それでも賢者は逃げていく   作:re=tdwa

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24話

Chapter70

 

「手がありません。」

「コルニス殿でも思い浮かばないか。」

 

かく言う俺も全く代案が思い浮かばないわけであるが。

 

「これ以上遅延させると、後援する都市からの反発があります。」

「そっちの方から問題出始めてるのかよ。」

「まだ形にはなっていませんが、時間の問題でしょうね。」

 

散発的に龍の襲撃があるからな。

その被害を受けている都市については、こちらの落ち度が気になるだろう。

 

「犠牲込みで、本隊で攻める案で行くしかないですね。」

「王子にはそれを伝えてるか?」

「今回はそれしかもうあり得ないと伝えてあります。」

 

ならばいい、というわけでは勿論ないのだが。

ああしかし。だらしがねえなあ。元魔王候補がただの龍に翻弄されるなんてよ。

 

「これから最終決戦に向けて準備か?」

「そうですね、古城とフェンズに分けて集結することになります。」

 

古城だけだと受け入れのキャパが絶妙に足りないからな。

 

「正面決戦しつつ、龍の被害は織り込み済みで、か。」

「そうなりますね。最終的な被害は想像したくはありませんが。」

 

でも想像しないわけにはいかないんだよな。

それが軍師や知恵者の仕事であることには、誰も疑いようがないもんな。

 

「それで、いつ頃にする予定だ?」

「3か月は必要でしょう、ね……」

 

と。

これからの話をしている時に、古城中に轟音が響いてきた。

……防衛結界に、攻撃が仕掛けられている?嘘だろ、割れるのか?

 

「なんだ?何が起こってる?」

「衛兵、報告を急がせなさい!」

「とりあえず、俺は外出るぜ。」

 

そういって、コルニス殿の執務室の窓から空に飛んで、判った。

 

「嘘だろ、龍の群れがなんでこっちにいるんだよ……!」

 

古城を攻めてきていたのは、何ともならないと思っていた龍の群れで。

観測していたはずの俺の予測を裏切って、殆どがここを攻めてきていた。

 

「いや、状況は判らんが、都合がいいのは確か、だな?」

 

俺が居るところに群れが向かっているということは。

相手の方にとってこそ予想外なはずで、こちらにとっては好機に違いない。

既に応戦を始めている地上の兵士たちへの吐息を防ぎながら、俺は飛ぶ。

 

「いいじゃねーか。ここで人外同士の決戦をするなら、受けて立つぜ?」

 

飛び出したそのまま、柊の杖を強く握りしめて、俺は空を駆ける。

色取り取りの龍が、10体と少し。多いけど、それぐらいは何とかしてやる。

赤色と黄色の爪をよけ、ついでに緑色のブレスを跳ね返して青色を蹴飛ばして。

 

「数揃えりゃ勝てると思ってたか?残念だったなぁ!」

 

龍どもが、地上に意識を向けないように誘導しながら。

俺は10数年ぶりに、本気を出し始めるのであった。

 

 

 

Chapter71

 

一頭、二頭と、順番に落としていくうちに。

相手の動きが精彩を欠き始めたのを、俺の感覚はしっかりととらえた。

どうやら、相手にとっての予想外が、この地にあったようで。

 

「俺のこと、だよな。」

 

龍を蹴ったり殴ったりしながら、俺は冷静に考える。

相手の予想外があるとしたら、そりゃ俺の存在であることに疑いはない。

じゃあ、なんで俺が、ここにいないと思って攻めてきているんだ?

 

「俺がいることなんて、判り切ってただろうによ。」

 

次の龍を蹴飛ばしながら、その次の龍の首を折る。

息の根が止まったことを確認しながらも、俺はその違和感を考える。

なんでだ?なんで俺がここにいないと勘違いしてるんだ?そんな要素は。

 

その時、胸元に入れていた、コランダムのお守りが小さく揺れた。

エルナ、だ。

ぞわりと、何かが繋がりそうな恐怖が俺の背中を一気に強張らせる。

 

「どうした、エルナ。」

「レーヴさん、戦っているのですよね。龍と戦っていますよね。」

 

そうだよ。俺は今、お前が見た夢の通り、空を駆けている。

 

「よかった。ごめんなさい。私、選んでしまったんです。」

「何をだよ。」

「大切な人たちが、生き残ってくれる未来を、夢を見てしまったの。」

 

ここまで来たら、エルナが何かをしたということは、俺にも判る。

何をしたのか。何を選んだというのか。それを必死に詰めるように。

……そして、俺は、既に選択ミスをしていたことに気が付いてしまった。

 

「お前、俺の代わりに星見の防壁貼りやがったな!?」

「ふふ。流石にレーヴさんは気付いてしまいますよね。」

 

古城以外のところで星見の防壁を貼ってしまえば。

龍の眼からは、古城と、エルナの2つの星見の防壁が見えることになる。

古城に俺が居る時ならば、エルナは俺の代わりに見えてしまうのだ。

 

「お前じゃ技量が足りないと思ってたけど、間に合ったのかよ!」

「足りなかったですよ。ユレンさんに手伝ってもらっているんです。」

 

ふざけるなよ。ふざけるなよ……!

 

「それじゃあ、つまりお前らは!」

「こちらにも龍が来てますよ。二人がかりなら、足止めぐらいはね。」

「でも、勝てるわけじゃないだろ!?お前らは死んじまうだろ!?」

 

エルナもユレンも、出来ることは多いが、強いわけではない。

 

「でも、これが一番、被害が少ないって、理解しちゃったから。」

「そんなの!」

 

理由になるかよ!という言葉を伝えられないまま、エルナからの通信は途絶えた。

何かの衝撃で、術式が維持できなくなってしまったということだろう。

それは、俺にとって最悪の情報に他ならなかった。

 

 

 

Chapter73

 

戦場を駆ける。空を駆ける。龍の合間を駆け抜ける。

あの二人を助けられる可能性があるとしたら、ただ一つ。

俺が、この戦いを一刻も早く終わらせて、助けにいくことだけだ。

 

ああ、そうだ。俺はずっと勘違いしていた。

俺の代わりになれる存在は一人として存在しない、そんな風に思ってた。

ただ、模倣だけなら、二人がかりならできる組み合わせがある。

 

エルナ。

お前なら、俺と同じく星見の力を持っているお前なら、俺の囮になれる。

でも、俺はお前がそんな選択肢を選ぶほど、強くないと思っていた。

 

ユレン。

お前なら、俺と同じく魔術の才を持っているお前なら、結界を貼れる。

でも、俺はお前がそんな未来を選ぶほど、決意はないと思っていた。

 

それがどうだ。

俺の選択肢は、ここにきてすべてひっくり返ってしまった。

 

俺が考えられる中でも、反乱軍にとって有利で、正当性のある勝ち方だ。

それなのに、駄目だ。俺はその勝ち方を認めない。認められない。

何が教育だ。俺自身が選べない選択を、他の人間に強要してたのかよ。

 

残り8体。

こいつらを片付け終わらないと、エルナとユレンの元には行けない。

こんな奴らに時間をかけているような余裕は、今の俺には全くない。

 

ああ、だから、俺はもう手加減をしてやることは出来ないんだ。

 

俺は攻撃魔術は使わない。使えないし、使わない。

何故なら、俺の魔術は効率的すぎるから、発動時に照準を定めなければならない。

一発一発、誰に当てるかを考えて、そしてその命を見届けなければならない。

 

俺にはもうそれが出来なかったから、命を直面できなかったから。

だけど。

今の俺にはその壁を乗り越える理由がここにあるから、攻撃魔術を使う。

 

「世界よ。纏めてひれ伏し俺に従い、あいつら狙って撃ち落とせ!」

 

自身の魔力を呼び水に、大気中の魔力を収束して放つ。

相克を利用して、発動した先から属性を切り替えて、再度放つ。

収束した魔力は、俺の魔力よりも遥かに大きな力となって、龍を打つ。

 

何が龍だ。何が龍種だ。

魔王候補まで登った魔術師の本気、この超絶技巧をその目で見るがいい。

ああ、悪いな。見たところでそれが記憶に残る前に死んじまうけどよ。

 

残念だが。お前らの命はエルナとユレンの命ほどの価値はない。

俺にとっては塵芥。路傍の石ほど、蹴散らすほどの重みなどあるはずがない。

邪魔をするなら、消え失せろ。お前らごときに俺が止められると思うな。

 

「待ってろよ、エルナ、ユレン。死んでても絶対に助けてやるからな。」

 

 

 




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