1話
Chapter1
「この王剣、賢者の君ならばどうにかできるかい?」
「出来たとしてもあんまり手伝いたくないねぇ。」
目の前に座る若い男に、俺は拒絶の意思を込めて首を振る。
若い男は、この王国、フェルドランのモーリス第三王子である。
王の証である王剣がその力を失ってしまった。その相談であるらしい。
「それが王子に対しての言葉であるか!」
「時勢が時勢ならもう少しまともな口も聞きますがね。」
怒鳴りつけてくる壮年の男にも、軽口で答える。
何せ、モーリス王子は第三王子ではあるのだが。
その立ち位置が万全であるものかというと、それは全く違う話であった。
「……僕たちが反乱軍であることは、知っているようだね。」
「こう見えてそこそこ耳は良くてねぇ。」
王が死に、本来継承権を持たない男が偽王に立ったことは知っている。
一応賢者と呼ばれる程度には、占術も使えるのだ。
「モーリス第三王子も、逃げ出す方に舵を取っては?」
「偶然なりとも王剣を手に取ってしまったからね。」
「真面目なんですねぇ。俺は到底真似できないもんですわ。」
いや本当に。復讐とかも兼ねているのかもしれんけども。
同情するのもなんか違うので、目の前の王剣をちらりと見てみる。
どうやら、特定の単語に応じて魔術を発動する形式の魔術装備に見えるが。
「壊れてるわけじゃねぇな、これ。」
「わかるのかい?」
「なんとなくな。これは使い方が悪いよ。」
使い方?と首をかしげる第三王子に、ひらひらと手を振る。
「答えたら帰ってくれるかい?」
「内容によるかな。」
「じゃあやめとくわ。」
なんだと貴様、とまたお付きの男が立ち上がる。
俺に掴み掛かろうとする前に、王子が止めるが。別に気にするほどでもない。
「第三王子、別に止めなくてもいいですよ。」
「しかし。」
「暴れるなら追い出すだけなんで。賢者の工房を舐めるなよ?」
冷めた感情で目の前を見ていると、改めて第三王子がこちらを向いた。
「何か、代価に求めるものはあるかい。フェルドランの賢者レーヴ殿。」
「特に欲しいものはないし、仮にあってもあんたがたに頼むかは微妙だぜ。」
別に協力しない理由もそんなにないが、協力してやる理由も特になく。
いや、寧ろ何なら第三王子の境遇には多少思うところもあるかもしれないが。
情けを掛けてもいいような、そうでもないようなと少し揺れなくもない。
「貴方が頼りなんだよ、レーヴ殿。」
「流石にそこで情に流されるほど甘いやつがいるもんかね。」
……いねぇよな。俺もまだ完全には流されそうになってねぇしな。
Chapter2
俺の名前はレーヴ。転生者である。
それなりの家に生まれた。
それなりに立身出世した。
そして、積み重ねたものをそれ以上のやらかしでぶち壊してしまった。
国から逃げて。人から逃げて。罪から逃げて。
辿り着いた街で、治療術師をしていたところ、賢者と呼ばれるようになった。
概ね、周りの人間の困りごとになんとなく手を貸してたらその有様だ。
そんなことをしていたら、今日は嬉しくない来客が訪れた。
それが、先ほどから目の前にいる集団、反乱軍の一味なわけである。
「ところで、どうして俺が直せると思った次第で?」
「うちには見習いだけど星見の魔術師がいてね。」
「情報系の魔術師か。そりゃ他に選択肢がなけりゃ俺を示すかもな。」
軽くお連れどもを見回してみるが、連れている若い女がそのようだった。
……見習いってのも事実だな。よく見ねぇと星見って判んねぇや。
「わ、私があなたならできると星から読み取りました。」
「ああ、だろうよ。」
目が合ったからか、女が口を挟んでくる。
ちゃんと見りゃわかる程度には、星見の魔術師だな。
うん。最近まともに戦ってないから人の見極めが下手になってやがるぜ。
「ところで第三王子よ。」
「なんだい、レーヴ殿。」
「お前さんら、追っ手に追われてるとかはないのか?外が騒がしいけど。」
巻き込まれる前に追い出すべきだろうかね。
ため息を一つつく内に、第三王子たちも外の様子に気が付いたようである。
「とりあえず、外のをどうにかしてくれ。」
「それが望みでいいかい?」
馬鹿言え、と第三王子らを外に追い立てる。
ついでに俺も外に出て様子を見るが、雲行き的に普通に戦闘になりそうだった。
「おいおい、こんなところで戦闘かよ。」
「すまないね、家の前で。」
「本当だよ。せめて殺しは止めてくれよな。」
臭ぇし汚ねぇし、片付けが面倒なんだよ。
患者が死ぬのとはわけが違うんだ。うちに変なのを持ち込むんじゃねぇ。
「囲め!一人たりとも逃すな!」
そういって第三王子の一味を取り囲んでくる兵士たち。
後衛だろう星見の女が下がってきて、俺の隣に収まる。
わざとかよ。俺を巻き込もうとしてるんじゃないだろうか、この女。
そう思って見ていると、女も気づいたらしく、慌てて声を張り上げる。
「ま、待って!この人は関係ありません!」
「隊長、どうしますか?」
「構うものか!纏めて殺せ!」
「おいおい、巻き込まれかよ。」
仕方ねぇから纏めて魔術で寝かすかと思ったが、杖、家の中だな。
ここまで興奮してると、無手発動じゃ眠りの霧も効くかどうか。
仕方ない。女の少し前で、向かってくる兵士たちには適当に蹴りをくれてやる。
「おらよ」
「ゴハァッ!?」
「悪いね、肉体派の賢者なんだなこれが。」
そこらの兵士ごときに負けるような真似はしない。
後遺症が残らない程度に景気よく吹っ飛ばしていく。
「賢者……?貴様、賢者か……!」
「だとすればどうするよ。」
とりあえず、殺したくもねぇから不敵に笑ってみる。
戦力差的には俺一人でも足りるが、やる気はないから帰ってもらいたい。
そうしていたら、取り囲みつつも近寄ってこない兵たちに、大将格が叫んだ。
「ここは退く!フェルドランの賢者が反乱軍についた!」
「あ」
やっべ、やらかした。
Chapter3
「ごめんなさい。私のせいで。」
「いや、お前さんのせいでは一応ない。」
少なくとも最後のやらかしは自家製である。
いや、切っ掛けはこいつらだし、ちょっとぐらい恨んでも逆恨みではないかも。
元より別に恨む気もないが、負け惜しみぐらいは言っておこう。
「まあ、本当に、お前さんのせいではないよ。」
「ですが。」
「若干気にはしてほしいが、この街から逃げるだけだから大丈夫だ。」
この街に思い入れも特にないしな。飯も酒もそこまで美味くなかった。
おや、なんでこの街にいたんだろうかと思った俺に若い女は慌てて言った。
「わ、私が責任取ります!」
「え。要らねぇ。」
「ええ!?」
「俺一人だけなら、別の国に逃げるだけなんだよ。」
なんだったらちょっとした足手纏いなのではと、目の前の女を見る。
ローブを纏った魔術師らしい姿、運動神経は若干鈍そうだ。
「冗談はさておいて、君には迷惑を掛けてしまったね。」
「まあ、そうだな。そこそこの迷惑だったよ。」
「もし行く場が他になかったら、僕たちの仲間にならないかい?」
「反乱軍への勧誘は、一般的にはさらに迷惑だと思うが?」
第三王子が流れるように反乱軍に誘ってくるが、あんまり嬉しくない。
正直、俺にはこの国と何の関係もないわけだ。
反乱や戦争を引き起こしてまで叶えたい願いも望みも何もない。
「まあそう言わずに。僕らの拠点まで行けば、多少のお詫びも出来るから。」
「それもそれでまた巻き込んできそうで嫌なんだがなぁ。」
っていうかそういう目論見だろ?と見やると第三王子はあははと笑う。
笑いやがってぇ。王族だのそういう立場だとこういう系統が多いんだよなぁ。
「というか、逃げるだけなら俺一人の方が楽でもあるんだが?」
「そこは是非、僕たちに同行してついでに絆されてくれると嬉しいね。」
足手纏い以前に、そういう期待をされても正直重いだけなんだが。
俺は、戦争には、もう関わらないと決めたのだ。
……とはいえ、頼りにしようとしてくる奴らを追い払うのも、なんだかな。
「いいか、俺はあくまで、お詫びを受け取るだけだからな。」
「勿論、判っているよ、レーヴ殿。」
「いや、ぜってぇに判ってねぇよ。俺は本当に仲間になったりしないからな!」
「まあまあ。僕たちに任せてよ。悪いようにはしないからさ。」
……大体、こういう時は上手くいかないようにこの世界は出来ているのだが。
そんな騒がしく知らせてくる星の声を、俺は聞かないことにした。
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