それでも賢者は逃げていく   作:re=tdwa

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10話

Chapter28

 

「まあ、まずは水源の確保だろ。」

「水源というと、井戸かい?」

「人が住んでた城だからな。厨房とかの近くにあるだろ。」

 

人間が作る建物なんて、どの時代も大して変わらん。

厨房だの炊事場だのがある位置は、十中八九その建物の一階で、勝手口がある。

なんでって?単純にそうじゃねぇと不便だからだよ。言わせんな恥ずかしい。

 

「んで、いい感じに腐ってる扉の向こうに厨房があってだな。」

「はい。」

「丁度複数人が動き回れるような広さで、かつ竈とかもあったりするわけよ。」

 

この城は当たりだな。井戸が厨房の中にある。

外にあるとだなぁ、寒い日とか雨の日とかに面倒くさいんだよ。

 

「んで、腐りかけの綱を外して持ってきた綱に入れ替えて、そーい。」

 

ちょっと間を置いて、ぽちゃんと小さく聞こえる。

 

「水質は……悪くなさそうだな。普通に使える。」

「手慣れてるなー。」

「馬鹿言え。廃墟荒らしなんて初めてじゃい。」

 

多分。

 

「そしたら、カスパル以外は、厨房で寝泊まりできるように整えといてくれ。」

「俺以外?何か別用でもあるのか?」

「お前用の役割があるんだよ。ついてこい。」

 

そうして、先ほど探索を終えたばかりの城内に戻る。

適当に骸骨を蹴りながら、カスパルに話しかける。

 

「今から俺は、この城の見取り図に必要な情報を書いていく。」

「おう。」

「お前はそれを横で見て、完成したらコルニス殿の所まで馬で駆けろ。」

 

羊皮紙じゃなく植物紙。過去生でいう普通の紙に近い。

魔術でオートマッピングをしながら、素人判断の補修必要度を書き入れる。

今回は取っておきだ。モノクロだけど写真もどきも写し込む。

 

「んー。コルニス先生に、判らないところは聞くように言われてるんだが。」

「なんでも聞いていいぞ。今回はお前の勉強会みたいなもんだ。」

 

コルニス殿も、こいつらの教育を急がねばならんことは知ってるからな。

 

「俺なのはわかるんだよ。エルナは危ういし、フレデリクさんは護衛だからな。」

「いい理解だ。あとは情報の信用度の話だな。」

 

新入りの護衛もいるからな。信頼性の面ではカスパルに勝てる奴はいない。

 

「で、なんで俺を連れてきたんだ?連れてきても何も出来ないぞ?」

「情報は、多角的に得るものなんだよ。」

 

どんな確度の高い情報でも、一つじゃ足りねぇんだよな。

 

「お前は俺の作業を見て、城の様子をよく見ておけ。」

「それは、勿論。」

「コルニス殿は、この見取り図を見て、お前に質問してくるだろうからな。」

「俺はそれに答えればいいわけか?」

 

出来る限り素直な視点で、な。

 

「判らないことは判らないっていうとなおいいぞ。」

 

報告の技術は、これからカスパルには絶対に必要になることだしな。

 

 

 

Chapter29

 

次の日の朝。カスパルはそろそろコルニス殿の所に着いた頃だろうか。

あいつは、あいつ自身が思っているよりも遥かに重要な立ち位置だからな。

立場が軽いことも含めて、出来ることやれることにはかなり幅がある。

 

「今のところは、本人がそれを自覚してないのもいいんだよな。」

 

自分の立場と立ち位置を利用するのは、まだちょっと早いんだよ。

最終的にはそこにまで向かってもらいたいけど、あと10年は後だな。

 

「何の話であるか?」

「カスパルの成長が楽しみだよなって話だよ。」

 

なるほどな、とフレデリクは頷いた。ちゃんと伝わるんだよな、こいつ。

 

「あやつの成長は、確かに著しいものがある。」

「フレデリクから見てもそう思うか?」

「昔は王子に付き従っているだけだったのが、色々考えるようになった。」

 

若者の成長を楽しめるのがおっさんたちの特権だよな。

 

「さて、そろそろ無駄話は辞めにしないかい?」

「えー。」

「えーじゃないよ。さっきから僕しか戦ってないじゃないか。」

 

モーリス王子が骸骨を砕きながら俺たちに突っ込む。

今日の手順は、城内の跡片付けだ。

微かに残った吸血鬼の魔力で動く、残滓たちを一体一体確実に潰していく。

 

「骸骨の埋葬は後でするにしろ、退治は必要だからな。」

「魔力が見えない僕らには良くわからないけど、もう動かないんだよね?」

「おう。今度、王子も魔術の訓練してみるか?」

「暇があったら是非お願いしたいとは思うけどね。僕は才能ないらしいけど。」

 

我らがモーリス王子はどちらかと言わずとも脳筋スタイルである。

 

「まあ、これから人も増えていくからな。」

「手遅れにならないうちに急いで追いつかないといけないからね。」

 

これからは、人を受け入れられる許容量と、この城を修復するための人員確保。

それに合わせて人員増加に対応しつつ、王子の安全確保も同時に進めるわけで。

忙しいというよりは、綱渡りをどうやって急いで乗り越えるのかという話になる。

 

「第一陣が着いたら、また王子にはやることを教えてやるよ。」

「……カスパルだけじゃなくて、僕も学ぶべきことがたくさんあるんだね。」

 

当たり前なんだよなあ。逃げ出すことだけは許さんのだなあ。

これからは正当性を、どうやって掲げるかを学んでもらいたいもんだ。

その仕事だけは、教えることは出来ても、王子にしかできないことだからね。

 

「学べる教師がいっぱいいて幸せだろ、王子。」

「ありがとう。頼りにしてるから、どうぞお手柔らかによろしく。」

 

 

 

Chapter30

 

フェンズから補修工事部隊の第一陣が到着し、実質的な調査が始まった。

 

「それでも、僕らのやることは無くならないんだね。」

「当たり前だろ。具体的な手順は専門家に任せるが、管理はこっちだ。」

 

どこを優先して直すことで、受け入れ人数を効率的に増やせるかという話だ。

 

「それも、死霊どもの掃除をしたから出来るんだぞ。」

「確かに、戦えない人間が動くには難しい環境ではあったね。」

 

戦えない人間が一人で徘徊するには危ないが、成人男性が複数なら問題はない。

そんな状況で、この城について新たに発覚した事実がこれである。

 

「水道があるとか、高性能だなこの城。」

「実用開始まではどれぐらい掛かりそうだい?」

 

ポンプで組み上げられた地下水を、水路で分配する形式である。

つまり水路が問題ないことと、水の安全性さえ確保できれば問題ないのだが。

 

「如何せん、崩れた水路もあるからな。長い目で見とけ。」

「厨房に井戸があって助かったね。」

「元々暗殺の予防に別にしてたんだろうなぁ。」

 

せっかく直すんだし、ついでに色々組み込んで魔術防衛の要にでもするよ。

なにせ戦争だからな。大魔術で城ごと吹っ飛ばすみたいなこともあるかもしれん。

 

「俺も水道ばっかりに関わってられないもんなぁ。」

「いや、本当だよ。おっさんがこんなに働いてるの初めて見たぜ?」

 

1つ。モーリス王子とカスパル、ついでにエルナに色々教える。

2つ。工事中に怪我人が出たら俺が治療する。

3つ。フェンズのコルニス殿と必要物資の連絡のやり取りをする。

 

「その上、大きながれきを魔術でどけるとか、器用にこなしますよね。」

「人手でもできるのは判ってるけど、今はその人手を割く余裕がねぇんだよ。」

 

その余裕を生み出すのに無理をしているわけであるのだが。

 

「しかし、コルニスが2人いればとはよく言ったものだね。」

「あん?」

「あの時はその言葉の意味を正確には理解してなかったよ。」

 

あの時はあの時だからな。今判ってるなら十分だよ。

 

「コルニス殿も、こっちに管理用の人材をよこすって言ってるからな。」

「そうしたら、おっさんはどうするんだ?」

「管理から離れて、治癒術と大きな瓦礫担当に回るよ。」

「そうなるといいけど、また何か起こるんじゃねーの?」

 

カスパルが不吉なことを言う。

 

「辞めろよな。そういうのは口に出すとそうなる宿命にあるんだ。」

「星見としての知識かい?」

 

いや、経験上。

厄介事は群れを成すし、呼んだら来るように世の中出来てるっぽいんだよな。

早く平和に、俺が酒を飲み歩けるような状況までなってほしいもんだね。

 

 

 




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