それでも賢者は逃げていく   作:re=tdwa

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16話

Chapter46

 

と、いうわけで。

領主殿から警備隊に手を回してもらいつつ、こちらでも調査を続けつつ。

ついでにこそーっと、目的の商会に薄く眠りの霧を貼りつつ。

 

「完全には眠らせねぇの?」

「王子には、正統性の主張って仕事があるからな。」

 

ちゃんと相手が抵抗してくれた方がいいんだよ。

無抵抗の相手を一方的に捕縛するのは見栄えが悪いからな。

とはいえ、あんまりいつも通りの判断力を発揮されても困るし、塩梅だ。

 

「そうしたら、僕はどうすればいいのかな。」

「いい感じに名乗ってもらって捕物すればいいと思うぜ?」

 

それは今までもやったことがあるはずだろ?

 

「できれば聴衆に広く聞こえる感じで頼む。」

「任せてくれ。そういうのは割と得意なんだ。」

 

でしょうね。モーリス王子はそういう奴だよ。

 

「堂々と名乗りを上げて、罪状を明確に告げて、あとは流れだよ。」

「流れでいいのかい?」

「ブレハンの警備隊で囲んでるから、逃げる奴はそこまで気にしなくていい。」

 

っていうか、この場合、普通に考えたら逃がしてもそう変わらんのだよな。

当然として、ここ以外にも連絡員は置いてるだろうし。

ここから連絡がなかったことで動くプランもないはずがない。

 

「相手が頭良くないことに賭けるのは悪手だからな。」

「賢くて、正しいことを前提に行動を想定するんだね。勉強になるよ。」

 

とはいえ、頭が良すぎると困るし、それはそれでなんだが。

少なくとも眠りの霧で、ちょっとぼんやりしてるぐらいが丁度いいな。

 

「なんか、手回しが良すぎて気持ち悪いな。」

「俺とコルニス殿が事前に準備してたら毎回こんなもんだよ。」

 

俺はともかく、コルニス殿はちゃんと知恵者だからな。

魔術で相当の下駄を履いてても、やっぱり素で頭がいいやつには勝てねぇもん。

いや、本当に。魔術で遠視も透視も出来ても、素の頭が足りんのよ。

 

「僕たちからすると、レーヴ殿も相当だけどね。」

「お褒めにあずかりどうも。じゃなきゃ着いてきてる意味もないしな。」

 

一応ね、俺にも多少の責任感というか、仕事への思いはあるわけよ。

人の命を直接に預かる、というほどの仕事でもないけどさ。

あんまり適当なことをする気には、ならないようなそうでもないような。

 

「ん。手筈が整ったみたいだな。」

「じゃあ、行ってくる。」

「理想の正しい王子様を頼むぜ。出来る限り見栄えがいい奴な。」

 

ま、見栄えという点では、うちのモーリス王子は十二分に映える奴だけどな。

そうして、ブレハンでの大捕り物は始まったのであった。

 

 

 

Chapter47

 

というわけで、予定通り街の外に待機してる連絡員を除いて捕縛。

そいつらはまだ動き始めてないと思うが、あとは時間の問題だろうな。

 

「独り言かよ、おっさん。」

「たまにはな。口に出して整理するのも状況次第では有効だぞ?」

 

あぶねぇな。

カスパルも、こう見えてちゃんと目も耳もいいからな。

 

「しかし、大捕物の効果はあったようだな。」

「そうだな。ここまで歓迎されることになるとは思ってなかったよ。」

 

歓迎というか、大捕り物の打ち上げ会というか。

もっと正確に言うと、ブレハンはモーリス王子に着く、という意思表示だな。

それを明確に街に示す形でのちょっとしたお祭りになっている。

 

「あー、王子。あんまり酒は深くすんなよ。走っても吐かない程度にしとけ。」

「判っているよ。ただ、注がれる分には飲まないといけないからね。」

 

まあ、その通りではあるんだが。

 

「おっさんは酒飲まねぇの?」

「タダ酒はそこまで美味く感じねぇんだよなあ。」

 

何でだろうね。人の思いがその中に含まれているからかねぇ。

ユレンみたいに素直にご馳走と酒に喜べるほど、素直になれなくなったな。

 

「しかし、まあ最善手って訳ではないんだよな。」

「どういうことだよ。」

 

本当に王子に聞かせておきたいことだけど。

先にカスパルに聞かせておくってのは、ありか。ありだな。

 

「これでブレハンは、全面的に王子に協力することになったのは判るな?」

「そういう席だろ。それぐらいなら俺にも判るよ。」

「んで、王子が最終的に勝った場合には、ブレハンは国の三席になるわけよ。」

 

一席目は王子で王都。二席目は古城とフェンズがあるからな。

 

「鉱山、引いては工業を王族の手に入れたい気持ちはあるんだがな。」

 

ブレハンは、面子を折らずに仲間にした訳だ。

そうなると戦争終了後においても、力関係として強い位置を持つことになる。

 

「本当は、そういうのも真っ更な状態で王朝を建てたいんだが。」

「それは俺的には、あんまり聞きたくない話なんだけど。」

「コルニス殿や俺は、そこまで考慮して動く必要があるって言ってるだけだよ。」

 

とはいえ、あからさまに面子を折り続けると、仲間に下ってくれないからな。

そういうのを込みで、優先順位をつけなければならない。

 

「ま、今の時点では、勝った後のこともあるって覚えておくだけでいいや。」

「それですら、俺にはまだ考えるのは早いと思うんだけど、必要なんだろうな。」

 

必要なんだよ。勝つだけでは意味がないことをちゃんと教えないとな。

 

 

 

Chapter48

 

「さー起きろ起きろ。今から精霊術師の集落に向かうぞー!」

「こ、こんな早くから出るんですか?」

「出なくてもいいけど、その時は後悔すると思うぜ?」

 

多分な。

お祭りっつーか宴が終わって直後の夜半である今だからこそ。

まだ追いつけるというか、ぎりぎり希望通りの追いつけないタイミングになる。

 

「後悔、とは。中々重い言葉を持ってくるね。」

「俺を信じるなら、今動くべきだぞと真面目に言っとくな。」

 

本当に。

ブレハンの領主は多分、このタイミングでは出て欲しくないだろうけど。

 

「この時間に出れば、朝には着くよな、アドリアーン殿。」

「急げばなんとかなるだろうが……」

「走り続ければなんとかなる、そういう距離だもんな。」

 

決して近い距離ではないが。

ここは過去生の世界じゃないからな。鍛えた人間の速度は桁が違う。

 

「判った。レーヴ殿がそこまで言うからには、必要なことなんだね。」

「おっさんは信用なるけど、マジで今からか……」

 

必要だぜ。反乱軍ってよりは、今後の王子たちのためにな。

反乱軍として必要な手は、もう既に打ち終わって終わった話だからな。

 

「領主には失礼にならないのか?」

「ちゃんと宴の時に伝えてあるよ。夜半に出発するってな。」

 

その時は、やっぱりがっかりした顔をされたわけではあるが。

今の状況を俺とコルニス殿の次に把握できる状況にあるからな。

そういう意味では、ここでがっかりしてくれる人でよかったぜ。

 

「朝まで待っちゃダメなのか?」

「駄目じゃないけど後悔するぜ?」

 

いや、別に俺はどっちでも良いっていうか。

結果は既に変わらないから、あとは勉強になるかならないかというか。

 

「今から動く、というのは判った。理由は説明してくれるんだよね?」

「終わった後でなら、幾らでも今回の裏を全部話してやるよ。」

 

終わった後ならな。

 

「含みが多すぎて、嫌な予感しかしないんだが……」

「ははは。間に合うかもしれないから早くした方がいいぞぅ?」

「……間に合う?」

 

おっと。

アドリアーン殿の前では言ってはいけない言葉だからな。

 

「さ、行こうぜ。もし酒に酔ってるなら解毒してもいいぞ?」

「至れり尽くせりすぎて師匠がちょっと怖いです……」

 

ユレンはいい子だがもうちょっと言葉を選ぼうな?

あと、お腹が苦しそうだが、そういう時は消化促進の魔術があるから使おうな。

 

「さて、出発することに納得したな?」

「ああ、大丈夫だ。」

 

良かったぜ。

今回の一連の流れを使った勉強が、ちゃんと最後まで完遂できそうでな。

 

 

 




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