自分の髪を誇る中学生の美波は、丘で不気味な髪の束を見つけ、
後にネットで「呪われた少年」の名を検索し口にする。
以来、彼女は夜な夜な美しい髪の女性を襲う夢を見るようになり、
現実でも同様の事件が頻発し始める。
実は美波は呪いで災悪に取り憑かれており、
夜になると意識を失い、自らが災悪と化して人々を襲っていた。
アクロバティックサラサラとして暴走する美波の前に、ウワサとアノロンウェンが立ちはだかる。
激しい戦闘の末、ウワサが名前を暴く事で災悪を消滅させ、
美波は罪悪感に苛まれながらも人間の姿へと戻った。
美波はウワサを責めるが、アノロンウェンは「自ら戦う術を磨け」と言い放ち、
二人は再び夜の闇へ消えていくのだった。
『登山道入口』のゲートから歩き始めて、まだ15分くらいだった。
「ふう、キツい、キツい……ふう、疲れた、疲れた……」
中学2年生の佐竹美月は、そう呟きながら歩いていた。
「お姉ちゃん、やめなよ。こっちまで疲れちゃうよ」
弟の小学6年生の来夢はうんざりして文句を付ける。
「そうだぞ、美月。まだまだ1時間は歩かないとならないんだぞ」
「途中まではケーブルカーがあるから、
それに乗ろうと言ったのに、歩いて登るって言ったのは美月よ」
先頭を歩く父親と母親も美月を窘める。
家族三人にそう言われて、美月はふてくされて黙った。
日曜日の午前中。
佐竹一家は自宅から車で1時間ほどの山に来ていた。
初心者でも登れる穏やかな山だ。
いつもの日曜日だと多くの登山客で賑わうのだが、その日は人が疎らだった。
前日のテレビの天気予報では、今日の昼まで雨の予報だったからだ。
しかし、父親が頼りにしている天気予報アプリでは朝には晴れると伝えていた。
「明日はみんなが雨だと思ってるから、きっと空いてるぞ、山に行こう」
山登りが趣味の父親がそう言い出して、突然来る事になったのだ。
「ああ、キツい……ああ、疲れた……ああ、荷物が重い」
しばらく黙っていた美月だが、いきなり立ち止まってリュックを下ろした。
「お姉ちゃん、そんなに言うなら、一人で電車に乗って帰ればいいじゃないか」
ムッとして来夢も立ち止まった。
「なんで、ここまで来て帰らないといけないのよ」
「最初から来なければよかったじゃん」
「やだよ。一人で留守番になっちゃうもん」
「あ、お姉ちゃんは、一人で留守番するのが怖いんだ」
「違うわよ!」
「中学生にもなって一人になるのが怖いんだ」
「何言ってるのよ! 怖くなんかないわよ!」
「噓だぁ。この間、『呪われた少年』の話をしたら嫌がってたじゃん」
「え? 嫌がってなんかないわよ。そんな噂はくだらないと思っただけだよ」
「え~、でも、呪われた少年の名前を書いたメモを見せたら、目を瞑ってたじゃん」
「瞑ってないわよ!」
「瞑ってたよ! メモを見なかったくせに!」
姉弟の言い争いに父親は流石にうんざりする。
「おい! お前達! いい加減にしろ!」
母親もそれに続ける。
「本当にそうよ! こんな所に来て姉弟喧嘩だなんて、やめなさい!」
両親にきつく言われた来夢は肩を窄めて答える。
「はい……」
だが、美月は違った――
「コワイウワサ! 呪われた少年の名前はコワイウワサだよ!」
大きな声で言った。
「えっ!?」
ビックリした来夢は姉の顔をしばらく見つめてしまった。
やがて、ゾッとしつつ言う。
「ダメだよ、お姉ちゃん、その名前を言ったら呪われちゃうんだよ……」
美月はぷいとそっぽを向いて言う。
「何よ、私がメモを見てないとか言うからだよ。ちゃんと見てたでしょ」
「でも、名前を言っちゃうと、両目の色が違う少年がやって来るんだよ」
来夢は不安げに言う。
「両目の色が違うって、オッドアイって事?」
来夢は頷く。
「そうらしいよ。白い服で銀髪の、カッコいい少年と、それに付き従う女戦士が現れるんだって」
「え~、白い服で銀髪の、カッコいい少年? しかも、女戦士? 会ってみたい」
「会ってみたいなんて、ダメだよ。呪われちゃうんだよ」
「バカバカしい。単なる噂話でしょ」
「でも、学校のみんなが本当だって言ってたんだよ!」
「そんなのあてにならないよ!! あんた馬鹿じゃないの!!」
来夢は、姉に面と向かって「馬鹿」と言われたのがショックだった。
(酷いよ、お姉ちゃん……)
そう思った来夢は唇を噛んだ。
「美月! 弟に向かって馬鹿とはなんだ!」
父親が今までで一番大きな声で叱ってきた。
「でも、来夢が――」
美月はそう言いかけたが、父親だけでなく母親の目じりもつり上がっているのに気づいた。
「美月はお姉ちゃんでしょ。弟を泣かせてどうするの?
それに、来夢もお姉ちゃんの言う事にいちいち歯向かわないの」
「……はい」
美月が素直に答えるのを見て、来夢も鼻をすすりながら首を縦に振った。
「さあ、もう少し行ったら休憩所があるから、そこで休もう」
父親の提案を聞いて、家族全員が歩き出した。
「頂上まで、もう少しだね」
さわやかに言う美月に、来夢はくすりと笑った。
(さっきまではあんなに機嫌が悪かったのに……)
休憩所でお菓子を食べたりしたら美月も来夢も気持ちが落ち着いたのだ。
それに、天気も良く頂上が近づいてきたらテンションが上がってきた。
でも、来夢には不安があった。
「ねえ、お姉ちゃん、大丈夫?」
「何心配してんのよ。大丈夫だよ」
「本当に? 足が痛いとか、お腹が痛いとかなってない?」
「どこも痛くないよ。大丈夫だよ。名前を言ったら呪われるなんてあり得ないよ」
そう言った美月は、何かを見つけて走り出した。
姉が『危険! 近寄るな!』と書かれた立て札に向かうのを見て来夢はひやりとする。
「お姉ちゃん、ダメだよ!」
「大丈夫だって」
―ベチャベチャベチャ
美月は昨夜の雨でぬかるんだ地面をお構いなしに走る。
そして、立て札の脇に立ち、その下を覗き込んだ。
「ダメだよ! 危ないよ!」
心配になって来夢も姉の横に駆け寄る。
立て札の下に急な斜面があった。
―サラサラサラ
下を沢が流れている。
「へえ、綺麗だね」
美月は楽しげに沢を覗き込むが、来夢は気が気ではない。
「二人とも、危ないから、離れなさい!」
来夢達よりも先を歩いていた母親が気づいて注意をしてくる。
「そうだよ、お姉ちゃん、ここから早く離れよう。何が起きるか分からないんだよ」
来夢は姉の手を引いた。
「大丈夫だって。コワイウワサだなんてくだらないな」
来夢の心配をよそに美月は、呪われた少年の名前をまた言った。
「ダメだよ! ほんとに!」
来夢は胃が痛くなるほど心配になってきた。
そんな弟の心配を察した美月は、「よし!」と言って来夢に提案する。
「じゃ、頂上にどっちが先に着くか競争しよう」
「ええ?」
来夢は山道を改めて見た。
幅の広い綺麗にならした道だが、舗装されているわけではない。
深夜まで降っていた雨で所々の土がぬかるんでもいる。
もし足を滑らせたら、この斜面に落ちるかもしれない。
「お姉ちゃん、危ないよ。やめなよ」
「大丈夫よ。よーい、どん!」
美月は勝手に走り始めた。
(お姉ちゃんは、僕が不安がってるから、からかってるんだな)
来夢はそう思ったら、美月に負けられない気がしてきた。
「よし! 僕が一番だよ!」
来夢も走り出した。
先を歩いていた両親を、ピンクとスカイブルーの美月と来夢のリュックが追い抜いていく。
「あんた達、気をつけなさいよ」
注意する母親は、父親と顔を見交わして笑った。
その頃、『登山道入口』のゲートの下に白い服の少年と青いマントの女性がやってきた。
ウワサとアノロンウェンだ。
手の平の上の銀色のペンが山道を指している。
ウワサは山を見上げて、不安な表情を浮かべた。
怖ろしい事が待ち受けているのを感じる。
「でも……行くしかないよね」
「何かあってもアタシが戦うからね」
ウワサは意を決すると、ペンをポケットにしまい、両耳に付けていたイヤホンを外した。
そして、アノロンウェンと共に緩やかな山道を歩き始める。
「はい、タッチ! 僕の勝ち!」
『山頂』の立て札に来夢の手が触れた。
「来夢、いつの間にそんなに速く走れるようになったの?」
美月は息を切らせながらも、朗らかに走って来た。
それを見て来夢も朗らかに笑う。
(名前を言ったら呪われるなんて噓なのかも……)
もう心配するのはやめようと来夢は思い、山の頂上を見渡した。
そこは広い展望台になっている。
早朝まで天気が悪かったせいで、他の人の姿は無かった。
「来夢、やったね! 独り占めだよ!」
「そうだね!」
周囲はしっかりとした柵に囲まれて、その向こうには青空が見える。
「来夢、柵の方に行ってみよう!」
「うん」
こんな高いところまで来たのだ、きっと町がミニチュアのように見えるに違いない。
来夢と美月は風景を見下ろそうと柵に駆け寄った。
ところが、そこには白い靄が覆っていて町は見えなかった。
しかも、その靄の中には――
「え? 嫌っ!!」
美月が叫んだ。
「なんだ! これ!」
来夢も驚いて立ち竦んだ。
見下ろした先に見えたのは――大きな黒い人影!
こちらに足を向けた黒い人影が靄の上に伸びている。
それは学校の体育館くらいのとんでもない大きさがある。
「『呪われた少年』のせいだよ!
お姉ちゃん、逃げよう!」
来夢は美月の手を引いて走り出そうとしたが――
「慌てなくて大丈夫だよ。それは『ブロッケン現象』だよ」
二人が背後を見ると、父親が笑って立っていた。
「え? ブロック現象?」
来夢にはそう聞こえた。
「いや、ブロッケンだよ」
「「ブロッケン?」」
来夢と美月は同時に聞き返した。
「ああ、ブロッケン現象だ。
太陽の光に照らされた自分の影が、霧やガスに大きく映し出される現象だよ」
「え? じゃ、これって、私と来夢の影なの?」
来夢と美月は靄に映る大きな黒い影を見下ろす。
「ああ、昨日の遅くまで天気が悪かったから、
頂上の下に靄ができてそれがスクリーンの役目を果たしてるんだろうね。
でも、この山で『ブロッケン現象』を見るのは初めてだけどな」
「なんだ、驚いて損しちゃったね」
笑いながらそう言う美月に、「うん」と来夢も笑いかけた。
「何? ブロッケン現象がどうかしたの?」
最後に登ってきた母親も、柵越しに下を見た。
「へぇ、こんな影は初めて見たわ」
感心する母親に美月と来夢はますます影をしっかり見つめる。
「でも、ブロッケン現象って変だね。四人家族なのに一つの大きな影になるんだね」
来夢の言葉に美月も頷いた。
「でも、家族が一つの影になるなんてステキよね」
美月がそう言うと来夢も母親もニッコリと頷いた。
しかし、父親だけは違った。
「……この人影は変だ。ブロッケン現象じゃないよ」
「え? お父さん、何言ってるの?」
そう尋ねた美月が父親の顔を見ると、父親は困惑した表情で見返してきた。
「四人の影が一つの影になるなんてあり得ないよ」
「それって、どういう事?」
すかさず尋ねたのは美月だった。
「いや、この柵の所に最初は美月しかいなかったから、美月の影だと思ったんだ。
でも、今は、四人いる……」
父親はそこで口を噤んだ。
「『ブロッケン現象』で四人いるのに影が一つになるなんてあり得ないの?」
父親に尋ねた美月の声は少し震えていた。
父親はゆっくりと頷く。
「そういう事だ。これは我々の影じゃない、何か他の影だ」
その時――
―ブウオオオオ
奇妙な音が響いた。
「今の何? 地鳴り? それとも、獣の声?」
母親の疑問が美月をなおさら不安にさせる。
「お母さん……」
美月が母親に抱きつく。
―ブウオオオオオッ
唸り声とも地鳴りともつかぬような音が再び響いた。
「お母さん……」
今度は来夢が母親に抱きついた。
そして、再び不気味な音が――
―ブオオオオッ
目の前の大きな影の上半身が持ち上がり始めた。
「なんだ!」
父親がゾッとして叫ぶ。
人影が上半身を起こしながら、大きな手を伸ばし始めた。
それが四人に迫ってくる。
「いやぁぁぁ!」
「わああ!」
美月と来夢は母親の胸に顔を埋める。
父親は迫ってくる巨大な手を呆然と見ているだけだ。
「早く逃げて!」
背後から声が響いた。
来夢が振り向くとウワサとアノロンウェンが立っていた。
「早く! 早く逃げて!」
「こいつはアタシがやっつけるからね!」
ウワサとアノロンウェンの怒鳴り声に父親と母親はハッとした。
「逃げろ!」
父親が家族全員を抱えるように走り出そうとした。
だが、美月と来夢は抵抗する。
「来夢が言ってた、オッドアイに、白い服!」
「お姉ちゃんが、呪われちゃう!」
それを聞いたウワサが二人に駆け寄る。
「とにかく今は、あれから逃げるんだよ!」
ウワサは家族四人の背後を見た。
大きな黒い手が迫っている。
「美月、来夢、お母さん、逃げるぞ!」
父親が三人を促した。
ウワサも彼らの背中を押す。
「急いで!
早く!」
振り返ると大きな黒い手がゆっくりと追ってくる。
この手に掴まれたら来夢の姿はすっかり隠れてしまうだろう。
四人の中で一番背の高い父親も、親指の付け根から頭が覗くだけになるはずだ。
大きな黒い手が展望台の地面を滑るように追ってくる。
「早く! 下に下りるんだ!」
「凍り付け!」
ウワサは、みんなが登ってきた山道を下りるように促す。
アノロンウェンは、大きな影に対して氷の魔法を放った。
来夢達佐竹一家とウワサとアノロンウェンの六人は、坂を走って下り始めた。
土をならしただけの道なので凸凹がある。
「足元に気をつけて!」
佐竹一家の耳にその注意が入ったかは分からない。
とにかく、逃げるので精一杯だ。
―ベチャ! ツルッ!
「あっ!」
来夢が声を上げたと思ったら、転倒した。
ぬかるんだ土に足を滑らせたのだ。
しかも、その勢いで『危険! 近寄るな!』の立て札の方に身体が滑っていく。
―ズルズルズルズルズルズルッ!
このままでは道から飛び出して、斜面の下に落ちてしまう。
「わぁぁぁ!」
「「来夢っ!」」
両親が叫んだ。
父親が助けようと走りだす。
―グチャ!
「わぁっ!」
父親も足を滑らせた。
幸い父親の身体は滑らずに済んだが、来夢の身体はまだ滑っている。
「わぁっっ!!」
叫ぶ来夢は、手足をジタバタさせる。
それがかえって身体を滑らせて、崖に向かってしまう。
「落ち着いて!」
ウワサとアノロンウェンが慌てて追った。
―ザァ!
ウワサとアノロンウェンは来夢と『危険! 近寄るな!』の立て札の間に滑り込んだ。
―ドンッ!
来夢の身体を、アノロンウェンは氷の魔法で受け止めた。
「大丈夫かい!?」
来夢のスカイブルーのリュックは茶色くなり、顔にも泥がはねていたが、怪我はないようだ。
「うん、ありがとう」
礼を言う来夢にウワサはホッとする。
「来夢!」
「来夢! 大丈夫か!?」
美月と両親が慌てて駆けつける。
アノロンウェンは魔法を解除し、来夢を支えつつ一緒に立ち上がった。
「お兄さんが助けてくれた」
来夢がウワサとアノロンウェンを見ると両親は頭を下げる。
「ありがとうございます」
「でも、あの大きな手はなんだったの?」
誰に尋ねるでもなく言う美月に、アノロンウェンが答える。
「あれは『災悪』だよ」
佐竹一家は理解できず顔を見合わせる。
「災悪ってなんですか?」
尋ねたのは来夢だ。
「さっき、君はお姉ちゃんが呪われちゃう、って言ったよね」
来夢は「うん」と頷く。
ウワサは辛い気持ちで美月を見る。
「君のお姉ちゃんが、呪われた少年の名前を口にしてしまったから現れたんだ」
「敵対的だからねえ、倒さないといけないんだよ」
「ええッ!? そんな……!!」
美月の顔が見る見る青ざめていく。
「単なる噂じゃなかったの!? 私のせいであんな不気味な手が襲ってきたの?」
取り乱す美月を両親が抱き留める。
「おい! 娘になんて事を言うんだ!」
父親がウワサを睨みつける。
「いや、僕は……」
ウワサはどうしたらいいか分からない。
そんな彼に、アノロンウェンが堂々と前に立つ。
「バカじゃないの? まともにやり合えよ」
「な、何だと!?」
アノロンウェンの偉そうな態度に父親はムカつく。
その時、ウワサと来夢達を白い靄が包み始めた。
―ブウオオオオオッ
異様な音が響く。
「しまった! 災悪だ!」
ウワサは顔を歪めると、皆を見た。
「早く逃げないと!」
来夢がウワサとアノロンウェンの背後を見て叫ぶ。
「手だよ!」
後ろを見るウワサ。
―ブウウウッ! オオオオオッ!
靄の中から突如、巨大な黒い手が現れた。
「わぁぁぁぁ!」
「巨人のソロ討伐か……やるしかないようだねえ!」
アノロンウェンのレイピアが、巨大な黒い影を一閃した。
瞬間、巨大な手はあっさりと消えていった。
周囲の靄も一瞬にしてなくなった。
「ふぅ」
大きく息を吐いて目の前を見ると、展望台に明るい陽が降り注いでいる。
その眩しさにウワサは目を細めた。
「よかった……」
ウワサは立ち上がると、イヤホンを耳に付けた。
そして、その白い背中は何事もなかったように去って行く。
アノロンウェンもまた、彼の後を追っていった。
山の麓。
「それで、大きな黒い手に襲われたけど、
白い服の男の子と青いマントの女の人に助けられたんですね?」
美月と来夢達家族四人の話を警察官がメモしていた。
「はい、そうです」
父親が答えるが、警察官と周りの大人達は困惑するだけだ。
「お巡りさん、本当なんです。信じてください」
そう願う来夢に、美月も続ける。
「私が呪われた少年の名前を言ったから、大きな黒い手が襲ってきたんです」
しかし、警官達は溜息をつくだけだ。
美月と来夢は途方に暮れて肩を落とすしかなかった。
「彼の話を聞かせてくれるかな」
「お願いします」
一人の少年とブーメランを持った女性が家族四人の傍にやってきた。
「え? 信じてくれるんですか?」
来夢は嬉しくなって尋ねた。
その少年と女性はニコリとした。
「君達は運が良かったんだ」
「死なずに済みましたしね」
「何故ですか?」
「その白い服の男の子が呪われた少年なんだ」
「あなた達が襲われたのも、彼のせいなのです」
家族四人はゾッとするが、美月は疑問をぶつける。
「でも、助けてくれたんですよ」
「だが、呪われた少年が存在しなければ、元々君達が災悪に襲われる事もなかった」
美月は何も言えなくなった。
「だけど、どうして呪われた少年に詳しいの? あなた達は誰なの?」
「僕かい? 僕の名は、加志谷マコト」
「あたしはハーフエルフのエンネア。ただ、彼に従うだけです」
「災悪を止めるために、僕は必ずあいつを捕まえる――」
マコトとエンネアは鋭い目でそう言うのだった。
~災悪紹介コーナー~
アノロンウェン「なーにかな?」
ウワサ「なーにかな?」
二人「今週は、これ!」
巨影の魔手
出現場所:山頂などの霧や靄が発生しやすい高所
攻撃手段:巨大な影の腕による物理的な圧殺、心理的な恐怖によるパニック誘発
アノロンウェン「あーあ、せっかくの家族旅行が台無しだねえ。
ブロッケン現象かと思ったら、命を刈り取る巨大な手だったなんて、
笑えない冗談だよ」
ウワサ「笑えないのは僕のせいでもあるんだけどね。
僕の名前を呼んじゃったから、あんな不気味な影が形を成して襲ってきたんだ。
美月さん達には本当に怖い思いをさせちゃったな……」
アノロンウェン「まあまあ、最後はアタシの華麗な剣技で、
霧と一緒に切り裂いてやったじゃないか。
感謝してほしいくらいだよ」
ウワサ「でも、マコト君達が現れたみたいだ。僕達の事を『災悪の元凶』として追っている……。
助けたはずなのに、僕達がいる限り、また誰かが危険な目に遭うのかな」
アノロンウェン「そんなの気にしてたら日が暮れるよ!
ほら、次に行こう、ウワサ。イヤホン、ちゃんと付けた?」
ウワサ「……うん。外の世界の音が、また怖くなる前にね」