呪ワレタ少年 Krieg   作:アヤ・ノア

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~前回までのあらすじ~

親友の由里子が「呪われた」と部屋に引きこもった理由が分からない花美は、
自身も水面に映る青白い女の顔と嘲笑に襲われるようになる。
水道や給食のスープ、雨の路面と、あらゆる水場から現れる災悪に追い詰められた花美は、
水の中へと引きずり込まれかける。
間一髪でウワサが彼女の手を掴んで引き上げ、
自らも水中に呑まれそうになりながらも真実の名を暴いて、災悪を消滅させる。
花美が無事に母親と再会する一方で、ウワサはマコトへの救済を誓うが、
当のマコトの周囲では不気味な石があり、呪いの侵食は極限に達していた。
過去に呪われた少女だったと明かしたミリアの謎、
そして石化した両親を前に彷徨うマコトの絶望が、雨上がりの街に暗い影を落とすのだった。


第25話 追いかけてくる車

「こんなところまで来るとは思わなかったよ……」

 ある日、ウワサは橋の前に立っていた。

 掌の上には、銀色のペンが浮かんでいる。

 ペンは、橋の向こうにある町を指し示していた。

「あそこって、キミが住んでいた町の隣の町だよね」

 ふと、橋の欄干の上から声がした。

 ウサギ姿のミリアが、ちょこんと座っている。

「おい」

「災悪を探しているうちに、故郷の近くまで戻ってくるなんてね」

 ミリアは欄干から軽やかに飛ぶと、クルッと身体を回転させた。

 瞬間、人間の姿になり、地面に立った。

 それを見ていた通りがかりの男性が、目をパチクリさせた。

「え? 急に女の子が??」

 男性はスマホで話をしながら、ミリアを凝視する。

「女の子? どうしたんです?」

 電話の向こうで相手が尋ねる。

「あ、えっと、女の子が突然──」

 男性が説明しようとしたが、その時、ミリアがそのスマホを取った。

「私はウサギの姿をしている時は、人間には見えないんだ。

 だけど、この姿になったら、ちゃ~んと見えるんだよ」

 ミリアはクスクスと笑いながら、スマホを男性に返す。

「スマホって何か楽しいね」

「は、はあ」

 男性は意味が分からないまま、ポカンと口を開けてミリアを見る。

 ミリアはそんな男性をよそに、ウワサとアノロンウェンの傍にやって来た。

「何やってるんだよ」

「スマホを一度触ってみたかったんだ。私の頃は、家の黒い電話しかなかったからね」

「それって……」

 何十年も前、スマホはなく、電話は家に置かれていた黒い固定電話機が多かった。

「君はいつ呪われた少女に──」

 ウワサがそれを尋ねようとすると、ミリアはウワサにスッと顔を近づけた。

「また、濃くなったみたいだね」

 ミリアは、ウワサのチョーカーの下にある首筋を見ている。

 そこには、銀色のペンやミリアの首の輪っかと同じ、奇妙な模様が刻まれている。

 模様は、以前に比べて、少しだけ濃くなっていた。

「くっ」

 ウワサは慌てて隠すように、模様を手で覆う。

 ミリアはそれを見て、優しい笑みを浮かべた。

「まあ、気にしても仕方ないよ。キミにも、私にも、それはどうする事もできないからね」

「私にも? ミリアも呪いを解く方法を知らないの?」

「知ってたら、とっくに自分の呪いを解いてるよ」

「それは……」

 確かにその通りだ。

 ウワサは苦々しげな表情を浮かべる。

 そんなウワサの肩を、ミリアはポンと叩いた。

「さ、災悪を見つけよう」

 橋の向こうの町には、災悪がいるはずだ。

 その災悪を倒すために、ウワサはここまで来たのだ。

「分かってる。僕とアノロンウェンが何とかしなきゃ」

 ウワサはそう呟くと、橋を渡り始めるのだった。

 

「ほんと、椎名さんにはビックリしたよね」

 放課後。

 中学1年生の間宮浩は、親友の西谷慎一と共に道路を歩きながら、

 クラスメイトの椎名里依紗の文句を言っていた。

 今日、学校の休み時間、浩は塾の友達から聞いたある話を慎一に話した。

 それは、絶対に名前を言ってはいけない、呪われた少年の話だ。

 浩は名前を言わないように注意しながら、紙に「壊井ウワサ」と書いて、慎一に見せた。

 だが、隣の席に座っていた里依紗が、その紙を見て名前を言ってしまったのだ。

「椎名さん、言っちゃ駄目なら紙にも書かないでよって怒ってたけど、ムチャクチャだよね」

 浩は別に里依紗と話していたわけではなかったのだ。

「まったく、僕らまで呪われたらどうするんだよ」

 浩はうんざりしながら言う。

 本当に呪われるとは思っていない。

 だが、やはり気持ちのいいものではなかった。

 と、慎一がチラリと浩を見た。

「多分、本当に呪われちゃったのかも」

 見ると、慎一は顔をこわばらせていた。

「何言ってるんだよ。呪われた少年なんているわけないよ」

 浩は笑うが、慎一の表情は全く変わらない。

「僕もそう思いたいけど、隣町の事があるでしょ」

「隣町って」

 浩は、それが何の事かすぐに分かった。

 浩達の住む町の隣に、山のふもとの小さな町がある。

 何故か数年前から、その町には行ってはいけないと言われていたのだ。

「お父さんもお母さんも理由は教えてくれないけど、絶対に行くなって言ってるでしょ」

「ああ。学校の先生も行かないようにって言ってたもんな」

 元々、浩達は隣町に行った事がない。

 住んでいる町には、ショッピングモールや遊ぶ場所もある。

 わざわざ隣町に行く理由がなかったのだ。

「夜とか暗くて危ないから、行っちゃ駄目だって言ってるんじゃないの?」

 浩はその理由を今までちゃんと考えた事はなかった。

 すると、慎一が「そうじゃないと思う」と言った。

「僕、浩君が呪われた少年の話をしてビックリしたんだ。

 だって、隣町に行っちゃいけない理由は、その少年のせいで、町の人達が呪われたかららしいんだよ」

「何それ??」

 浩は、予想だにしていなかった話に思わず戸惑う。

 慎一は身体を震わせていた。

 真面目な性格で、冗談を言うようなタイプではない。

「ほんとに呪いがあるって事?」

 浩が尋ねると、慎一は怯えながら頷いた。

 浩は急に怖くなる。

 この町からも、隣町にある山は僅かに見えている。

 先ほどまでは、ただの笑い話のつもりだった。

 だが、今は違う。

「それじゃあ、どうしたらいいんだよ?」

 浩は怯えながら、慎一に尋ねる。

 もしかしたら、本当に呪われているかもしれない。

 その時、視線の先に、一軒の家が見えた。

「あれって確か」

 里依紗の家だ。

 彼女の家の前に、金色の屋根がついた黒い車が停まっていた。

「霊柩車、だよね?」

 浩は呟くように言う。

 ネットで写真を見た事がある。

 亡くなった人をおさめた棺を運ぶ霊柩車は黒い車が多いが、

 昔はその黒い車に金色の屋根がついている事が多かった。

 屋根のある部分は、棺を納める場所になっている。

「あんな霊柩車、僕、初めて見たよ」

 霊柩車はドアが閉まると、走り出し、そのまま道路を曲がって行った。

「誰か亡くなったのかな?」

 浩が呟く。

 里依紗の家族に何かあったのだろうか?

 そう思っていると、慎一が答えた。

「だけど、棺を入れるところから乗ったりするのかな?」

「そう言われれば、確かにそうだねえ」

 普通は助手席に座るような気がした。

 と、家の前に買い物袋をさげた女の人がやって来た。

「あれって、椎名さんのお母さんだよね?」

 里依紗の母親は、鼻歌を歌いながら家へ入ろうとしていた。

 誰かが亡くなっているような素ぶりではない。

「あ、あの!」

 浩は、慌てて母親のそばへと駆け寄った。

 慎一も戸惑いながら、後に続く。

「あら、里依紗のクラスメイトの」

「さっき霊柩車が来てましたよね?」

 浩は、先ほど見た出来事を母親に話した。

 すると、母親は首を傾げた。

「どういう事? ウチは誰も亡くなってないわよ」

「ええ??」

 それを聞き、浩と慎一は驚く。

「じゃあ、どうして椎名さんが霊柩車に?」

 意味が分からず、浩達は呆然となってしまった。

 

「何だったんだろう?」

 しばらくして。

 浩と慎一は道路を歩きながら、先ほどの出来事を不思議がっていた。

「もしかして、椎名さんじゃなかったのかも」

 たまたま家の前に停まっていただけで、車に乗ったのは別の人だったのかもしれない。

「おばさんも、電話してみるって言ってたもんね」

 リビングには里依紗の通学鞄があったが、家にはいなかったらしい。

「多分、どこかに遊びに行ったんだよ」

 浩はそう言いながら、ふと、慎一の方を見た。

 慎一は、何故か顔をこわばらせている。

「どうしたんだよ? もしかしてまだ呪われた少年の事考えてるの?」

「呪われた少年……そうか、そうかも」

 慎一は怯えながら、浩の顔を見た。

「椎名さんは呪われちゃったんだよ」

「だからそういうのは──」

 呆れる浩を見ながら、慎一ははっきりと言った。

「だって、さっきの車、ナンバープレートが付いてなかったんだ」

「ナンバープレート? あっ」

 浩は、先ほどの霊柩車を思い出す。

 確かに慎一の言う通り、ナンバープレートが付いていなかった。

「普通付いてるよね?」

「それはそうだけど、でもそれだけで呪われたとかは」

 浩は戸惑いながらも、状況を理解しようとした。

 だが、考えれば考えるほど頭が混乱してくる。

 と、慎一が急に立ち止まった。

「どうしたの?」

 慎一は、顔を強張らせたまま、前方を見ている。

 浩は首を傾げながら、同じ場所を見た。

「あっ」

 前方に、一台の車が停まっている。

 それは霊柩車で、ナンバープレートが付いていない。

「あれって、さっきの車だよね??」

 浩の言葉に、慎一は何度も頷く。

 その時、霊柩車がゆっくりと動き出した。

 霊柩車は、浩達の方に向かって来る。

「どうして、こっちに来るの??」

 浩が戸惑っていると、慎一が服の袖を?んで叫んだ。

「運転席を見て!」

「えっ?」

 浩は驚きながら、走って来る霊柩車の運転席を見た。

「ああっ!」

 運転席に、不気味なガイコツが座っていた。

「うわああ!」

 浩と慎一は慌ててその場から逃げ出した。

 霊柩車はそんな二人を追うようにスピードを上げる。

「何なのあの車??」

 怯える浩に、慎一が声を震わせて答えた。

「僕達も、呪われてるんだ!」

 里依紗は、呪われた少年の名前を言って呪われてしまった。

 そのせいで、やはりガイコツが運転する霊柩車に乗ってしまったようだ。

 だが、呪われたのは彼女だけではない。

 浩と慎一も呪われてしまったのだ。

 浩は、走りながら後ろを見る。

 霊柩車はさらにスピードを上げて、二人を追って来る。

「浩君、もっと速く!」

「分かってる!」

 浩は必死に走り、慎一と共に道路を曲がる。

「慎一くん、あそこ!」

 脇に細い路地が見える。

 浩達はその路地へと入った。

「これで逃げられたよね??」

 浩は走りながら、僅かにホッとする。

 だが、霊柩車は躊躇する事なく、路地に入ってきた。

「そんな!」

 ガリガリガリッ

 車の側面を路地の両側の壁にこすりながら、浩達の方へと走って来る。

 運転席を見ると、ガイコツがケタケタと笑っている。

「嫌だ!」

 浩と慎一は、路地から飛び出し、道路に出た。

「わっ」

 道路を歩いていたスーツ姿の男の人とぶつかりそうになる。

「君たち、危ないだろ」

 注意する男の人に、浩達はしがみついた。

「霊柩車が襲ってくるんです!」

「はああ?」

 意味が分からない様子の男の人に、浩は路地を指さす。

「ずっと追いかけてきて!」

「霊柩車が??」

 男の人は怪訝な表情をしながら、路地を見た。

 しかしすぐに、浩達の方に視線を戻した。

「霊柩車なんて、どこにいるんだよ?」

「ええ??」

 浩は路地を見る。

 先程まで追って来ていた霊柩車の姿がない。

「君たち、イタズラはよくないぞ」

「ほんとに霊柩車が!」

「あのねえ、まだそんな事言うんだったら学校に連絡するよ」

 男の人は怒りながら言う。

「だけど……」

 浩は言葉に詰まり、何も言えなくなってしまう。

「まったく」

 男の人は頭をかきながら、去って行った。

「うそなんかついてないのに……」

 浩は呆然とその場に立ち尽くす。

 一方、慎一は辺りをキョロキョロと見回していた。

「どうしたの、慎一くん?」

 首を傾げる浩に、慎一は顔を向けた。

「このままで済むはずないよ! 僕達は呪われちゃったんだよ!」

 その目は血走り、涙が浮かんでいる。

「慎一くん、落ち着いて」

「落ち着けるわけないだろ! こんなところにいたらまた車が来ちゃうよ!」

 慎一はパニックになりながら、その場から走り出した。

「ちょっと、待って!」

 走る慎一を、浩は追う。

 だが、慎一は止まる事なく、道路を曲がってしまう。

「うわああ!」

 曲がった瞬間、慎一の悲鳴が聞こえた。

「慎一くん??」

 浩は慌てて道路を曲がる。

「ああ!」

 道路に、霊柩車が停まっている。

 その横に、慎一がいる。

 慎一は、俯いていた。

「慎一くん!」

 浩が声をかけるが、全く反応しない。

 霊柩車の棺が入るスペースのドアが、ゆっくりと開く。

 慎一は俯いたまま、車の中に乗り込んだ。

「だめだ!」

 浩は助けに行こうとするが、それよりも早く車が動き出した。

―フォォォン

 ガイコツがケタケタと笑いながら、クラクションを鳴らす。

―バタン バタン

 運転席と助手席のドアが、何度も羽のように開いては閉じる。

 霊柩車は、さらに浩に近づいてきた。

「うわあっ!」

 浩は思わず後ずさるが、足がもつれて転んでしまう。

 車はそんな浩の目の前まで迫ってきた。

 瞬間、誰かが浩の腕を掴んだ。

「立って!」

 ウワサだ。

「早く逃げなきゃ!」

 その言葉を聞き、浩はハッとする。

 何者なのか分からないが、それを考えている余裕などない。

 浩は立ち上がると、ウワサと共に逃げ出した。

 そんなウワサ達を、霊柩車が追って来る。

 ウワサは浩の腕を引っ張り、必死に走る。

「ちっ、車ごとぶっ壊すわけにはいかないねぇ」

 アノロンウェンは車を破壊しようとするが、中にいる人ごと巻き込むわけにはいかなかった。

 彼らの傍に、ミリアが跳ねるように走りながら現れた。

「あの車は触れるだけでも危険だよ。車に捕まったら最後、二度とこの世界に戻れないからね」

「何だって?」

 驚くウワサの横で、浩が叫んだ。

「あの車には友達が乗ってるんだ!」

「あの中に??」

 ウワサは、霊柩車の方を見つめる。

―バタン バタン

 霊柩車のドアが音を立て、激しく開け閉めを繰り返しながら、さらに迫る。

「もうだめだ!」

 浩は怯えながら、声をあげる。

 車は目の前まで迫って来る。

 刹那、ウワサは何かを思うと、浩の方を見た。

「僕が何とかするから!」

 そう言って、浩を道路の脇に突き飛ばす。

 そして、霊柩車の方を振り返った。

―ドンッ!

 大きな音が響く。

 ウワサが霊柩車と衝突したのだ。

「そんな!」

 浩は驚きながらも、ウワサの方を見る。

 だが何故か、霊柩車とウワサの姿がどこにもない。

「どこに行ったの!?」

 浩が戸惑っていると、ミリアが口を開いた。

「触れるだけでも危険だって言ったのに」

 その表情は、うんざりしている。

「まったく、もお~」

 ミリアは溜め息を吐くと、ウサギの耳を掴むように触った。

 

「ん、んん……」

 車の中。

 ウワサは自分が助手席に座っている事に気づいた。

 横の席には、ハンドルを握るガイコツがいる。

「くうっ!」

 ウワサは慌てて助手席から動こうとするが、身体が動かない。

「無駄ダ 無駄ダ」

 ガイコツが運転しながらケタケタと笑う。

 ウワサはそんなガイコツを警戒しながらも、ふと窓の外を見た。

 車の窓の外は、真っ暗な空間が広がっていた。

 夜よりも暗く、闇よりも深い。

 何も見えない暗黒が、どこまでも続いている。

「ここは……?」

「コノ世ト アノ世ノ 間──」

 ガイコツがケタケタと笑う。

「んんん!」

 後ろから声がする。

 ウワサは辛うじて動く頭を動かし、後ろを見た。

 後ろの荷台部分に、里依紗と慎一がいる。

 彼らは倒れたまま、全く動けないようだ。

「アンタをぶち壊す!」

「彼らを返せ!」

 アノロンウェンとウワサはガイコツに怒鳴る。

 しかしガイコツはケタケタと笑ったままだ。

「アノ世ヘ連レテ行ク アノ世ヘ連レテ行ク」

 車のスピードが速くなる。

「うわっ」

 ウワサはその勢いで、座席の背もたれに張り付くように背中を打ちつけた。

「や、めろ……」

 ウワサは持っている銀色のペンを動かそうとする。

 それに気づき、ガイコツはカタカタと音を鳴らし、頭だけをウワサの方に向けた。

「アキラメロ!」

 瞬間、ウワサの手が動かなくなった。

「そ、んな……」

「アノ世ヘ連レテ行ク アノ世ヘ連レテ行ク」

 ガイコツはケタケタと笑う。

 さらにスピードが上がる。

 ウワサは背もたれに押し付けられ、全く動けない。

「僕は、何としても……」

 そう言いながらも、意識が遠くなっていく。

「僕は……」

 目の前が暗くなっていく。

「ぼ、僕は……」

 全身から力が抜け、ウワサは意識が途切れそうになった。

 その瞬間──

 

「諦めるなっ!」

 バンッという激しい音が、車内に響いた。

 ウワサはハッとし、目を開ける。

 すると、車の前面に、ミリアが浮かんで立っていた。

「ペンに意識を集中して!」

 ミリアは車にしがみつきながら、ウワサにそう言う。

「離レロ!」

 ガイコツが叫び、クラクションを鳴らした。

─フォォォン! フォォォン!

 けたたましい音が鳴り響く。

 その音が衝撃波となり、鋭い刃物のようにミリアを襲う。

「きゃ!」

 ミリアの身体があちこち傷つく。

「おいっ!」

 ミリアは傷つきながらも、車にしがみつき、ウワサを見た。

「ペンはキミのためにある! キミと繋がってる! だから早く!」

 叫ぶような声を聞き、ウワサは目だけを動かし、ペンを見た。

「僕は……僕は……」

 ウワサはペンを持つ手に集中する。

 手が淡く光り始める。

「ヤメロ!!」

 ガイコツが声を上げた。

 ウワサの手が光りながら、僅かに動き、手に力を入れる。

 ペンを走らせると、宙に青白い炎が現れ、円が描かれた。

 ウワサは座席に張り付きながらも、円の中の災悪を見つめる。

 その目が赤く光り、何かが視えた。

 災悪の『名前』だ。

「全ての災悪を……この光によって打ち消さん! お前の名は──」

 ウワサは手に力を入れ、ペンを動かした。

 

 ア ノ ヨ ノ ク ル マ

 

―ガタガタガタッ

 『あの世の車』が、激しく揺れる。

―カタカタカタッ

 ガイコツが音を立てて、その形が崩れていく。

「ヨクモ ヨクモォォ」

 ガイコツが崩れながら、声をあげる。

「コワイウワサァアアァ~」

 ガイコツはそう叫びながら、崩れ落ち、塵となった。

 霊柩車が光り輝く。

「んんんん!!」

 慎一達が声をあげる中、車は光に包まれた。

 

「あ、あ、ああ」

 道路の一角。

 浩は、目の前の光景を見ていた。

 目の前に、慎一と里依紗が突然現れたのだ。

「慎一くん! 椎名さん!」

 浩は慌てて駆け寄る。

「う、う~ん」

「ここは、どこなの?」

 慎一と里依紗は頭を振りながら目を覚ました。

「よかった! 助かったんだね! 二人とも戻ってきたんだね!」

 浩はキョトンとする二人を見て、大喜びするのだった。

 

「まさか助けに来てくれるなんて」

 浩達から少し離れた場所にある坂の上。

 ウワサは、傍に立っているミリアと話をしていた。

 アノロンウェンは、拗ねてそっぽを向いている。

「まあ、私は神社の使い魔だから、あの場所へは簡単に行けるからね」

 ミリアがウサギの耳を撫でながら、そっけなく答える。

 あの戦いで、ミリアは全身、傷だらけになっていた。

 ウワサはそんなミリアを見つめた。

 

「アンタもやる気になったんだね」

 アノロンウェンは、今まで「見届けるだけ」と言っていたミリアに対し、殺意を抱いた。

 しかし、ミリアがやっとやる気になった事で、その殺意が消えつつあった。

「死ねばいいのに、なんて言ってすまなかったよ」

 アノロンウェンはミリアを睨みつけるように言った。

 その言葉には、まだ少し不満げな響きがあったが、以前のような本気の殺意は感じられない。

 ミリアは軽く肩を竦めた。

「ずっと見届けているだけじゃ、いつまで経っても呪いは解けないからね」

 そう言うと、ミリアはウサギの耳を少しピクリと動かした。

 ウワサの力によって『あの世の車』が消滅したのを見て、ミリアの中で何かが変わったのだ。

 それは、ウワサならば、自分自身の呪いも解けるのではないかというかすかな希望だった。

「ま、そういう事ならアタシも文句は言わないさ。せいぜい役に立つんだね。

 アタシは神を信じないから、呪いは効かない。エンネアもね」

 アノロンウェンはフンと鼻を鳴らし、再びそっぽを向いた。

 

「……ありがとう、ミリア。君も早く呪いが解けるといいね」

 ウワサは優しい表情でそう言う。

「呪いが、解ける……」

 それは、ミリアが一度も言われた事のない言葉だ。

 ミリアは、耳を撫でる手を下ろすと、フッと笑った。

「ほんと、変な子」

 息を漏らしながら、肩を竦める。

「だけど、キミとだったら」

 ミリアは、一歩、ウワサに近寄った。

「呪いを解く方法は、私にも分からない。

 今まで何人も呪われた子はいたけど、みんな分からないままだった。たった一人を除いて」

「えっ?」

 それはつまり、呪いが解けた人がいたという事だ。

「それは誰なの?」

「さあ、大昔の事だからよく分からないよ。だけど、呪いを解く方法はある。

 私とキミなら、それを見つけられるかもね」

 ミリアはウワサに手を差し出す。

「ミリア……」

 ウワサは、少し戸惑いながらも、ミリアを見た。

 ミリアは、ウワサに呪いをかけた神社の使い魔だ。

 しかし同時に、ウワサと同じ呪われた人でもある。

 ウワサは、ミリアに向かってゆっくりと手を差し出す。

 

「一緒に呪いを解く方法を探そう」

 ウワサはそう言うと、ミリアと握手をするのだった。




~災悪紹介コーナー~
アノロンウェン「なーにかな?」
ウワサ「なーにかな?」
二人「今週は、これ!」

あの世の車
出現場所:住宅街、細い路地
攻撃手段:異空間への拉致、精神拘束

アノロンウェン「骸骨が運転する霊柩車なんて悪趣味だね!
        アタシが真っ二つにしてやろうとしたのに、
        ウワサが自分から車に轢かれに行くもんだから心臓が止まるかと思ったよ。
        ミリア、アンタも傷だらけになってまで助けに入るなんて、
        一体どういう風の吹き回しかい?」
ミリア「ウワサがあの世に連れて行かれたら仕事がなくなっちゃうでしょ?
    それにしてもウワサ、あの世の空間でよく意識を保てたね。根性あるんじゃない?」
ウワサ「ミリアが助けに来てくれなかったら、今頃、僕は戻ってこれなかったよ。ありがとう。
    でも、ナンバープレートのない霊柩車に無理矢理乗せられるなんて、
    浩君や慎一君達がどれだけ怖かったか。あの中は本当に、冷たくて暗い場所だった……」
アノロンウェン「ま、結果オーライだね。
        クソウサギ……じゃなかった、ミリアもやっと協力する気になったみたいだし。
        エンネアやマコトに先を越される前に、
        アタシ達で呪いの根源を叩き潰してやるよ!」
ウワサ「うん。ミリア、一緒に呪いを解く方法を見つけよう。
    かつて、呪いを解いた『誰か』に、僕達もなれるはずだ」
ミリア「期待してるよ、ウワサ。
    キミのその甘い考えが、この世界の理を壊せるかどうか……楽しみにしてるね!」
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