それでも賢者は逃げていく   作:re=tdwa

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22話

Chapter64

 

そして戦争は、膠着状態に至ったわけである。

 

元より、龍と俺を考慮しない戦力差は悪くなかった。

いずれはその正当性の綱引きで、王子が勝つだろうといった状況であった。

そこをひっくり返したのが、今回の龍の群れの参戦なのだった。

 

決定打である龍の群れは、王都の東側の山脈から国を俯瞰し。

そして俺は、古城からその圧力を観測し、いつでも当たれるようにする。

先に攻撃を仕掛けた側が、反撃を受ける側になる、そういう状況だ。

 

「牽制しあっているというわけですね?」

「そうだな。相手が群れで動いてくれるなら、纏めて潰せるが。」

 

それを警戒しているから、単体での嫌がらせに徹している。

もし対応するために俺が出張ると、群れで別の場所を攻めるわけだな。

 

「逆に俺から山脈を攻めても同じなんだよ。」

「少数でレーヴ殿の相手をして、残りはバラバラに攻めてくる、と。」

 

その通りなんだよなぁ。

お互いに動かないことが、今の膠着状態を維持することになる。

 

「逆にコルニス殿は何か対策案はないのか?」

「そうですね。戦況が止まっているなら、戦力拡大に時間を割きたいですが。」

「龍が出てきたからにはそれもあんまり進まないよな。」

 

戦力差的には偽王軍が上回ったわけで。

龍を引き込んだことによって、王子の正当性はまた強くなりはしたが。

日和見だった都市や、偽王軍についた陣営の裏返りは中々期待できない。

 

「今の少数で出てくる龍を削り倒す、という選択肢は?」

「上位戦力がいるところに出てくればいいがな。」

「龍の機動力が邪魔、ということがここでも出てくるのですね。」

 

そうなるな。並の人間よりは賢いってのも、マイナス要素だ。

 

「星見が出来るのも邪魔なんだよな。」

「妨害しているのでは?」

「妨害してることで、逆に俺がどこにいるかは判るんだよ。」

 

だからって妨害しないと、情報を抜かれ放題になるんだが。

 

「とにかく、俺が龍の本隊にぶつからないと何ともならん。」

「その条件を満たさない場合は?」

「どうあがいても、兵士が摺りつぶされることになるからな。」

 

人同士の争いならともかく、人外が出てきてそうなるのは俺は好かん。

それなら、人外に人でなしがぶつかりに行くのも許容できるんだが。

 

「解決できる策があればいいんだがな。」

「思いつけば確実にお伝えしますとも。」

 

カスパルとかフレデリクが、いい感じの案を思い浮かべてくれないもんかな。

いつもとは逆の立ち位置になるが、俺は俺で、お前らに期待してるんだぜ。

 

 

 

Chapter65

 

「俺と師匠って、どれぐらいの差があるんですかね。」

「お、下剋上か?」

「違いますよ、純粋な興味と確認です。」

 

なんだよ。下剋上のつもりだったら暇つぶしにいつでも受けて立つのに。

 

「あー。正直、治癒術師としてなら、言うほどの差はないな。」

「え。そうなん、ですか?」

「残念だが、年齢分の差しかないと思うぜ。」

 

十七年後には、俺と同じ技量まで辿り着くだろうね。

俺はあくまで、過去生の生物学の知識で、人よりも早熟だっただけだしな。

そのアドバンテージを踏み倒せるぐらいの経験を踏んだら変わらんだろう。

 

「俺も、治癒術師としては別に天才じゃないからな。」

「十分卓越しているように思えますけど。」

「そりゃその分の経験をちゃんと積んでるからで、お前も変わらんよ。」

 

残念ながら、世の中にたまに居る、助けたい想いだけで治せるタイプじゃない。

逆に言えばそのタイプにはユレンの方がちょっと近いぐらいである。

 

「言っておくが、お前の治癒術は反乱軍で2番目だぞ。」

「えぇ……そこまで行ってるわけなくないですか。」

「残念ながら普通の治癒術師は肉体の欠損を治すまで育たないからな。」

 

そこらへんは俺が出来るところを見せつけてきたからな。

出来るって認識と、実際の手順を知ることで、壁が壁じゃなくなるわけで。

上には上が当然いるが、反乱軍には少なくともその領域は多くないんだ。

 

「じゃあ、魔術師や剣士としてだったらどうですか?」

「剣士としてならお前が10人いても俺が無手で勝てるよ。」

 

お前、自分がどれだけ剣が下手くそか自覚ないのか?

体格と筋力に恵まれているだけで、他の要素はぐだぐだのかたまりなんだぞ?

 

「剣士について聞いたのは間違いだったんすね。」

「そうだな。魔術師としては、まあそれなりに育ってるんじゃないのか。」

 

魔力量はそれなりにあるし、治癒術で魔力操作は並みよりは間違いなく上だ。

 

「経験年数相応って感じだな。見習いは超えてるけど、それだけだ。」

「知識量が全く足りてないってことですよね。」

 

そうなんだよな。魔術師はほぼ学者か技術者みたいなもんだから。

専門や得意分野の差はあれど、城の魔術防衛とかも出来ないといけないし。

そこらへんもたまには教えているが、こっちも経験がものを言うからな。

 

「魔術師として俺の代わりになるには100年早いな。」

「うう。」

「魔力量はそこまで変わらないんだから、頑張って追い付けばいいさ。」

 

それだけの時間も、治癒術師である以上は、自分で作ることが出来るんだぞ。

 

 

 

Chapter66

 

「星見について教えてください。」

 

そういって、俺の定位置こと酒場に来たのはエルナだった。

 

「あれか、龍の対策か?」

「はい。妨害を超えて読み取ることは、今の私じゃ出来ないので。」

 

まあそりゃそうだな。

どっちかというと、対人技能というか、殺し合い用の技術に近いし。

エルナはそこらへんについて、学んでない……んだろうなぁ。

 

「そういや、エルナって師匠とかはいるのか?」

「え、はい。います、いました。」

「ああ、その言い方になる状況にあるのな。」

 

恐らくは国の簒奪の際に、巻き込まれてしまったんだろうかね。

 

「そうですね。星見兼、魔術の師匠だったんですけど。」

「それはそれは。今更だがお悔やみ申し上げるよ。」

「いえ。私も、復讐しているみたいな気分で、参戦してましたし。」

 

おや。今は違うのかい?

 

「今は、そうですね。周りの人が死んでほしくないって思ってます。」

 

ああ、なるほどね。

俺もその気持ちは判るというか、その気持ちだったら共感せざるを得ないよ。

これ以上、見知った人間が死んでいくのに耐えるとかは御免だからな。

 

「まあ、悪いことを聞いたし、素直に教えるかな。」

「ええ、お願いします。」

 

さて、どうやって教えたもんかな。

 

「星見の妨害ってのは、結果を乱すことにあるんだよな。」

「結果を乱す、ですか。」

 

そう。見えなくするのも、偽装するのも、やってることは同じだ。

 

「自分の周りに違う情報を撒いといて、星にそれを伝えさせるんだよ。」

「……うーん、結界みたいな感じでしょうか。」

「そうだな、最終的にはそういうやり方が一番やりやすいと思う。」

 

逐一、別情報を個別で作ることも出来なくはないが、現実的じゃない。

普通にやりやすいのは、ノイズというか、無情報の結界を貼っておくことだな。

龍がやってきているのもそれだし、多分、それが一般的な奴だろう。

 

「術式は、あとで見本の式を紙に書いて渡すけど、エルナにはまだ無理かな。」

「ありがとうございます、なんとか使えるようになりますよ。でも。」

「ん?」

「見えないってことはそこにいるってことでもありません?」

 

そうなんだよなー。だから、状況次第ではあんまり意味がない。

 

「この城の結界みたいに、戦力を見破らせないためなら意味があるけどな。」

「居場所を誤魔化せるわけではない、ということですよね。」

「龍の情報で知りたいのは、居場所ぐらいだからな。他は知る必要ないし。」

 

その領域の術師がそこにいるってこと自体は隠しようがないからな。

場所が判ってるなら星見で見えなくても、風読みや遠視透視で見えるし。

 

「だから、高位の魔術師同士の対人戦だとあんまり使えないんだよな……」

「そんな魔術師との闘いはしたことがないので私には判らないですけど……」

 

しなくて済むならその方が間違いなくいいと思うぜ。不毛だからな。

 

 

 




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