ウワサの名前を口にして呪いを受けた昇太は、
自分にしか見えない不気味な災悪に影を侵食され、身体の自由を奪われてしまう。
一方、休息中に銀色のペンの異変を察知したウワサとアノロンウェンは、
ミリアの誘導によって窮地の昇太を発見し、影から襲い来る猫の顔と対峙する。
アノロンウェンの氷の精霊魔法で災悪を追い詰め、
ウワサが真実の名を暴いて消滅させた事で、昇太を無事に救い、感謝と希望の言葉を贈られた。
「呪われた少年」として疎まれてきたウワサが微かな救いを感じる中、
ミリアは自らもかつて「呪われた少女」であったという衝撃の過去を告白する。
ミリアの正体と呪われた神社の謎が深まる中で、ウワサは自身の宿命を背負い直し、
再び孤独ながらも力強い歩みを夜の道へと踏み出していくのだった。
住宅街の朝。
「おはよう」「眠い~~」などの声が木霊している。
学校に向かって歩くランドセルを背負った小学生達。
その道の一角に、一人の女の子――ミリアが立っている。
「ねえ、ねえ、この辺りで災悪を見かけなかった?」
突然、声をかけてくるミリアに、登校中の子供達数名が立ち止まる。
「サイアク?」
「それって何?」
子供達は首を傾げる。
「キミ達は呪われてないみたいだね。呪われた人を知らない? そこに災悪がいるはずなんだ」
矢継ぎ早に話すミリアに、子供達は怪訝な表情を浮かべる。
「何この子?」
「遅刻しちゃうよ。早く行こう」
子供達は逃げるように走り出した。
「あ、待ってよ。もお~」
ミリアは子供達の背中に呼びかけるが、誰も止まらない。
「なかなか知ってる人いないね」
ふと、ミリアは後ろを見ながら言う。
そこには、ウワサが立っていた。
「この辺りに、災悪がいるはずなのにねえ」
ウワサの掌の上には、銀色のペンが浮いている。
しかし、ウワサはそれには答えず、ミリアをじっと見つめた。
「ミリア、それよりも」
「さ、他の人にも聞いてみよ」
ミリアはウワサの言葉を遮ると、また声をかける人を探し始めた。
「アンタ……」
先日、ミリアは自分が『呪われた少女』だったと告白した。
ウワサは色々聞きたかったが、いつも話をはぐらかされてしまうのだ。
アノロンウェンも、苛立ちを隠せない。
「ほらっ、キミ達も災悪の事、聞いた方がいいよ」
新たな子供達を足止めしたミリアが、ウワサに言う。
「あ、そ、そうだね」
今はミリアの過去を聞き出している場合ではない。
早く災悪を見つける。
ウワサはそう思うと、ミリアとアノロンウェンと子供達のもとへ駆け寄るのだった。
その頃。
「え? 由里子ちゃん、学校へ行きたくないって?」
小学6年生の吉沢花美は、同級生の常田由里子の家の玄関扉の前で呆然としていた。
花美はいつも親友の由里子を誘って一緒に登校している。
しかし、今朝は由里子の母親が玄関に出てきていた。
「花美ちゃん、ごめんなさいね。具合が悪いみたいで……」
「でも、昨日は元気だったのに……」
「それがね……」
母親はとても言いづらそうに話す。
「自分は呪われたって言って、部屋に閉じこもってるの」
「自分は呪われた……?」
花美は声がうわずってしまった。
母親は困った顔をして頷く。
「変な話で、ごめんなさいね。でもね、そう言ってきかないし、何も説明してくれないから……。
昨日、由里子と何かあったの?」
「え? 昨日は──」
花美は昨日、由里子と何をしたかを思い返した。
由里子とは小1の時から仲が良くて、今も同じクラスなので暇さえあればお喋りをしている。
(でも、呪われるなんて話をしたっけ……?)
花美は首を傾げた。
「あの、呪われたって、どうしてそう思ってるんですか?」
「さあ……。昨日、家に帰ってきて、コップで水を飲もうとしたら、いきなり悲鳴をあげたのよ。
それが最初だったんだけど……」
「それって、どういう事ですか……?」
母親は困惑した表情で首を振った。
「それが分からなくて。とにかく、酷く怯えていて、怖いから説明したくないって。
そしたら、その後、トイレにも、お風呂にも入りたくないって言い出して……」
母親は困惑した表情で続けた。
これ以上話をしていたら遅刻しそうだったので花美は母親に別れを告げた。
花美は学校に向かう途中で色々な事を考えた。
(呪われたってどういう事? 昨日、何を話したっけ?)
花美にはさっぱり分からなかった。
(最近見たアニメの話をしたり、ゲームの話をしたり、
ネットで可愛い服を見つけたとか、そんな話をしたけど……)
そんな事を考えながら、花美は学校へ向かう。
やがて学校に着いた花美は、校舎に入ると6年の自分の教室に入った。
「おはよう」とクラスメイトに言いつつランドセルを置くと、トイレに向かった。
女子トイレに入ると由里子の母親の話を急に思い出した。
(トイレにもお風呂にも入りたくないって由里子ちゃんは言ってたんだよね)
個室の前に立った花美はドアを開けるのを少し躊躇った。
(ここを開けて何かあったら……?)
そんな不安が一瞬よぎったのだ。
花美はドアの取っ手にゆっくりと手を掛けた。
そして、そっとドアを開けた。
─ギィィィ
古いトイレなのでドアの開閉時にはいつも嫌な音を出す。
今日は特別に嫌な感じがした。
しかし、おかしく感じる事は何もない。
(気にしすぎだよね)
そう思って花美は個室に入った。
用を足して、個室から出てきた花美は洗面台に向かった。
手を洗うために水道の蛇口をひねる。
ジャーと水が流れ出てきた。
その時、ふと気づいた。
(そう言えば、由里子ちゃんは『呪われた少年』とかいう怖い話をしてたな……)
透明な水が蛇口から洗面台に落ちていく。
(私、怖い話は苦手だからちゃんと聞いてなかったんだよね。その名前を教えてくれたけど……)
花美は流れる水をしばらく見つめた。
(口に出しちゃいけないって言いながら、口に出して教えてくれたんだよね……)
花美は蛇口から流れる水をぼんやりと眺める。
(その少年の名前はなんだっけ? ああ……ダメだ。思い出せないよ)
考えても仕方ないと思った花美は、手を洗い始めた。
水が手を冷やし、落ち込んだ気分を変えてくれる気がした。
だが、その時──
「フフフ……」
「え?」
花美は水道の蛇口を捻って水を止めた。
耳を澄ましてみる。
廊下から子供達のにぎやかな声が聞こえてくるだけだ。
(勘違いか……)
そう思った花美は再び蛇口を捻って水を出した。
ジャー、と洗面台に水が落ちる。
ジャバジャバと手を洗い始める。
「フフフフッ……」
「えっ!? 嘘!」
花美は慌てて手を引っ込めた。
手を洗っている水の中から聞こえた気がしたからだ。
水がジャーと音を立てている。
もう一度、蛇口をひねって水をとめた。
耳を澄ましてみる。
やはりにぎやかな子供達の声が聞こえるだけだ。(気のせいだよね)
そう思って、気持ちを切り替える事にした。
お昼の給食の時間。
食事を自分の机に運びながら花美は、いつもなら由里子がいる空席を見た。
(由里子ちゃん、どうしてるかな……?)
いつもならお喋りをしながら給食を食べるのだが、今日はそれができない。
少し寂しくなりながら、給食を机に置いて席に着いた。
今日の給食にはスープがついていた。
花美はそれを見つめた。
ほんのりと湯気の立つ表面に、教室の天井が映って見えた。
花美はその水面を、なんとなくじっと見てしまう。
すると、「それでは、いただきます」という給食当番のかけ声が聞こえた。
はっとした花美は気を取り直して給食を食べる事にした。
「いただきます」
スープの器を手に取った。
その瞬間──
「フフフッ──」
花美は凍りついた。
(え?)
手にした器の中を見た。
そのゆれる水面に何かが映っている。
青白い女の顔!
自分の顔ではない。
髪の長い透けるような肌の女の顔。
揺らぐ水面に光が反射して、女の目は見えないが、赤い唇はハッキリと分かった。
「フフフフッ!」
その唇が僅かに開いて不気味に笑った。
「いやぁ!」
叫び声をあげた花美は思わず立ち上がった。
その勢いで器を落とした。
「なにやってるんだよ!」
「やだ!」
などとクラスメイトの声があがる。
スープがこぼれて床に飛び散っていた。
その水面にも不気味な顔が見える。
「顔、顔が!」
みんなと一緒に食事をしていた担任の先生が「大丈夫か?」と近寄ってきた。
「あ、あの、人の顔が!」
花美は床に飛び散ったスープの表面を指さした。
「え? 人の顔?」
男性教師は床のスープを見たが困惑するだけだ。
花美が見てみると、そこに顔はなかった。
「え? でも、スープに女の人の顔が映ってたんです」
理解してくれない先生に、花美は説明をくりかえした。
だが、それは先生やクラスメイトをますます混乱させた。
みんながじっと花美を見る。
「きっと自分の顔が映ったんだよ!」
「自分の顔でビックリしたんだ!」
何人かがそんな事を言い出して笑った。
クラスのみんなも笑いだした。
花美が顔を伏せると先生が声をかけてきた。
「大丈夫か?」
先生は教室の後ろの用具入れから掃除道具を持ってきて花美と一緒に掃除を始めた。
「先生、ありがとうございます」
床を拭きながら花美は礼を言った。
「気にするな。でも、変な事を言うのはやめた方がいいぞ」
その言葉を聞いて花美は一瞬、掃除の手をとめた。
(変な事だなんて……? 先生も私の話を全然信じてないの……?)
そう思ったが、もう何も言わない事にした。
午後の授業は体育だった。
花美が校庭に出ると、空は晴れていた。
しかし、空の向こうには怪しい雲が広がっている。
身体を動かすのは気持ちがいいので、花美は体育が好きだった。
しかし、今日の花美はいろいろと気がかりがあり調子が悪かった。
あまり気持ちが乗らないままに授業は終わってしまった。
汗をかいたので、花美は校庭の水飲み場に向かった。
先に着いていたクラスメイト達が蛇口から水を出した。
ジャー 水が流しに流れる。
「ああ、喉が渇いた」
「喉がカラカラ」
などと言いながらみんなは水飲み場に向いている。
ゴクゴクと水を飲む子。
ガァァとうがいをする子。
バシャバシャと顔を洗う子。
水しぶきが花美の足元にも飛び散ってきた。
つい足が止まってしまった。
すると──
「フフフフッ!」
クラスメイト達が立てる水音に混ざって聞こえてきた。
「え?」
女の笑い声が今までよりもハッキリ聞こえたので、花美はゾッとした。
水を飲んだり顔を洗ったりしているクラスメイトたちの後ろに立ち尽くした。
「フフフフッ! フフフッ!」
一段とハッキリとした笑い声が耳に響いてきた。
その時、スープの表面に映った女の顔を思い返した。
(きっと由里子ちゃんも、水に映る女の顔を見たんだ……!?)
花美ははっとしてクラスメイト達の身体の間に割り込んだ。
「何すんだよ?」
クラスメイト達に文句を言われた。
しかし、花美は構わず蛇口から流れる水に両手を差し入れてみた。
確認したくなったのだ。
手の平で作った器の中に水が溜まった。
その水面を見た。
そこには──青白い女の顔が映っている。
髪の長い透けるような肌の女の顔。
しかも、今度は目も見えた。
ジロリ!
女の目が花美を見た。
「いやあぁっ!」
花美は手の中の水を振り払って後ずさった。
「なんだよっ!?」
「どうした!」
「大丈夫?」
水飲み場に集まっていたクラスメイト達が花美を見た。
今までクラスメイト達の身体で隠れていた水飲み場の流しが見えた。
全ての蛇口から水が流れている。
その水面には、幾つもの不気味な女の顔が浮かんでいた。
「フフッ! ハハッ!」
花美は恐怖のあまり足が竦んだ。
そこから動けない。
「いやぁ! いやぁ!」
周囲のクラスメイトたちは訳が分からない。
みんなには女の顔は見えていない。
笑い声も聞こえていないのだ。
「吉沢さん、どうしたの?」
「しっかりしろよ!」
だが、恐怖で悲鳴をあげて全身を震わせる花美を落ち着かせる事はできない。
「いやぁッ! いやぁッ!」
「フフフッ! ハハハッ! フフフフッ! ハハハハッ!」
青白い女の顔が一斉におぞましい笑い声をあげた。
「いいいやぁぁぁぁッ!」
花美は腰を抜かした。
そして、目の前が真っ暗になり、気を失ってしまった。
ハッとして花美は目が覚めた。
保健室のベッドの上で寝ていた。
「あ、目が覚めたのね。良かった」
保健の先生がニコリと微笑んだ。
「あの、私……?」
「いきなり倒れたそうだけど、さっきお母さんにも連絡を入れたのよ。もうすぐ来てくれるわよ」
花美は安心した。
「とにかく、寝てなさい」
保健の先生はそう言うと仕事に戻った。
(お母さんが来てくれるなら安心だ)
花美は改めてホッとして目を瞑った。
すると──
ジャー!
水の流れる音が聞こえた。
ハッと目を開けると、先生が保健室の流しで洗い物を始めていた。
花美は飛び起きた。
「フフフフッ! ハハハハッ!」
不気味な女の笑い声が流しに流れる水から聞こえた。
「やめてぇぇぇぇ!」
「吉沢さん! どうしたの?」
保健の先生がビックリして尋ねた。
花美にそれに答える余裕はない。
「いやぁだぁ!」
花美は叫ぶとベッドから飛び降りて、保健室を飛び出した。
そして、花美は校舎の外に出た。
(お母さん、早く来て!)
花美は1秒でも早く母親に会いたかった。
校門まで走ってくると母親が来るであろう道を見た。
でも、母親の姿は見えない。
すると、花美の頭に冷たい物が当たった。
「え?」
空を見上げるとどんよりとした雲が覆っていた。
そこから水がポツリポツリと落ちてくる。
「うそ! 雨!?」
花美は校門の外の道を見た。
大粒の雨がどんどんと降り注いでくる。
(お母さん! 早く来て! 助けて!)
花美は不安がつのり、いても立ってもいられなくなった。
次の瞬間、校門を飛び出していた。
花美は道路を走る。
だが、雨脚はどんどんと強くなった。
目の前の路面があっと言う間に雨に濡れて、水浸しになった。
「フフフフッ!」
あの笑い声が聞こえてきた。
「いやぁぁぁぁ!」
花美は叫びながら雨の中を走る。
「フフフフッ! ハハハハッ! フフフフッ!」
大きな笑い声が花美の耳に入ってきた。
「いやぁぁ! やめてぇっ!」
ずぶ濡れになりながら花美は走る。
「ハハハハハハハッ!」
一際大きな笑い声が目の前で響いた。
花美はビックリして立ち止まった。
濡れた路面に、髪の長い青白い女がいた。
それは顔だけではない。
仰向けで路面に横たわるように全身があった。
「なにッ!! いやぁぁ!」
花美は今来た道を戻ろうとした。
ところが、女は水中を泳ぐ魚のように、スゥーッと花美の目の前に移動した。
「ハハハハハハッ!」
「やだぁ! やめてっ!」
花美がどこに逃げようとしても、濡れた路面を移動して目の前にやってくる。
「ハハハハッ! ハハハハッ!」
花美は仕方なく、女を飛び越そうとした。
ところが──
バシャーン、ガバッ!
女の手が路面から飛び出してきて、花美の足を掴まえた。
「ぎゃぁぁぁあ!」
花美は絶叫したが、そのまま路面の水の中に引きずり込まれ始めた。
「助けてぇぇぇ!」
花美の身体は今にも路面の水の中にすっぽりと消えてしまいそうだ。
「僕に掴まれ!」
路面から上半身だけが出ていた花美の目の前に少年の手が伸びてきた。
白い服の銀髪の少年──ウワサだ。
彼の隣には、アノロンウェンがいる。
─ギュッ!
花美はウワサの手を、しっかりと掴んだ。
「よし!」
ウワサは花美の身体をぐっと引き上げた。
ザバーンッ! 濡れた路面から花美の身体が出てきた。
花美は女から離れるために走ったが、ふらついて膝をついた。
「あ、助かって、良かったね!」
ウサギ耳を揺らしながら、女の子が跳ねるようにやって来た──ミリアだ。
ぜいぜいと息をする花美は頷いた。
「ありがとう」
ミリアはウワサが心配になって見た。
ウワサはペンを出して宙に円を描こうとしている。
「気を付けた方がいいよ!」
ミリアが忠告した瞬間だった。
路面に寝そべる女の手が、今度はウワサの足を掴んだ。
「わぁぁ!」
ウワサの身体が水面に引きずり込まれていく。
あっという間に、ウワサは胸まで水の中に入ってしまった。
ウワサはもがく。
「あ~あ、気を付けてって言ったのに」
ミリアは顔を歪めた。
だが、何もしようとしない。
花美はウワサを見て叫ぶ。
「大変! 助けなきゃ!」
花美は走り出そうとしたが、足がもつれてしまう。
じっと様子を見ているミリアに気づいた。
「お願い! 助けてあげて!」
花美はミリアに向かって叫んだ。
「え? 私が?」
ミリアはウワサの方を見る。
ウワサは苦しみながらもあきらめない。
必死に水面から這い出ようとする。
「僕は……絶対に助ける……。僕のせいで、誰も不幸になんかなってほしくないんだ!」
ウワサはやっと水面から出た。
すかさず、ペンを宙に走らせる。
青白い炎が現れ、円が描かれる。
その中を見たウワサの目が光る。
目に災悪の名前が視える。
「全ての災悪を、この光によって打ち消さん。お前の名は──」
ウワサはペンを走らせ、空中に文字を書いた。
ミ ズ ウ ツ シ
瞬間、水面に横たわっていた『水うつし』の姿が薄くなっていく。
スゥゥゥー!
水に溶けるように消えていった。
ウワサはホッとすると花美のもとにやってきた。
「あいつは消えた。もう大丈夫だ。怪我はない?」
花美は頷いた。
「でも、友達も呪われたって言ってて……」
すると、ミリアが答えた。
「その子も助かってるはずだよ」
ミリアは優しく微笑んでいる。
それを聞き、花美は安心する。
そこへ、一人の女性が駆け寄ってきた。
「花美! 良かった! 花美!」
「お母さんっ!」
花美は怯えていたのも忘れ、泣きそうな顔で走り出し、母親に抱きついた。
ミリアはその光景を見つめる。
すると、傍にいたウワサがゆっくりと口を開いた。
「僕は怖がられてもかまわない。みんなを助ける事ができるなら」
「それって……」
ミリアはウワサを見る。
ウワサは、花美と母親の姿をじっと見つめていた。
「僕が何とかする。僕が、みんなを、マコトくんを」
ウワサはそう言うと、その場から歩き出した。
夜。
住宅地の一軒の家。
薄暗いリビングの隅に、一人の少年がしゃがみ込んでいた。
「お母さん……お父さん……僕、どうすればいいかな……」
マコトだ。
その表情には生気がなかった。
「どんどん体調が悪くなってるんだ……」
マコトの首筋には、ウワサと同じ奇妙な模様がある。
その模様は、以前よりも濃くなっていた。
「ねえ、お母さん、お父さん、どうすればいいか答えてよ」
マコトはフラフラと立ち上がると、リビングのテーブルの方へと歩いた。
「どうして答えてくれないの? せっかく家に帰ってきたのに」
マコトはそう言いながら、テーブルに近づく。
「ねえ、お母さん! お父さん!」
テーブルの前で立ち止まると、マコトは泣きそうな声で叫んだ。
テーブルのイスには、大きな影が2つある。
マコトはその影を泣きそうな表情で見ている。
イスの上には、人と同じぐらいの大きさの石が、2つ並ぶように置かれていた。
「お母さん……お父さん……」
マコトはフラつきながら、リビングを出て、廊下を歩く。
玄関のドアを開け、外を見る。
夜空の下、道路にも、人と同じぐらいの大きさの石がいくつもあった。
「誰か……助けて……」
マコトは声にならない声で嘆きながら、フラフラと歩いて行くのだった。
~災悪紹介コーナー~
アノロンウェン「なーにかな?」
ウワサ「なーにかな?」
二人「今週は、これ!」
水うつし
出現場所:水分がある場所
攻撃手段:水中への引きずり込み
アノロンウェン「水がある場所ならどこにでも現れるなんて、掃除のしがいがない災悪だね!
アタシが氷漬けにしてやろうと思ったのに、
ウワサが自分から水の中に突っ込んでいくもんだからヒヤヒヤしたよ。
ミリア、アンタも見てるだけじゃなくて少しは手伝いなさいよ!」
ミリア「えー、だって私が手出ししたら面白くないでしょ?
ウワサが必死にザバーンってなってる姿、最高に主役っぽかったよ!
それに、ちゃんとアドバイスはしてあげたもんねー」
ウワサ「ミリア、あれは生きた心地がしなかったよ。
でも、花美さんが引きずり込まれそうだったから放っておけなかったんだ。
水面に映るあの青白い女の顔……由里子さんもこれを見て怯えていたんだね。
コップ一杯の水さえ怖くなるなんて、本当に残酷な災悪だよ」
アノロンウェン「ふん、ウワサを道連れにしようとした執念だけは認めてやるけどね。
にしてもミリア、アンタ、自分が『呪われた少女』だったなんて、
大事な事をサラッと言ってくれるじゃないか。
一体どこまで隠し事をしてるんだい?」
ミリア「あはは、ミステリアスな女の子の方が魅力的でしょ?
でもホントだよ、私も昔は君達みたいにジタバタしてたんだから。
信じるか信じないかはウワサ次第だけど」
ウワサ「僕も詳しく知りたいよ。でも、今はマコト君の事が心配なんだ。彼、自分の家で何を……。あんなにたくさんの石が並んでいるなんて、普通じゃないよ」
アノロンウェン「マコトの奴、いよいよ限界が近いのかもしれないね。
湿っぽい話はここまでさ!
さあ、次の災悪が顔を出す前に、アタシ達の仕事を終わらせるよ!」
ウワサ「……うん。マコト君、待っていて。僕が必ず、君もみんなも助けてみせるから」