Chapter58
「師匠って攻撃魔術、使わないんですか?」
「んあ?」
お前、ユレンまでカスパルみたいなことを言うのかよ。
そんなことを言われたら、美味くもねぇ酒が飲めたもんじゃなくなるだろうが。
「俺は攻撃魔術は使えねぇし、使わねぇよ。」
「でも。」
「何がでもだよ。」
まさか、あの恵みの雨のことを言ってるのかよ。
あの雨は、ちゃんと偶然の賜物であると俺は伝えたはずなんだが?
「なら、あの雨は良いです。」
「じゃあなんだよ。他になんか俺に文句でもあるっていうのかぁ?」
いやあるかもしれんけど、俺は聞く気はないぞぅ?
「俺に攻撃魔術は教えてくれないんですか?」
「そういう方向性かよ。」
「俺だって、多少は魔力あるんだから、戦いに使ってもいいじゃないですか。」
いいかどうかで聞かれるとなぁ。
「治癒術師としての才能ほど、攻撃魔術の才能はないと思うぞ?」
「……試してないのに判るんですか?」
判るさ。
お前には、誰かを傷つけようとする悪意が根本的に足りてない。
「攻撃魔術ってのは、どうしたら効率良く殺せるかって学問だ。」
「学問、ですか。」
そう、つまりは再現性のある技術ってことだな。
「水魔術を一つ取ってだな。お前だったら人を殺すのにどうする?」
「え。氷の刃とかで切り刻む、とかですか?」
「最大効率で考えるなら、喉に粘度高い水を含ませて窒息死辺りだろうな。」
高圧の水でもいいけど、圧力を掛けるのに魔力使うからな。
その点、性質変化と念動操作の2つを小規模に使えば終わるのは強いぞ?
「……地味、ですね?」
「地味だけどな。そういう小手先の技術を、いくつも隠し持つもんだぞ。」
そうしたら、一つ対策できても、どれかが引っ掛かれば殺せるからな。
必殺の切り札はいくつあってもいいわけだ。
「そういう積み重ねをするのが攻撃魔術の使い手だよ。」
「それは、なんというか。」
「一言で言わせてもらうと、お前には向いてないと思うぜ。」
根本的に、学問に対しての素養がない。
積み重ねは出来ても、その先が人を殺す方向への努力が続くとは思えない。
こう見えて、ちゃんとお前に適性があるかどうかぐらいは把握してるぜ?
「いっそもっと魔力があればな。」
一人当たりの効率性ではなく、範囲攻撃としてね。
そういった線での努力だったら、まあ適性も多少はあるんだろうけどさ。
「無いものねだり、だな。」
「素直に治癒術師として大成する方がいいんですかね……」
剣の才能も全くないらしいし、その方が俺は良いんじゃないかと思うがね。
Chapter59
「水源に毒ぅ?」
馬鹿かそいつは。
そもそも、この戦争は、この国における正当性の奪い合いなんだぞ?
それを自分から放棄してどうするんだかね。負け犬主義なのかい?
「そこは解決しているんだけどね。」
「じゃあ俺に何を聞くんだよ。」
「偽王軍が、なりふり構わなくなってきたんだ。対策を聞きたい。」
なるほど、ね。
「なりふり構わないってのは、後先を考えないのも含めてか?」
「そうだね。その場しのぎの策が多くなってきていると思う。」
その対策を俺に聞いてくるってのは、若干引っかかるところであるが。
「そういうのはちゃんとコルニス殿に相談したか?」
「相談したし、元悪党達にも聞いたよ。その上で、レーヴ殿にも聞きたい。」
じゃあ、仕方ないな。
「後先を考えないってことは、効率的な選択肢以外を選ぶってことだ。」
「そうなると、どういうことが増えてくるんだい?」
「場を荒らすこと自体が目的になってきたり、色々だな。」
場合によっては、真面目にやってる奴に糞投げつけるだけが目的になる。
「とはいえ、取れる行動にはそこまで幅はない。」
「どうしてだい?」
「そもそも追いつめられないと、そんな状況にはならないからな。」
選択肢が少なくなってきたから、投げやりな手が逆に出てくるんだよ。
自分の利益をさておいて、相手の目標だけを壊したり。
ダメージレースで不利なことを判ってて、嫌がらせに突撃したりな。
「共通するのは、嫌がらせってところだ。」
「嫌がらせ、ね。」
「他の条件をすべて投げ捨てて、相手が一番嫌なことだけをする。」
それはそれでちゃんと厄介なんだぞ?
まともな思考力を持った上での、命をかけた卓袱台返しなんだからな。
「対策はあるのかい?」
「常に、勝負を降りた上での嫌がらせの手段を考えておくことだな。」
「考えるだけでいいのか。」
「一回でも思考しておいたことだったら、事後策で何とでもなる。」
例えばだが。
偽王軍が自ら王都を破壊して、反乱軍に国を取り戻させないとかな。
冷静に考えれば意味はないけど、あり得ねぇとまでは言えないだろ。
「……あってほしくはないけど、事後策は?」
「王都捨ててるんだから正当性もあったもんじゃないだろ。」
「それなら、戦力差が変わるか。」
「そう、野戦で終わる。そのあとは、古城とフェンズを中心に王朝復興だな。」
王都が廃墟になること自体は大問題なんだが。
それはそれとして反乱成功する分には有利になるし、立て直すだけでもある。
「……思考の幅の広さでは、レーヴ殿が一番だね。」
「おう。こう見えて、人の持つ悪意には色々触れてきたからなぁ。」
言っておいて、何も誇れることではないことに気付いて、俺は頭を掻いた。
Chapter60
「魔術兵団長になる気はありませんか?」
「この師弟は、聞かなくても判ることを聞くのが趣味なのかよ?」
王子もそういう節があるが、コルニス殿もかよ。
俺が気が変わることがあると思うのか。まあそれはたまにあるんだが。
「部隊を再編しているのですがね。」
「魔力が高くて判断もできる奴ならそこそこいるだろ。アドリアーン殿とか。」
「切り札となれる領域の方がいると判っていて、聞かないのはね。」
そりゃ、俺がなったらそれだけで戦争を終わらせられるだろうけど。
「俺の魔術で吹っ飛ばしても正当性って足りるもんか?」
「それは無理なので補助役になりますが。」
やっぱり駄目じゃんよ。
「そもそも、そういう形で手助けするつもりはないんだよ。」
「やはり無理ですか。」
「無理だなぁ。俺が人を殺すのは、ちょっと色々と差し障りがあるからな。」
戦局が余計にややこしくなる可能性だって否定できないというか。
下手すると俺より強い魔術師がわざわざ敵に回りに出てくるというか。
「そんなに状況良くなかったっけ?」
「悪くはないですが良くはないですね。」
であるか。
複数の都市を支配下に置きつつ、それでもまだ足りないのはな。
「王子のご方針もありますからね。」
「元より、こっちの方が選べる手には限定があるんだけどな。」
単純な正当性だけならこちらの方が上だが。
その分、悪辣な手管は制限されるのが、王子率いる反乱軍なわけである。
「あっちは暗殺も何でもかんでもやりたい放題なのにな。」
「こちらは偽王を暗殺したところで勝ちなわけではないですからね。」
殺して終わりで戦争が終わるなら、やってやってもいいけどな。
そんな真似をしたところで、この国が王子のものになりはしないのだ。
「というか、勝算はどれぐらいだ?」
「何を勝利条件と置くかによりますね。」
質問が悪かったな。
「王都の奪還だと、出来る見込みはあるのかよ。」
「偽王軍が余計なことをしなければ十分にありますよ。」
余計なことね。
「するよな。」
「しないわけがないので未知数としか言えません。」
「因みに、このまま国を二分割して成立させるのは想定済みだよな?」
「その場合、20年後ぐらいにフェンズとブレハンが対立しますね。」
さもあらん。
どこの誰だって自分に利益が出るように立ち振る舞うわけだからな。
利益の綱引きが、最悪の形で実施されることになるのは、避けたいよな。
「とにかく、決め手が足りないんですよねぇ。」
「無いものねだりはあれだが、まあ、愚痴ぐらいならいつでも聞くさ。」
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