呪ワレタ少年 Krieg   作:アヤ・ノア

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~前回までのあらすじ~

学校で流行る「呪われた少年」の噂を面白がって口にした彩奈達は、
その直後、人々を服の色と同じ毛糸玉へと変えて収集する災悪の襲撃を受ける。
友人や兄が次々と毛糸玉にされ、自身も侵食される恐怖に彩奈が絶望する中、
現場を静観していたミリアの前に、間一髪でウワサとアノロンウェンが到着する。
アノロンウェンの猛攻で災悪を弱らせた隙に、ウワサは銀色のペンでその真実の名を暴き、
人間毛糸を消滅させて犠牲となった五人を元の姿へと救い出した。
しかし、命の恩人であるはずのウワサの正体が「呪われた少年」だと知った彩奈は、
恐怖から彼を拒絶し、ウワサは悲しみを抱えながらその場を去る。
ミリアの嘲笑とアノロンウェンの憤りが渦巻く中、孤独な戦いを続けるウワサは、
迫りくる過酷な運命から逃れるように次なる災悪の地へと足を進める。


第22話 何でも答えるよ

(まさか、僕も呪われていたなんて……)

 とある公園のベンチに、一人の少年――加志谷マコトと、

 ブーメランを持った女性――エンネアが座っていた。

 マコトは、黒い服を着て、険しい表情をしている。

 先日、マコトは幼馴染であり、憎き相手でもある、ウワサと遭遇した。

 そして、こう言われた。

「僕が、必ず何とかする。学校のみんなも、マコト君の家族も、そしてマコト君も」

 呪われた少年であるウワサのせいで、みんな呪われてしまった。

 その中に、マコトも含まれていたのだ。

 マコトの首元には、ウワサと同じ奇妙な模様が薄らと刻まれていた。

(こんなところで、休憩している場合じゃない)

「どうしましたか……?」

 マコトは立ち上がり、公園を出て行こうとした。

 だがその瞬間、眩暈がして、大きくフラついた。

「くっ」

 マコトは苦々しげな表情を浮かべる。

 最近ずっと体調が悪い。

 ふと、マコトはベンチの傍の茂みを見る。

 そこには、人と同じぐらいの大きさの『石』があった。

 マコトはそれをじっと見つめると、フラつく足に力を入れた。

「……僕が、みんなを元に戻すんだ」

「……分かりました」

 マコトはそう言うと、再び歩き出した。

 エンネアも、彼の前を歩いて行った。

 

「ほんとに、今から『さとるくん』を呼び出すの?」

 二人の小学生の男の子が話をしながら、公園の前の道路を通り過ぎた。

 背の高い男の子が、短髪の男の子に言う。

「この前、呪われた少年の名前を言っちゃったよね? 僕、怖いんだけど」

「えっ?」

 その言葉に、マコトが反応した。

「君達!」

 公園の入り口から声をかけるが、彼らは道路を曲がって行ってしまった。

「さとるくんっていうのは……」

 マコトは慌てて公園を出ると、男の子達を追う。

 しかし、彼らの姿はない。

 辺りを探すが、どこに行ったのか分からなかった。

 呪われた少年の名前を言ったという事は、彼らは呪われている。

 そして、『さとるくん』を呼び出すと言っていた。

「このままじゃ、彼らは」

 マコトは、慌てて駆け出すのだった。

 

「う~ん、今日も平和でいい日だねえ」

 駅前の商店街。

 人間姿のミリアは、跳ねるように楽しげに歩いていた。

 アノロンウェンはそんなミリアに対し、顔すらも向けていない。

「どうしてその姿でいるの?」

 そんなミリアを見ながら、ウワサがウンザリした表情で尋ねる。

 ミリアは、ウワサの方に顔を向けると、ニッコリと笑った。

「だって、この姿にならないと、キミ以外の人間には私が見えないでしょ」

 フードに付いたウサギの耳が軽やかに動く。

「こんにちは~、ここはいい町だね!」

 ミリアは通り過ぎる人達に声をかけていく。

 それを見て、ウワサは溜め息を吐いた。

「そんな事している場合じゃないのに」

「そうだよ」

 ウワサの掌の上には、銀色のペンが浮いていて、ゆっくりと動いている。

「この近くにいるはずなんだ」

 ペンが指し示す場所に、災悪がいる。

「だけど、ずっとクルクル動いてるね」

 ミリアはそう言ってピョンと跳ねると、ウワサの横に立った。

「今回は結構変わった災悪かも。一ヶ所にいるわけじゃなさそうだね」

 それを聞き、ウワサは驚く。

「災悪が移動しているって事??」

 そう尋ねるウワサに、ミリアははっきりと答えた。

「動きが止まった時、大変な事が起きるんだろうね」

 

「よし、そろそろ始めるよ」

 町外れにある広場。

 小学5年生の市川輝希が、背の高い男の子・三浦学に言った。

 二人のそばには、公衆電話がある。

「ここなら誰にも邪魔されないと思うんだ」

 広場は、芝生が広がっている。

 遊具がある場所や池もあり、池の周りは散歩ができるようになっていた。

 広場には何人も人がいたが、学達のいる場所には、全く人がいない。

 公衆電話ボックスは、広場の隅にある何かを記念した石碑の横にポツンとあった。

「輝希君、ほんとにやるの?」

 学は不安そうに言う。

 そんな学に、輝希は「そのために来たんだろ」と笑った。

「さとるくんを呼び出す。こんな面白いネタ、放っておけないよ」

 輝希は学校帰り、学と一緒に、図書館で都市伝説や怖い話が載った本を読んだ。

 そこに、『さとるくん』という不気味な男の子の話が書いてあったのだ。

 さとるくんは、公衆電話で呼び出す事ができる。

 現れると、何でも答えてくれるらしい。

「学君も興味あるって言っただろ?」

「そうだけど、本気でやるとは思わなくて」

「こういうのはただの噂だよ。壊井ウワサの話と同じだってば」

「あっ、名前を言っちゃだめだって」

 輝希は先日、『呪われた少年』の話を兄から聞いたのだという。

 以来、怖い話に興味を持ち、図書館で本を読むまでになったのだ。

「大丈夫だって、何にも起こらないって」

「僕もそう思いたいけど……」

 学も、そんな話は本当にあるわけがないと思いたかった。

 だが、怖い。

 輝希が「さとるくんを呼び出す」と言った時、正直参加したくなかった。

 しかし、半ば強制的に参加する事になってしまったのだ。

「僕達親友だろ。なんでも一緒に体験しなくっちゃ」

 輝希は笑いながら学と肩を組む。

「みんなにさとるくんを呼び出したって話したら、きっと人気者になれるよ」

「う、うん……」

 人気者などになりたいとは思わないが、断る事もできない。

 学は、輝希と共にさとるくんを呼び出す事にした。

「まずは、公衆電話からこの番号に電話をかけるんだ」

 輝希は、受話器を持って10円玉を入れると、本に書いてあった番号をメモした紙を取り出す。

 そして、その番号に電話をかけた。

「次に、『さとるくん、おいでください』って3回言うんだ」

 そう言って、公衆電話の受話器を強く握りしめる。

「さとるくん、おいでください。さとるくん、おいでください。さとるくん、おいでください」

 3回繰り返すと、受話器を置いた。

「これで、向こうから公衆電話に電話がかかってくるはずだよ」

 輝希は楽しそうに言う。

 学は、怯えながらただ見守るしかなかった。

 しかし、いつまで経っても電話はかかってこなかった。

「ま、そりゃそうだよね」

 輝希が笑う。

「ただの噂話だもんね。だけど、結構ドキドキしたよね」

「え? それはまあ」

「明日、みんなに話そう」

 輝希はケラケラと笑いながら、公衆電話ボックスから離れる。

 学も、無事何事もなく終わってホッとした。

 その時──

 

─ピピピッ

 スマホの着信音が鳴り響いた。

「僕のだ」

 輝希はポケットからスマホを取り出し、何気なく画面を見る。

 すると、表情が一変した。

「何、これ……?」

 戸惑う輝希の横で、学も覗き込むようにスマホを見る。

 

 #※$&¥%

 

 画面に、記号が表示されている。

「輝希君、これってかけてきた相手の名前だよね?」

「うん。だけど、こんなの登録してない……」

「ええっ?」

 登録していなければ、名前は表示されないはずだ。

「もしかして、さとるくんからかかってきたんじゃ」

「そんな!」

 輝希の言葉に、学はゾッとする。

「出てみよっか?」

「そんなの危険だよ!」

 学は止めようとしたが、それよりも早く、輝希が画面をタップした。

「もしもし」

 スピーカー機能をオンにして、輝希は電話の相手に声をかける。

 電話の向こうで、雑音がする。

 外を歩いているようだ。

 その雑音の中から、かすかに男の子の声がした。

「さ──だよ」

 声が小さく聞き取れない。

 だが、輝希と学は同時に顔を見合わせた。

「『さとるだよ』って言ったよね??」

「う、うん、多分」

 学は頷く。

「今 駅だよ」

 さとるくんは、淡々と言う。

 その後ろで、電車が走っている音が聞こえる。

「駅って、この町の?」

 輝希が戸惑っていると、また声がした。

「今 三丁目の交差点だよ」

 電話はプツリと切れた。

「三丁目の交差点って言ったよね??」

 駅から住宅地の方へ向かったところにある大きな交差点だ。

 どうやらこちらに近づいて来ているらしい。

「こんなの絶対誰かのイタズラだよ」

 学は怯えながら言う。

 だが、輝希は首を大きく横に振った。

「さとるくんを呼び出す話は僕達しか知らないよね?」

「それは……」

 呼び出す話をしたのは、学校が終わった、つい1時間ほど前だ。

 二人だけで話をしたので、他に知っている者はいないはずだった。

「すごい。さとるくんはほんとにいたんだ……」

 輝希は怯えながらも、喜ぶ。

 すると、再びスマホの着信音がピピピッと鳴った。

 画面に、『#※$&¥%』と表示されている。

「出てみよう!」

 輝希はタップしようとするが、学が素早くその腕を?んだ。

「こんなの出ちゃ駄目だよ!」

 イタズラなどではない。

 本当に電話の向こうにさとるくんがいるのだ。

「スマホの電源を切って」

「どうしてだよ!」

 学は抵抗する輝希から、スマホを奪おうとした。

「今 コンビニの前だよ」

 突然、タップもしていないのに、スマホから声がした。

「どうして??」

「コンビニって……」

 広場の前に、コンビニがある。

 輝希は、道路の向こう側にあるコンビニを見た。

 刹那、スマホからまた声がした。

「今 後ろにいるよ」

 声は、スマホと同時に、後ろからも聞こえた。

「さとるくんだ!」

 輝希は嬉しそうに後ろを見ようとする。

 しかし、学が声を上げた。

「後ろを見ちゃ駄目だ!」

 学は、直立不動で前方を見ていた。

 目だけを僅かに動かし、隣にいる輝希の方に視線を向ける。

「本に書いてあったよね? 『さとるくんは姿を見られたら、その相手を連れ去る』って」

「そう言われれば……」

 学達が図書館で読んだ本にはそう書かれていた。

 輝希は正面を向き、姿勢を正す。

 そんな二人に、後ろにいるさとるくんが声をかけた。

「何でも 答えるよ」

「それって」

 さとるくんは、質問になんでも答えてくれるらしい。

「どうしよう、輝希君」

「分からないけど、質問するしかないよ」

 怯えながらも、輝希は僅かに笑みを浮かべている。

「ねえ、学君。せっかくだから、質問してみようよ」

「え? そんな事言ってる場合じゃ──」

 学の言葉を遮り、輝希は前を向いたまま口を開いた。

「今日の僕の家の夕ご飯のおかずは?」

「輝希君!」

 学は焦るが、後ろから、さとるくんが答えた。

「今日は ハンバーグだよ」

 その言葉に、学達は戸惑う。

「ほんとに答えたって事?」

「学君も質問してみて」

「え? でも」

「いいから早く!」

「う、うん」

 学は必死に考え、質問をした。

「僕のお母さんの誕生日は?」

 そんな事は家族以外知るはずがない。

 学がそう思っていると、さとるくんが答えた。

「誕生日は 10月9日だよ」

「合ってる……」

 さとるくんは、本当に質問に答えているのだ。

「……姿を見なきゃ安全かも」

 ふと、輝希が呟いた。

「こんなチャンス滅多にないよ。姿を見なければ怖くないだろ?」

「それは……」

 確かに輝希の言う通りかもしれない。

「学君、どんどん質問していこう。これで僕達人気者だよ!」

 輝希が微笑みながら言う。

 学は戸惑いながらも、輝希と共に、さとるくんに質問をしていくのだった。

 

「どこにいるんだ?」

「……」

 その頃、マコトとエンネアは道路を走っていた。

 前方に、公園が見える。

 公園に入ると、マコトとエンネアはあるものを探した。

 少し離れた場所に公衆電話がある。

 だが、そこに学達の姿はなかった。

「また違った」

 さとるくんを呼び出すためには、公衆電話が必要だ。

 学達はその近くにいるだろう。

 先ほどから町中を探している。

 公衆電話はいくつか見つかったものの、どこにも彼らはいなかった。

「くうっ」

「大丈夫……ですか?」

「エンネア……」

 身体がフラつく。

 体調はますます悪くなっている。

 しかし、休んでいる場合ではない。

 マコトは焦りながらも、公園を出て行った。

 そんなマコトとエンネアと入れ替わるように、

 ウワサ、ミリア、アノロンウェンが、公園に入ってきた。

 ウワサの掌の上には、ペンが浮いている。

 ペンの先は、前方を指し示していた。

「災悪の動きが止まったね」

 ミリアが跳ねるように走りながら、ウワサに言う。

 それを聞き、ウワサとアノロンウェンの表情が険しくなった。

 災悪の動きが止まったら、大変な事が起きる──

「急がないと!」

 ウワサとアノロンウェンは公園を通り抜け、ペンの先が指し示す方へと走った。

 

「ね、ねえ、輝希君」

 広場の公衆電話ボックスの前。

 学は輝希の横に立ちながら、ふと声をかけた。

「これって、いつまで質問するの?」

 二人は先ほどから、後ろに立っているさとるくんに質問をしていた。

 学校の事や、家の事、芸能人の噂話まで、なんでも答えてくれる。

 だが、いつまで経っても、さとるくんは後ろに立ったままなのだ。

「何でも 答えるよ」

 さとるくんがそう言う。

「え、あ、ええっと」

 輝希は必死に質問を考えるが、なかなか出てこない。

 いつの間にか笑みも消えている。

「学君、何か質問してよ」

「え? 僕はもうないよ」

「僕だって全部聞いちゃったよ」

 二人が言い合っていると、また、さとるくんが喋った。

「何でも 答えるよ」

「だから、あの」

「何でも 答えるよ」

 輝希は何度も言われ、苛立ち、声を荒らげた。

「いっぱい質問したから、もう帰っていいよ!」

 これ以上、さとるくんにいてほしくない。

 それは学も同じ気持ちだ。

 すると、後ろから音がした。

―カツ カツ カツ

 後ろにいるさとるくんが動いたようだ。

 帰ってくれる。

 学はそう思い、ホッとした。

 しかし、さらに足音が聞こえてきた。

―カツ カツ カツ

「何でも 答えるよ」

「えっ」

 真後ろで声がする。

 さとるくんは帰るどころか、さらに近づいてきたようだ。

「そんな!」

「なんで帰らないんだよ??」

 輝希はさらに苛立ち、後ろに顔を向けようとした。

「見ちゃ駄目だよ!」

「あっ!」

 さとるくんは、姿を見られたら、相手を連れ去ってしまうのだ。

「何でも 答えるよ」

 さとるくんは、学達の真後ろでそう言う。

 ハア、ハアという息づかいが聞こえる。

 背は、学達と同じぐらいのようだ。

「輝希君、どうしよう」

「だから、ええっと、質問は」

 輝希は必死に質問を考える。

 その輝希の肩に、何かが当たった。

「早く 言って」

 男の子の手が、輝希の肩の上にある。

 学はそれを横目で見ながら、怯える。

「早く 言って」

 瞬間、学の肩にも男の子の手が乗った。

 手が首筋に触れる。

 凍るような冷たい手だ。

「ひいっ」

「もう いいんだね?」

 学の耳元で声がした。

 さとるくんの顔が、すぐ横にある。

「うわああ!」

 刹那、恐怖に耐えられなくなった輝希が、その場から逃げ出した。

「輝希君!」

 学も慌てて逃げ出す。

 二人は必死に走り、広場から出ようとした。

 だが、そんな学達の肩には、さとるくんの手がずっと乗っていた。

「もう いいんだね?」

 真後ろから声がする。

 同時に、学と輝希の肩の上に乗っている手に、力が入った。

「うわあっ!」

 学と輝希は、押さえ込まれるかのように、その場に跪いた。

「ま、学君」

「輝希君、逃げなきゃ」

 学達は立ち上がろうとする。

 しかし、さとるくんの手に押さえつけられて、動けない。

「なんでも 答えるよ」

 ひざまずいた学と輝希の間に、ヌッと顔が現れる。

―カチカチカチカチカチカチ

 巨大な不気味な顔が、二人を見て、笑いながら歯を打ち鳴らした。

「うわああ!」

「彼らを放せ!」

 突然、誰かがさとるくんにタックルをし、ブーメランを投げつけた。

 さとるくんはよろけ、学達から手を離す。

「逃げるんだ!」

「戦いなさい!」

「「だ、だって……」」

 二人に叫んだのは、マコトとエンネアだ。

 公衆電話のある場所を探して、彼らを見つけ出したのだ。

 続けてエンネアはブーメランをさとるくんに投げつける。

 マコトはさとるくんをさらに押し、学達から離そうとする。

 その肩に、さとるくんの手が伸びてきた。

「邪魔 だよ」

 さとるくんはマコトの腕を掴み、そのまま引きずる。

「うわああっ!」

「邪魔 だよ」

 巨大な不気味な顔が笑みを浮かべる。

「ああ、あああ!」

 マコトは逃げる事もできず、引きずられ続ける。

―カチカチカチカチカチカチ

 さとるくんは歯を打ち鳴らしながら、巨大な顔をマコトに近づけた。

 そこへ、誰かが駆けて来た。

「マコト君!」

「エンネア?」

 ウワサとアノロンウェンだ。

「あ、ああ」

 マコトはボロボロになりながら、ウワサを見つめる。

 ウワサは、さとるくんをじっと睨んだ。

「こいつは……」

 睨みながらウワサがそう言うと、近くで震えていた学が声を出した。

「さ、さとるくんだよ」

「さとるくん……」

 それを聞き、ウワサの目が光る。

 ウワサは持っていたペンを素早く動かした。

 さとるくんはマコトのタックルと、エンネアのブーメランで、弱っている。

「全ての災悪を、この光によって打ち消さん! お前の名は──」

 ペンを走らせ、空中に文字を書く。

 

 サ ト ル ク ン

 

 しかし、災悪は何故か消えない。

「どうして?」

 ウワサが戸惑っていると、災悪が肩を掴んだ。

「邪魔 だよ」

 災悪が手に力を入れる。

 掴まれたウワサの肩に激痛が走る。

「うわああ!」

 ウワサはペンを落としそうになる。

 すると、跳ねるように、人間の姿をしたミリアが傍に立った。

「ちゃんと円を使って見なきゃ。

 さとるくんっていうのは、人間が勘違いして言ってる名前なんだよ」

「なんだって……?」

 ウワサは災悪に掴まれながらも、必死にペンを動かした。

 今回はアノロンウェンの出番はなさそうだ。

 円を描き、その円越しに、災悪を見ようとする。

 それに気づき、災悪が口を大きく開けた。

―カチカチカチカチカチ!

 災悪は歯を打ち鳴らしながら、もう一方の手でもウワサの肩を掴む。

 そのまま両手に力を入れ、ウワサを押し潰そうとする。

 しかし、ウワサは全身に力を入れ、必死に耐えながら、円の中に見える災悪を睨んだ。

「わ、分かった……」

 ウワサは力を振り絞り、声を張りあげる。

「全ての災悪を、この光によって打ち消さん! お前の名は──」

 ペンを走らせ、災悪の本当の名前を空中に書いた。

 

 サ ト リ ク ン

 

 瞬間、『さとりくん』の動きが止まった。

「ア アアア……」

 さとりくんは、ウワサを睨むように見ながら、その場にしゃがみ込む。

 そのまま、煙のように消えた。

 

「さとるくんじゃ、なかったの……?」

 学は怯えながら呟く。

「それは、人間が勘違いしてた名前だからね」

 ミリアが笑いながら言う。

 ウワサとアノロンウェンは、学と輝希の方に顔を向けた。

 二人とも無事なようだ。

「お前だけは……」

 ふと、背後から声がした。

 マコトが苦々しげな表情でウワサを見ている。

 だが、怪我をしているせいで、上手く動けないようだ。

 睨むマコトを見て、ウワサは悲しそうな表情を浮かべる。

「僕が、必ず助けるから……」

 ウワサはそう言うと、逃げるように去って行った。

「ま、待て! ぐっ」

 マコトは立ち上がろうとするが、フラつき、上手く立てない。

 そんなマコトの傍に、ミリアがやって来た。

「あの子を捕まえるのは諦めた方がいいよ」

「お前は??」

「あ~、キミとは初めて会うよね。神社で会った時はキミには見えてなかったものね」

「神社……」

 戸惑うマコトを見て、ミリアはニッコリと笑った。

「呪われてるんだから、キミも家でじっとしてればいいのに」

「何だと?」

「……マコトを傷つけるようなら容赦しません」

 苛立つマコトとブーメランを構えたエンネアに、ミリアは言葉を続けた。

「最近体調悪いでしょ? それはね、もうすぐキミも、みんなと同じようになるって事だよ」

「えっ?」

 マコトは思わず目を大きく見開く。

 ミリアはそんなマコトに優しげな表情を浮かべ、微笑む。

「だから早く家に帰った方がいいよ。あそこには、家族がいるでしょ」

 ミリアはそう言うと、その場から去って行った。

 

「僕も……」

 マコトはふと、公衆電話ボックスの横にある石碑を見る。

 石碑は、人と同じぐらいの大きさの石でできていた。

「僕も……もうすぐ」

 マコトは石碑を見ながら、その場にペタンと座り込んでしまうのだった。




~災悪紹介コーナー~
アノロンウェン「なーにかな?」
ウワサ「なーにかな?」
二人「今週は、これ!」

さとりくん
出現場所:公衆電話、広場、背後
攻撃手段:思考読み取り、拘束、精神的圧迫

アノロンウェン「まったく、今回はアタシの出番なしかい!
        マコトとかいう執念深いガキが先に突っ込んでボロボロになってるから、
        見物してたクソウサギがニヤニヤしてたじゃないか。
        アイツの顔を見てるだけで氷漬けにしたくなるね!」
ウワサ「アノロンウェン、そんな事言わないで。でも、今回の災悪は厄介だったよ。
    都市伝説の『さとるくん』だと思い込んでいたけど、
    その正体は人の心を読む『さとり』だったんだ。
    名前を間違えていたら今頃僕も連れ去られていたかもしれない」
アノロンウェン「ふん、ミリアが珍しく忠告しなきゃ危なかったね。
        にしても、マコトの奴、呪いでボロボロの癖にまだアンタを追うつもりかい?
        命がいくつあっても足りやしないよ、あの能なしは」
ウワサ「……マコト君の首の模様が濃くなっていた。僕が必ず助けるって決めたんだ。
    そのためには、どれだけ拒絶されても、次の災悪を止めなきゃいけないんだ。
    マコト君が……石碑を見て座り込んでいた姿が目に焼き付いて離れないよ」
アノロンウェン「湿っぽいねぇ! 泣いてる暇があるなら次の場所へ走るよ!
        ほら、マコトの仲間がブーメラン投げてくる前にズラかるよ!」
ウワサ「……うん。行こう、アノロンウェン」
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