Chapter49
さて、もうそろそろ動き始めてもおかしくないな。
超強行軍に動き始めて、山の登山口が微かに見え始めたころ。
どうかな?行けるかな?薄く暗示をかける準備をしつつ。
「おや?なんだか煙くさくないかい、アドリアーン殿。」
「ん、そうか?」
「ちょっと精霊術で、確認してもらえないかい、特に精霊術師の集落を。」
そうして、アドリアーン殿が訝し気にしながらも使ったとき。
その表情が少しずつ変わり、眉間に緊張が走り始めた。
「集落が、燃えている……!」
「それは大変だ。アドリアーン殿、まだ間に合うから急げよ。」
「レーヴ殿、貴殿のおかげで助かった!!」
流石に疲れて酒が入ってるな。
俺を疑うこともなく、アドリアーン殿は一人夜の闇の中を走って行く。
ま、怪しまれたところで、軽く暗示するぐらいは最悪してたわけだが。
「……どういうことだい?」
「精霊術師の集落が、どうやら火災に襲われているらしいよ。」
勿論、俺にとっては想定通りではあるが。
「おっさん、冗談じゃ済まされねぇぞ。」
「師匠、これは、どういうことでしょう……?」
冗談なんて言うものかい。
俺のことを知っている分、王子とカスパル、ユレンは俺を訝し気に見る。
まだまだだねぇ。これぐらいで俺が表情一つ変えるとでも思うのか。
「おや、俺を追求する時間がおありで?随分悠長なことだな。」
「……話はあとでちゃんと聞かせてもらうから。」
うんうん。いいね、その正義じゃないものを見る目。
それこそ俺とコルニス殿が求めている、正しい王子様の姿だよ。
このまま曇ることなくいられるかどうかが、これからの問題だ。
「さ、ここからが山登り本番だぞ。回復してやるから急げよ。」
「ふざけんなよこの糞爺……!見損なったぜ!」
「ふざけるかよ。ふざけてこんな真似してやるものかよ。」
一応な、言っておくぞ。
「これは、ブレハンを仲間にするために必要なことをした上での最速だ。」
「……!行くぞ、カスパル、ユレン!」
そういって、王子たちは俺を置いて走り始めた。
さてさて、あと本格的に燃え広がるまでは、数刻といったところだろうかね。
その時には、打っておいた手がちゃんと利いていると思うが、どうかね。
「これで、俺が嫌われても、まあ仕方がないところではあるか。」
教育者は嫌われてなんぼだからね。
手は打ってあるけど、それでも犠牲はゼロにはならないだろうが。
それでも、王子のために必要な手であると信じて、指し手は打つのだ。
「さ。上手くやってくれよ。コルニス殿。」
杖を握り、今度は小さくではなく大きく飛ぶように。
夜の空にその身を任せて、ふんわりと浮かび上がりながら。
俺は手元に置いた、青色のお守りに小さく話しかけるのであった。
Chapter50
高空から様子を見ると、中々に燃え広がっていた。
これは事前に、燃やすための準備をしてたやつだな。
火の粉が舞って、微かに俺の所までもその熱量が届いてる気がする。
「根絶やしにする気があるかどうかは微妙だけどな。」
本気でやるなら、囲むように火をつけるか。
それとも逃げ道を一か所残して、そこで待ち伏せして片づけるかな。
ま、申し訳ないが、そこまでやるほどの戦略的価値はないだろう。
「アドリアーン殿は、精霊術を使うだろうし、早く着くかな。」
希望するタイミングとしては、困ったときに王子が着くぐらいがいいんだが。
この距離でも、妨害は出来なくもないが、ちょっと面倒でもある。
「早すぎても微妙だが、遅くても駄目だしな。」
うん。仕方ないのでとりあえず準備だけしておくか。
幸いながら山と森があり、森が燃えた直後である。
そうなれば素材となる上昇気流と水蒸気はそれなりにあるわけで。
「天候操作は苦手なんだけどなー。」
とはいえ、やらないわけにもいかんわけですよ。
気が進まないけれども、事前に用意してた術式を一つ一つ展開する。
えーと、魔力汲み上げるだろ。水属性と風属性に変換するだろ。
相克メインで範囲拡大して、魔力汲み上げ直して、火の魔力吸って気温下げて。
上昇気流で火を拡大させてもっかい魔力汲み上げて、相克で水に回して。
……マジで面倒くさいな。
これあれかな。
大規模魔術で森ごと吹っ飛ばしちゃ駄目かな。駄目だよな。判ってる。
才能というか、術式の得意不得意で、どう考えても俺向きではない。
お、ちょこちょこ森で精霊術使ってるのも見えるな。
流石に精霊術師の集落だけあって、それなり程度の使い手はいるようだ。
これなら死傷者もそれほどいなくて済むだろうけど。
「万が一、自己解決されても協調路線に影響があるんだなー。」
というわけで、ばれない程度に妨害妨害。
燃えてる森林から魔力を分散させて、発動しにくくさせてもらうぜ。
死傷者が出すぎても困るが、自分たちだけで解決されるのも問題なんだよ。
「さて、あとは王子の到着を待つのみか。」
王子が集落にたどり着いたその時に。
なんと天から恵みの雨が降り注ぎ、朝日の中、精霊術師たちは救われるわけよ。
そんな感じの演出をするために、わざわざ時間をここまで調整したのだ。
「自作自演の森延焼でないだけ、俺は優しい方なんだぜー。」
そっちの方が範囲や時間の管理も出来たけど、面倒臭いしな。
誰も聞いていないのは判ってた上で、一人、人でなしの戦いをするのだった。
Chapter51
そして、恵みの雨が降り注いだ所に、反乱軍が到着するわけだ。
ご都合主義と笑わば笑え。準備をしてる側からすれば予定調和である。
「おー。ちゃんと想定通りに来てくれてるな。」
うんうん。
流石にエルナのコランダムを通して、魔術通信をしていただけあるな。
コルニス殿ならうまく使ってくれるって信じていたよ。
程々に雨を降らし続け、適当に鎮火が進んだところで打ち切る。
あー肩凝るわ。攻撃性のない範囲魔術って無茶苦茶苦手なんだよな。
やっぱ爆発はすべてに勝るわけだな。気分爽快的な意味で。
というわけで、精霊術師たちの救助を行う反乱軍たち。
その指揮を王子が取る、その後方で俺を待っていたコルニス殿に会いに行く。
上から降りてきた俺に対し、コルニス殿とエルナが迎えてくれた。
「お疲れさまでした、レーヴ殿。」
「おうよ。コルニス殿とエルナもお疲れ。」
「この雨は、レーヴ殿が?」
さてな。
そこまで教えてやる筋合いはないので、肩を竦めておくにとどめる。
「きわめて都合のいい雨ですね。」
「天が王子に味方してるってことだろうな。」
ま、俺が手を加えなかったとしても、森林火災だからな。
ある程度の確率で雨は降ったと思うけど、ここまでではないだろうな。
だけど、演出は大事だからね。是非もなし。
「城は?」
「フレデリク殿とマーレが。」
「星見でも、襲撃の予兆はありませんでした。」
じゃあ大丈夫か。
王子も活き活きと、最前線で精霊術師たちを助けて回っているようだし。
ユレンも少しずつマシになってきた治療術で、そこそこ活躍している。
「偽王軍の連絡員は潰したか?」
「抜かりなく。」
「じゃあ、これで目的は残り一つ除いて全て達成というわけだな。」
あとは、王子の施政者としてのお勉強だけって寸法よ。
それが一番の目的とはいえ、めんどいな。
多分、俺が全部の黒幕をしていたと思い込んでいるだろうしな。
「ちゃんと王子への説明、手伝えよな。」
「おや。レーヴ殿がしてくださると認識しておりましたが?」
いやだよ、めんどいもん。
元教育係だろ、ちゃんと最後まで面倒見てやれよ。カスパルごとさ。
「非常にいい機会となりましたね。」
「本当にな。俺たちが悪辣なことをしなくても済んだのが一番ありがたい。」
さて、ちゃんと王子は俺たちの目論見を乗り越えて育ってくれるかな。
育たなかったら、もっと厳しくすることになるので頑張ってほしいところだ。
「いい王様になってほしいもんだよな、全く。」
「その通りですね。仕えがいのある方に成長してほしいものですよ。」
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