雨の日に仔犬を助けたウワサとアノロンウェンは、町に漂う新たな災悪の気配を感じ取る。
一方、小学生の史帆は、クラスメイトの森下が「呪われた少年」の名前を口にした直後、
奇妙な着物姿の男の子に遭遇する。
男の子は雨の中で豆腐を勧めてくるが、豆腐嫌いの史帆以外の、
口にした友人達は次々と謎の病に倒れてしまう。
執拗に史帆を狙う災悪は、無理矢理彼女に豆腐を食べさせ、激痛で動けなくした。
絶体絶命の窮地、ウワサとアノロンウェンが介入し、
華麗な連携攻撃で男の子の逃走を阻止して真名を暴く。
災悪が消滅した事で友人達も回復し、ウワサは再び雨上がりの街へ消えるのだった。
(やっぱりここが一番好きだなぁ)
ある日、町外れの丘の上に、中学1年生の倉橋美波は立っていた。
休日の午後。
町を見渡せる丘には、爽やかな風が吹いている。
その風が、美波の長い黒髪を揺らした。
美波は、揺れる髪を撫でるように触りながら、自然と笑みが零れた。
美波は自分のサラサラの髪が大好きだった。
誰よりも、自分の髪が綺麗だと思っていた。
美波は風を感じながらゆっくりと丘を散歩する。
腰まである髪が揺れるたびに、心が弾む。
(散歩してるだけで、気分がよくなるよね)
昨日も学校で嫌な事があった。
だが、ここを散歩すればそれも忘れる事ができる。
(月曜からも元気になれるかも)
学校に行くのは、あまり好きではない。
しかし、ズル休みすると親に怒られる。
美波は小さく溜息を吐きながら、家へ戻ろうと思った。
「えっ?」
ふと、美波は遊歩道の脇に何かが落ちている事に気づいた。
黒い物体だ。
「これって……」
美波は戸惑いながら、その黒い物体に近づく。
そして、目を凝らした。
それは、束になった黒い髪だ。
美波と同じぐらいの長さと分量がありそうだ。
綺麗で艶のありそうなサラサラの髪だが、泥に塗れてグチャグチャになっていた。
「偽物……だよね??」
こんなところに本物の髪が束になって落ちているわけがない。
この辺りはフォトスポットになっていて、たまにコスプレをした人達を見かける。
彼らがコスプレをする時につけていたウィッグなのかもしれない。
(持って帰るのを忘れちゃったのかな?)
美波は気味の悪さを感じながらも、そう思う事にした。
(せっかく楽しい気分だったのに)
ボロボロになった髪を見て、気分が沈んでしまった。
「はあ~」
美波は、溜め息を吐くと、家へ帰る事にした。
しばらくして。
丘の上に、一人の少年とレイピアを携えた女戦士がやってきた。
ウワサとアノロンウェンだ。
二人は、遊歩道の脇に落ちている黒い髪をじっと見つめた。
「クソが!」
「もう少し早く来ていれば……」
奥歯を嚙みしめながら、ウワサとアノロンウェンは険しい表情になる。
「僕のせいなんだ。僕が何とかしないと……」
「おいおい、まだ間に合うだろーが。とっととアイツを倒しな!」
ウワサは自分に言い聞かせるかのように呟くと、丘の上から町を眺める。
アノロンウェンはそんな彼を勇気づけるように言うのだった。
「……そうだね、アノロンウェン。倒さなくちゃね」
――キンコーン カンコーン
中学校の昼休み。
1年B組の教室では、生徒達が思い思いにグループを作り、弁当を食べていた。
皆、楽しそうに友達とお喋りをしている。
そんな中、美波は窓際の席で、一人弁当を食べていた。
傍の窓が開いていて、長い黒髪が揺れている。
美波は、揺れる髪を撫でながら、黙々と食事を続けていた。
そんな美波を、少し離れた席の女の子達が見ていた。
「ほらっ、倉橋さん、また髪触ってる」
「綺麗なのは分かるけど、食事中まで触らなくていいのにね」
女の子達は美波を見ながら、コソコソと呟く。
しかしその声は、美波にも聞こえていた。
美波は、クラスに友達と呼べる生徒はいなかった。
小学校の時に仲が良かった友達が一緒のクラスにいなかったせいもあるが、
何より一学期が始まって間もない頃、隣の席の女の子に髪を褒められた時の返答がマズかった。
「ありがとう、私の髪ってクラスでダントツ綺麗だよね!」
美波は笑顔でそう言った。
その発言は瞬く間にクラスの女の子達の間で広まり、
以降あまり話しかけてもらえなくなってしまったのだ。
(別に仲良くしたいとは思わないけど)
美波は、周りの声が聞こえないフリをして弁当を食べ続ける。
今日も早く学校が終わればいいのに。
やはり、学校は好きにはなれなかった。
(早く休みにならないかなぁ)
夜。
風呂から上がった美波は、自分の部屋でイスに座り、髪をドライヤーで乾かしていた。
まだ月曜が終わっただけなのに、もう学校に行くのがダルい。
(大体、みんなちゃんと髪の手入れしてないのが悪いんだよね)
美波は綺麗な髪を維持するために、母親にお願いをして、
いいシャンプーとトリートメントを買ってもらっている。
ドライヤーも、髪のキューティクルをケアしてくれる少し高価なものだ。
普段の生活でも、髪が傷まないように気をつけている。
(みんなも綺麗な髪に嫉妬するなら、それぐらいすればいいのに)
美波はイライラしながらも、すぐに何かを思うと、ニヤッと笑った。
(だけど、どれだけ努力しても、これだけ綺麗な髪にはならないよね)
他の人の髪に、綺麗さで負ける気がしない。
美波は、乾いた髪をチェックしようと、鏡に映る自分の姿を見る事にした。
その時――
鏡越しの美波の背後に、長い黒髪の不気味な女が立っているのが見えた。
「きゃ!」
思わず後ろを見る。
だが、誰もいない。
「な、何だったの??」
確かに、鏡越しに女が立っていた。
美波は部屋を見回す。
しかし、どこにも人の姿はない。
「見間違えた、だけ……?」
美波はふと、机の上に置かれたタブレットの方をチラリと見た。
最近、美波はよくネットで怖い話を紹介する動画を見ていた。
怖い話は特に好きではなかったが、
怖くてドキドキするのが、いいストレス発散になっていたのだ。
「そんなのばっかり見てるから、カーテンとかが女の人に見えちゃったのかも」
鏡越しに、美波の後ろにカーテンが見えている。
それが女に見えただけなのかもしれない。
「今日は怖い動画を見るのはやめよう」
美波は、早めに寝ようと思い、立ち上がった。
瞬間、何故か立ち眩みのような感覚を覚え、身体が揺れた――
薄暗い夜の道路を、誰かが歩いていた。
その誰かは、周りを確認するかのように、キョロキョロと頭を動かす。
と、前方から、スーツ姿の女の人が歩いてきた。
歩くたびに、長くてサラサラの綺麗な黒髪がなびいている。
誰かは、その女の人を食い入るように見た。
やがて、女の人は誰かの前を通り過ぎて行った。
その途端――誰かは急に息が荒くなった。
「ユルサナイ ユルサナイ ユルサナイ」
誰かは荒く息をしながら、唸るように呟く。
全身に力が入る。
振り返ると、去って行こうとする女の人の後ろ姿を睨んだ。
「ユルサナイィィィ!!」
次の瞬間、誰かは女の人に向かって猛スピードで走り出した。
女の人が振り返り、それに気づく。
誰かは大きくジャンプをして、塀の上に飛び乗った。
「きゃああ!」
女の人は慌てて逃げ出す。
「ユルサナイィィィ!!」
誰かは叫びながら塀の上を走ると、大きくジャンプをして、家の屋根の上に飛び移った。
アクロバティックに物凄いスピードで屋根の上を走り、次から次へと家を飛び移って行く。
やがて、地面に着地した。
目の前に、先ほどの女の人がいる。
追いついたのだ。
「ユルサナイィィィ!!」
誰かは、女の人の髪を掴んだ。
そしてそのまま、女の人の長く綺麗な黒髪を力いっぱい引っ張った。
そこで、目が覚めた。
美波は、自分が部屋のベッドの上にいる事に気づく。
「今のは何なの??」
いつの間にか眠っていたようだ。
全身汗を掻いている。
「夢、だよね……?」
夢にしては妙にリアルだった。
「怖い動画を見すぎたせいだ……」
カーテンを不気味な女と見間違えるだけではなく、変な夢まで見るようになってしまった。
美波は汗を拭うと、しばらく怖い動画は見ないでおこうと思い、再び眠る事にするのだった。
(昨日はあれからあんまり眠れなかったなぁ)
翌朝。
美波は、学校へと向かっていた。
(だけど、あの夢は何だったんだろう?)
綺麗な髪の女の人を襲う夢など、今まで見たことがなかった。
怖い話を紹介する動画でも聞いた事がない。
美波は、先日丘で見つけた髪の束を思い出した。
(あれを見たせいで、夢に髪が出てきたのかな?)
あんなもの見つけるんじゃなかった。
美波は今更ながらに後悔した。
「ほんと、昨日大変だったんだよ」
不意に、前方から声がした。
見ると、上級生の男の子達が歩いていた。
「岡本、何が大変だったの?」
メガネをかけた男の子が、背の高い男の子に尋ねる。
岡本と呼ばれた男の子は、神妙な顔でメガネをかけた男の子を見た。
「昨日の夜、僕の家の近くで女の人が襲われたんだ」
「え、そうなんだ」
「だけど、その犯人がちょっと変だったんだよ」
「変って?」
「犯人は、何故か襲われた女の人の髪を、引きちぎろうとしたんだって」
「引きちぎる……?」
それを聞き、美波は戸惑う。
夢で見た光景と全く同じだったのだ。
「あ、あの」
美波は岡本に声をかけた。
「その女の人ってスーツ姿でしたか?」
「え、あ、ああ。近所の人が救急車で運ばれるその人を見たって言ってたけど、
確かスーツを着てたって言ってたよ」
「そんな……」
夢と同じ女の人かもしれない。
「もしかして、君の知り合い?」
「え、あ、そうじゃないんですが……」
美波は「ありがとうございます」と言うと、足早にその場から去って行った。
(あれは、ただの夢じゃなかったの??)
何故、事件と同じような光景を夢で見たのだろう?
理解ができない。
美波はゾッとすると、全身を震わせた。
(ほんと、どういうことなんだろう?)
放課後。
美波は学校帰り、公園のベンチに座っていた。
事件の事を聞いて以来、その事ばかり考えていた。
だが、何故実際に起きた事件と同じような夢を見たのか分からなかった。
(今日もあの夢を見たりするのかな……)
美波は憂鬱な気分になりながら、家へ帰ろうとベンチから立ち上がった。
「あら、翔子ちゃん」
公園の前の道路で、犬の散歩をしている女性が、高校生の女の子に話しかけていた。
「髪、伸びたわねえ」
「はい。長い髪の方が似合うかなって思って」
翔子と呼ばれた高校生は、笑顔で長いサラサラの黒い髪を女性に見せた。
夕日が反射し、キラキラと髪が輝いている。
「今から塾なんです」
「あら、気をつけて行ってらっしゃいね」
翔子と女性は挨拶をかわし、それぞれ別の方向へと歩いて行った。
そんな光景を、美波は少し離れた場所から見ていた。
「綺麗な髪だったなぁ」
美波はふと、自分の髪を見る。
「だけど、私の髪の方が」
その時、風が吹き、髪が揺れた。
見ると、髪に砂埃がついている。
「私の髪の方が……」
美波は、それ以上何も言えなくなってしまう。
瞬間、立ち眩みのような感覚を覚え、身体が揺れた。
夜。
住宅地にある小さな公園に、誰かがポツンと立っていた。
その誰かは、前の道路をジトッと見つめている。
やがてその道路に、一人の女の子が歩いて来た。
「うん、もうすぐ着くから」
電話をしながら歩いているのは、高校生の翔子である。
塾が終わり、家へ帰っているようだ。
誰かは、そんな翔子を見つめると、奥歯を強く噛み締めた。
「あ~、お腹減った」
母親との電話を終えた翔子は、スマホをポケットの中にしまうと、
公園の前を通り過ぎようとした。
―キイィ~ キイィィ~
公園の方から、錆びた金属音がした。
翔子は公園の方を見る。
すると、ブランコが揺れていた。
そのブランコの隣に、誰かが立っている。
サラサラの長い黒髪の女だ。
その手足は異常に長く、背も高い。
そして、真っ赤な服を着ていた。
顔は髪に隠れていて、口元だけが僅かに見えている。
女は、ニヤリと笑い、ゆっくりと手を挙げ、手招きをした。
「えっ?」
翔子は、戸惑いながら周りを見る。
公園にも、道路にも、他に人はいない。
どうやら、女は翔子に向かって手招きをしているようだ。
何か困った事でも起きたのだろうか?
翔子は、助けを求めているのかもと思い、女の方へと近づいて行った。
「あの、どうしましたか? 気分でも悪いんですか?」
翔子は近づきながら話しかけるが、女は何も言わず、ただ手招きをしている。
「あ、あの??」
不思議に思いながら、翔子は女の傍まで辿り着いた。
「ユルサナイ」
女が呟く。
「許さない?」
知り合いなのだろうか?
翔子は覗き込むように女の顔を見る。
瞬間、髪の間から、血走った眼が見えた。
「ユルサナイィィィ!!」
女は血走った眼を大きく見開き、翔子に襲いかかってきた。
「きゃああ!」
翔子は慌てて逃げ出す。
女は大きくジャンプをする。
ブランコの横にある滑り台の上に飛び乗り、翔子の方を見る。
「ひい!」
翔子はあまりの恐怖で、公園の外に出ようと必死に出口へと走る。
女は滑り台の上から跳ねるようにジャンプして、傍にある木の枝を摑んだ。
「ユルサナイ! ユルサナイィィィ!!」
女は、アクロバティックに枝を軸にして、自分の身体を車輪のように回転させる。
そのまま、クルクル回って枝から手を離すと、
その勢いのまま宙を飛び、翔子の目の前に着地した。
「嫌!」
逃げようとする翔子の後ろから、女は彼女の綺麗な黒髪を摑んだ。
「きゃああ!」
翔子は女の手を振り払おうとする。
だが、女は物凄い力で翔子の髪を引っ張った。
「痛い! やめて! お願い!!」
「ユルサナイィィ!!」
女は、さらに掴んでいる手に力を入れようとした。
「もうやめるんだ!」
「襲われたくなかったら、とっととまともにやり合え!」
その時、誰かが公園に駆け込んで来た。
「えっ」
気づくと、美波は公園の前に立っていた。
時刻は、夜。
公園には誰もおらず、傍に見える信号の淡い色だけが辺りを照らしている。
(どういう事?)
美波は何故夜になっているのか理解できなかった。
(それに、あれは何だったの??)
美波は先ほど見た光景を思い出した。
公園で、翔子という高校生が不気味な女に襲われそうになっていた。
そこへ、誰かが駆け込んで来た。
少年と青い髪の女の人だった気がする。
(あれって、夢……?)
美波は頭が混乱する。
学校から帰っていたはずだ。
それなのに、途中から記憶が曖昧になっている。
「とにかく、帰ろう……」
美波は戸惑いながらも、家へ帰ろうとした。
そんな美波の前に、二人の人物が現れた。
銀色の髪に、白い服の少年――ウワサと、青い髪とマントの女性――アノロンウェンだ。
ウワサは肩で息をしながら、赤い目で美波の方を見た。
「や、やっと見つけた……」
「アンタも災難だったねえ」
その姿を見て、美波は首を傾げた。
見知らぬ少年と女の人だが、会った事があるような気がする。
すると、ウワサとアノロンウェンが口を開いた。
「君は、呪われた少年の名前を言ったよね?」
「戦えないのがホント、残念だよ」
「えっ、呪われた……」
瞬間、美波はハッとした。
先日、いつものように怖い話を紹介する動画を何気なく見ていた。
人気動画配信者が、ある話をした。
それは、『呪われた少年』の話だ。
白い服に銀色の髪、左目だけが赤い少年――
その少年の名前を言うと呪われてしまうらしい。
動画配信者は、名前は教えなかったが、美波は妙に気になり、ネットで調べた。
「名前を書いてるサイトを見つけて、それでつい……」
美波は、『壊井ウワサ』という名前を、口に出して言ってしまった。
「君は、そのせいで呪われちゃったんだ」
「えっ?」
「呪われた人間は、『災悪』という怪物に襲われちゃうんだ」
「そいつをやっつけられれば、アタシとしてはモーマンタイなんだけどね」
「そんなわけ――」
そう言いながらも、美波は先程の出来事を思い出した。
あの不気味な女は、ただの人間ではない。
「まさか、あれが災悪?」
美波の言葉に頷くと、ウワサは持っていた銀色のペン、アノロンウェンはレイピアを上げた。
「な、何??」
美波は戸惑い、一歩下がる。
同時に、ウワサとアノロンウェンの姿を改めてよく見てみて、ゾッとした。
「まさか、あなたが壊井ウワサと、そのパートナーの……」
すると、ウワサとアノロンウェンが怒鳴った。
「だから僕の名前を言っちゃダメなんだ!」
「襲われたくなかったら、戦え!」
瞬間、ウワサはペン、アノロンウェンはレイピアを上げたまま、美波の方へと走った。
「来ないで!」
美波は慌てて逃げ出そうとする。
だが、脳裏に何かが蘇った。
夜の道路を、誰かが必死に走っている。
その誰かは、何度も後ろを振り返る。
後ろには、追いかけてきている人物がいる。
それは、ウワサとアノロンウェンだ。
美波はハッとする。
先程公園で、翔子が女に襲われた時、駆け込んで来た人物がいた。
その人物こそが、ウワサとアノロンウェンだった。
女は、そんなウワサとアノロンウェンを見て、慌ててその場から逃げ出したのだ。
(だけど、どうして私がそんな事を知ってるの?)
そう思った瞬間、美波は立ち眩みのような感覚を覚え、身体が揺れた。
「な、何??」
頭の中で、うらめしそうな声が聞こえる。
「しっかりして!」
「アタシが治してやるよ!」
ウワサとアノロンウェンは駆け寄り、助けようと手を伸ばすが、美波はその手を振り払った。
「ユルサナイ ユルサナイ ユルサナイ……」
美波の口から聞こえたのは、あの女の声だ。
「あ、ああ、あア、アアァ」
美波はだんだん意識が遠のく。
身体が激しく揺れる。
手足が伸び、身長も伸びていく。
「アァ、ア、アアァ――ユルサナイィィ!!」
次の瞬間、美波は、あの不気味な女になった。
「くっ!」
ウワサは災悪になった美波から離れると、銀色のペンを強く握り締めた。
ペンの表面に見た事もない奇妙な模様が浮かび上がる。
「隙を作るんだ!」
「了解! アタシに任せなっ!」
アノロンウェンは災悪に突っ込んでいくが、災悪は物凄い力でアノロンウェンを殴る。
かなりの大ダメージを受けたアノロンウェンはふらつくが、
レイピアによる突き刺し攻撃が災悪に命中する。
直後に災悪の掴み攻撃をかわした後、
体力を削りながらアノロンウェンは災悪をレイピアで突き刺した。
ウワサがペンを走らせると、宙に青白い炎が現れ、円が描かれた。
女の前に円が浮かぶ。
ウワサの目が赤く光る。
その目に何かが視える。
それは、女の『名前』だ。
「全ての災悪を、この光によって打ち消さん! お前の名は――」
ウワサは、ペンを走らせ、空中に文字を書いた。
ア ク ロ バ テ ィ ッ ク サ ラ サ ラ
瞬間、アクロバティックサラサラが身体を小刻みに震わせる。
「アア、アァアア アァァ」
次の瞬間、アクロバティックサラサラの身体にヒビが入り、光が漏れ出す。
そのまま、粉々になって消滅する。
そして中から、美波が現れた。
美波はその場に跪く。
意識はあるようだ。
「わ、私……」
美波は、翔子やスーツ姿の女の人を襲ったのが自分だった事に気づいた。
「それだけじゃない……」
丘の上にあった黒い髪の束。
その髪の持ち主も、美波は自分が襲っていた事を思い出した。
「君は、呪われて、災悪に取り憑かれていたんだ」
ウワサがフラフラとしながら立ち上がると、美波を見た。
「みんなは? 私に襲われた人達は??」
美波はアノロンウェンに尋ねる。
「……一応後でアタシが始末しておくさ。でも、呪われた少年の名前は二度と言っちゃいけない。
言えば、また呪われるから」
「呪われる……」
美波は険しい表情になると、ウワサを睨んだ。
「あなたのせいで私はみんなを! あなたは呪われた少年なんでしょ!」
「バッカだねえ! だからこそ、アタシがついてるじゃないか! 災悪はアタシが払う!
アンタもそんな事をされたくなかったら、自分で戦う術を磨きな!」
そう言ってアノロンウェンは、ウワサの手を無理矢理引きながら去っていった。
~災悪紹介コーナー~
アノロンウェン「なーにかな?」
ウワサ「なーにかな?」
二人「今週は、これ!」
アクロバティックサラサラ
出現場所:夜の公園、住宅地の屋根の上、鏡の中
攻撃手段:驚異的な身体能力を駆使した跳躍、髪の強制的な引きちぎり
アノロンウェン「名前の通り、あのアクロバティックな動き……
アタシの故郷の軽業師でもあそこまでは動けないね」
ウワサ「あれは長い髪の女性への嫉妬や、髪にまつわる都市伝説が形になった災悪なんだ。
美波ちゃんが自分の髪に誇りを持っていたからこそ、その心の隙間に取り憑いて、
彼女自身の体を依代にしてしまったんだね」
アノロンウェン「美波の奴、最後は逆ギレしてたけどねえ。
まあ、アタシのレイピアで災悪を引っぺがしてやったんだ、
感謝してほしいもんだよ。
あんな風に屋根から屋根へ飛ばれたら、
追いかけるアタシ達の身にもなってほしいよ」
ウワサ「本当に大変だったね。
でも、彼女が自分自身が災悪になっていた記憶を抱えて生きていくのは、
ある意味、どんな呪いよりも重いかもしれない」
アノロンウェン「湿っぽいねぇ! 起きた事は仕方ないさ。
さあ、次はどんな噂がアタシ達を呼んでるのかね?」