Chapter60
「偽王軍が余分なことをする前に勝つことって出来ないのか?」
幹部会議、そんな質問を投げてきたのはカスパルだった。
色々な場所で、偽王軍の糞行動に対応しているため、疲労困憊である。
可哀そうなところだが、お前がやらないと王子が対応することになるのだ。
「んー。まだ純粋に、戦力が足りてねぇな。」
「正面からの一大決戦を挑むには、互いに摺り潰しあうことになりますね。」
それが判ってるから偽王軍も積極的には攻めてこないのだが。
代わりに、カスパルの言う余分なことを重ねてきてるわけであるのだね。
「ヴェルノヴィアに繋がりを取るとか、外患誘致かよってな。」
「成立してたら二方面作戦になってましたね。」
軽く売国をし始める奴もいるもんだから、もう収拾がつかないな。
「そうなってたら最悪、裏に回り込んで民衆蜂起ぐらいさせてたさ。」
「そんなに簡単に言うけど、出来るのかよ。出来るんだろうなー。」
ははは。
「やり始めると意外と簡単だし、楽しいぞ?」
「おっさんのやりたいこととやりたくないことの差がよく判んねぇよ。」
俺もよく判んないから大丈夫だ。
強いて言うと、自分の手で人を殺すのは、もうできれば遠慮したいな。
「しかし、偽王軍も手詰まりに近いのであろう?」
「お互いに決め手を欠いてはいる、そういう風に報告は受けているね。」
このまま真っ当に行けば、余程の奇策がなければストレート勝ちは無理だな。
例えば、相手側に俺並みの魔術師が積極的についてしまうとか。
それとも、吸血鬼やそれ以上の人外の群れとの提携が出来てしまうとかね。
「ん?」
嫌な予感というか。
これはシンプルに星からの警告、それもどちらかというと悪意のあるやつ。
感覚的には、馬鹿にして指さして大爆笑している感じで。
「んんんー?」
「どうしました、レーヴさん。」
「エルナ。エルナも星、見てもらっていいか?」
俺だけの勘違いならいいんだけど、多分そういう類ではないからな。
「はい。えーと。え、と。え……?」
「やっぱりそっちも駄目か。」
「レーヴさんも、見えない、ですか?」
そう。星見が出来ないというか、すごく単純に言えば妨害されている。
「二人とも星見が出来ないとか、何の予兆ですか?」
「予兆っていうか、そうだな。」
「私はこんなのは、初めてですけど……」
コルニス殿の質問に、まだ経験の浅いエルナは答えられないが。
「高い魔力があって、星見の適性を持つ奴らが敵に回ったな。」
「……誰なんだい?」
「龍だな。山脈に住む龍種が敵に回ったと考えるべきだと思うぜ。」
この期に及んで、面倒くさい奴らが人間の戦いに絡んできたのだ。
Chapter61
「……龍?」
「そうだな。つまるところ、空飛ぶ火吹き蜥蜴が敵に回ったわけだ。」
大した奴らではないが、人間、反乱軍にとっては脅威だろうな。
「ええと。僕らでは正確には脅威の程が判らない。」
「そう、ですね。レーヴ殿、魔術師としての視点で解説を願えますか?」
うん、そうだな。その頼まれ方なら否とは言えないな。
魔術師ってのはいつだって自分の知識をひけらかすのが大好きなものだからな。
「まあでも、特徴としてはさっきの通りだ。」
「つまり?」
「空を飛ぶ、火を吐く、蜥蜴に似ている。ついでに言うとかなりデカい。」
要は、空を飛んで火を吐く巨体で、皮が分厚い。
倒せなくはないが、軍隊で相手にするには極めて相性が悪いな。
有効打を与えにくい割に、相手の行動はすべてが致命傷になる。
「つまるところ、強敵だってことかよ。」
「いや、大したことはあるようでそうでもない。」
一頭なら、王子とカスパル、フレデリクあたりで囲めば倒せる。
「それは、一線級の戦力数人掛かりというのではないのか?」
「そうとも言うかも知れない。」
火を避けながら有効打を与えられる人間が数人必要だからな。
軍隊だと百の兵士が轢き潰されつつ。
何人かが一太刀浴びせて肉団子になるというのを繰り返す感じになる。
「それは、何とかならないのですか、レーヴさん。」
「龍種なら、俺が相手してもいいけど。」
「けど?」
「あいつら、頭はいいから俺のことは避けてくると思うぜ?」
俺と戦わないくらいの知恵は見せてくるわけよ。
「何より邪魔臭いのは機動力があることだからなあ。」
「逃げられると、そういうことですか。」
そういうことなんだよなぁ。
なんで偽王軍に降ったのかねぇ。人間牧場でも約束されたのかな。
アイツら、群れになると、人間を飼育し始めるゴミカスなんだよなぁ。
「因みに、星見が出来るということは、こちらの情報は筒抜けなのかい?」
「いや、この城には防壁貼ってあるから見えないけどさ。」
こっちに星見がいることもバレバレになるし、実際対策も取られたわけだ。
「とはいえ、単純な星見の力量なら俺の方が上だ。」
「ほう?」
「相手の防壁は貫通できるし、防壁を乗り越えられることもないよ。」
問題は、だからどうしたってことでもあるんだけどな。
「星見がどうのこうじゃなく、偽王軍は決定打を手に入れた訳だ。」
「それは、その通りだね。」
「それも機動力があって、対策できる俺がどこにいるかも掴んでくるぞ。」
そんなのが群れで敵に回った以上、状況は間違いなく悪くなったな。
Chapter63
「過去に、魔王になったレヴィンという魔術師がいたらしい。」
「へー。」
そんな真新しさの欠片もない情報を、今更俺に伝えてどうするよ。
「貴方が全力を出せば、この戦いは何とかならないのかい?」
「龍の群れぐらいはなんとでもするけど、戦争ってそれだけじゃないだろ。」
スペック上は、そりゃなんとでもなるだろうけど。
一個体のスペックだけで勝てるほど戦争は簡単じゃないだろう。
あと、俺が真面目に戦おうとすると、多分余計な横槍も入るしな。
「俺が龍一頭の対応中に、他の群れで本隊を襲われたら何ともならん。」
「それは、そうだね。」
「あと、その話には多少の誤解があるから、そこもなんというか、だな。」
あんまり嬉しくない勘違いというか。
俺のプライド的に、そこには間違えて欲しくない一線があるというか。
「正確な情報ではなかったかい?」
「そうだな。そのレヴィンってやつは、魔王の候補止まりだったからな。」
差があるのかい?と王子は小さく首をかしげた。
多分、世の中的には大差はないが、俺的には重要かな。
その時の全力でも、魔王まで辿り着くことができなかったわけだからな。
勿論、辿り着かなくて、結果としてはよかったと思ってはいるけどさ。
「それは、どうして?」
「魔王になんかなっても意味ねえんだよ。だから、良かったんだ。」
そこらへんは、魔王が何かを知らねぇとよく判んないだろうけどな。
「……なんで魔王になろうと思っていたんだい?」
「色々あった。色々あったけど、まあ、最終的にはな。」
「最終的には?」
結論は、あの時から何度考えても変わらないんだよ。
16年経った今でも、ただ思い返すのは自分の間違いばかりなんだ。
「だから悪いのは俺なんだよ。わかってるんだ。」
「……僕は、レーヴ殿を責めているわけではないよ。」
知ってるよ。
それでも、今でも、何度でも、俺はあの時の失敗から逃げ続けてる。
「貴方にとっては、それだけの大きな失敗だったんだね。」
「おう。あの時、魔王候補のまま、勇者に倒されて、本当に良かったんだ。」
王子は、驚いたのか、ごくんと息を大きく呑み込んだ。
「戦って……負けたのかい?」
「負けたよ。」
「レーヴ殿が負けるほどの勇者とはどのような方だったんだ?」
それは、実は俺にも判らないんだよな。
「え?」
「あいつのこと、俺は詳しくは知らねぇんだよな。」
もう死んでるし。
生きているときに一度も会話したことのない人間のことを、俺は知らないんだ。
殺したのが俺で、そいつによって俺は倒されたという事実があるだけだ。
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