登山中に弟と喧嘩し、禁忌とされる「呪われた少年の名前」を口にした中学生の美月。
すると山頂の霧の中に、家族を襲う巨大な黒い影の災悪が現れる。
絶体絶命の窮地を救ったのは、ウワサとアノロンウェンだった。
一行は無事に下山するも、大人達は非現実的な出来事を全く信じようとしない。
そこへ、ウワサを災悪の元凶として追う謎の少年・マコトが現れた……。
「お母さんとハンバーガー食べるの久しぶりだよね」
ある日。
小学6年生の尾田京香は、買い物帰りに、
母親と駅前のファストフード店でハンバーガーを食べていた。
看護師をしている母親は毎日忙しく、一緒にどこかに出かける事など滅多にない。
今日は休みで、昼から二人で買い物に出かけていたのだ。
「新しい服も買ってもらったし、今日は最高の1日だったなあ」
京香は母親を見ながら、満面の笑みを浮かべる。
母親も嬉しそうだ。
ハンバーガーを食べ終えた京香は、ポテトに手を伸ばした。
その時、隣のテーブルに座っていた少年達の話し声が聞こえてきた。
「呪われた少年について、ほんとに何も知らないのかい?」
「……一般人ですからね」
イスに座っている中学生ぐらいの少年と緑の髪の女性が、
テーブルを挟んだソファー席に座っている高校生ぐらいの二人の少年にそう尋ねた。
中学生ぐらいの少年は、黒ずくめの服を着ている。
「俺達は、何も知らないよ」
「ああ、ただそういう噂を聞いただけだから」
「SNSとやらには、会った事があると書いていたはずです」
「そ、それは、嘘で」
「そうそう、そう書いたらバズるかなって思ってさ」
高校生の少年達が苦笑いを浮かべる。
どうやら、黒い服の少年は、二人の友達でも知り合いでもなく、
彼らがSNSに書いた文章を見て、会いに来たらしい。
「どうやら時間の無駄だったようだね」
「そうですね」
黒い服の少年と緑の髪の女性は、苛立ちながら席を立つと、立ち去ろうとした。
「なんだよ、その言い方」
「雑誌の取材だって言ったから会ったのに、君の方こそ嘘つきじゃないか」
「嘘つき?」
緑の髪の女性は立ち止まると、二人を見た。
「世の中には、絶対についてはいけない嘘があるのです!」
凄む緑の髪の女性に、二人はたじろぐ。
「呪われた少年の話は二度としてはいけません。分かりましたか?」
「だから……彼女の言う通りにするんだ」
黒い服の少年と緑の髪の女性は念を押すと、そのまま去って行った。
「な、何だよ」
「変な奴だよな」
高校生の少年達は文句を言いながらも、バツが悪くなったのか、
すぐに席を立ち、店を出て行った。
「何だかちょっと怖かったわね」
母親が言う。
「だけど、黒い服のお兄ちゃんと緑の髪のお姉ちゃんが言ってた呪われた少年って、
あの噂話だよね」
「あら、京香知ってるの?」
「うん、学校で結構広まってる噂だよ」
京香は、呪われた少年の話を母親にした。
「へえ、名前を言うだけで呪われるなんてねえ。お母さんの子供の頃はそんな噂話なかったわ」
「私も最近聞いたんだよ。
クラスに噂話に詳しい友達がいるんだけど、彼女も今まで聞いた事なかったって言ってたよ」
「そうなんだ。ところで、その男の子の名前は何て言うの?」
「え、あ~、名前は壊井ウワサだよ。って、ああっ!」
京香は、言ってはいけない名前を思わず言ってしまった。
「お母さん、どうしてそんな事聞くの!」
「名前が気になったから」
「だったら、紙に書いてって言ってよ」
「まさか、京香が言っちゃうとは思わなくて」
「どうしよう……」
名前を言ったら呪われてしまう。
「大丈夫よ。ただの噂話でしょ。そうだ。駅前のカプセル、回していいわよ」
京香は以前から、かわいい動物キャラのカプセルオモチャを集めていた。
今日も買いたかったが、母親はダメだと言ったのだ。
どうやら怒っている京香をなだめようとしているらしい。
「食べ終わったら行きましょう。ね、だからもう気にしないで」
「だけど……、う、うん」
不安だったが、カプセルを回せる事は嬉しい。
「ただの噂だよね……」
京香は、これ以上気にするのはやめる事にした。
「ねえねえ、京香ちゃん、今日はどうしたの?」
学校の休み時間。
隣の席の井上貴理が、京香に声をかけてきた。
「え、どうしたのって?」
「なんか元気ないよね? 授業も全然集中してないし」
「ええっと、それは……」
京香はその指摘にドキリとする。
貴理の言う通りだったのだ。
呪われた少年の名前を言ってからというもの、最初こそ気にしないでいようと思ったが、
1日経っても不安な気持ちが全くなくならなかった。
(名前を言っちゃった事、貴理ちゃんに相談したいけど……)
昨日、母親に言った噂話に詳しい友達とは、貴理の事である。
貴理なら、ちゃんと話を聞いてくれるかもしれない。
(だけど、名前を言った事がみんなにバレたら)
クラスのみんなが呪われた少年の話を信じているわけではない。
だが、誰も名前を直接口に出して言った者はいなかった。
みな、呪われるかもしれない事を怖がっていたのだ。
(言ったら、みんな私の事怖がっちゃうよね)
そんな状況にはなりたくない。
「元気ないなんて、気のせいだよ。私、いつも通り元気だからね!」
京香は精一杯笑顔を作って、貴理にそう言った。
(結局、誰にも言えなかったなあ……)
放課後、京香は一人家に帰っていた。
貴理に指摘されてからは、明るく振る舞っていたが、
ずっと呪われた少年の名前を言ってしまった事が気になっていたのだ。
(お母さんに言っても、ちゃんと話聞いてくれないと思うし)
名前を言ったのは母親のせいだが、昨日、カプセルのオモチャを買ってもらった。
母親の中ではもう終わった話になっているだろう。
(何も起こらなければいいけど……)
「どうしよう。はあ~」
京香は不安交じりの溜め息を吐いた。
「おやおや、どうしたんだい?」
ふと、声がした。
見ると、商店街の一角にある青果店に、一人のおじさんの姿があった。
「え? 吉村のおじさん??」
吉村のおじさんは、店の奥に置かれているイスに座っていた。
店の奥は薄暗く、顔や身体はハッキリとは見えないが、
店の前にいる京香を見ておじさんは優しく微笑んでいるようだ。
「おじさん、入院してたんじゃないの?」
吉村のおじさんは、2週間ほど前に病気で入院していた。
店はひとりで切り盛りしていたので、最近ずっと休業していたはずなのだ。
「ハッハッハ、やっと元気になってねえ」
おじさんが笑いながら言う。
「そうなんだ、よかった」
吉村のおじさんの青果店には、小さな頃母親とよく来ていた。
おじさんが元気になったと知り、京香は嬉しく思った。
「ところで、何かあったのかい?」
吉村のおじさんは、店の奥のイスに座ったまま、京香をじっと見つめた。
「え、あ、ええっと」
(おじさんになら、相談してもいいかも)
いつも優しく、昔から色ーな相談に乗ってくれた。
京香の中で、吉村のおじさんは頼りになる存在だったのだ。
京香は、呪われた少年の事をおじさんに話す事にした。
「なるほど、それは怖かったねえ」
話を聞いたおじさんは、店の奥のイスに座ったまま、何度も頷いた。
「そうでしょ。やっぱり怖いよね」
京香はそう言いながら、同情してくれた事を喜び、おじさんの方に近づこうとする。
すると、おじさんが声を荒らげた。
「こっちへ来ちゃいけない!」
「えっ??」
京香は思わず店の奥へ行くのを躊躇う。
吉村のおじさんは、慌てて笑った。
「ハッハッハ、腰に湿布をしてて、臭いがあるから京香ちゃんに嫌な思いをさせたくないんだよ」
「別にそんな事気にしないけど……」
(おじさん、私に気を使ってくれてるんだね)
京香は、おじさんの気持ちを嬉しく思い、店の前に立ったまま話をする事にした。
「だけど、呪われた少年ねえ……おじさんも子供の頃に聞いた事があるね」
「え、そうなの?」
呪われた少年の話は、最近広まった噂だと思っていた。
「確か、呪いを解く方法があったはずだよ」
「ほんと??」
「おじさんの友達も、同じように呪われた少年の名前を言ってしまってねえ。
それでちゃんと調べて、呪いを解く方法が分かったんだよ」
「教えて! どうすればいいの??」
京香が尋ねると、おじさんは優しく微笑んだ。
「『夜の大きな道路を、目を瞑って渡る』というものだよ」
「大きな道路を?」
「ああ、無事に渡り切れば呪いはなくなるよ。
おじさんの友達もそれをやって、それ以降は何も不幸な事は起きなかったからね」
「そうなんだね」
「呪いは存在する。おじさんはそう思ってるよ。だけど心配する事はない。ハッハッハ」
おじさんは京香を見ながら笑う。
「たしかに、そうだよね……」
もし呪われていたとしても、それを解けばいいのだ。
京香は、おじさんに言われた方法を試してみる事にした。
(そろそろ、いいかも)
しばらくして。
京香は住宅地の外れにある大きな道路にいた。
既に日が暮れ、夜になっている。
京香は早く呪いを解きたいと思い、家に帰ったものの、
母親に散歩に行って来ると言い、夜になるのをここで待っていたのだ。
片道3車線の大きな道路で、夜は交通量が少なくなるが、それでもかなり車が行き来している。
おじさんが言うには、信号のある横断歩道などを渡るだけでは呪いは解けないらしい。
あくまで何もない場所を、目を瞑って渡り切らなければならないのだ。
(ほんとに大丈夫かな?)
京香は道路を見る。
暗くてハッキリとは見えないが、今はちょうど車は走っていない。
自転車に乗っている人や歩いている人もいなさそうだ。
(渡るなら、今しかないよね)
「よし」
京香は道路の端に立つと、目を瞑った。
そして、勇気を出して道路を歩き出した。
「呪いがなくなる……、呪いがなくなる……」
京香は歩きながら、何度も呟く。
早足で歩くつもりだったが、何も見えないので、慎重に歩いて行く。
「これで呪いが……これで呪いが……」
祈るように、歩いて行く。
「もう少し、もう少し……」
さらに、歩いて行く。
もう少しでつくはず。
そう思った瞬間――
―ブウゥーン!
目の前を何かが通り過ぎた。
車だ。
「きゃ!」
京香は思わず立ち止まる。
だが、ここでやめてしまったら意味がない。
大きな道路を渡り切れば、呪いはなくなるのだ。
京香は目を瞑ったまま、再び歩き出そうとした。
その時――
ーキィ!
けたたましいブレーキ音が響いた。
同時に何かが迫って来るのが目を瞑っていても分かった。
「あっ」
京香は思わず目を開け、道路を見る。
今まさに1台の車が京香の前に迫っていた。
「きゃあああ!」
逃げようと思うが恐怖で身体が動かない。
轢かれる――
「京香!」
瞬間、誰かが駆け寄り、京香の手を引っ張った。
「きゃ!」
京香は腕を引っ張った人にしがみつく。
車はそのまま道路を走って行った。
「京香、何してるの!」
見ると、母親が京香の腕を掴んでいた。
「お、お母さん」
「帰りが遅いから探していたのよ! どうしてこんなところにいるの!」
「それは……」
京香は戸惑いながらも、吉村のおじさんに教えてもらった事を母親に話した。
しかし、それを聞いた母親は怪訝な表情を浮かべた。
「吉村のおじさんって、青果店の?」
「うん、そうだよ」
「おかしいわ。あの吉村さんなら、まだお母さんの働いてる病院に入院してるわよ」
「えっ?」
吉村のおじさんは退院したと言っていた。
だが、母親が言うには、今日も帰りに病室で喋ったので入院しているのは間違いないらしい。
「じゃあ、私が会ったおじさんは誰だったの?」
京香は困惑する。
刹那――奇妙な音がした。
―コツン コツン コツン
何かが道路に当たる音だ。
「もう少しだったのにねえ」
暗闇の中から、何かの影がゆっくりと近づいて来る。
「せっかく、近くで見ていたのに」
コツン コツン コツン
「まさか邪魔が入ってしまうなんてねえ」
コツン コツン コツン
奇妙な音が止まり、影がこちらを見た。
京香と母親は目を凝らす。
そこに立っていたのは、笑顔を浮かべた吉村のおじさんだ。
「お、おじさん……」
「どうして? 入院しているはずよ??」
京香達が戸惑っていると、吉村のおじさんが笑った。
「ハッハッハ。彼の事はどうでもいいんだよ。問題は、君が不幸にならなかった事だからねえ」
「不幸?」
「あ~あ、だって、君は呪われたんだろう?」
―コツン
音が鳴り、おじさんが一歩、京香達に近づいた。
「呪われた人間は、不幸にならなくっちゃ」
―コツン
奇妙な音が鳴るたびに、おじさんが近づいて来る。
「吉村さん、何を言ってるの?」
「なんか変だよ??」
京香は、近づいてくるおじさんに違和感を抱いた。
着ている服が、何故かブカブカだったのだ。
「どうして?」
―コツン
「ハッハッハ」
―コツン
「ハッハッハ」
おじさんは、笑いながら左右に身体を揺らし、ゆっくりと近づいて来る。
「こうなったら、おじさんが君達を不幸にするしかないようだねえ」
「ええ??」
おじさんは満面の笑みを浮かべながら、京香達の目の前で立ち止まった。
瞬間、おじさんの着ていた服がズリ落ちる。
おじさんの身体は、真っ黒な棒だ。
「きゃああ!」
京香は母親にしがみつく。
「おじさんが 不幸に 不幸に 不幸に ハッハッハ」
おじさんは顔を激しく左右に振る。
振られた振動で、おじさんの顔がズルッと、オモチャのマスクのように外れた。
顔の下に現れたのは、真っ赤な丸い塊。
マッチ棒のような身体についた真っ赤な顔に、真っ赤な口だけがついている。
その口が不気味に笑う。
「嫌ああああ!」
夜の道路に、京香達の悲鳴が響き渡った。
しばらくして。
住宅街の外れにある大きな道路に、少年と女性がやってきた。
「この辺りのはずだけど……」
少年は銀色のペン、女性はレイピアを持っている。
ウワサとアノロンウェンだ。
銀色のペンが、この辺りに『災悪』がいる事を指し示したようだ。
「どこにいるんだ??」
ウワサとアノロンウェンは警戒しながら辺りを見る。
と、暗闇の中を誰かが歩いてきた。
―コツン コツン コツン
不気味な音が鳴りながら、影が2つ見える。
やがて近づいてきたその人物達は、京香と母親だった。
「こんな時間に何してるの? この辺りは危ないわよ」
暗闇の中、浮かぶように見える母親の顔だけが、ウワサにそう言う。
「危ない?」
「まさか、敵でもいるのかい?」
ウワサとアノロンウェンが首を傾げると、今度は京香が口を開いた。
「さっき、ここで怪人に人が襲われたの」
「「なんだって!?」」
ウワサとアノロンウェンは驚き、詳しく話を聞こうと二人に近づこうとするが、そのとき、ハッとした。
暗闇に浮かぶように見える京香の顔が、不気味に笑っていたのだ。
その隣で、母親も同じように笑う。
「君達は……」
「私達? ウフフフ 私達は親子よ。ねえ、京香」
「うん、お母さん、エヘヘヘ、私達とっても仲がいいそっくり親子だよね」
「そっくり?」
コツン コツン コツン
「ウフフフ」
「エヘヘヘ」
暗闇の中を、京香達は笑いながらウワサとアノロンウェンの方に近づいて来る。
「まさか」
ウワサとアノロンウェンが身構えると、京香達の姿が見えた。
京香達は、顔だけが人間で、身体は真っ黒な棒だ。
「お前達が災悪!」
「キッモ」
「さいあくってなあに? エヘヘヘ」
京香達は笑いながら身体を左右に大きく振って、ウワサに襲いかかって来る。
―コツン コツン コツン コツン コツン
棒の足が動くたびに地面を叩くように響く。
「くうっ!」
ウワサは銀色のペンを強く握り締める。
刹那、ペンの表面に見た事もない奇妙な模様が浮かび上がる。
ペンを走らせると、宙に青白い炎が現れ、円が描かれた。
ウワサはその円越しに、京香達を見た。
しかし、名前が視えない。
「どうして??」
「エヘヘヘヘヘ」
「ウフフフフフ」
京香と母親がウワサに覆い被さった。
「うわあっ!」
ウワサはその重みでその場に倒れる。
「エヘヘヘヘヘ」
「凍らせてやるよ!」
「「ヒィッ!?」」
アノロンウェンは呪文を唱え、手から冷気を放って二人を氷漬けにする。
「ハッハッハ 君達も不幸に 不幸に なろう」
暗闇の中から声が聞こえる。
ウワサとアノロンウェンがその声の方を見ると、暗闇の中に赤い頭が浮かぶように見えていた。
「アンタが……」
―コツン コツン
赤い頭は黒い棒の身体を左右に動かしながら、ウワサに近づいて来る。
「ハッハッハ ハッハッハ」
赤い顔にある不気味な口が、大きく笑う。
「アタシがそいつを、やっつける!」
アノロンウェンは再び呪文で災悪を凍らせた後、レイピアで突きまくる。
反応できない災悪は一方的に彼女の攻撃を受け、徐ーに体力を削られていく。
「さあ、後はとどめだよ!」
「全ての災悪をこの光によって打ち消さん! ――お前の名は!!」
ウワサは、口を大きく開くと、ペンを握り締め、空中に文字を書いた。
ボ ウ ニ ン ゲ ン
瞬間、棒人間の動きがピタリと止まった。
身体を小刻みに震わせる。
「ア、ハハ アバババババ」
次の瞬間、棒人間の身体にヒビが入り、光が漏れ出す。
そのまま、粉ーになって消滅した。
京香と母親がその場に倒れる。
その身体は元に戻っていた。
京香達は気絶しているだけで、命は無事のようだ。
「一件落着!」
「よかった……」
ウワサはそれを見て、ホッと息を吐いた。
「よかった? 全部君のせいなのに」
突然、怒りに満ちた声が聞こえた。
ウワサはハッとすると、前を見た。
するとそこに、黒い服の少年と緑の髪の女性が立っていた。
「やっと見つけた――」
「覚悟してくださいね」
「あ、あああ!」
ウワサの表情が変わる。
「アンタはアタシが守る!」
アノロンウェンは立ち上がると、ウワサを守るようにレイピアを構えた。
「待て! 逃げるな!」
ウワサはアノロンウェンに守られながら、必死に道路を走っていた。
彼女の態度に、黒い服の少年は苛立つ。
「君のせいで、どれだけの人間が災悪に襲われたと思っているんだ!」
「うるさいねえ! アタシが守ったんだからいいじゃないか!」
「それでもあたしは、彼を守りたいのです!」
女性はいきなりアノロンウェンに向かってブーメランを投げつける。
アノロンウェンはブーメランを避けて、レイピアで女性を突き刺そうとする。
「これで、終わりです!」
「やめな! これ以上、アンタに付き合ってる暇はないんだよ――エンネア!!」
名前を言われ、女性の動きが止まる。
その時、四人の背後から光が当たった。
「おい、道の真ん中で危ないじゃないか!」
トラックの運転手が車の窓から顔を出し、文句を言った。
車の邪魔になっていたようだ。
その声に反応し、エンネアはトラックの方を見る。
だがすぐに、アノロンウェンの方に視線を戻した。
ウワサとアノロンウェンは、いなくなっていた。
一瞬の隙を突き、二人は逃げたのだ。
「せっかく見つけたのに」
「殺したい……ですよ」
マコトは苦ーしい表情を浮かべる。
「彼さえいなければ……」
拳を震えるほど強く握り締める。
「僕は絶対にあいつを許さない。必ず捕まえてやる!」
マコトは、真っ暗な道路をいつまでも睨み続けていた。
エンネアは、そんな彼をじっと見つめていた。
町外れの林道、アノロンウェンはウワサをただ守り続けていた。
「アタシがアンタを守る、だから前だけ見てればいいさ」
「――そうだね、アノロンウェン」
ウワサは耳にイヤホンをつけると、真っ直ぐ前を向く。
そして、ウワサとアノロンウェンの姿が暗闇の中に消えて行った。
~災悪紹介コーナー~
アノロンウェン「なーにかな?」
ウワサ「なーにかな?」
二人「今週は、これ!」
棒人間
出現場所:商店街の店舗内、夜間の幹線道路、薄暗い路地裏
攻撃手段:擬態、殴打、襲った相手の顔を奪う
アノロンウェン「いやー、今回は気持ち悪かったねえ!
あの吉村って奴、身体がただの黒い棒だったじゃないか。
服を脱いだらマッチ棒って、ファッションセンス皆無だよ」
ウワサ「笑い事じゃないよ……。
京香さんに嘘の解消法を教えて、車に轢かせようとするなんて。
呪われた僕の名前を呼んだせいで、彼女達がターゲットにされちゃったんだ」
アノロンウェン「でもさ、顔だけ人間で身体が棒の親子が襲ってきた時は、
流石のアタシも『キッモ!』って言っちゃったよ。あれは夢に出るレベルだね」
ウワサ「最後は僕が名前を暴いて消滅させたけど……。
でも、マコト君とエンネアに見つかっちゃった。彼らの怒り、本物だったね」
アノロンウェン「フン、アタシがいる限り指一本触れさせないよ。
さあ、ウワサ、暗い顔してないで次の町へ行くよ!」
ウワサ「……うん。僕がいるだけで、また誰かが不幸になる前に、移動しなきゃ」