それでも賢者は逃げていく   作:re=tdwa

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19話

Chapter55

 

「貴方、どこまで何ができるんですか?」

「やりたくないけど、色々出来るぜ。やりたくないけど。」

 

マーレの雑な質問に雑に答える。

最近、まともに頭を働かせ続けてたからな。もうそろそろ酒に逃げないと。

人間らしい人間になったら、俺の心が砕けて死んでしまうんだよ。

 

「コルニス先生は。」

「んあ?」

「貴方を、賢者という名に相応しい方であると、そういいました。」

 

それは、なんつーか。

 

「言いすぎじゃねぇのかな。」

「正直に、私は貴方を測り兼ねているのです。」

 

……若ぇなぁ。

そういう言葉を、直接本人に投げかけるという姿勢が、何より若い。

 

「じゃあ聞くがよ。マーレ殿は、俺にどんな俺であってほしいんだ?」

「どんな貴方に、ですか。」

 

要は、どんな理想像を押し付けてしまいたいかということでもあるが。

 

「……賢きものとは、コルニス先生のような方だと思っていました。」

「穏やかで心優しく、そして強い責任感を持っているってところか?」

 

小さく目を見開いたマーレ殿は、そのまま小さく頷いた。

 

「貴方は、きっと私より遥かに賢く、強いのですよね。」

「そうかもな。」

「深謀遠慮を当然のように使い、そして魔術の深淵まで手にしていて。」

 

あー。

 

「貴方は、それなのに、なぜ。」

「それ以上は言うなよ。」

「……ごめんなさい。口が過ぎました。」

 

いや、謝らなくてもいいけど。ただな。

 

「強い力を持ったものが、強い心を持てるとは限らないんだよ。」

「……ですが。」

「俺は、俺自身に、もう向き合う元気がないんだよ。だからさ。」

 

誰かのためになら、多少は何かが出来るけどさ。

自分のためにはもう、何もしたくない。そういう選択肢を選んだんだよ。

 

「それは。」

「逃げているって言われたらその通りなんだけどな。」

 

いいえ、とマーレ殿は首を振った。

 

「その生き方は、きっと、辛いのではと私は思ってしまうのです。」

「……優しいな。あんた。」

 

俺には優しすぎるね。

 

「ごめんなさい、私は。」

「コルニス殿が悪辣な手を打ったことに動揺したんだろ?わかるさ。」

 

だから、共謀した俺に話を聞きに来ただけだろうけどね。

俺も実は、ろくでもない大人でしかないからさ。

俺の中にある答えは、きっと、ろくでもない大人にしか響かないものだけなんだ。

 

「そのまま真っ直ぐ育てよ。今はともかくさ。」

「はい。」

「これからのこの国には、マーレ殿みたいな子が絶対に必要になるからさ。」

 

未来は若い子のためにあるんだよ。だから、頑張ってくれよな。

 

 

 

Chapter56

 

「不思議な夢を見たんです。」

 

酒場でぐだぐだする生活に戻って、それから大分経った時期に。

そんな相談を、エルナから受けたわけである。

 

「夢ね。魔術師的には色々とある話だけどなぁ。」

「そうなんですか?」

 

純粋に自分の深層心理から湧いてくるものであったり。

夢見としてどこかから情報を拾ってくるものであったり。

どういう形にせよ、魔術師としては意味を持たせることが出来るわけだな。

 

「んで、どんな夢を見たんだ?」

「……多分、レーヴさんの夢、だと思うんですけど。」

 

俺の夢?

 

「俺が登場人物だったってことか?」

「……よく判らないんです。」

 

そういって逡巡した様子を見せるエルナ。

 

「とりあえず、話すだけ話しちまえよ。」

 

その後に俺がどういう反応を示すかまでは、保証しきれんけどさ。

そういう俺に、エルナは一つ息を呑んでから、小さく声を出した。

 

「廃墟、壊れてしまった街があるんです。」

「ふむ。」

「その中で、若い男の人が、膝を突いて泣いてるんです。」

 

へえ。

 

「その人は、自分より小さな男の子を抱きしめていて。」

「その子どもは何か特徴があるか?」

「多分……既に息を引き取ってしまったような、そんな感じです。」

 

あー。それは、なんというか。凄くあれだな。

 

「で、その男を、エルナは俺だと思ったのか?」

「おかしいですよね。年齢も姿格好も、同じではないのに。」

「なんとなく俺だと確信したわけだよな。」

 

それは、まあ、あれだな。完全に俺の過去だろうけど。

あんまりそれを知られるのは気が進まないというか、嬉しくはないな。

 

「その夢がどういうものかはさておいて、だな。」

「はい。」

「その領域で見えてるってことは、星見だけじゃなくて夢見も行けるな。」

 

それも、ちゃんと対策しないとそれで死にかねないレベルで。

 

「死、死ぬんですか?私。」

「その素質で、下手に他の夢見に干渉されたら目覚めなくなるからな。」

 

俺も技術としてしか出来ないから何とも言えんが。

 

「防御用の装備、作るかぁ……」

「いいんですか?」

「流石に、その素質を見て放置したらそれこそ夢見が悪いな。」

 

寝てるときに着けるものだし、まあ装飾品になるか。

 

「適当に首飾りか髪飾りで作るが、希望はあるか?」

「あ、あの。」

「対応できる範囲なら何でもいいぜ。」

 

ほぼ肌身離さずにつけることになるものだから、気に入らんものだとな。

 

「なら……レーヴさんが私に似合うと思ったものがいいです。」

「それはまた。」

 

難しい注文を、そんな顔で言われてしまったらなぁ。

注文には応じるが、多分、その感情に応えることは、きっとないと思うぜ。

 

 

 

Chapter56

 

反乱軍と偽王軍の陣取り合戦が、いよいよ本格的に始まった。

そうなってくると、この地に何の縁も持たない俺には大した仕事がないわけで。

 

「カスパルとフレデリクは忙しいねぇ。」

「俺もフレデリクさんも忙しいけど、一番忙しいのは王子だぞ。」

 

そりゃそうだ。

色々な都市を巡っては、有力者に会って縁を繋ぎながらの交渉である。

たまに意見役として俺も着いていくけど、そこまで頻度は高いわけではない。

 

「カスパルも名代として忙しいだろうに。」

「王子に近い立ち位置のものであるならば、カスパルでも代行できるからな。」

 

今のところ、そういう意味で、王子の代行が出来るのは3人。

カスパル、フレデリク、コルニス殿だけである。

俺やエルナはそういうのが出来る立ち位置ではないし、俺はする気もない。

 

「3人がいない間は、程々に任せろよ。程々ならなんかするから。」

「貴様なら防衛戦ぐらいは容易にこなせそうではあるが。」

 

そういうのはちょっと違うっつーか……

 

「出来れば戦いに直接関係しないあたりが嬉しいんだけど。」

「例えば?」

「情報収集や敵の撹乱だったら幾らでもやってやるよ。暇つぶしに。」

 

そこらへんなら酒飲みながらでも出来るからな。

裏工作は得意だぞ。コルニス殿の伝手も使えば、王都に騒ぎも起こせるぞ。

 

「なんでそんなことを酒のつまみに出来るのであるか……」

「慣れと感覚の問題よ。ちゃんと楽しいぞ。」

「慣れたくねぇけど、おっさんだけに任せとくとまた二の舞なんだよな。」

 

お、いいねぇ。ちゃんと自分の立ち位置を自覚してるのは高得点だぞ。

 

「何の得点なんだよ。」

「あんまり溜まってないと機会があったときにまた教育する。」

 

得点の溜まり具合で、配慮があるかないかが変わるから注意しておけよ。

 

「貴様は、必要なのは判るが、もう少し優しくしてやるのである。」

「優しくしてもいいけど。」

「いいけど?」

「いつ誰の仕業で思い知るかどうかの違いでしかないからな……」

 

その分、俺は配慮するから本当に優しい方なんだぞ?

 

「うーわー。言ってることは正しいのにおっさんが言うと腹立つー。」

「ははは。悔しがれ悔しがれ。」

「じゃれあえるだけ、いい関係であるのは判るが……」

 

いや、本当に。

最終的に、いつ俺が居なくなるかも判らないんだから、ちゃんと励めよ。

積み重ねたことは、いつかちゃんと意味があるんだからな。

 

「俺やコルニス殿が居なくなっても、回るぐらいに賢くなれよ。」

「その時は他の知恵者をちゃんと探すけど、まあ、言いたいことは判ったよ。」

 

 

 




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