呪ワレタ少年 Krieg   作:アヤ・ノア

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~前回までのあらすじ~

小学生の海斗は、友人から「呪われた少年」の名前を教わり、
テレビ画面の中に不気味な灰色の影を目撃する。
憧れの先輩がプールで溺れた怪事件を機に、
友人と共に「名前」を知った事への恐怖を募らせていく。
進級テストの最中、海斗は突如として人気のない異空間へ引きずり込まれ、
水中の巨大な一つ目怪物に襲われる。
灰色の海藻に足を絡められ溺死寸前の海斗だったが、
間一髪でウワサとアノロンウェンがプールに介入した。
ウワサは名前を暴いて災悪を消滅させ、気を失った海斗は元の平穏なプールへと生還する。
その後、ウワサは自戒しつつも、アノロンウェンと共に次なる災悪の気配へと向かった。


第7話 雨に濡れた子供

 とある町。

 朝から雨が降っていた。

 公園にあるコンクリート製の滑り台のトンネルの中で、

 一人の少年と一人の女性が雨宿りをしている。

 少年は耳にイヤホンをしていて、白い服が濡れている。

 女性は水色の髪をしていて、レイピアを携えている。

 ウワサと、アノロンウェンだ。

 

「まったく、雨が降るからレイピアが汚れるじゃないか。ま、汚れないけどね」

 ウワサは、濡れた身体を震わせながら、雨が止むのを待っていた。

 アノロンウェンは、レイピアが刃こぼれしないように研いでいる。

 

「クゥゥ~ン」

 ふと、仔犬がトンネルの中に入ってきた。

 首輪をしている。

 迷い犬のようだ。

 白い毛がすっかりびしょ濡れになってしまっている。

「君も雨宿りかな?」

 ウワサは耳からイヤホンを外して、ハンカチを取り出すと、仔犬の身体を拭いた。

「クゥ~ン」

 そんなウワサに、仔犬はじゃれつく。

 それを見て、ウワサは目を細め、優しい笑みを浮かべた。

 その目は、左だけが赤い。

 

 トンネルの外から声がした。

 見ると、傘を差した小学生の男の子がブランコの近くにいた。

 手にはリードを持っている。

 どうやら仔犬の飼い主のようだ。

 

「よかったねえ」

 アノロンウェンは、けらけらと笑っている。

「君には帰る家があるみたいだね。さあ、行って」

「ワンッ」

 ルルは、トンネルを出ると、男の子の方へ走って行った。

「ルル! 探したんだよ!」

 男の子は傘を投げるように置くと、ルルを大切そうに強く抱き締めた。

 ウワサとアノロンウェンはその姿を遠くで見ながら、トンネルを出る。

 彼のその顔に雨が降り落ちる。

 雨が頰を伝い、まるで赤い目から涙が流れているように見える。

 アノロンウェンはウワサの雨を魔法で拭い、耳にイヤホンをつけるとその場から去って行った。

 

「アタシは何があってもアンタのパートナーだからね。信じるんだよ」

 

「もお~、ほんと今日は最悪だったよねえ」

 雨が降る中、小学5年生の竹田史帆と小向佑香が、傘を差しながら学校から帰っていた。

 史帆は、頰を膨らませながら怒っている。

「森下君って、どうしてあんなに人が嫌がる事を言うんだろうね」

 今日の掃除の時間。

 同じ班の森下が、史帆と佑香にある話をしてきた。

 それは、『呪われた少年』の話である。

 史帆は、以前塾の友達から同じ話を聞いた事があった。

 呪われた少年は、白い服を着ていて、左目だけが赤色なのだという。

 その少年の名前を言うと、呪われてしまうらしい。

 塾の友達は、紙にその名前を書いたが、史帆は何だか怖くてそれを見なかった。

 だが今日、森下が同じ話をして、さらにその名前を黒板に書いたのだ。

 

 壊井ウワサ

 

 森下は黒板に書いた後、あろうことか、その名前を口に出して言った。

「ほんと、信じられないよね」

 佑香も怒っている。

「私達も、もしかして呪われちゃったかな?」

「ええ? 史帆ちゃん、やめてよそういうの」

 史帆も怖がりだが、それに輪をかけて、佑香は怖い話が苦手だった。

「もしほんとに呪いがあるなら、名前を言った森下君だけが呪われればいいんだよ」

 佑香の言葉に、史帆は「確かにそうだよね」と言った。

「私達は大丈夫だよね」

「うんうん、全部森下君が悪いんだから」

 史帆達は怯えながらも、この話はもうやめようと思った。

 

 その時、前方に小さな男の子が立っている事に気づいた。

 小学1、2年生ぐらいだろうか?

 男の子は、何故か着物を着ている。

 傘も差さず、雨に濡れていた。

 男の子は濡れる事をまるで気にせず、史帆達の方を見ていた。

 その手には、お盆がある。

 

「何だろう、あの子?」

「ねえ、雨に濡れちゃうよ」

 史帆達は男の子を心配するが、彼はそれには何も答えなかった。

 代わりに、草鞋を履いた足で濡れた道路を歩きながら、

 ピチャピチャピチャと音を鳴らし、二人の傍にやって来た。

 史帆達の前で止まるとニッコリと笑い、お盆を上げた。

 

「食べる?」

「えっ?」

 お盆の上には小さな皿があり、そこには『豆腐』が置かれていた。

「ねえ、食べる?」

 男の子はニッコリと笑ったまま、また尋ねる。

「ええっと」

 史帆が戸惑っていると、佑香が答えた。

「何かのイタズラ? そんなの食べるわけないでしょ」

 佑香は、男の子が驚かせようと思って豆腐を持っているのだと思った。

「そっか」

 男の子は笑うのを止めると、クルリと後ろを向き、来た道を戻って行った。

「あ、ちょっと」

 イタズラだとしても、濡れたままでは風邪を引いてしまう。

「ねえ、こんな事やめた方がいいよ。風邪引いちゃうよ」

 史帆はそう言うが、男の子はお盆を持ったまま、角を曲がってしまう。

「もお~、だからダメだってば」

 史帆は傘に入れてあげようと、慌てて後を追って角を曲がった。

 

「えっ?」

 男の子の姿がない。

「史帆ちゃん、あの男の子どこに行ったの?」

 佑香も追いかけて来て、周りを見るが、男の子はどこにもいなかった。

「この辺りの家の子なのかな?」

 そう思うが、道路の両脇には家の塀が続いているだけで、入れそうな場所はない。

「あんな子、ウチの学校にいたっけ?」

「いないような気がするけど」

 同じ小学校の生徒の顔は何となく分かる。

 全く見た事のない男の子だ。

 男の子は、着物を着て、草鞋を履いていた。

「何なんだろう、あの子……」

 史帆達は、男の子を不気味に思った。

 

「へえ、雨が降ってるのに、傘も差さずに豆腐をねえ」

 夜。

 史帆は夕食を食べながら、両親に男の子の話をした。

「まあ、イタズラのつもりだったんだろうね」

 父親がコロッケを食べながら言う。

「だけど、着物を着て草鞋まで履いていたのは何なのかしらね?」

 母親も、服装が気になったようだ。

 すると、父親が「それは多分」と言った。

「雰囲気作りだよ。雨の日にそんな子が豆腐を持っていたら、ちょっとびっくりするだろ?」

「確かに、私も佑香ちゃんも驚いたけど……」

 しかし、小さな男の子がそこまでするだろうか?

 史帆がそう思っていると、父親が声をかけた。

「それ、食べないのかい?」

 父親は、史帆の前にある小皿に置かれた冷奴を指差した。

「え、あ、う~ん、今日はいいかも」

「今日はって、この前も食べなかったよね? 美味しいわよ」

「だけど、お豆腐は~」

 史帆はあまり豆腐が好きではなかった。

「それじゃあ、お父さんが食べようかな」

 父親は嬉しそうに箸を伸ばすと、史帆の冷奴を食べ始めるのだった。

 

「昨日のあの子、何だったんだろうね」

 翌日。

 昼休みの掃除の時間。

 佑香は廊下を掃除しながら、隣でホウキを掃いている史帆に言った。

 佑香もあれから気になり、両親に話をしたが、

 男の子の単なるイタズラだと思っていたのだという。

「急にいなくなったのも、電柱に隠れていただけだよっていうんだよ」

「電柱かあ」

 確かに、昨日はそこまで確認していなかった。

 小さな男の子なので、隠れていれば見えなくなってしまうだろう。

「だけど、何で豆腐だったんだろうね」

 佑香がふと言った。

「相手を驚かせるなら、びっくり箱とか持ってた方が効果あるのにね」

「そう言われればそうだよね」

 雨の中、豆腐を食べろと言われて、実際に食べる人などいないだろう。

「不気味な感じはしたけど」

「怖がらせようと思ってたのかな?」

 史帆達は、男の子が何を考えていたのか分からず首を傾げた。

 

「なあ、今の豆腐の話、着物の男の子のことか?」

 不意に、同じ班の森下が傍にやって来た。

 隣には、同じく同じ班の新田もいる。

「着物? うん、そうだけど」

「やっぱ、そうなんだ。俺達も昨日その子に会ったぜ」

「えええ?」

 森下と新田は、昨日一緒に学校から帰っていた。

 そんな彼らのもとに、着物姿で草鞋を履いた小さな男の子が歩いてきたというのだ。

 史帆達の時と同様、お盆に豆腐を載せていて、「食べる?」と聞いてきたのだという。

「そうだったんだ」

 男の子が森下達のもとにも現れた事を知り、史帆は戸惑う。

「まさか、豆腐食べちゃったの?」

「食べるわけないだろ」

 森下がそう言うと、新田が口を挟んだ。

「だけど、あの豆腐、不思議だったんだよね」

「どういう事?」

「あれだけ雨が降ってたのに、豆腐だけ雨に濡れてなかったんだ」

「そう言われれば……」

 史帆は昨日の出来事を思い出す。

 男の子は全身びっしょり濡れていた。

 だが、豆腐だけは何故か全く雨粒がついていなかったのだ。

「なんか、変だよね」

 新田の言葉に、史帆は戸惑いながらも頷く。

 とその時、誰かが後ろから史帆の肩を摑んだ。

「きゃ」

 思わず驚き、後ろを見る。

 肩を摑んだのは、佑香だ。

 佑香は、何故か苦しそうな表情をしていた。

「佑香ちゃん、どうしたの??」

「か、身体が……」

 

 次の瞬間、佑香がその場に倒れた。

 

「佑香ちゃん!」

 史帆は、助けてもらおうと森下達の方を見る。

 すると、森下と新田も苦しそうな顔をしていた。

「た、助けて……」

「身体が、急に……」

「森下君! 新田君!!」

「あ、ああああ!」

 二人も、佑香と同じようにその場に倒れた。

「きゃあ! 誰か!!」

 史帆は、慌てて助けを求めた。

 

(みんな、大丈夫かな……)

 放課後。

 史帆は憂鬱な気分で家へと帰っていた。

 佑香達は病院に運ばれ、そのまま入院する事になった。

 3人同時に倒れた事により、給食で食中毒が起こったのではと思われたが、史帆を始め、

 クラスの生徒も、他のクラスの生徒も、3人以外に気分が悪くなった者はいなかった。

(食中毒じゃないとすると、何が原因なんだろう……?)

 担任が言うには、幸い命に別状はないが、まだ原因はよく分からないらしい。

 史帆は、佑香達が早く良くなる事を何度も心の中で祈り続けた。

 

 その時、急に雨が降ってきた。

「えっ?」

 今日は1日中、晴れのはずだ。

(天気予報が外れたって事??)

 傘は持ってきていない。

 史帆は急いで家へ帰ろうと走り出した。

「どうして元気なの?」

 ふと、背後から声がした。

 史帆は立ち止まり、後ろを見ると、少し離れた場所に誰かが立っている。

「君は……」

 着物を着て、お盆を持っている。

 昨日見た、あの男の子だ。

 男の子は雨が降っているのも気にせず、草鞋を履いた足を動かし史帆にゆっくり近づいてきた。

「食べてないの?」

「食べてない?」

「食べてると思ったのにな~」

「何を言ってるの?」

 男の子は戸惑う史帆の前で止まると、ニッコリと笑い、お盆を上げた。

 

「食べる?」

 お盆の上には、小皿に置かれた豆腐がある。

「ねえ、食べる?」

 男の子はニッコリと笑ったまま言う。

 昨日と全く同じだ。

 史帆は、男の子に苛立ちを感じた。

「今はイタズラなんかに付き合ってる場合じゃないの!」

 佑香達の事で頭がいっぱいだったのだ。

「早く家に帰りなさい! こんなことしても誰も楽しいなんて思わないよ!」

 史帆はこれ以上付き合っていられないと思い、歩き出そうとした。

 すると、男の子がまた同じ質問をした。

「どうして元気なの?」

「元気って、私はずっと元気で」

「豆腐、食べなかったの?」

「えっ?」

 奇妙な問いに、史帆は思わず首を傾げる。

「お昼ご飯の時に、食べると思ったのにな~」

「それって……」

 史帆は、給食のメニューを思い出した。

 味噌汁があり、そこには豆腐が入っていたのだ。

「私は……」

 豆腐があまり好きではない史帆は、配膳係の友達にお願いをして、豆腐を抜いてもらっていた。

 そのため、豆腐は全く食べていなかった。

「昨日の夕食の時も、食べなかったよね」

「えっ?」

 男の子はニッコリと笑いながら、史帆をじっと見つめる。

「昨日って……」

 昨日の夜、夕食に冷奴が出た。

 史帆はそれも食べていなかった。

「どうして知ってるの?」

 驚き尋ねるが、男の子はそれについては何も答えない。

 代わりに、さらに一歩、史帆に近づいた。

「今から食べて」

 男の子はニッコリと笑うと、お盆を見せた。

「えっ?」

 お盆の上には皿が載っている。

 だが、先程まであった豆腐がなくなっている。

 

(いつの間に?)

 と史帆が思った瞬間、口の中に違和感を抱いた。

「ううう??」

 なんと、史帆の口の中に、豆腐が入っていたのだ。

 驚きながらも、豆腐を口から出そうとする。

 しかし思いとは裏腹に、何故か飲み込むように食べてしまった。

「な、何なの??」

 状況が理解できず、史帆は目をパチクリさせる。

 そんな史帆を見て、男の子はニッコリと笑った。

「これで、君も元気じゃなくなるね」

「何を……」

 次の瞬間、史帆は全身に痛みを感じた。

「あ、あああ」

 息をするのが苦しくなる。

 頭にも、腹部にも、激痛が走る。

「ど、どうして……」

 身体が動かない。

 男の子は、その姿をニッコリと笑いながら見ている。

「あ、ああああ、ああ」

 雨が降る中、史帆はそのまま地面に倒れそうになった。

 

どりゃあああっ!

 瞬間、女性の声と共に氷が飛び、さらに一人の人物が史帆を守るように受け止めた。

「しっかりして!」

 女性は、アクリャのアノロンウェン。

 白い服を着た、赤い左目の少年……ウワサだ。

「た、助けて……」

 史帆は気を失いそうになりながらも、ウワサに手を伸ばす。

「きっと助けるから! だからしっかりして!」

 ウワサは史帆を道路の隅に寝かせると、アノロンウェンと共に男の子の方を見た。

「まったく、災悪ってもんは、どいつもこいつも敵対的だね!」

 ウワサは銀色のペンを取り出し、強く握り締めると、赤い目で男の子を睨みつけた。

 アノロンウェンは、レイピアを携えている。

 すると、男の子が声を上げた。

「その赤い目、嫌~い。女の子も邪魔~」

 刹那、男の子は飛び跳ねるように、その場から逃げ出す。

「ちょい待ちな!」

 逃げられてしまっては、戦えないし、名前を視る事ができない。

 名前を視る事ができなければ、災悪にとどめを刺す事は不可能だ。

「くうう!」

「なかなかしぶといねえ」

 ウワサとアノロンウェンは、武器を握り締めたまま、男の子を追いかけた。

 

「嫌い~、嫌い~」

 雨の降る中、男の子が跳ねるように走る。

「待て!」

 二人は必死に追うが、男の子の走りは速く、なかなか追いつく事ができない。

(ちっ、このまま逃げられたら……)

 史帆と同じような被害者が増えてしまうかもしれない。

「そんなことは絶対に」

「させるものかっ!」

 二人は全身に力を入れ、走るスピードを上げると、男の子に追いつこうとした。

 

「えっ?」

 前方を走っていた男の子の姿が見えない。

「どこに行ったの??」

 道路は一直線で、隠れられるような場所はどこにもない。

「まさか、消えた……??」

 災悪なら、姿を消す事も簡単にできるだろう。

「いや、消えたわけじゃあないよ。ただ隠れてるだけさっ。そこだね!」

 アノロンウェンは勢いよくレイピアを突きかざすと、確かな手ごたえを感じた。

「ぐっ!?」

「下がりな。アタシが相手になってやるよ!」

 アノロンウェンは着物の男の子に突っ込むと、

 一瞬にしてレイピアで無数の突きを放ち、男の子を蜂の巣にする。

 彼女は武器に変化する種族だが、生身の戦闘能力もかなりのものなのだ。

「パートナーとして見捨てられないからね! とっととあいつを倒しな!」

 ウワサはアノロンウェンの言葉に答えると、男の子を睨んだ。

 男の子の前に円が浮かぶ。

 ウワサの目が赤く光る。

 男の子は慌てて逃げ出そうとするが、ウワサの赤い目には既に何かが視えていた。

 それは、男の子の『名前』だ。

 ウワサは立ち上がると、声を上げた。

 

「全ての災悪を、この光によって打ち消さん! お前の名は――」

 ウワサは、ペンを走らせ、空中に文字を書いた。

 

 ト ウ フ ボ ウ ヤ

 

 瞬間、豆腐坊やの動きがピタリと止まった。

 身体を小刻みに震わせる。

「イ イ、ヤ ダァァァアアア」

 次の瞬間、豆腐坊やの身体にヒビが入り、光が漏れ出す。

 そのまま、粉々になって消滅した。

 

「う、う~ん……」

 雨が止んだ。

 史帆は、自分が気絶していた事に気づいた。

 全身が痛かったはずだが、いつの間にか痛みが消えていた。

「何だったの一体……?」

 そう思っていると、一人の少年と女性が傍にやってきた。

 ウワサとアノロンウェンだ。

「君の周りで、誰かが呪われた少年の名前を言っちゃったんだ」

「だから、災悪って奴が現れちまったのさ」

「呪い? 災悪??」

 史帆は、森下が呪われた少年の名前を言って、本当に呪われた事に気づいた。

「まさか、そんな事が」

 戸惑いながらも、佑香達の事を思い出す。

「佑香ちゃん達は??」

「災悪に襲われた人達は、みんな元に戻っているはずだよ。

 僕の名前を口に出して言わない限り、もう災悪に襲われる事はないから」

「よかった」

 史帆はホッとする。

 だがすぐに、ハッとした。

「僕の名前……?」

「これ以上、負担はかけたくないからねえ。でも、戦える奴がいるから大丈夫さ!」

 アノロンウェンは歯を見せながら笑って、その場を立ち去った。




~災悪紹介コーナー~
アノロンウェン「なーにかな?」
ウワサ「なーにかな?」
二人「今週は、これ!」

豆腐坊や
出現場所:雨の日の帰り道、夕食や給食の献立の中
攻撃手段:豆腐を食べさせてダメージを与える

アノロンウェン「小さなガキのふりをして豆腐を勧めてくるなんて、
        卑怯な手を使うじゃないか!」
ウワサ「あれは『雨の日に豆腐を食べると病気になる』という
    古い迷信や噂が混ざり合って生まれた災悪なんだ。
    食べなければ無事だけど、一度でも口にしたら最後、内側から体を蝕まれるんだよ」
アノロンウェン「アタシのレイピアで蜂の巣にしてやったけど、
        あいつ、逃げ足だけは一級品だったね。
        ウワサ! アンタもぼーっとしてないで、もっとシャキッと追いかけなよ!」
ウワサ「ごめん。でも、史帆ちゃんが豆腐嫌いで助かって本当によかった。
    好き嫌いが命を救う事もあるんだね」
アノロンウェン「好き嫌いなんて言ってないで、アンタもしっかり食べて体力をつけな!
        次はもっと手強い奴が来るかもしれないんだから。さあ、行くよ!」
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