呪ワレタ少年 Krieg   作:アヤ・ノア

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~前回までのあらすじ~

理科の勉強中に「呪われた少年」の名前を罰ゲームで口にした奈々美は、
災悪に変貌し、家族を捕食して家を侵食してしまう。
異変に気づいた麻理と優人が見舞いに訪れるが、
奈々美に擬態した化け物に襲われ、絶体絶命の危機に陥る。
間一髪でウワサとアノロンウェンが乱入し、花怪人の名を暴いて消滅させるが、
家族を失った奈々美の悲劇は止まらなかった。
追跡者のマコトとエンネアはウワサを元凶と断じ、
憎しみを募らせながら逃亡する彼らを追い続ける。
孤独な戦いの中、ウワサは自らの名を利用し始めた災悪の悪意を感じ、
さらなる絶望へと足を踏み入れる。


第15話 不気味な家

「その話は本当なのかい?」

 とある町の公園。

 黒い服を着た少年が、小学生の男の子と話をしていた。

 黒い服の少年は眉間に皺が寄り、険しい顔つきになっている。

 男の子は数時間前、ある人物と出会ったのだという。

 それは白い服を着た銀髪の少年で、公園のベンチで眠っていたらしい。

 男の子が妙に気になって近づくと、少年は目を覚ました。

 その目は、左目が赤色だった。

「“彼”だ」

 男の子が見たのは、ウワサで間違いない。

 黒い服の少年、加志谷マコトと、彼のパートナーのエンネアはそう確信する。

「今度こそ逃がしませんからね」

 まだ近くにいるはずだ。

「彼はどこに行ったんだい?」

 マコトが尋ねると、男の子は公園の向こうを指差した。

 そこには橋が見え、川の向こうに、隣町が広がっていた。

 

「この町のどこかに……」

 川の向こうの隣町。

 ウワサは、焦った表情でアノロンウェンと共に道路を早足で歩いていた。

 手には、銀色のペンがある。

 ペンは少しだけ宙に浮き、ゆっくりと回転していた。

 近くに災悪がいるはずなのだ。

「もう1時間近く捜してるねえ」

 ふと、声がした。

 ウワサとアノロンウェンの後ろに、いつの間にか白いウサギがいた。

「しつこいな、ミリア」

「災悪は一体どこにいるんだろうね」

「君に構ってる暇はない」

 ウワサはミリアを無視して、道路の角を曲がろうとした。

 

「へえ、あの家そんなにヤバいんだ」

 道路の向こうから、高校生ぐらいの女の子が二人歩いて来た。

「怪現象が起きるんだって。前に住んでた人は、あまりに怖くて、すぐ引っ越したらしいよ」

「見た目は普通の家なのにね」

「私も噂を聞いただけだから、ほんとかどうか分からないけど、

 最近新しい人が越してきたらしいよ」

「ええ? それってヤバくない!?」

「ヤバいヤバい」

 二人が盛り上がっていると、ウワサが前に立った。

「それは、どこの家なんですか!?」

 ウワサは、その家こそが災悪のいる場所だと思ったのだ。

 

 川沿いの住宅地。

 一角にある少し古い家の入り口に、『門脇』という真新しい表札がかかっている。

「よし、これで完璧!」

 その家の2階の一室で、小学6年生の門脇健一郎は部屋を眺めていた。

 引っ越して2日、荷物を整理してようやく自分の部屋が完成したのだ。

「明日から楽しみだな~」

 ベッドに寝転び、健太郎は笑顔になる。

 月曜から学校が始まる。

 新しいクラスメイトに会えると思うと、今からワクワクしていた。

―ピローン

 不意にスマホが鳴り、メッセージが届いた。

 画面を見ると、前の学校の友達・真鍋豊からだ。

 

 豊 明日から学校だね。ケンケンならすぐに友達できるよ

 

 ケンケンとは前の学校で呼ばれていたあだ名である。

 健一郎はすぐに返事をした。

 

 健一郎 転校1日目にして、クラスのみんなにケンケンって呼んでもらおうと思ってる

 

 前の学校では、クラスが変わってもすぐに呼んでもらえた。

 新しい学校でも呼んでもらえる自信がある。

 健一郎は『早く友達いっぱい作りたい』と、メッセージを送ろうとした。

 瞬間、急に部屋が暗くなった。

 反射的に、健一郎は窓の方を見る。

「えっ?」

 窓の外に、黒い靄が広がっている。

「何あれ?」

 先程まで晴れていた。

 それなのに、靄が現れたのだ。

 靄は、風に吹かれたのかすぐに薄くなっていった。

 そのまま消えてしまう。

 時間にして僅か10秒ほどだ。

「煙??」

 空は先程と変わらず晴れている。

 もしかしたら近所で火事が起きて、煙が窓の傍まで流れてきたのかもしれない。

 健一郎はベッドから起き上がり窓の外を見るが、

 どこも火事になどなっておらず、煙も見えなかった。

「気のせい……?」

 健一郎は今の出来事を豊に伝えようと、スマホの画面を見た。

「あっ」

 スマホの画面にノイズが走っている。

「何で?」

 スマホは父親のお古だが、今までノイズが走った事などない。

 健一郎が戸惑っていると、メッセージが届いた。

 

 ク ル シ イ

 

 ノイズまみれの文字で、そう表示されている。

「苦しい?」

 健一郎は、豊が急にそのようなメッセージを送ってきた事に驚く。

 だが、ハッとした。

 メッセージには、『豊』と書かれていなかったのだ。

「豊君が送ってきたんじゃないの??」

 刹那、画面がさらに乱れ、ノイズだらけになる。

 そのまま真っ暗になってしまった。

「そんな!」

 健一郎は慌ててスマホの電源を入れ直すが、全く付かない。

 どうやら壊れてしまったようだ。

「どうしよう」

 そう思っていると、玄関のドアが開く音がした。

 ただいま~

 父親の声だ。

 その声に、健一郎は「え?」と声を漏らす。

 父親は母親と一緒に、先程車で棚を買いに家具店に行ったはずだ。

 こんなに早く帰ってくるはずがない。

「お父さん、忘れ物でもしたの?」

 健一郎は部屋を出ると、階段の上から玄関を見た。

 しかし、玄関には父親も母親もいなかった。

「お父さん?」

 健一郎は2階から下りて、1階にやって来る。

「お父さん、どこ?」

 リビングを見るが、誰もいない。

 洗面所にもトイレにも姿はない。

「どこなの??」

 健一郎は首をかしげながら、玄関まで戻って来る。

 そして何気なく、玄関の床タイルを見た。

「あれ?」

 タイルの上には、健一郎の靴しかない。

「家に入らなかったって事?」

 それとも、既に外に出てしまったのだろうか?

「ふふふふふ」

 突然、女の人の笑い声がした。

 声は2階から聞こえてきた。

「お母さん?」

 健一郎が1階にいた間に、2階に行ったのかもしれない。

「お母さん、お父さん、何してるの?」

 健一郎は階段を上がり、2階に戻った。

 廊下には、両親はいない。

「ねえ、どこ?」

 両親の部屋を見るが、二人の姿はない。

 自分の部屋も確認してみるが、やはりいなかった。

「笑い声がしたと思ったんだけど」

 不思議に思いながら、健一郎は部屋から出ようとした。

―タッタッタッタッタ

 突然、誰かが階段を下りる音が響いた。

「お母さん?」

 健一郎は慌てて廊下に出て、階段の方へと走る。

 だが、階段には誰もいなかった。

「そんな……」

 音がするが、父親も母親もどこにいるのか分からない。

「お父さん、お母さん、いるんでしょ??」

 そう言いながら、健一郎は1階へ戻るが、全く人の気配がしない。

「いるん、だよね……?」

 だんだん不安になる。

 両親の声や階段を下りる音は、聞き間違いなどではない。

「そうだ!」

 健一郎は何かを思い出すと、玄関へと走った。

 両親は車で買い物に出かけた。

 帰って来ているのなら、家の駐車場に車が止まっているはずだ。

 健一郎は外に出ると、車を確認しようと駐車場を見た。

「えっ……」

 駐車場には、車は止まっていなかった。

 両親はまだ帰って来ていない。

「だったらあの声と音は……?」

 健一郎は意味が分からずゾッとしながら、とりあえず家の中へと戻った。

 瞬間、持っていたスマホが震えた。

「あっ」

 スマホが直ったと思い、画面を見る。

 電話がかかってきたようだ。

 画面には『豊』と表示されている。

 健一郎は、ホッとしながら電話に出た。

「もしもし」

「健一郎君、大丈夫??」

「よかった、さっき急にスマホが使えなくなって」

「それは大変だったね、健一郎君」

「うん。それにお父さんとお母さんの声が聞こえてきて」

 そこまで言った時、健一郎は違和感を抱いた。

「健一郎君?」

 豊は、健一郎の事をいつも『ケンケン』と呼んでいたのだ。

「ね、ねえ、豊君、だよね?」

 尋ねると、電話の向こうの相手は、ゆっくりと答えた。

「そう……だよ」

 確かに豊の声だ。

 しかし、妙に声がこもっている。

「豊君、どこにいるの? 外?」

「そう……だよ」

「お出かけしてるの?」

「そう……だよ」

 声がさらにこもっていく。

 そんな豊の周りから、かすかに声が聞こえてきた。

「……イ。……シイ」

 その声は、同じ言葉を繰り返しているようだ。

 健一郎はそれが気になり、音に集中する。

「……シイ。……ルシイ。……クルシイ」

「それって」

 先程スマホに表示された言葉だ。

 健一郎は慌てて豊に話しかけた。

「豊君、どこにいるの? その声は誰なの??」

 必死に言うが、何故か豊から返事がない。

「豊君、大丈夫?? ねえ、返事をして!」

 声を荒らげながら言うと、こもった声が返ってきた。

「健一郎クン……。……クルシイヨォ」

「えっ!?」

 瞬間、電話がプツリと切れる。

「豊君??」

 健一郎は電話を掛け直そうと、スマホの画面を見る。

 画面に、ノイズが走っている。

 そのノイズの奥に、無数の文字が表示される。

 

 クルシイ クルシイ クルシイ クルシイ クルシイ クルシイ

 

「うわああ!」

 健一郎は怖くなり、思わずスマホを投げ捨てると、リビングへと逃げた。

「何なの??」

 故障などではない。

 明らかに異常な出来事が起こっていた。

 その時、健一郎はリビングの隅に、誰かがいる事に気づいた。

 それは、不気味な男だ。

 男は身体から黒い靄が出ている。

 恨めしそうに、ただ健一郎を見つめていた。

「あ、ああ……」

 この世の存在ではない。

 健一郎は恐怖で全身が強張る。

 すると、部屋の至るところから声が聞こえてきた。

「健一郎、クルシイ……」

 それは、父親の声だ。

「クルシイ……健一郎」

 母親の声がそう言う。

「健一郎クン……クルシイヨォ」

 豊の声も聞こえる。

「クルシイ クルシイ クルシイヨォ」

 次の瞬間、壁や床から、黒い靄と共に何かが出て来る。

 それは、部屋の隅に立っている男と全く同じ顔をした男達だ。

 男達は口から靄を漏らしながら、ゆっくりと健一郎に近づく。

 戦えない健一郎は逃げる事もできず、その光景にただ怯えていた。

 

「この近くだ」

 一方、ウワサとアノロンウェンは住宅地に来ていた。

 ウワサは手の平の上で浮いているペンを見る。

 ペンは前方を指している。

 ウワサとアノロンウェンはその方向に向かって、走り出そうとした。

 と、背後から声がした。

「今回は、かなりヤバいかもねえ」

「キモッ」

 見ると、いつの間にか、またミリアがいた。

 アノロンウェンは出会って早々、ミリアに暴言を吐く。

「君に構ってる暇はないって言っただろ」

「分かってるってば。私をかまってちゃんみたいに言わないで」

「死ね」

「そんな言葉を言われると傷つくよ」

 ミリアは目を細め、シッシッシと笑う。

 ウワサは苛立ち、アノロンウェンは暴言を吐きながらも走り出すが、ミリアが声をかけた。

「今回は、キミ達の命も奪われちゃうかもね」

「何だと……?」

 その言葉に、ウワサとアノロンウェンは思わず立ち止まる。

 ミリアは跳ねるように飛ぶと、ウワサとアノロンウェンの横にやって来た。

「かなり凶暴な災悪だからね。今までのようには倒せないかも」

 そう言うと、ミリアはウワサを見上げる。

 ウワサはそれを聞き、身体が震えた。

 だが、すぐに全身に力を入れ、震えを無理やり止めた。

「……もしそうだったとしても」

 ウワサは目に力を入れ、真っ直ぐ前を見る。

 

「僕は、絶対に襲われている人を助ける」

「そいつを、倒すんだ」

 ウワサとアノロンウェンはペンの示す方向へ再び走り出した。

 

 健一郎の家。

 リビングでは、男達が健一郎に迫っていた。

「こ、来ないで……」

 健一郎は泣きそうな声で言うが、男達は歩みを止めない。

 

 クルシイ クルシイ クルシイ

 

 部屋の至るところから、不気味な声が聞こえる。

 やがて、男達が健一郎の目の前で止まった。

 途端に不気味な声も消えた。

 正面に立つ男が、恨めしそうに健一郎を見つめる。

 その口から黒い靄を漏らしながら、ゆっくりと喋った。

「オ前モ……一緒ニ……」

 瞬間、男の身体から、いくつもの靄の塊が現れた。

 塊は丸い形になり、凹凸が現れる。

 それらはなんと、全て男と同じ顔になった。

 

「クルシイ クルシイ クルシイ」

 男の身体に現れたいくつもの顔が、一斉にそう喋る。

「クルシイ クルシイ クルシイ」

 周りに立つ男達も同じように喋る。

 正面の男は健一郎を掴むと、自分の身体に引き寄せた。

「わっ」

 引き寄せられた健一郎は、男の身体の中にめり込む。

「助けて!」

 逃げようとするが、動けない。

 健一郎はさらに男の中にめり込んでいく。

 

「やめるんだ!」

 瞬間、リビングにウワサとアノロンウェンが駆け込んで来た。

 男達が一斉にウワサとアノロンウェンの方を見る。

「赤イ……目……」

「ウィアード……エイジ……の……戦士……」

 男達が同時に呟く。

 それを見て、ウワサは銀色のペン、アノロンウェンはレイピアを強く握る。

 ペンの表面に見た事もない奇妙な模様が浮かび上がった。

 そのペンを、ウワサは動かそうとした。

 刹那――

―ガシッ

 背後からその手を掴まれた。

 見ると、後ろの壁から、黒い靄と共に新しい男が現れる。

―ガシッ

 さらに、床からも靄と共に男が現れ、ウワサの足を掴む。

(ちっ、凍らせたらウワサごと凍らせちまう……)

「離せ!」

 ウワサは男達を振り払おうとするが、男達は壁や床から次々と現れ、手足を掴む。

「うわあっ!」

 ウワサは手足を掴まれたまま倒され、身動きが取れなくなってしまった。

「呪ワレタ少年……」

 男が顔を近づける。

 その身体から、いくつも靄が現れ、それが男の顔になる。

「呪ワレタ少年ハ――イラナイィイ」

 男は床に倒れているウワサに近づき、身体の中にめり込まそうとした。

「離せ! やめろ!!」

 ウワサは男から離れようとするが、手足を掴まれ身動きが取れない。

 身体が徐々に男にめり込んでいく。

 だが、ウワサは抵抗をやめず、アノロンウェンはレイピアを構えたまま様子を見ている。

「僕は、お前達を……」

 必死に手に力を入れ、ウワサはペンを走らせた。

 宙に青白い炎が現れ、円が描かれる。

 男達は、一斉にその円を睨んだ。

「名前ヲ 知ラレテナルモノカァァアア!!」

「そこだっ!!」

 目の前の男がウワサに勢いよく覆い被さろうとした刹那、

 アノロンウェンのレイピアが男を一閃した。

 

「アタシは守る! 守らなきゃいけないんだ!

 そのためなら、アンタにだって勇猛果敢に戦えるよ!!」

 アノロンウェンはさらにレイピアを振るって男を切り刻む。

 瞬間、宙に浮いていた円が、黒い靄の塊をしっかりと見据える。

 ウワサは円の中に見えるその靄を睨む。

 その目に何かが視える。

 それは、災悪の名前だ。

 災悪は、男達ではなく黒い靄だったのだ。

「全ての災悪を、この光によって打ち消さん! お前の名は――」

 ウワサはペンを走らせ、空中に文字を書いた。

 

 ジ コ ブ ッ ケ ン

 

 男達の動きが止まった。

 黒い靄が小刻みに動く。

「ヨク モォオ コワイィ ウワサァアァァ」

 男達と靄にヒビが入り、光が漏れ出す。

 そのまま、粉々になって消滅した。

 

「あいつがいたとはいえ、よくまあ、あの災悪を倒せたねえ」

 夕方。

 ウワサはアノロンウェンとミリアと共に道路を歩いていた。

 事故物件を倒し、何とか健一郎を助ける事ができたのだ。

「それにしても、あの子が呪われた少年の話をしちゃってたとはね」

 健一郎は昨日、前の学校で友達だった豊とメッセージをやり取りしていた。

 その中で、呪われた少年の話になり、つい名前を呟いてしまったのだ。

「あの家は昔、殺人事件があったらしいわよ。

 死んだ人間の無念さが、災悪と結びついちゃったんでしょうね」

 ミリアは目を細め、シッシッシと笑った。

 一方、ウワサはそんなミリアを他所に、少しだけ安堵の表情を浮かべていた。

「僕は、彼を助ける事ができたんだ……」

「アタシがいたからね」

 ウワサは首元のチョーカーを触る。

 チョーカーの下の首筋に、かすかにペンと同じ奇妙な模様が刻まれている。

「早くしないと……」

 ウワサは真剣な表情で呟くようにそう言った。

―カンカンカンカンカン

 ふと、目の前の踏切の警報機が鳴り、遮断機が降りる。

 ウワサとアノロンウェンが立ち止まると、ミリアが口を開いた。

「わあ~、あの子、ほ~んっとしつこいよねえ」

「えっ」

 ウワサが顔を上げると、線路の向こうから誰かが歩いて来た。

 その人物は、ウワサを見つけると、険しい顔つきになる。

「マコト君……」

「エンネア……」

 線路を挟み、白い服の少年と黒い服の少年が対峙する。

 アノロンウェンとエンネアも、お互いに前を見ていた。

―ゴオオオオッ

 瞬間、四人を引き裂くかのように電車が線路の上を通過した。

 電車が走り去ると、警報機が鳴りやみ、遮断機がゆっくりと上がる。

 ウワサとアノロンウェンは既にいなくなっていた。

 

「呪われた少年……」

 マコトとエンネアは怒りで力が入り、全身が震える。

「次に会った時は必ず捕まえる。お前だけは絶対に許さない。

 僕達の町を、呪われた町にした、お前だけは――」

 マコトの噛み締めた唇が切れ、血が流れる。

「どうしました? 怪我をしましたよ」

「気にするな」

 マコトはエンネアの心配を気にする事なく、

 先程までウワサとアノロンウェンがいた場所をいつまで睨み続けていた。




~災悪紹介コーナー~
アノロンウェン「なーにかな?」
ウワサ「なーにかな?」
二人「今週は、これ!」

事故物件
出現場所:凄惨な事件があった空き家、古い集合住宅
攻撃手段:電磁波干渉、幻聴、同化

アノロンウェン「数で攻めてこられて肝を冷やしたよ!
        壁からも床からも同じ顔が出てくるなんて、
        広範囲を攻撃しなきゃ、今頃ウワサと一緒に壁に塗り込まれてたね!」
ウワサ「……アノロンウェン、本当に助かった。事故物件の執念は凄まじかったよ。
    スマホを通じて豊君の声や家族の声で健一郎君を惑わすなんて……卑怯すぎる」
アノロンウェン「ま、過去の殺人事件の無念が災悪と混ざっちまったら、
        あんな執念深くなるのも無理ないねえ。
        でも最後、アタシの斬撃に合わせてウワサが名前を暴いたのは最高だったよ!」
ウワサ「うん。でも、踏切でマコト君とエンネアに出会った時のあの視線……。
    彼らの目には、やっぱり僕は災悪を連れてくる死神に見えているんだろうな」
アノロンウェン「気にしなさんな! 真実なんてのは後からついてくるもんさ。
        さっさと次の町へズラかるよ!」
ウワサ「……そうだね。僕にはまだ、やらなきゃいけない事があるから」
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