それでも賢者は逃げていく   作:re=tdwa

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23話

Chapter67

 

「正直、兵士が摺りつぶされることを前提に作戦を組む必要があるのだ。」

「あんまりそこには賛成したくはないんだがなぁ。」

 

フレデリクは、ある意味で、一番現実的な策を提案してくる。

そうなんだよな。犠牲込みで考えてしまえば、何とかならんでもない。

 

「兵士は、死ぬのも仕事であるのだ。それを積極的に肯定するつもりはないが。」

「そうなんだろうけど。」

「おっさんが渋るのは珍しいな。矢でも降るんじゃないか?」

 

戦争中だぞ。本当に矢の雨が降ってきたらどうするんだよ。

 

「そもそも俺は、出来るなら人死には避けたいんだよ。」

「そこを否定するつもりはないけどよ。打てる手がもう限定されてるぜ?」

 

龍がバラバラに襲ってくることを前提に、本隊だけを俺で守る。

そうして各地でぼろ負けしている状況の中で、主戦場で勝つという選択。

合理的なんだよなぁ。普通に考えたら、俺だってそれを提示するんだが。

 

「龍が絡んでくるっていうのが本気で気に食わないんだよ。」

 

糞蜥蜴どもめ。

こうなるんだったら定期的に間引いて族滅させておくんだったと本気で思う。

あいつらはあいつらで生態系があるからとか思ってるんじゃなかったぜ。

 

「おっさんって、龍とか精霊術師とか、嫌いなもの多すぎじゃね?」

「恨みがあったりなかったりするんだよ。よく喧嘩売られるからな。」

 

幾ら俺の過去があれであろうと。

喧嘩を挑まれる筋合いはないと主張してるのに絡んでくるからな。

逆の立場なら俺も多分、喧嘩を挑むけど、そこは棚上げしときつつ。

 

「それはともかく、もう少し手はないかまだ考えてるんだよ。」

「コルニス殿とそれだけ考えてなければ、諦めてもいいのではないか?」

「おっさんが一生懸命向き合ってくれてるのは、ちゃんと伝わるからさ。」

 

もう諦めて、その中での最善を尽くそうぜと二人が言ってくる。

 

「現実っていうか、俺の矜持の問題なんだよ。」

「兵士想いであることは、大変ありがたく思うがな。」

 

人外が、人様の生活に口出ししてくるんじゃねーよって思いだけだがね。

 

「とにかく、何か考えるからもう少し時間をくれよ。」

「おっさんに言うまでもないけど、時間は無限じゃないからな。」

「それでも、期待はしているのである。どうかいい案を考えてくれ。」

 

くっそー。いつもとは逆の立ち位置になってるんだよな。

手がない。手がない。まともに打てる正当性のある手が思い浮かばない。

知恵者だって、人にあれだけ偉そうな振る舞いをしてこれとはね。

 

 

 

Chapter68

 

「レーヴさんの夢を見ました。」

「今度はどんな夢だった?」

 

今日は、酒場ではなく、エルナに呼び出された場所だった。

いつかの時にカスパルとも一緒にぐだぐだしていた、古城の屋上である。

当時とは違って、花を育てる余裕もあり、微かに薫る香りが好ましい。

 

「今回は、きっと未来の夢だったんです。」

「夢見としての勘かい?」

 

いいえ、とエルナは穏やかに微笑みながら首を振った。

じゃあ何かと聞くと、ただそうなるだろうなって思ったからと小さな声で言う。

 

「レーヴさんが、龍の群れを相手に大立ち回りしてました。」

「それは……確かに未来の夢だな。それも直近でありそうな。」

 

早く、上手い形でそうなってくれれば俺も大分すっきりするんだが。

 

「とってもかっこよかったんですよ。空を縦横無尽に飛び回って。」

「……エルナは趣味が悪いなぁ。」

「いいえ。私は私の趣味に、誇りを持って正しいって言えますよ。」

 

曰く。

色とりどりの龍の中を、俺が駆けるように空を飛び。

そして、踊るように戦っている姿が、その夢の中では見えたという。

 

「この夢が見れたから、ああ、反乱軍は勝つんだなって。」

「勝ち方が問題なんだけどな。出る被害は想像したくもない。」

「私もです。身近な人が傷つくのは、私ももう耐えられそうにありません。」

 

レーヴさんと同じですね。などと見透かしたように言う。

ああ、その通りだよ。俺だって、そんなものはもう耐えられないんだよ。

 

「強くなったなぁ。エルナ。」

「いつまでも誰かに守られる私ではいたくなかったから、変わったんです。」

 

若者は凄いね。

俺はまだまだ足踏みし続けているというのに、この成長具合だよ。

 

「ちょっと前までは、うっかり俺を巻き込んでたのにな。」

「……出会った時のことを言ってません?その時の私とは全く違いますよ?」

 

この戦いは、エルナが立ち位置を間違えたことで巻き込まれたからな。

 

「あの時は、申し訳なかったなって思っているんですけど。」

「けど?」

「うっかりでも、ああなってよかったなって感じちゃう私もいるんですよ?」

 

言っておくべきか。言っておくべきだろうなぁ。

 

「俺は、多分、エルナの気持ちに答えることはないよ。」

「知ってます。それでも、私は今、伝えたいと思ったから。」

 

眩しいねぇ。

 

「もっといい男がいるさ。なんだったら星見で探してやるぜ?」

「必要ありませんよ。だから、想ってることだけは、許してくださいね。」

 

許すも何も、それはエルナの感情だからな。

俺が何かを許すかどうかどころか、何かを口出すような権利すらないよ。

 

「私はその権利を持ってほしいですけどね?」

「勘弁してくれよ……」

 

おじさんはガン詰めされることに、耐性なんてないんだからさ。

 

 

 

Chapter69

 

「師匠は、エルナさんのことはどう思ってるんですか?」

「そんな余分なことを聞くのはこの口か?要らないなら抉るぞ?」

 

こわ!と逃げ出そうとするユレンの首根っこを掴む。

 

「お前も覚えとけよ。治癒術師は色々と難しいんだぜ?」

「な、なにがですか……?」

「年齢っていうか、寿命が人とは合わなくなってくるんだよ。」

 

一定以上の術師になると自然にな。

自分の身体の最適化を無意識でやっちまうようになるから寿命がなくなる。

俺も、意識してないと実年齢より若くなりすぎるから、止めてるわけだ。

 

「いいじゃないですか。いつまでも若々しい師匠で。」

「褒めてるのか微妙なところだな。」

「エルナさんもそうやって寿命を延ばせばいいんじゃないですか?」

 

お前なぁ。

 

「永遠に生きる星見なんて、国にとっちゃ害悪でしかないんだぞ?」

「ええぇ……?」

「どうあがいても、その星見ありきの国になって、その内腐ってくるぞ?」

 

それぐらいは実例がなくても想像がつく範囲だろ。

 

「そうじゃなくてぇ……国を理由にするとか良くないですよ。」

「お前はなー。」

「エルナさんが好きかどうかでちゃんと考えないといけないっすよ。」

 

そりゃそうであることに間違いはないんだが。

くそ。ユレンに完璧無比の正論を言われると、言い返しにくくて腹が立つな。

 

「そうでもなくても、俺はそういう感情を持つ気にはならないんだよ。」

「師匠、自分に言い訳するの本当得意っすねぇ。」

 

口だけじゃなくて脳みそもいらないなら、はっきりそう言ってくれよな。

 

「いります!いりますから!」

「俺なら両方なくても死なないように創ってみせるから安心しろ。」

 

ごめんなさいと喚くユレンに、一度頭を小突いてから解放する。

 

「でも。」

「でも、なんだ?」

「エルナさんは、本当に師匠のことが好きっすよ。」

 

知ってるよ。言われなくても、ちゃんと判ってるつもりだよ。

 

「なら、いいんですけど。俺は、本当は……」

「何か言いたいことがあるのかよ。」

「師匠は……いえ、いいえ。なんでもない、です。」

 

急に落ち着きやがって、不気味なやつだな。

もしかしてお前こそエルナを……いや、そういうのはやめておこう、うん。

それならそれで構わないし、俺が何かを口出すようなことではないからな。

 

「多分、師匠は何か勘違いしてるっすけど。」

「おう?」

「みんな、後悔しないように生きてるので、忘れないで欲しいです。」

 

なんだか急に哲学的なことを言ってきたが。

そうだな、それについては、治癒術師として忘れる気はないぜ。本当にな。

 

 

 




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