呪ワレタ少年 Krieg   作:アヤ・ノア

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~前回までのあらすじ~

小学生の晴喜と健一郎は、帰り道に突然発生した不気味な濃霧に閉じ込められてしまう。
健一郎が「呪われた少年」の名前を呼んだ事で、異空間を操る災悪に狙われたのだ。
ループする道に困惑する二人の前に、宙に浮き手招きをする不気味な老婆が現れる。
絶体絶命の瞬間、少年とアノロンウェンが介入し、レイピアの氷で老婆を封じる。
そして少年は災悪の真名を書き記し、異界と化した町を元の姿へと解き放った。
少年は「関わってはいけない」と告げ、守護を誓うアノロンウェンと共に人混みへ消えた。


第4話 仲良くなれる方法

「昨日のサッカーの試合、最高だったよね」

 昼休み。

 6年4組の教室では、子供達が輪になって話をしていた。

 中心にいるのは、今田悟志だ。

 悟志の周りには、男の子だけではなく、女の子達もいる。

「ねえねえ、悟志くん、サッカーってルール難しいよね」

「私、最近興味持つようになったんだ。詳しく教えてほしいな~」

 女の子達は、悟志に楽しげに話しかける。

「おお、そうなんだ。サッカーを好きになってくれるのは嬉しいね」

 悟志は女の子達に笑顔を見せて、サッカーの話を始めた。

 一方、教室の隅で、そんな彼の姿を見ている女の子――北島亜美花がいた。

(いいなあ、悟志くんとあんなに積極的にお喋りができて)

 亜美花は、悟志の事が好きだった。

 明るく元気で、スポーツもできるし、話も面白い。

 悟志と仲良くなりたいといつも思っていた。

 しかし、仲良くなる勇気がなく、話の輪にも入る事ができなかった。

「ま~た、悟志くんの事見てるねえ」

 親友の小谷利佳が亜美花の傍にやって来た。

「ちょっと利佳ちゃん、声、大きいって。他の人に聞かれたらどうするの」

 亜美花が悟志を好きな事は、利佳しか知らない。

 利佳は慌てる亜美花を見て微笑むと、前の席の椅子に座った。

「悟志くん、人気あるから、このままだと他の子に取られちゃうよ」

「そ、それは」

 利佳の言う通りだ。

「思い切って、告白してみたら?」

「えええ?」

「私、応援するよ。絶対上手くいくって」

「だけど……」

 応援してもらえるのは心強い。

 だが、今まで悟志とまともに会話をした事もない。

 亜美花は、告白する勇気をどうしても持つ事ができなかった。

 

(はあ~、告白なんて絶対ムリだよねえ)

 放課後。

 亜美花は、家へと帰りながら、溜め息ばかり吐いていた。

(悟志くん、好きな人いるのかなあ)

 誰かと付き合っているという噂は聞いた事がない。

(実は、私の事好きだったり)

 亜美は微笑むが、すぐにまた大きな溜め息を吐いた。

(そんな事あり得ないよね。

 私は可愛いわけでも、クラスで目立つわけでも、お話が上手なわけでもないもん)

 ごくごく普通の女の子――それが、亜美花の自分に対する評価だ。

 そんな平凡な女の子が、どうしたら人気者の悟志と付き合えるようになれるのだろうか。

 亜美花はいくら考えても、いいアイデアが思い浮かばなかった。

(今日の星占いは一位だったのになあ)

 毎朝、亜美花はテレビの星占いをチェックする。

 占いやおまじないを、信じる方なのだ。

(占いの通り、上手くいけばいいのに)

「あっ」

 瞬間、亜美花はハッとして立ち止まった。

「そうだ、その手があった」

 亜美花は急に明るい表情になると、慌てて走り出した。

 

「ただいま!」

 家へ帰って来た亜美花は、すぐにリビングに向かった。

「御帰り、お菓子用意してるわよ」

 ソファーに座っていた母親が言う。

「後で食べる。それより、タブレット使っていいでしょ?」

 タブレットは、親に許可をもらえば使う事ができる。

 亜美花はいつもゲームをしたり、動画を見たりしていた。

「いいけど、急にどうしたの?」

「ちょっと調べたい事があって」

 亜美花は、棚に置かれていたタブレットを手に取ると、2階の自分の部屋に駆け込んだ。

(これさえあれば、悟志くんと付き合えるかも)

 ベッドに腰を下ろした亜美花は、タブレットの画面を見ながらニヤニヤと笑う。

 いいアイデアが思い浮かんだのだ。

 

 恋が叶う方法をネットで探して、悟志に好きになってもらう。

(悟志くんが私の事を好きになってくれれば、すぐに付き合えるよね)

 自分から告白する勇気はない。

 だったら、悟志から告白してもらえばいいのだ。

 ネットには、色んな恋が叶う方法が載っている。

 それを実際にやれば、きっと付き合えるようになれるはずだ。

「どれが一番効果あるかな?」

 亜美花は、ワクワクしながらネットを調べていく。

「恋が叶う神社か。場所が遠いなあ。こっちは、100本のバラを使ってやる恋が叶う儀式。

 100本なんて買うお金あるわけないでしょ」

 なかなかこれといったものがない。

 亜美花は、おまじないの内容をブツブツと呟きながら、一つ一つ見ていった。

 すると、あるおまじないのページに目が留まった。

 

 角砂糖に好きな人の名前を彫って、それを紅茶に入れて飲むと、両想いになれる。

 

「これってありかも!」

 亜美花は部屋を出ると、1階のリビングに走った。

「ねえ、角砂糖ってある?」

 ソファーに座っていた母親に声をかける。

「ええ、あるけど」

 母親は、目の前のテーブルを見る。

 ちょうどコーヒーを飲んでいて、角砂糖が入った容器が置かれていた。

「1つ、ううん、予備も入れて2つちょうだい」

 亜美花は、ティッシュを手の上に広げると、そこに角砂糖を2つ載せた。

「そんなもの何に使うの?」

「とってもいい事。あと、安全ピンあるかな?」

「ええ、そこの棚に入ってるけど」

「ありがとう! あ、紅茶も淹れておいて」

「紅茶? コーヒーならあるけど」

「それじゃあ駄目なの! お願い!」

 亜美花は、安全ピンを棚の中から取ると、階段を駆け上がった。

(普通のペンとかじゃ、文字が彫れないもんね)

 角砂糖は小さいため、彫るのに安全ピンの針を使おうと思ったのだ。

 部屋に戻ってきた亜美花は、椅子に座り、角砂糖を机の上に置いた。

「よし」

 亜美花は、安全ピンを持つと、針で悟志の名前を彫り始める。

「今……田……悟……」

 だが、『志』という文字を彫ろうとした瞬間、角砂糖が半分に割れてしまった。

「ああん、もお~!」

 思ったより彫るのが難しいため、予備を用意していてよかった。

「慎重に彫らなくちゃだよね……」

 亜美花は、新しい角砂糖に安全ピンの針を当てると、ゆっくりと動かした。

 

 今……田……悟……志

 

 今度はちゃんと彫る事ができた。

「やった!」

 亜美花は、割れないように角砂糖を慎重にティッシュに包むと、再び1階へ向かった。

 リビングの横にあるキッチンでは、ちょうど母親が紅茶を淹れていた。

 母親は、砂糖を入れようとしている。

 亜美花はそれに気づき、慌てて駆け寄った。

「砂糖はあるから大丈夫だよ」

「え、ああ~、さっき持っていったやつね」

 亜美花は「そうそう」と言って、紅茶の入ったカップを手に取ると、

 母親に見られないように角砂糖を入れた。

(名前が彫ってあるのを見られると、説明するのが面倒だもんね)

 スプーンで混ぜると、今田悟志と彫られた角砂糖が紅茶の中で溶けていく。

 完全に溶けたのを見届けると、亜美花は紅茶を飲み始めた。

(これで、悟志くんと両想いになれる!)

 亜美花は、紅茶を飲みながら、満面の笑みを浮かべるのだった。

 

 翌日。

 亜美花は、ワクワクしながら学校にやって来た。

(いつ、悟志くんが話しかけてくるのかな)

 もしかしたら、そのまま告白されるかもしれない。

(そうなったら、今日からカップルだよね)

「おはよー」

 靴箱で靴を履き替えていると、利佳が声をかけてきた。

「亜美花ちゃん、ニヤけてるけど何かいい事あった?」

「え、ニヤけてた?」

 自分でも気づかない内に、笑みを浮かべていたようだ。

「べ、別に。今日はいい天気だなあって思って」

「えー、けっこう曇ってるよ」

「あ、うん、ほんとだ。あははは」

 亜美花は無理に笑って誤魔化した。

(おまじないの事は言わない方がいいよね)

 亜美花が悟志の事を好きなのは利佳も知っている。

 だが、利佳はおまじないなどあまり信じない方だった。

「まあ、今日も元気に勉強頑張ろう~!」

 亜美花は、わざとらしいぐらいに明るく笑って、利佳と共に教室に向かった。

 

 1時間目が終わった。

 2時間目が過ぎ、3時間目、4時間目が過ぎ、昼休みになった。

 しかし、悟志が好きになってくれた気配はなかった。

 昼休みが終わり、午後の授業も終わった。

 

 放課後。

 結局、亜美花は悟志と何の進展もないまま、学校から帰る事となってしまった。

(両想いになれるって信じてたのに……)

 亜美花は、教室を出て靴箱に向かいながら、ガックリと肩を落とす。

 

「へえ、悟志くんってそうなんだ~」

 ふと、靴箱の方から声がした。

 見ると、悟志がクラスの男の子と喋っている。

「まさか、悟志くんがあの子の事を好きだったなんてね」

(えっ!?)

 亜美は、反射的に物陰に身を隠し、悟志達を見た。

「いやあ、なんか急にいいなあって思ってさ」

(それってまさか……)

 亜美花は、自分の事を言っているのだと気づいた。

 角砂糖のおまじないは効果があったのだ。

 悟志は、照れながらもその好きな相手の事を、男の子に話した。

 

「僕、小谷利佳さんが好きなんだ」

 悟志の好きな相手は自分ではなかった。

 それどころか、親友の利佳だったのだ。

(そんなの、あり得ない……)

 おまじないをしたのも、悟志の事が好きなのも、自分だ。

(それなのにどうして……)

 動揺しながらも、亜美花は苛立ちを感じ始めた。

 このままでは、利佳に悟志を取られてしまう。

(そんなの絶対に嫌だ!)

 何とかしなければならないが、どうすればいいのか分からない。

「あっ」

 瞬間、亜美花の脳裏にあるアイデアが浮かび、ニヤリと笑う。

 そして、悟志達が箱から去って行ったのを確認すると、

 慌てて靴を履き替え、急いで家へと走った。

 

「お母さん、絶対部屋を開けないで!」

 家に帰ってくると、亜美花はタブレットを手に取り、2階の自分の部屋に閉じこもった。

 眉間に皺を寄せながら、検索を始める。

 だが調べるのは、恋が叶う方法ではない。

 

 必ず失恋する方法。

 

 それを探し、利佳にそのおまじないをかけようと思ったのだ。

「利佳ちゃんが悟志くんと付き合うなんて許さない!」

 亜美花はネットで次々と探していく。

「絶対に効果のあるもの……失恋する方法…」

 目を見開き、ネットを見ていく。

 だが、なかなか効果がありそうなものは見つからない。

「どうしてないのよ?? このままじゃ私が不幸になっちゃうじゃん!」

 亜美花は苛立ち、タブレットの画面を何度もタップした。

 すると、あるページで止まった。

「何これ?」

 それは、恋や失恋する方法などの情報が書かれた掲示板だ。

 その掲示板に、見関係なさそうなある噂が書かれていた。

「これは、『呪われた少年』についての噂です?」

 亜美花は興味を覚え、口に出しながらそれを読んだ。

「少年は、白い服を着ています。そして、左の目だけが赤色です。

 その少年の名前を言うと、あなたは呪われます。少年の名前は、×××××です。あっ」

 思わず名前を言ってしまった。

「も~、言っちゃ駄目なら書かないでよ」

 亜美花は戸惑うが、掲示板の下に、この噂を見た人達のコメントが書かれていた。

 

 こんなの嘘に決まってるじゃん

 ちょっと怖かったけど、あるわけないよね

 ないない。こんな噂知らないし

 

「よかった~。そうだよね、こんなのあり得ないよね」

 誰かが、みんなを怖がらせようと思って嘘の噂を流したようだ。

「そんな事より、失恋する方法を探さないと」

 亜美花は少年の話を気にするのをやめ、再び画面をタップした。

 画面に、『失恋』という文字が見えた。

「これって」

 亜美花は凝視する。

 どうやら、必ず失恋させられるようだ。

 その感想が、先ほどと同じようにコメントで書かれている。

 

 凄く効果あったよ!

 好きだった人が、彼女と別れて、私と付き合うようになりました!

 これ以上の失恋系の方法ってないかも!

 

 皆、高い評価を書いている。

「これだ!」

 亜美花は、改めておまじないの内容を確認する。

「……金曜日にやればいいんだね」

 亜美花は、ニヤリと笑うと大きく頷いた。

 

「わあ、亜美花ちゃんの家で遊ぶの久しぶりだねえ」

 金曜日の放課後、亜美花は、利佳を家に誘った。

「それで、お部屋でやりたい事って何なの?」

「うん、利佳ちゃんもきっと喜ぶと思うよ」

 亜美花は、机の上を見る。

 そこには、爪切りが置かれていた。

「これを使って、今からおまじないをしようよ」

 亜美は爪切りを手に取ると、利佳に見せた。

「利佳ちゃんが、おまじないあんまり信じないのは知ってるよ。

 だけど、これはほんとに凄いんだ。何でも夢が叶うんだ」

 もちろん、嘘だ。

 金曜日に、爪切りで爪を切ると、失恋をする。

 それが、亜美花が見つけた『失恋する方法』だった。

「へえ、なんか面白いかも。やってみよっか」

 利佳は信じていないようだが、こういうのをやって盛り上がるのは好きなようだ。

「うんうん、やってみて!」

「分かった。何でも夢が叶うかあ。あ、じゃああれにしょ」

「何にするの?」

「私の願いはね、亜美花ちゃんと、『これからもずっと一緒にいられますように』だよ」

「えっ」

「なんか、言うの恥ずかしいけどね」

「利佳ちゃん……」

 悟志の片想いの相手が利佳だと分かり、ずっと苛立っていた。

 騙して、恋が上手くいかないようにした。

 だが、利佳は何も悪くない。

 片想いをしているのは、悟志で、利佳はその事すら知らないのだ。

(それなのに、私)

 亜美花は、笑顔を浮かべる利佳をじっと見つめた。

「ごめん、利佳ちゃん、私、酷い事しちゃった」

 亜美は、わざと恋が上手くいかないようにしていた事を話した。

「悟志くんが、利佳ちゃんの事を好きみたいなの。それで私……」

 悟志の事を聞き、利佳は驚くが、すぐに笑顔になった。

「私は悟志くんの事、ただのクラスメイトとしか思ってないよ」

「えっ、そうなの?」

「うん、だって私、となりのクラスの本郷くんが好きだもん」

「そうだったんだ」

 本郷は、悟志とはまるで違う、真面目で物静かな男の子だ。

「利佳ちゃん、ああいう感じがタイプだったんだね」

「言わないでよ。今まで誰にも言ってなかったんだから」

 亜美花と利佳は、同時に笑った。

「そうだ、せっかくだから、今まで以上に仲良くなれる方法とか探して一緒にやってみようよ」

 利佳が微笑みながら提案する。

「利佳ちゃん、そういうの信じてないんでしょ?」

「信じてはないけど、亜美花ちゃんと一緒にやってみたいよ」

「利佳ちゃん……。うん、やってみよう!」

 利佳が親友でよかった。

 亜美花は満面の笑みを浮かべて、利佳と検索し始めるのだった。

 

(はあ~、私、とんでもない事をするところだったよ)

 夕方。

 利佳は家へと帰り、亜美花は一人、リビングにいた。

 危うく親友を失うところだった。

(おまじないとか、もうあんまりしない方がいいよね)

 もしやるとしても、いい効果のあるものだけにした方がいいだろう。

 亜美花はそう反省しながら、ジュースでも飲もうと、冷蔵庫に向かった。

―ガタ ガタ

 突然、廊下の方から音がした。

「えっ?」

 何かが動く音だ。

 亜美花は、廊下に出た。

―トン トン トン

 階段の方から音がする。

 誰かが2階に登って行ったようだ。

「誰?」

 母親は、今日は仕事でまだ帰って来ていない。

 父親もこんな時間には家にはいない。

「利佳ちゃんなの?」

 忘れ物でもして、取りに戻って来たのだろうか?

 亜美花は玄関まで行き、階段を見上げるが、誰の姿もない。

 玄関に、利佳の靴も置かれていない。

「じゃあ、誰?」

 音がしたような気がしただけなのだろうか?

―ドンッ

 2階から大きな音が響いた。

 やはり誰かがいる。

「だ、誰なの?」

「ずっと……いっ……しょ」

 かすかに声が聞こえた。

「利佳ちゃん?」

「ずっと……いっ……しょ」

 声は、2階から聞こえて来る。

「どうしたの? 忘れ物なの?」

 亜美花は、戸惑いながらも、階段を上がった。

 だが、廊下に利佳の姿はない。

「お部屋にいるの?」

 亜美花は自分の部屋を覗いたが、利佳の姿はない。

「利佳ちゃん、どこ?」

「ずっと いっしょ」

「えっ?」

 背後から声がして、亜美花は後ろを振り返るが、誰もいない。

「ね、ねえ、どこにいるの?」

 亜美花は辺りを見回す。

―ドンッ

 壁から大きな音がした。

「えっ?」

 音がしたのは、廊下の突き当たりの壁だ。

「何なの……?」

 亜美花は、戸惑いながら壁に近づく。

 壁に、文字が書かれている。

 赤色で書かれていて、インクが垂れている。

 亜美花は、壁をじっと見つめ、文字を確認した。

 

 ズウウウウウウット イッショオオオオオオ

 

「何、これ……」

 瞬間、亜美花は背後に気配を感じた。

 ハッとして振り返ると、真後ろに血だらけの女が立っていた。

 次の瞬間、女は口を大きく開き――

 

「ちょっと待ったぁ!」

ギャアアアアアアアア!!

 その時、いきなり女の口に三叉槍が刺さり、女の身体は凍り付いてしまった。

「やったね、アノロンウェン!」

「な、何!?」

 大急ぎで少年は、槍が飛んできた現場に駆け寄る。

 慌てる亜美花を尻目に、少年は突き刺さった槍を抜き、両手で構える。

「こいつを弱らせて、名前を聞き出そう!」

 少年は槍を思いっきり凍り付いた女に叩きつけた。

 氷は砕け散り、女は少年を噛みつこうとするが、

 少年は槍を女に突き刺すと、傷口から再び凍り付く。

 女が完全に動かなくなった事を確認した少年は槍を手放すと、手の中のペンを握った。

 刹那、ペンの表面に見た事もない奇妙な模様が浮かび上がる。

 少年がペンを走らせると、宙に青白い炎が現れ、円が描かれた。

「ズウウウット イッショオオオ」

 少年の赤い目が光り、その目に何かが視える。

 それは、女の『名前』だ。

「全ての災悪を、この光によって打ち消さん! お前の名は――」

 少年は、ペンを走らせ、空中に文字を書いた。

 

 ズ ッ ト イ ッ シ ョ

 

 瞬間、ズットイッショが苦しそうな表情になる。

 ズットイッショに罅が入り、光が漏れ出す。

 次の瞬間、ズットイッショは跡形もなく消滅した。

 

「私……生きてる……?」

 亜美花は怪我をする事なく、無事に生きて帰れた。

 すると、三叉槍は人間の姿になり、アノロンウェンは亜美花を睨みつけた。

「アンタ、呪われた少年の名前を言ったよね?

 まったく、アンタがまともにやり合えない災悪を出すんじゃないよ」

「や、やり合えないって……そんな……」

 今までアノロンウェンが戦ってきた災悪は、いずれも当事者が自力で戦えなかった。

 彼女はそれに苛立って、魔法で災悪と戦っている。

 恐怖の本質は自力で戦えない無力さ――彼女はそう思いながら、少年を追っていた。

 

「さあ、次に行くよ! あいつを追いかけなくちゃね!」

 そう言ってアノロンウェンはその場を立ち去った。

 気が付くと、少年の姿もなくなっていた。




~災悪紹介コーナー~
アノロンウェン「なーにかな?」
ウワサ「なーにかな?」
二人「今週は、これ!」

ずっと一緒
出現場所:家の中、特に階段や自室の壁
攻撃手段:ラップ現象、壁への血文字、背後からの急襲

アノロンウェン「ふん、今回の災悪は名前からして気味が悪いね。
        ずっと一緒だなんて……アタシなら三秒で願い下げだよ!」
ウワサ「それは君が自由奔放な戦士だからでしょ。
    この災悪は、歪んだ友情や執着心が噂と混ざり合って生まれたものなんだ。
    亜美花ちゃんが親友に対して抱いた、一瞬の暗い感情に付け込んだんだね」
アノロンウェン「それにしても、あの血文字! せっかくの綺麗な壁が台無しじゃないか。
        氷漬けにして砕いてやったから掃除の手間が省けたと思ってほしいね」
ウワサ「いや、氷が溶けた後はもっと大変な事になってると思うけど。
    あと、君、今回は槍に変身したんだね」
アノロンウェン「槍先が三つあれば、あんな未練がましい女の口を塞ぐのも簡単だからね。
        しかし、あの亜美花、最後は親友と仲直りしてて安心したよ。
        戦えないなら、せめて絆くらいは大事にしないとね」
ウワサ「そうだね。……さて、ペンが次の場所を指してる。
    今度はもっと一人になりたい場所だといいんだけど」
アノロンウェン「贅沢言うんじゃないよ! アタシがついてるんだ、退屈はさせないさ。
        行くよ、ウワサ!」
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