆らえない。漆原の圧倒的な強さと、手段を選ばない冷酷さを前に大切なものと一緒に死ぬか、従うかの二択を迫られる。

 

 組織に狙われた時点で詰みだ。

 

「だから人質を取ることにした。あの時点だと脅し文句でしかねぇが、組織の情報網を使えばそれくらい直ぐに見つかる。時間の問題でしかない」

 

「⋯⋯⋯⋯」

 

「オレ様に従わないのであれば、お前にとって一番大切な存在を必ず見つけ出して残酷に殺してやる。そう伝えれば、それまで強情な態度を見せていたのに一変したな。顔を真っ青にしてやめてくれって可哀想なくらいに震えていた」

 

 その時の事を思い出すように笑いながら啓吾の頭を踏みつけた。

 

「こいつもバカじゃない。能力を使って確認したんだろうさ。その結果、組織に入る選択を選んだ」

 

 漆原が俺を見た。

 

「感謝しろよ、こいつが組織に入らなければ⋯⋯今頃、お前は家畜どもの餌だった」

 

「俺が⋯⋯」

 

 それがどういう事か分からないほど、バカではない。

 

 啓吾の人質となっていたのは他の誰でもない、俺だ。

 

「友情か愛情か、どちかは定かではないが……こいつにとってお前は、自分の命より大切な存在だったってことだ。良かったな、女」

 

 漆原が啓吾の頭の上から足を退け、笑いながら俺に語りかける。

 

「俺が⋯⋯大切な存在」

 

 啓吾にとって俺は⋯⋯大切な存在だった。言葉を噛み締めるように心中でも繰り返す。嬉しいなんて、この場で思ってはいけないと分かっていながら⋯⋯。

 

「こんなに所までノコノコとやって来るくらいだ、てめぇにとってもこいつは大事って事だろ?」

 

 そうだ。俺にとっても啓吾は、大切な存在。かけがえない親友だ。

 

「俺がこいつを殺すと言えば、どうする?」

 

 漆原が素早い動きで銃口を啓吾の頭に向ける。俺の体はその動きに合わせて動いており、無意識のうちにマジカルブラスターを漆原に向けて放っていた。

 

 当然、当たることなく霧散した。

 

「判断が早い⋯⋯いいね、オレ様好みだ」

 

 漆原からの視線を感じた。顔、胸、腰、足、上からゆっくりと値踏みするようにじっくりと見られた。不思議とその視線にいやらしさは感じなかった。

 

 そして、最悪の提案をする。

 

「お前、オレ様の(モノ)になれ。そしたらこいつの命は見逃してやる」

 

「ふざけんなぁー!!!」

 

 先に反応したのは俺じゃない。床に倒れたまま顔を怒りに染めた啓吾が漆原を睨みながら叫んでいた。

 

 その後直ぐにゴホッゴホッっと咳き込み、痛みに顔を歪めている。激痛の筈だ。漆原に足を撃たれ、骨を折られ⋯⋯啓吾は痛みに苦しんでいる。それでも我慢できないと声を上げている。

 

 誰の為だ。それは他の誰でもない俺の為じゃないか?

 

「俺が⋯⋯お前のモノになれば、啓吾は助かるのか」

 

「⋯⋯やめろ⋯⋯やめてくれ⋯⋯」

 

 啓吾と目が合う。声は震えていて、目は強く訴えかけている。やめてくれ、そんな事は望んでいない、と。

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫、今度は俺が⋯⋯お前を護るから」




曇らせポジになるのは当て馬にされた原作主人公だと思った?
残念、君もだよ啓吾くぅぅぅん!

※ここでタグを確認。「寝盗られ」ないね!「NTR」ないね!安全確認ヨシ!

TS最高
曇らせスキー
メス堕ち希望
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