中学生の亜美花は、片想いを叶えるために角砂糖のおまじないをするが、
失敗して親友の利佳と好きな人が両想いになってしまう。
嫉妬に駆られた亜美花は利佳を失恋させる呪いを探す中で、
不注意にも「呪われた少年」の名前を口にする。
利佳との和解を経て改心した直後、家の中に執着心の化身である災悪が現れ、亜美花を襲う。
絶体絶命の窮地に、三叉槍に変身したアノロンウェンと少年が駆けつけ、災悪を撃退する。
少年が真名を暴いてで災悪は消滅し、
アノロンウェンは無力な人間に苛立ちを見せつつも少年と共に去った。
おまじないに頼った事で親友を失いかけた亜美花は、
自らの過ちを深く反省し、平穏を取り戻すのだった。
「あ~あ、ハンバーグの方がよかったのになあ」
夕方。
中学1年生の服部和葉は、母親とスーパーに買い物に来ていた。
和葉は夕食にハンバーグをリクエストしたが、母親は魚に決めてしまったのだ。
「魚だって美味しいわよ」
「それはそうだけど。せっかく荷物持ってあげてるのに」
「感謝してるわよ。今度ハンバーグにするから」
「ほんと!!! よおし、じゃあ帰りは私が荷物全部持つね!」
和葉は上機嫌になると、レジに並んだ母親を入り口付近のテーブルで待つ事にした。
「ん?」
ガラス越しに見える入り口の傍に、一人の少年と女性が座っている。
少年は荒く呼吸をしていて、苦しそうにしていた。
そんな少年を、女性は心配していた。
和葉は心配に思い、外に出て少年に声をかけようとする。
「大丈夫?」
年齢は同じぐらいに見える。
この辺りでは見かけた事のない顔だ。
少年は耳にイヤホンをしているが声は聞こえたようで、
荒く呼吸をしながら、和葉の方に僅かに顔を向けた。
左目が赤色のオッドアイ。
少年は、そんな目に涙を浮かべていた。
女性はそんな少年を、何とか宥めようとしていた。
「ね、ねえ」
和葉が傍に近づこうとすると、少年は急に立ち上がった。
「僕に、関わっちゃいけない」
「……って言ってるみたいだからね。アタシがこいつを守るのさ」
「えっ?」
女性……アノロンウェンは、いつの間にかレイピアを構えていた。
少年は、苦しそうな顔をしながらも、フラフラしながらその場から去って行く。
「あ、ちょっと」
近寄りがたい雰囲気があるが、このまま別れるわけにはいかない。
少年とアノロンウェンは、道路の角を曲がる。
和葉は走ると、同じように角を曲がり、少年とアノロンウェンに声をかけようとした。
「えっ?」
少年とアノロンウェンの姿がない。
和葉は周りを見るが、どこにもいない。
「どういう事……?」
少年とアノロンウェンは、煙のように消えてしまったのだ。
その夜。
和葉は家族と夕食を食べながら、少年とアノロンウェンの事を話していた。
「おねえちゃん、その人たち、ゆうれいだよお」
5歳の妹の梓が興奮しながら言う。
「何言ってるの。そんなのいるわけないでしょ」
和葉は呆れるが、梓はブンブン首を横に振った。
「いるよ。瑠留ちゃんが見たっていってたもん」
瑠留とは、梓と同じ幼稚園の女の子だ。
梓は、怖い話や不思議な話が大好きらしい。
「この前ね、瑠留ちゃんからすご~くこわいお話おしえてもらったんだ」
「え、どんな話?」
「『のろわれた少年』ってお話だよ」
「何それ?」
「その人は白いふくをきてて、ひだりの目が赤いの。名前をいうと、のろわれちゃうんだよ」
「呪われる?」
「瑠留ちゃんのおにいちゃんが名前をかいた紙もらったよ」
梓は、棚に置いてあった通園バッグから紙を取り出し、和葉に見せた。
和葉は、その名前を見つめる。
「×××××?」
「あ、いっちゃだめだよ!」
「え?」
和葉は、少年の名前を言ったら呪われる事を思い出した。
「も~、おねえちゃん、のろわれちゃうよ」
「そんなのあるわけないでしょ。何回言っても平気だよ」
××××× ××××× ××××× ×××××
和葉は笑いながら何度も名前を言った。
「おねえちゃん!」
梓は泣きそうな顔になる。
「和葉、もうやめなさい」
「そうだぞ、そんな事するなら、明日映画行くの中止にするぞ」
母親と父親が注意をした。
「え? 中止?そんなのダメだよ!」
明日は、家族でショッピングモールに行ってアニメ映画を見る事になっていた。
和葉はずっと楽しみにしていたのだ。
「ご、ごめんね、梓……」
和葉は自分だけ怒られた事に納得できなかったが、とりあえず、梓に謝る事にした。
(どうして、私が怒られなくちゃいけないのよ~)
深夜。
和葉は部屋のベッドで横になりながら、夕食の出来事を思い出していた。
(梓が変な話をするのが悪いんでしょ)
隣のベッドでは、梓がスヤスヤ眠っている。
そんな梓を見て、和葉はイライラする。
「ったく~」
稲葉は、気分転換にお茶でも飲もうと、部屋を出た。
(も~、この事は忘れて、とっとと寝なくっちゃ)
キッチンで飲み物を飲み終えた和葉はそう思う。
(映画の後は何食べようかな~)
楽しい事だけを考えながら、部屋に戻ろうとした。
―するんですよ~。
ふと、部屋の方から声がした。
「何?」
梓の声だが、先程まで寝ていたはずだ。
「起きたの?」
和葉は、入り口から、部屋を覗き込んだ。
「えっ?」
薄暗い部屋の中で、梓がベッドの上に座っている。
何かを抱えるように持っていて、それに話しかけているようだ。
―おねんねするんですよ~。
あやすように手を揺らしながら、薄暗い部屋の中で呟いている。
「何やってるの?」
和葉は戸惑いながら、照明のスイッチを押した。
部屋が明るくなり、梓が照らされる。
その手には、日本人形を抱いていた。
「それって」
亡くなった祖母が大切にしていた赤い着物を着たおかっぱの女の子の人形だ。
祖母が亡くなった後、梓が気に入り、部屋に飾る事にしたのだ。
「おねえちゃん……?」
梓はキョトンとした表情で、和葉を見る。
「こんな時間に、どうしてお人形ごっこなんかしてるの?」
「お人形ごっこ?」
梓は、自分の手を見た。
「わ。なにこれ?」
どうやら、自分が人形をあやしていた事に気づいていなかったようだ。
「寝ぼけてたの?」
「う~、そうかも」
梓は時々寝ぼける事がある。
以前も、深夜に両親の寝室にやってきて、「ケーキはまだ?」と言ってきた事があった。
ケーキを食べようとする夢を見ていて、目覚めても夢と現実の区別がつかなくなっていたのだ。
「だけど、わたし、お人形ごっこの夢なんか見てないよお」
「いいから、早く寝た方がいいわよ。映画見てる時に眠くなるのは嫌でしょ」
「それはヤダ」
梓はあわてて、人形をいつも置いている棚の上に置くと、ベッドに戻った。
「じゃあ、おやすみ」
和葉はそれを見届けると、部屋の照明のスイッチを切り、自分のベッドに入ろうとした。
―フフフフフフ。
薄暗い部屋の中で、かすかに笑い声が聞こえた。
「あのねえ、笑ってないで、ちゃんと寝て」
和葉は呆れながら言う。
だが、梓はベッドの中から上半身を起こし、和葉の方を見て首を傾げた。
「わたし、笑ってないよ」
「えっ?」
確かに笑い声がかすかに聞こえた。
「じゃあ、今のは……?」
稲葉は思わず呆然となってしまうのだった。
「はっはっは。それは多分和葉も寝ぼけてたんだよ」
翌朝。
和葉は、家族と共にショッピングモールに出かける準備をしていた。
服を着替えていた父親は、笑い声がしたという話を聞き、そう推理した。
「私は寝ぼけてなんかなかったよ。ほんとに怖かったんだから」
和葉が困惑していると、化粧を終えた母親がリビングに戻って来た。
「和葉の話も怖いけど、梓がお義母さんの日本人形で遊んでいたというのも怖いわね」
「うん、わたし、お人形みるのこわくなっちゃった」
準備を終えてソファーに座っていた梓が答える。
「あれって、ほんとに私をビックリさせるためにしたんじゃないんだよね?」
「わたし、そんな事しないもん」
「それならいいけど」
考えれば考えるほど、何だか不気味に思える。
すると、父親が「考えすぎだよ」と言った。
「梓も和葉と同じで、寝ぼけていて、夢と現実がゴッチャになっていただけだよ」
「それは……」
目ははっきりと覚めていたような気がするが、和葉はだんだん自信がなくなる。
「まあ、もうその話は終わりにしましょう。さあ、映画に行くわよ」
「そ、そうだね」
楽しみにしていた映画を台無しにはしたくない。
和葉は気を取り直して、出かける事にした。
町の道路に、白い服を着た少年と、マントを纏った女性が立っている。
白い服を着た、あの少年だ。
少年の手の上には銀色のペンが浮かんでいて、ある方向を指し示している。
少年はそれをじっと見つめていた。
「ああ、また、災悪が現れるなんて……」
「ああ、またかい? だったら倒すだけだよ」
アノロンウェンはレイピアを構える。
少年はイヤホンを耳から外し、ペンの指し示した方へ歩き始めようとした。
その時……。
―キィィィ
角を曲がってきた車が背後で止まった。
道路の中央に、少年とアノロンウェンが立っていたから、慌てて停車したのだ。
「怪我はないかい?」
運転席の窓を開け、男の人が少年とアノロンウェンに声をかける。
少年は小さく頷き、脇に寄ると、そのまま歩き出そうとした。
「ちょっと待って!」
車の後部座席のドアが開き、女の子……和葉が降りてきた。
車には、和葉の家族が乗っていた。
「君達、スーパーの外にいたよね?」
和葉は少年とアノロンウェンを驚きながら見る。
「幽霊じゃなかったんだ」
「アタシらは幽霊じゃないっつーの」
「あ、ごめん」
先日消えてしまった少年とアノロンウェンが存在していて、和葉はホッとする。
「それよりほんとに大丈夫だったの?」
和葉はスーパーの前で出会ったときの事を思い出し、少年とアノロンウェンに近づこうとした。
すると、アノロンウェンは笑顔で手を差し出した。
「よかったら、一緒に行くかい?」
「あ……うん!」
「じゃ、一緒に行こう……おっと、あいつが逃げたみたいだね」
足早に角を曲がり、去って行った少年を見ながら、アノロンウェンも彼を追いかけた。
「和葉、行くわよ。あの子達、大丈夫そうに見えたわ。だから車に乗って」
「う、うん……」
「はっはっは。あの子達がスーパーで会った子かい? 幽霊じゃなくて残念だったねえ」
「別に残念とかじゃないけど」
少年がどこの誰なのかも分からない。
和葉は、少年の事を心配しながらも、車に乗り込むのだった。
が、和葉達の前から去った少年とアノロンウェンは、ふと、歩みを止めた。
少年は手の上に浮いているペンを見る。
ペンはゆっくりと回転している。
アノロンウェンは、レイピアの手入れをしていた。
そして止まると、少年とアノロンウェンが歩いて来た方向を指し示した。
「方向が変わった。……もしかして」
少年とアノロンウェンは、慌てて来た道を戻る。
そして和葉達を探したが、車は既に走り去った後だった。
「遅かったようだね。追うよ」
「……分かっ……」
アノロンウェンに言われ、すぐに追いかけようと思うが、一瞬立ち止まった。
「行けば、また災悪が……」
「何言ってんだい。倒しなよ。
アタシはね、自力で戦えない無力な奴や、アンタみたいな卑屈な奴を守りたいんだよ。
アンタは、災悪を倒すために追いかけてるんだろ? ここで逃げたら誰かが死ぬよ!」
叱咤激励するアノロンウェンに、少年の顔に僅かな笑みが浮かんだが、すぐに消えた。
「アノロンウェン……君が、パートナーで、よかった」
少年は、目を深く瞑り、自分の拳で太ももを叩き、震えを止めた。
「そうだ、戦おう!」
少年は目を見開くと、全身に力を入れ、その場から走り出した。
アノロンウェンは微笑みながら、レイピアを構えて少年を追いかけた。
「よおし、着いたぞ~」
しばらくして、和葉達はショッピングモールの地下駐車場に到着した。
「おねえちゃん、映画たのしみだね」
「う、うん」
和葉は少年とアノロンウェンの事がまだ気になりながらも、シートベルトを外した。
「映画の後、ご飯も食べよう」
「そうね。和葉が食べたがっていたハンバーグとかいいわね」
「わーい、ハンバーグ、わたしだいすき~!」
梓達は笑いながら、車を降りる。
和葉も外に出ようと思った。
その時、ふと、後部座席を見た。
「えっ?」
後部座席に、何かがポツンと置かれている。
おかっぱの日本人形だ。
「どうして人形があるの?」
「どうしたんだい?」
戸惑う和葉を見て、両親も傍にやって来た。
「車の中に日本人形があったの」
和葉は、両親に見せようと、人形を手に取った。
―バサッ
人形の黒い髪が、掴んだ和葉の手に垂れる。
「えっ?」
和葉と梓は同時に戸惑う。
おかっぱのはずの人形の髪が、腰の辺りまで伸びていた。
「何これ?」
和葉は梓の方を見る。
「これ、部屋にあった人形よね?」
「うん。だけどこんなに髪ながくないよお」
「おいおい、どういう事だい?」
父親は和葉から人形を受け取ると、ジロジロと眺めた。
「う~ん、ほんとに髪が伸びたみたいになってるねえ」
「あなた、まさかそんな事があるの?」
母親の言葉に、父親は「はっはっは」と笑った。
「そんなのあるわけがない。誰かのイタズラに決まってるよ」
父親は、和葉の方を見た。
「和葉、お前がやったんだな?」
「ええ? 私?」
「昨日の夜、寝ぼけて人形遊びをしていた梓にびっくりさせられただろう?
その仕返しをしようと思って、日本人形をこっそり持ってきたんだろ」
後部座席にあった人形を見つけたのは、和葉だ。
父親は、和葉がどこかに隠していたのだと思った。
「私、そんな事しないよ!」
和葉は必死に否定するが、父親は信じてくれないようだ。
そんな中、母親が人形をじっと見つめた。
「だけど、イタズラだとしても、この髪はどこから持ってきたのかしら?」
「そう言われれば、確かに」
父親も戸惑う。
「だから、私がやったんじゃないってば」
和葉は人形を見つけたせいで犯人扱いされ、思わず腹が立った。
その時……。
「うわっ」
父親が声を上げた。
和葉は父親の方を見ると、目を大きく見開いた。
日本人形の髪が、さらに伸びていたのだ。
「どういう事?」
さっきは腰の辺りまでだった。
それが今は足の辺りまで伸びている。
「おねえちゃん、なにそれ?」
「分からないよ」
「髪がズレたのかも」
父親は戸惑いながら、人形の髪を触った。
―バサーッ
瞬間、髪がうねるように伸びた。
「ひいっ!」
父親は驚き、人形を投げ捨てる。
「あなた!」
母親は父親の傍に近づこうとした。
だが、足に何か違和感を覚え、立ち止まった。
「お母さん?」
和葉はそんな母親に気づき、彼女の足元を見た。
足に、何かが絡みついている。
それは、黒い髪だ。
髪は、人形から伸びていた。
「きゃあああ!」
「お母さん!」
―フフフフフフ。
不気味な笑い声がする。
人形がカタカタと音を響かせながら、和葉達の方に首を動かした。
「うわあああ!」
―カタカタ カタカタカタカタ
人形が手足を動かし、ゆっくりと立ち上がる。
「あなた!」
「何だこれは??」
父親は母親の足に絡みついた髪を必死に外そうとする。
―フフフフフフ
瞬間、人形から髪がさらに伸びた。
その髪が父親の身体に絡みつく。
「うわっ!」
さらに、母親にも髪が巻きついた。
「お父さん、お母さん!」
「お、おねえちゃん!!」
梓が声を上げる。
和葉がハッとして顔を向けると、黒い髪がウネウネと動きながら梓の方に迫っていた。
「くっ、どこにいるんだ?」
「まったく、分からず屋ばかりだねぇ!」
少年とアノロンウェンは、ショッピングモールに来ていた。
手の上に置いたペンを見ると、ペンはクルクルと回転している。
「この近くにいるはずなのに……」
「風の精霊がいれば、よかったけどね」
全ての階を見たはずだ。
「後、残ってるのは」
アノロンウェンは、傍にあるショッピングモールの案内図を見た。
「あっ」
行っていない場所が、まだ1ヶ所だけあった。
地下駐車場。
少年とアノロンウェンは、慌てて階段を駆け下りた。
「早く助けないと! 僕達が絶対助けないと!」
「アタシらはそのために来たんだからね!」
階段を駆け下りながら、少年とアノロンウェンは叫ぶ。
やがて、地下駐車場へと続く鉄のドアの前に辿り着いた。
少年は目を大きく見開くとドアを勢いよく開けた。
―フフフフフフ
駐車場に不気味な笑い声が響いている。
一角に、ウネウネと蠢く巨大な塊が見える。
大量の黒い髪だ。
「助けて!」
髪の繭の中から、和葉の声が聞こえる。
「やめろ!」
「はいはい、やっつけるよ」
少年とアノロンウェンは、和葉達のもとへ全力で走った。
「しっかりしな! 助けに来たよ!」
髪をかき分け、必死に呼びかける。
すると、和葉の顔が見えた。
「あ、あなた達は……」
「手を伸ばして!」
「あとは、アタシがやるよ!」
少年は髪をかき分けながら、和葉に手を差し出す。
アノロンウェンは、レイピアを構えていた。
「う、うう」
和葉は全身に力を入れ、手を伸ばし、少年の手を掴んだ。
少年とアノロンウェンは全力で和葉の手を引っ張り、和葉は脱出した。
「さあ、やろうじゃないか!」
人形は髪を伸ばし、遠くからアノロンウェンを打ち据える。
アノロンウェンは呪文を詠唱し、人形を氷漬けにした。
少年は人形に近づき、人形の名前を知ろうとするが、人形は髪で少年を縛る。
「ぐ、うぁぁっ……!」
「大丈夫かい!?」
アノロンウェンは大急ぎで少年に近づき、回復魔法をかける。
傷はある程度癒したが、精神力は削られており、その顔には疲労が見えている。
アノロンウェンは人形の攻撃をレイピアでいなしつつ、
強化した突きを人形に放ち、人形に大ダメージを与えた。
少年は瀕死になった人形を睨み、ペンを強く握り締める。
「僕達は……お前を……!」
少年は、目をカッと見開く。
刹那、ペンの表面に見た事もない奇妙な模様が浮かび上がる。
少年がペンを走らせると、宙に青白い炎が現れ、円が描かれた。
―ウウウゥッ!!!
人形が怒ったような声を上げる。
少年は円の中に見える日本人形を睨んだ。
少年の赤い目が光り、その目に何かが視える。
それは、人形の『名前』だ。
「全ての災悪を、この光によって打ち消さん! お前の名は――」
少年は、ペンを走らせ、空中に文字を書いた。
カ ミ ノ ビ ニ ン ギ ョ ウ
瞬間、髪伸び人形の動きがピタリと止まった。
身体を小刻みに震わす。
―ウウゥ ギャアアア
次の瞬間、髪伸び人形の身体にヒビが入り、光が漏れ出す。
そのまま、粉々になって消滅した。
「任務完了」
アノロンウェンはレイピアをしまう。
和葉達は少年とアノロンウェンに駆け寄ろうとするが、少年は手を挙げ、それを拒んだ。
「君達の誰かが……『呪われた少年』の名前を言っちゃったんだ。
だから……災悪が現れてしまった……」
「まったく、困ったさんだね。こういう奴は、アタシが倒さなきゃいけないんだよ」
「名前……」
和葉は、自分が呪われた少年の名前を言った事を思い出した。
「私のせいで」
少年はそれを聞き、フラフラしながら立ち上がると、首を横に振った。
和葉は、そんな少年の姿を見て、ハッとした。
白い服を着ていて、左目が赤色のオッドアイ。
「もしかして、あなたは」
和葉は、昨日見た呪われた少年の名前が書かれた紙を思い出した。
壊井ウワサ
紙には、「壊井ウワサ」という彼の名前が書かれていた。
「僕に関わっちゃいけないんだ……」
「こいつは、そういういけ好かない奴なんだよ」
ウワサとアノロンウェンは和葉達にそう言う。
刹那、全身が痛み、ウワサは苦しそうな表情をする。
「あっ」
和葉は心配し近寄ろうとするが、足が思わず止まった。
彼は、呪われた少年なのだ。
ウワサは、そんな和葉を見つめる。
その表情は、どこか悲しそうだ。
やがて、ウワサは耳にイヤホンをつけると、
何も言わず、アノロンウェンと共にその場から去って行った。
「え、あのお兄ちゃんが?」
とある町。
小学5年生の内村晴喜は、一組の男女と話をしていた。
男は、中学生ぐらいの少年で、黒ずくめの服を着ている。
女は、男と同じくらいの体格で、手にはブーメランを持っている。
晴喜は、先日霧女に襲われた時、呪われた少年とアノロンウェンに助けられた。
「見つかったな」
「やはり、この町に来ていたようだな」
黒い服の少年と、ブーメランを持った女性が呟く。
「あのお兄ちゃんの事を知ってるの?」
晴喜が尋ねると、黒い服の少年は小さく頷いた。
「とてもよく知っているよ。彼さえいなければ、災悪は現れる事はない。だから、僕は……」
「……お前がそう言うならば、従うしかない」
黒い服の少年は、険しい表情でそう言う。
少年のその拳は、震えるほど強く握り締められていた。
~災悪紹介コーナー~
アノロンウェン「なーにかな?」
ウワサ「なーにかな?」
二人「今週は、これ!」
髪伸び人形
出現場所:和室、棚の上、車の後部座席などの閉鎖空間
攻撃手段:異常増殖する頭髪による拘束、絞殺、笑い声による精神攻撃
アノロンウェン「ふん、今回の相手は女の情念がこもった人形かい。
アタシの故郷じゃ、動く人形は大体壊して片付けるのが定石なんだけどね!」
ウワサ「物騒な定石だなぁ。
この災悪は、古びた人形に対する不気味さという噂が形になったものなんだ。
髪が伸びるっていうのは、古典的だけどそれだけに根深い恐怖なんだよ」
アノロンウェン「髪なんて、アタシのレイピアで切り刻んでしまえばただの糸くずさ。
それにしてもウワサ、アンタ、髪にぐるぐる巻きにされて……。
アタシが助けに入らなかったら、今頃アンタも日本人形の一部になってたよ」
ウワサ「返す言葉もない。でも、アノロンウェンの魔法のおかげで、
髪の動きを止められたから名前を暴く隙ができた。感謝してるよ」
アノロンウェン「はいはい、感謝なら次の戦いのキレで示しておくれよ。
しかし気になるのは、最後に現れた黒ずくめの少年達だね。
アンタを恨んでいるようだったけど……」
ウワサ「彼らの事は、今はまだ話せない。でも、僕のペンが今まで以上に激しく震えてる。
もっと大きな災悪が近づいているのかもしれない」
アノロンウェン「上等じゃないか!
どんな災悪が来ようと、アタシがアンタの隣で全部薙ぎ倒してやるさ。
さあ、行くよ!」