それでも賢者は逃げていく   作:re=tdwa

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11話

Chapter31

 

朝起きて、一番最初に目にしたのはエルナよりも若い女だった。

 

「貴方がフェルドランの賢者殿ですか?」

「んあ。」

「私はマーレ。コルニス先生の教え子です。」

 

真面目そうといえば言葉は良いが、少しきつめの視線でこちらを見てくる。

 

「ぐう。」

「寝ないでください。貴方に用事があるのです。」

「朝だぞ?」

「昼です。」

 

そうともいうかも知れん。しかし、俺は日々の疲れでもう動けないのだ。

 

「貴方から引継ぎを受けて、中継役をやるように言われてます。」

「それはありがたいな。もうそろそろ俺も面倒くさくなってきていたところだ。」

 

おじさんね、お仕事って根本的に向いてない気がするの。

休日もお酒も抜きで、毎日走り回ると、おじさんじゃなくなっちゃうの。

 

「今やっていることの確認からよろしいでしょうか。」

「寝ながらでもよければ。」

「効率性が保たれるのであれば、それでも構いません。」

 

マジか。思ってたよりも話が分かるお嬢さんだ。

コルニス殿が送ってきたということは、それなり以上にできる奴なんだろう。

 

「そうさな。そっちとの認識すり合わせから行くが、いいか?」

 

若いお嬢さん……マーレだったか、は頷いた。

 

「今は古城の再生中だ。死霊は退治済みで、破損個所の修復を行ってる。」

「はい、こちらの認識と相違ありません。」

 

そいつは重畳。

 

「一階の厨房、炊事場を中心として内部の壁回りの補強から始めた。」

「確認済みです。」

「問題ないな。自重で潰れた東側を後回しに、二階に手をまわしてる。」

 

東側は、俺がフリーになるまでは手を出せない。

その内やりたいけど、まあ、正直後回しにせざるを得ないな。

 

「今日は補修組の第三陣と、炊事場の第四陣が来るはずだな?一緒に来たか?」

「ええ、その通りです。」

 

よし。

 

「じゃあ次の便で物資と兵士の第二陣が来る。」

「その受け入れは?」

「フレデリクが既に防衛案を作ってるから、そっちで共有を受けてくれ。」

 

今日の補修組第三陣は、えーと。

机代わりにしている資材の上を指さし、配置図を手に取らせる。

 

「第三陣の補修組は城下町優先。配置図の上位6件の整備をさせろ。」

「そこで泊めるのは?」

「第二陣の兵士。2件までは明日の夕方までに形にしないといかんな。」

 

で、いいかな。寝っ転がりながらではあるが、内容はあっているはずだ。

 

「ええ。問題ありません。」

「ならいい。王子への着任挨拶は済んでるな?」

 

勿論、とうなずいたので、ようやく、俺は肩の荷が下りたのだった。

今日はちゃんと深く眠れそうだと思った時には、意識が落ちていた。

 

 

 

Chapter32

 

「さて、モーリス王子。」

「どうしたんだい、レーヴ殿。嫌にニコニコして。」

 

おっと。まだ笑いだすのは早かったか。

 

「いやいや、この城もようやく形になり始めただろ。」

「ああ。こんなに急速に進むとは思っていなかったけどね。」

「それで、そろそろしないといけないことが色々あってだな。」

「とりあえず、僕が苦しむのは判ったよ。それで、僕は何をすればいい?」

 

察しがいいねぇ。まあまだ苦しむと決まったわけではないからさ。

 

「人数が増えただろ?だからそろそろ定例会議とかをしたくてね。」

「……ああ、各部門の代表を集めてってことかい?」

「そうそう。今は人数が少ないが、その内必要になるからな。」

「判った。じゃあ、予定を決めて手配してくれるかい?」

 

にやり。

 

「……はー。わかった。今日は何の教育の時間だい?」

「理解が早くて助かるよ。」

「レーヴ殿に会議の手配を依頼するのが正しくない理由があるんだね?」

 

今の時点ではね。

 

「さて問題です。反乱軍で一番偉いのは誰だ?」

「それは、立場上は僕ということになるね。」

「じゃあその次って誰になるか、今の状況から判るか?」

 

そういうと、モーリス王子は顎に手を当てて考え始めた。

 

「僕としては、レーヴ殿の名前を挙げたいけど、そうじゃないんだね?」

「その通り。次は、フレデリクとコルニス殿になるよな。将軍と軍師だ。」

「それは判るよ。その二人のどちらかに依頼するのが正しいという話かい?」

 

それはそれで答えなんだが、ここはもうちょっと踏み込みたいんだよ。

 

「これは組織の話でな?誰が、何に対して、責任を負うかって話でもある。」

「誰が何に対して?」

 

そうだ。

 

「定例会議って前の拠点でもやってたよな。あの時はどうしてた?」

「フレデリクが開催を決めてたね。」

「まあ妥当だな。じゃあ感覚でいいが、フレデリクとコルニス殿ならどっちだ?」

「それは、コルニスだと思うけど。」

 

だよな。俺もそう思う。

 

「コルニス殿は軍師だ。この反乱軍の運営を、王子に対して責任持ってる。」

 

だから会議も、コルニス殿が主導するのが筋になるわけで。

コルニス殿がいなけりゃ、その代理としてマーレ殿だな。

 

「これから先、人数が増えれば、お互いのことを知らなくなっていくよな。」

「……そうだね。」

「その時に必要になるのが役職なんだよ。それで相手を判断できる。」

「反乱軍にも、そういう組織じみたところが必要だと?」

 

そっちの方が効率的だからな。

新しい奴も、容易に組織の一員に組み込むことが出来るようになる。

 

「今はまだ、わかんなくてもいいからさ。」

 

組織の形ってのはな、責任を押し付け合わないためにあるんだよ。

 

「誰に何をさせるかを決めるのが王子だからさ。責任、重大だぜ?」

 

 

 

Chapter33

 

「さて、と。今日はどうするかな。」

 

コルニス殿との連携も、マーレ殿に渡した以上。

俺に出来ることは意外と多くないというか、いることが仕事になるというか。

一番の仕事が怪我人が出たときの対応ともなると、酒を飲むのも違うしなぁ。

 

俺が必要なぐらい、大きな瓦礫が転がってる場所ももう少ない。

一応、空を飛んだりは出来るから、それで手助けをすることもできるが。

 

「必要かというと、そうでもないわけよなぁ。」

「何が必要ないんですか?」

 

おっと。

いつの間にか近づいてきていたのは、エルナであった。

 

「いや、俺が必要なことも随分減ったと思ってな。」

「そう、ですね。人が増えたのも、なんとか回せるようになってきましたし。」

 

やっぱり、エルナから見てもそう思うか。

 

「いいことなんだけど、急に暇になると調子狂うよな。」

「私も、当初は炊事場で色々させてもらってたんですけど。」

 

どうやらエルナもお役御免となったようである。

じゃあ、王子とカスパルには教育したんだから、エルナにも何か教えるか。

とはいえ、すぐさま何か教えるようなことが思い浮かぶわけではない。

 

「エルナは何か教えて欲しいことあるか?」

「えっ。」

「暇つぶしに何か勉強でもしてもらおうかと。」

 

ああ、と納得いったらしいエルナは少し考えてから。

 

「城の魔術防衛、教えてくれませんか?」

「中々難しい分野知りたがるな。」

「王城の魔術防衛を、私の師匠が組んでいたらしくて。」

 

師匠っつーと、星見の師匠かな。

 

「じゃあ、簡単に、理論だけでもやってみるか。」

「ふふ、やりました。よろしくお願いします。」

 

とはいえ、どう説明したもんかな。

 

「城の魔術防衛も、人間の魔術防御の延長なんだよな。」

「というと、生命力や魔力が抵抗の基礎になるってことですか?」

 

そうそう。ここはやっぱ正規の教育受けてるだけあるわ。

 

「城は物だから、生きてる人間よりも当然として抵抗は低い。」

「はい。」

「なので、魔力流動の仕組みで抵抗力を上げて、防御結界を貼る感じだ。」

「結界だけ貼るものだと思ってましたが違うんですね?」

 

結界だけだと、それを解かれたら終わりだからな。

あと結界張るついでに魔術循環も作れるから、実作業的に大した差がないし。

 

「あと、循環式の結界にしとくと、壊れたときにすぐ気が付ける。」

「というと?」

「澱んでるところが原因ってすぐわかるから……」

 

メンテナンス性も考慮すると、最終的に似たような形式になるんだよな……

 

 

 




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