Chapter4
この国、フェルドランは王制である。
簒奪が起きる前までは、第三王子の父親であるところの前王が統べていて。
それはそれでまあ悪くない程度の善政を敷いていたわけであるのだが。
馬鹿が燻っていた輩を連れて、王族を弑して偽王として成ったわけである。
「暮らし向きが変わらなければ庶民は構わんのだが、実際そこはどうなんだ?」
「うーん。今のところ悪政の方向でしかなさそうだね。」
そりゃ駄目だな。
というわけで、別の街にある拠点に移動するため、荷物を纏めて準備中である。
男の一人暮らしで荷物は知れている。杖を振り鞄に入るように魔術をかけていく。
「見事なものだね。」
「だろ。暇に飽かせて開発したお片付け魔術だ。」
「自分から鞄に入って行くんですね……」
「自分を綺麗にしてから入って行くように作ってある便利さだ。」
消費魔力は大したことないし、使うの自体はそこまで難しくない。
ただ、使えるようになるのに必要な知識量は割とやばい。
簡易的な疑似知能と自立移動に加えて事前の設定した記憶の保存があるからな。
「ところで、王剣の直し方は教えてくれるのかい?」
「迷惑かけた後に聞くかぁ?それ。」
「あはは。ここまで来たら勢いで答えてくれるかなって。」
こいつぅ。いい性格してやがるね!
「まあ、詰まんねぇことだし、もういいぜ。出せよ。」
「ありがたいね。ほら、幾らでも見分してくれ。」
王剣を出させる。
武器を他に持っていない以上、これでさっき人を切ってるんだよな。汚ぇ。
出された王剣に触れることなく、さっき見たことを伝える。
「それ、契約式の魔術装備だな。持ち主を選ぶやつ。」
「選ぶってことは」
「お前さんが持ち手として認められてないってことだと思うぜ。」
要は、本来の使い手と認められてないのに使っているのだ。
「そうか……僕が王でないから……」
「そういう話ではねぇかな。なんか王族だけに伝わる儀式とかねぇの?」
「……心当たりは、ないわけじゃないが。」
「多分、それをしてから使うのが、正しい使い方だと思うぜ。」
正規ルートではないのに、多少は動いてくれる王剣が優しいまである。
本来の持ち主ではないけど、ある程度認められてるってことだ。
それ考えたら、多分、多少の人格は宿っててもおかしくはねえな。うん。
「王剣って名に恥じない逸品ってことだな。」
俺が作ろうとしたら、どれぐらいの日数がかかるかねぇ。
考え始める第三王子を他所に、俺は引き続き片づけを進めるのであった。
Chapter5
別の街まで逃げる途中、追っ手だの野生動物に襲われること数度。
「ところでレーヴ殿は。」
「ああ?どうしたよ。怪我でもしたのか?」
「攻撃魔術は使わないのかい?」
後ろの俺も、巻き込まれそうになる時があり。
その度に、自衛のため蹴り飛ばしてきたら第三王子からそう尋ねられた。
「あー。使わねぇなぁ。使えない。」
「それだけ出来て、攻撃魔術が使えないなんてことあるのかい?」
「戦いは嫌いなんだよ。魔物でも来ねぇなら魔術も使いたくない。」
「ここら辺に魔物が出ることはそうないけどね。」
こんな人里付近に魔物が出たら、大問題だからなぁ。
余程餌に困らない限りは、普通は山奥とかにしかいねぇもんな。
「というか、戦闘中にわざわざこっち見てるんじゃねえよ。」
「護衛対象だからね。ちゃんと確認するさ。」
「確認っていうか、警戒や見張りの間違いだろ。居心地悪いんだよ。」
俺のことなんか見てもなんも面白くないだろうによ。
「そもそも、あんた魔術使えんの?吹かしじゃねーのか。」
「か、カスパルさん!レーヴさんは、確かに魔術を使われてはないですが……」
第三王子のお付き3号が俺を見る。髪を後ろに縛った若い男だ。
王子の乳兄弟らしい。まあ、立場上、その警戒心は分からなくもない。
俺の住処に来たときは、どうやら逃走経路を確保していたということで。
「間違いなく私より上、です。魔術師だけでなく、星見としても。」
「おいおい、星は見ねぇし声も聴かねぇよ。」
面倒くさいからな。余計なものも見えるし知りたくないことも知ることになる。
熟達してもあんま変わらんし、人間が欲しい情報を星がくれるとも限らない。
……なんで人は星見なんて目指すんだろうな。人は未知が怖いってことかね。
「星見でもあるのか。」
「あんまり見たくはねぇけどなあ。」
否定はしないが、別に自分から名乗るようなもんじゃない。
「どんな国でも重宝されるだろう?」
「国の政治に巻き込まれる代わりにな。」
情報系の魔術師になるには、努力じゃなくて才能が必要だからな。
星見だの、夢見だの、色々あるが、どれも望めばそれなりの立場にはなれる。
ま、俺が望むことはないってだけだ。得られるものに見合わない。
「もっとレーヴ殿と交流を深めたいところだけど、次に進むかい?」
「んー、いや。一回休憩挟んだほうがいいな。」
同行してる王子の護衛も含めて、この行軍はそこそこ早い。
俺は別に構わんが、まあ、足を痛めてるのがいるのは分かってるからな。
足を気にしながら歩く奴を横目で見た俺に王子は頷き、休憩を宣言した。
Chapter6
「さて。足を出せ、治療してやるから。」
「なんでばれてるのですか……?」
休憩中。街道を外れた林の木陰。
足を痛めた様子の、星見の魔術師エルナに、足を出すように言う。
なんでって聞かれても、そりゃ俺が治癒術師だからって話なんだが。
「歩き方見りゃわかるだろ、ンなもん。無理してるのは判り切ってんだ。」
「無理なんか……いえ、ばれているなら隠す意味がない、ですね。」
「その通りだぜ。ほら、早くブーツを脱いじまえよ。痛いんだろ。」
運動し慣れてないやつを歩かせたら靴ズレの一つもできるわけでさ。
ブーツを脱がせると、布を巻きつけて強引に固めた足が見える。
カスパルとやらの監視の目がうるさいが、余分なことをする気は毛頭ないよ。
「布巻いても痛みが消えるわけじゃなかろうに。」
「それでも、少しは歩きやすくなりますから。」
薄く血が滲んだ足先を見るに、衛生面でもあまりよくなさそうだが。
痛みを引かせ、腫れと炎症を抑え、自己治癒力を高めてターンオーバーを加速。
完璧な元通りにはしないのは、これからの旅に向けた配慮だな。
「ありがとうございます……」
「治療は趣味みたいなもんだ。ただでやってるからな。」
勿論、街だと施療院もあるから、兼ね合いもあって有料だけどな。
……何にも言わずに街を出て、多少は迷惑を掛けることになったな。
まあ丁度、治療中の患者もいなかったことだし、許容範囲だろう。
「その、こんなことになってごめんなさい。」
「ん?」
「私が星見をしたから、貴方を巻き込んでしまった。」
……まあ、切っ掛けは否定するところではないんだが。
「気にするな。星見ってのはそんなもんだし、星なんて無責任なもんだよ。」
「私がもっとできる術師なら……」
「それでも、多分星は、俺のことを指し示したと思うぜ。」
強いて言うなら、俺が近くにいたってのが俺の失敗であるわけだ。
星見がいなかったとしても、賢者にって選択肢は出てきただろうしね。
そのタイミングがずれたところで、何かが変わったとまでは思えない。
「お詫びになることがあれば、なんでも仰ってくださいね。」
気にするなといっても気にする奴だな、これ。
治療が終わった足をぽんと叩き、俺は逃げるべく立ち上がる。
「精進することだな。魔術もなんでもさ。」
「はい……ありがとうございます。」
何にも言うことが思い浮かばないから、無責任に頑張れと言い残し。
後ろに感じる視線を振り払う気分で、俺はその場を逃げ去るように立ち去った。
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